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照れたら負けの朝、君に触れたら終わり

照れたら負けの朝、君に触れたら終わり

 次の日の朝。

 旅行の疲れがまだ少し残っているはずなのに、せなは妙に胸がそわそわしていた。


(……昨日のあおば、可愛かったな……

 あんなに真っ赤になって……

 あれは反則……)


 思い出すだけで顔が熱くなる。

 でも、絶対に表には出さない。

 あおばにバレたら、絶対調子に乗る。


 そう思いながらリビングに向かうと――


「あ、おはよ、せな」


 ソファに座っていたあおばが、いつもより少しだけ近い距離で声をかけてきた。

 青いパーカーの袖を指でいじりながら、でも目だけはしっかりせなを見ている。


 その目が、なんかいつもと違う。


(……ん? なんか……強気?)


「おはよー」


 せなは平然を装って返す。


 するとあおばは、ソファの端をぽんぽんと叩いた。


「ここ座れば?」


「え、なんで?」


「別に? 昨日の続き」


「昨日の……?」


「……抱きしめたやつ」


 あおばはわざとらしく目を細め、にやっと笑った。

 完全に“攻めてくる小悪魔モード”だ。


(うわ……来た……!

 でも負けない……!)


 せなは何事もないように隣に座る。


「で? 昨日のあれ、どうだった?」


「どうって?」


「……ドキッとした?」


 あおばは顔を近づけてくる。

 距離が近い。

 近すぎる。


(やば……近……!

 でも……絶対顔に出さない……!)


「別に? 普通だったよ」


「……は?」


 あおばの目が一瞬だけ揺れた。


「普通って……あれで普通なの?」


「うん。よくあるし」


「よくある!? 誰と!?」


 あおばが食いついてくる。

 せなは内心ニヤッとした。


(よし……揺れてる揺れてる……)


「ひみつ」


「ひみつじゃねぇよ! 言えよ!」


「やだ」


「なんでだよ!」


 あおばは完全にペースを乱されている。

 でも、すぐに深呼吸して態勢を立て直した。


「……ふーん。じゃあさ」


 あおばはせなの顎に指を添え、そっと顔を上げさせた。


「今は? ドキッとしてないの?」


 その距離、ほんの数センチ。

 息が触れそうなほど近い。


(やば……やば……やば……

 近い……!

 でも……負けない……!)


「してないよ?」


「……っ!」


 あおばの耳が一瞬で赤くなる。


「な、なんで……!?

 ここまで近いのに……!?」


「慣れてるから」


「慣れてるって何にだよ!!」


 あおばは完全に崩れた。

 せなは心の中でガッツポーズ。


(よし……勝った……!

 でも……ほんとは……めっちゃドキドキしてる……

 やばい……)


 あおばは悔しそうに唇を噛んだ。


「……じゃあさ」


 あおばは立ち上がり、せなの手首を掴んだ。


「今日、一緒に出かけよ」


「え、なんで?」


「……昨日の仕返し」


「仕返し?」


「お前が照れないなら……照れさせるまで帰らない」


 あおばは真剣な顔で言った。

 でも耳は真っ赤。


(照れさせるまで帰らないって……もうとっくに照れてるよ……!)


「いいよ。どこ行くの?」


「……どこでもいい。

 お前が……照れる場所」


「そんな場所ないよ?」


「ある! 絶対ある!」


 あおばは必死だ。

 その必死さがまた可愛い。


「じゃあ……行こっか」


 せなが笑うと、あおばは一瞬固まった。


「……っ……

 その笑い方……ずるい……」


「え?」


「なんでもない!!」


 あおばは顔を真っ赤にして玄関へ向かう。


 せなはその背中を見ながら、胸を押さえた。


(……ほんとは……

 めっちゃ照れてるんだけど……

 あおばが可愛すぎて……

 それどころじゃない……)


 そして二人は家を出た。


 今日のデート(?)は、

 “どっちが先に照れるか勝負”みたいな空気になっていた。


 でもせなは知っている。


(……あおばは絶対……

 すぐ真っ赤になる……)


 そしてあおばは知らない。


(……私も……

 本当は……

 あおばの一言で崩れそうなんだよ……)


 青空の下、

 二人の距離は昨日よりずっと近かった。

 

せな、あおばどうですか。

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