倒れたら好きな人が下敷きになっていた
倒れたら好きな人が下敷きになってた
(無愛想禁止……マジでやばい。マジで……)
なぎとは額に手を当てながら廊下を歩いていた。
頭の奥がじんじんして、胸の中は落ち着かない。
さっきの出来事が何度もフラッシュバックしてくる。
(……なんで俺……あんな……)
その時だった。
廊下の端、窓から差し込む夕方の光の中で――
せなが、うずくまっていた。
「え……?」
なぎとは思わず足を止めた。
せなの肩が小さく震えている。
髪が頬にかかり、表情は見えない。
「……」
胸がざわつく。
気づけば、なぎとは駆け寄っていた。
「ど、どうかした……?」
声は自然と柔らかくなる。
無愛想禁止のせいじゃない。
ただ、心配で。
せなはゆっくり顔を上げた。
目が赤く、頬は真っ赤で、呼吸が少し乱れている。
「なぎと……」
「俺……?」
なぎとは思わず首を傾げた。
せなの視線が熱すぎて、胸がざわつく。
「何? なんかついてる?」
「ち、違う……!」
「?」
せなは両手で顔を覆い、震える声で言った。
「なぎとが……やばい……」
「え、やばいって言われても……」
「なぎとが可愛すぎてやばい……。死ぬ……」
「だから……! 可愛くないって……! 言ってる……!」
なぎとは耳まで真っ赤になり、
視線をそらしてしまう。
せなの言葉が、
胸の奥に直接刺さる。
「だって……無愛想禁止……やばい……」
「っ……」
なぎとは言葉を失った。
せなの声が震えている。
その震えが、なぎとの胸を揺らす。
(やばい……せな……可愛すぎる……)
息が詰まりそうだった。
「も、もう……行くから……な……?」
なぎとは逃げるように立ち上がり、
少し歩いてから振り返った。
せなはまだうずくまったまま、
顔を真っ赤にして震えている。
(くそ……)
胸がぎゅっと締めつけられた。
なぎとは早歩きで廊下を進む。
その時――
「うわっ!」
「いっ……!」
誰かとぶつかった。
「いった……」
「ごめん!」
「大丈夫……」
そう言った瞬間、
視界がぐらりと揺れた。
床が遠ざかる。
音が遠くなる。
(……あれ……?)
意識が、すとんと落ちた。
---
それから何分が経っただろうか。
なぎとは目を覚ました。
「ここ……どこ……?」
まぶたを開けると、
白い天井と柔らかい光が見えた。
「目、覚めた!?」
あおばの声がすぐそばで響く。
「ん……」
「よかった……!」
あおばの顔が近い。
心底ほっとしたような表情。
「……? 俺、寝てた……?」
「寝てたよ、3時間ぐらい」
「何があったっけ……?」
なぎとはゆっくり上体を起こす。
頭がずきんと痛む。
「俺が……なぎととぶつかっちゃって……で、頭、まぁおでこぶつかったんだよね……。最悪俺は石頭だったからいけたんだけど……なぎとそのまま後ろ倒れて頭またガン!って打ちゃって……」
「……なるほど……。で、ここはどこ……?」
「シェアハウスの休憩室。今、氷で頭冷やしてる」
「わかった」
なぎとは立ち上がろうとした。
「ちょ……! まだ寝てた方が……!」
「大丈夫……行ける……」
「おい!」
あおばが必死に止めるが、
なぎとはふらふらと歩き出す。
「やば……いった……」
頭が痛い。
視界が揺れる。
足がうまく動かない。
(最近風邪とか怪我とか……ついてね……)
壁に手をつきながら歩く。
その時――
ぐらり。
「っ……」
体が前に傾いた。
止められない。
床が迫る。
(やば……)
「なぎと!?」
せなの声が聞こえた。
幻聴かと思った。
「危ない!」
次の瞬間――
床にぶつかるはずの衝撃はなかった。
代わりに、
柔らかいものに包まれた。
「……?」
目を開けると――
下に、せながいた。
「……せ、せな……!?」
「いてて……」
せなは眉を寄せながらも、
なぎとをしっかり抱きとめていた。
「な、なんで俺の下じきに……! 大丈夫か……!? 怪我……!」
「へ、平気……」
声は震えている。
でも、笑っていた。
「でもなんで……!?」
「いや……さ。なぎとが頭ぶつけたの知ってて。で、また頭打ったらさすがにやばいでしょ……? だから、私が寝転がってなぎとの方にコロコロ……って転がったらこうなった……」
「せなが怪我するじゃんか!」
「いや、大丈夫……。私……体硬いから」
せなは強がって笑うが、
顔が青ざめている。
なぎとは胸が締めつけられた。
「病院行くぞ!」
「え、え……!? 大丈夫だって……! そんな重症じゃ……!」
「そんなの関係ない! 行くぞ!」
なぎとはせなをそっと抱き上げ、
そのまま背中に回した。
「え、え〜!?」
せなの声が裏返る。
なぎとは真剣な顔で言った。
「……お前が怪我する方が……俺は嫌だ……」
せなは息を呑んだ。
背中越しに伝わる体温が、
胸の奥まで染み込んでいく。
(……なぎと……
そんなこと言われたら……)
せなは顔を真っ赤にしながら、
なぎとの肩にそっと額を預けた。




