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なぎと、今日だけ別キャラ

なぎと、今日だけ別キャラ

なぎとは廊下を歩きながら、

 胸の奥がずっとざわついていた。


(……なんで俺……

 あんなこと……言っちまったんだ……)


 “お前の声、好きだわ”


 思い出した瞬間、

 顔が熱くなる。


「……くそ……」


 小さく呟き、

 頭をかきむしる。


 その時――


「なぎとー! おーい!」


 あおばの明るい声が廊下に響いた。


 その後ろには、

 しゅいも歩いてくる。


(……終わった……)


 なぎとは心の中で崩れ落ちた。


 無愛想禁止チャレンジ中。


 つまり――

 あおばとしゅい相手にも

 “優しい声”で喋らなきゃいけない。


 地獄の始まりだった。


「なぎと、元気になったんだな!」

あおばが満面の笑みで近づく。


「……あ、あぁ……」

なぎとはぎこちなく返す。


 しゅいが眉をひそめた。


「なんだその声。誰?」


「だ、誰でもねぇよ……!」


 声が裏返る。


(やべぇ……無愛想禁止……!

 怒れねぇ……!)


 なぎとは内心で悲鳴を上げた。


 あおばがにやりと笑う。


「なぎと、今日なんか優しくね?」


「ゆ、優しくねぇ……!」


「いや優しいって。声ふにゃふにゃしてるし」


「ふにゃふにゃしてねぇ……!」


 しゅいがじっとなぎとを見つめる。


「……せなとなんかあった?」


「っ……!」


 なぎとは一瞬で固まった。


 心臓が跳ねる。


 顔が熱くなる。


 喉が詰まる。


(やめろ……!

 その話題は……!

 今は……!

 無理だ……!)


 でも――

 無愛想禁止。


 つまり、

 “黙れ”も

 “うるせぇ”も

 “関係ねぇだろ”も

 言えない。


 なぎとは震える声で返した。


「な、な、なんも……ねぇよ……?」


 あおばが追い打ち。


「えー? ほんとにぃ?

 だってさ、せな――」


「やめろぉぉぉ……!」


 叫びたいのに叫べない。

 怒りたいのに怒れない。


 なぎとは顔を覆い、

 その場にしゃがみ込んだ。


「……ほんと……無理……

 死ぬ……」


 しゅいがぽつりと言う。


「なぎと、今日かわいすぎん?」


「か、かわいくねぇ……!」


 でも怒れない。

 声が裏返るだけ。


 あおばとしゅいは顔を見合わせた。


「今日のなぎと、完全に恋してるやつじゃん」

「うん。せなの名前出しただけで死にかけてるし」


「やめろぉぉぉぉ……!!」


 なぎとは床に崩れ落ちたまま、

 耳まで真っ赤にして震えていた。


---


 廊下の角。

 柱の影。


 せなは息を潜めて、

 なぎとの様子を見ていた。


(……なぎと……

 なんで……そんな……

 可愛いの……?)


 胸がぎゅっと締めつけられる。


 なぎとが床に崩れ落ちて、

 顔を真っ赤にして、

 しゅいとあおばにいじられて、

 怒れなくて、

 困ってて、

 恥ずかしがってて――


(……無理……

 ほんとに無理……

 可愛すぎる……)


 せなは口元を押さえ、

 その場にしゃがみ込んだ。


 心臓がうるさくて、

 息が苦しくて、

 頭がなぎとのことでいっぱいになる。


(……なんで……

 こんなに……

 好きになりそうなの……)


 なぎとがふらふら立ち上がる。


「……もう……帰る……」


「お、おい大丈夫かよ」

「ほんとにどうしたんだよ……」


 なぎとは二人を無視して歩き出す。


 その背中を見つめながら、

 せなは胸に手を当てた。


(……追いかけたい……

 声かけたい……

 でも……

 今行ったら……

 絶対……顔見れない……)


 せなは顔を真っ赤にして、

 その場にうずくまった。


(……なぎと……

 ほんと……ずるい……)


 廊下には、

 なぎとの足音と、

 せなの早い鼓動だけが残った。

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