恋の診断結果:顔真っ赤症
恋の診断結果:顔真っ赤症
診察室の空気は、
白くて静かで、少し冷たい。
医者はカルテをめくりながら、
落ち着いた声で言った。
「うん、大きな怪我じゃないね。
足は軽い捻挫、腕は擦り傷。
骨にも異常なし。
湿布と包帯で十分だよ」
せなはほっと息をついた。
「ほらね……大丈夫って言ったじゃん……」
でも横を見ると――
なぎとは、
まるで自分が重症を負ったかのような顔で固まっていた。
「……ほんとに……?」
「ほんとに。
痛みはあるだろうけど、
数日で治るよ」
医者は笑った。
「……俺のせいで好きな人が重症になったら……俺本当に死ぬかも……」
なぎとは小さく呟く。
「す、好きな人……?」
「……っ! 今のなし! 本当に! 違う!」
「君の方が顔真っ赤で病気みたいだけど大丈夫?」
「っ……!」
なぎとは真っ赤になった。
せなも同時に真っ赤になった。
「ちょ、先生……!」
「はは、若いっていいねぇ」
医者は軽く手を振って診察室を出ていった。
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せなは包帯の巻かれた腕を見ながら、
少し拗ねた声で言った。
「だから……大丈夫って言ったのに……」
「大丈夫じゃねぇよ……!」
なぎとは真剣な顔で言った。
「お前が怪我してんのに……
大丈夫なわけねぇだろ……!」
「っ……」
せなは胸が跳ねた。
(……そんな言い方……ずるい……)
なぎとは深く頭を下げた。
「ほんと……ごめん……」
「なぎと……」
「俺……お前に怪我させたの……
ほんと嫌なんだよ……」
その声は弱くて、
震えていて、
でも真っ直ぐだった。
せなは視線をそらした。
(……そんなの……言われたら……)
胸がぎゅっとなる。
「だから……
なんか……お詫び……する……」
「え?」
「なんでもする……」
その瞬間――
せなの目がゆっくりと細くなった。
(……“なんでも”……?
ほんとに言った……?)
なぎとは気づいていない。
自分が今、
とんでもない地雷を踏んだことに。
「……なんでも?」
「う、うん……」
「ほんとに?」
「ほんとに……」
なぎとは視線をそらし、
耳まで真っ赤になっている。
(……可愛い……)
せなはゆっくりと近づき、
なぎとの顔を覗き込んだ。
「じゃあさ……」
「……?」
「これからも……
私のお願い……聞いてくれる?」
「っっっ……!?」
なぎとは固まった。
目が泳ぎ、
喉が上下し、
呼吸が乱れる。
「な、なんで……それ……!」
「だって、“なんでもする”って言ったのはなぎとでしょ?」
「いや……! でも……!」
「私は“お願い聞いて”なんて言ってないよ?」
「っ……!」
なぎとは一瞬で真っ赤になった。
せなはにこっと笑う。
「勝手に“なんでもする”って言ったの……なぎとだよ?」
「ぐっ……!」
なぎとは言葉を失った。
せなはさらに追い打ち。
「じゃあ……どうするの?」
「ど、どうって……!」
「“これからもお願い聞いてくれる?”って聞いただけだよ?」
「……っ……!」
なぎとは壁に背中をつけたまま、
せなを見つめた。
その目は、
困っていて、
照れていて、
でも――
どこか嬉しそうだった。
「……ほんとに……
聞くのかよ……俺……」
「うん。
“なんでもする”って言ったのはなぎとだし」
「……っ……!」
なぎとは息を呑んだ。
せなは少しだけ顔を近づけて、
小さな声で囁いた。
「……逃げないでね?」
「む、無理……」
なぎとは顔を覆った。
せなは胸が熱くなるのを感じながら、
そっと笑った。
病院の廊下には、
二人の呼吸だけが静かに響いていた。




