6歳1月(19)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(19)
「うわっ! うわあー! こいつガキのくせにボスと同じ紐パンだぁ! 頭がどうにかなっちまいそうだ! しかもふさふさ毛のネコが描いてあるぅ!」
私は動く手を伸ばして自分のスカートを捲ってお尻を出した。
私を地面へと押さえつけていたパンツたちは、私のトーテムであり誇りであるライオンさんの顏が描かれたお洒落パンツを見て、弾かれる様に飛び退き、転がりまわって苦しんでいる。
私はゆっくりと立ち上がる。
「パンツボス、どうしてジョイスを殺したの?」
「女はあたいのパンツたちを惑わす邪魔なだけの存在だ。パンツ女はあたい一人で十分なんだよ。小娘、あんたは特に危険だね。」
「お前は私の友達を奪った! そして私の仲間も! 他人の大切なものを奪い続けるパンツボス! 私はお前を絶対に許さない!」
「お友達のところへ送ってやるよ。あの世で仲良くするんだね! 死にな!」
「パンツボオオオオオオスッ!!!」
『作戦行動開始!』
パンツボスがナイフを振りかぶるとほぼ同時に、天井から謎の声が聞こえ、8つもある篝火が一斉に倒れた。床に散らばった薪はそのほとんどが水でも掛けられたかのように炎を失い、月明かりすら入ってこない部屋は漆黒の闇に閉ざされる。
あれ? 月明かりはあったはず。どうして真っ暗なの?
「な、なんだい? なにが起きたんだい? パンツたち、あたいを守りな!」
真っ黒な影が無数に飛び込んでくる。窓から、左右の扉から、後ろの扉から。それも後から後から何人も続けて入ってきて数えきれない。
「ぎゃ!」
「ぐはっ!」
声どころか音すら出さずに、影たちがパンツを制圧していく。
「なんだい! あんたたちはっ!? うぎゃっ!」
パンツボスの悲鳴が聞こえる。影にやられたんだ。
私には暗闇しか見えないけど、影たちはまるですべてが見えているかのように自在に動き回っている気配だ。私は訳も分からず身構えるけど誰も襲ってこない。むしろ遠巻きに囲まれて守られている気配すらある。物音が止み、パンツたちの呻き声だけが僅かに漏れてくる。
部屋は影たちの気配で溢れかえり、しかし耳鳴りがするほどの静寂が支配する。
その静寂を破る様に、1人の影が大きな声を発する。
「レンジャー! 制圧完了! 作戦行動終了!」
「ご苦労。」
後ろの扉から松明を持ったレンジャーたちが入ってきて部屋がボンヤリと明るくなった。
そうだったのか。飛び込んで来た影はみんな、私たちと一緒に王都から来た護衛兼荷物運びのレンジャー部隊だ。その松明に先導されてお母様が入ってくる。
「お母様! お母ざま! おがあざば~! うわーん! ぐぎゅっ!」
お母様を見た安心感で涙が出てきて、お母様に抱きつこうとしたら鋼鉄の塊が落ちてきたような拳骨を喰らって両膝を折る。
「いだーい! おがあざば! いだーい!」
私は頭を抱えて泣きながら抗議をする。
「痛いのは当たり前よっ! お母さんとの約束破って逃げなかったんだから、死ななかっただけありがたいと思いなさい! おうちに帰ったらみっちりお説教とお仕置きだからね!」
「うわーん!」
お説教とお仕置きが待っているという恐怖と同時に、おうちに帰ることができるという安心感で涙が止まらない。
「貴様がパンツボスね。私の香辛料を盗み出し、娘を殺そうとした。何か申し開きはある?」
お母様はお面のように温度を感じない表情でパンツボスを見下ろす。
「ふん、あたいのパンツがこれだけだと思うなよ。
潜伏させているパンツがいつかあんたもそこの小娘もまとめて殺してやる!
パンツボス死すともパンツは死なず!
これでパンツの終わりだって? いいえ、始まりよ!
ここにいるパンツたちだって、死ぬまであたいの言いなりさ。
あたいが死んだって、いつあたいの命令を思い出してあんたらを刺し殺すか分からないよ。
それが嫌なら皆殺しにするんだね。
あんたにできるかい?
そこの小娘の仲間もまとめて皆殺しにできるものならやってご覧よ!
あーっはっはっは!
手遅れだね。
あたいの野望はもう止まらない。
止まらない暴走カバなのさ!
世界中の男にパンツを!
あたいの死を生贄に捧げるわ!」
「はあ。言いたいことはそれだけ?」
興奮するパンツボスに対して、欠伸をかみ殺すほど詰まらなそうに問い返すお母様。
テンションが違いすぎてパンツボスが恥ずかしそうだ。
そしてお母様は徐にスカートの裾を手にとる。今のお母様の恰好はいつもの胸甲とスカートアーマー。スカートアーマーというのは布のスカートとセットになっている草摺が腰から伸びたもの。つまり、まるでプレートメイルの腰回りの裾部分が伸びてミニスカートのようになったものだ。
その鋼鉄のミニスカートの裾を手にとったお母様は、一気に捲り上げてそのプリンとした艶やかな黒いお尻を惜しげもなく衆目集まる場で曝け出した。
制圧されているパンツたちから一斉に悲鳴が沸き起こる。
「紐パンどころじゃねええ! Tバックだとおおお! はっ! どうして僕はここに?」
「頭が沸騰しそうだー! はっ! 俺は今まで何を?」
「あのプリン尻に食い込んだ紐がパンツだなんてええぇ! はっ! 我思う、故に我あり。」
お母様のTバックをみたパンツたちが次々に正気に戻っていく。なんか変な悟りを開いちゃったやつもいるけど気にしないでおこう。
「ふう! 危なかっただす。なんとか乗り切っただすよ。」
「おいらもパンツにならずに済んだぜ。」
「自分もギリギリ負けなかったである。」
「俺も大丈夫だ。パンツ……。なんて恐ろしいアイテムなんだ。」
やった! お兄ちゃんたちも正気に戻ったわ!
「なんだと! あたいのパンツたちが! パンツ愛から解放されていく! あたいの野望があああ!」
「ああ、パンツ自体は公衆衛生的に良い物だから普通に普及させるから。パンツボスの野望は達成ね。安心していいわ。それよりも香辛料を盗んだ罰を心配しなさい。私の香辛料に手を出すなんて、死ぬより辛い目に遭わせてあげるわ。殺してくれって100回叫んでも殺してあげない。そのパンツを1mm刻みで切り刻んであげる。」
お母様はパンツボスに顔を寄せて、おでこがくっつくほどの距離で言い聞かせる。
途中から、いや正確には食べ物の話になったところから、温度すら感じないお面のように冷徹だった顔が、鬼神も泣きながらネコになりきった振りをして逃げ出すほどの憤怒の表情に変わり、その身から吹き出す憎悪と鏖殺のオーラは、地獄の業火の中で鬼が1億回連続で笑うまで1人大喜利しろと言われた方がマシに感じるほど激しい奔流となってパンツボスの魂を蹂躙していく。
パンツボスは見る見るうちに40年程の年月を天日干しされて過ごしたかの如く、顔から全身までが干からびたように皺が浮き出て、全ての髪が白く変わっていく。
「連れて行って。」
レジャーに両脇を固められてパンツボスが護送される。その顔は恐怖によって血の気を失い、干からびた土のような色になって唇を震わせており、目は泳いでいて心底怯えている様子だ。
ジョイスを殺し、私を殺そうとした罰よりもお母様の食べ物の恨みの方が重い罰なのは納得いかないけど、お母様の理不尽は今に始まったことじゃないから諦めよう。
そしてお母様を本気で怒らせたパンツボスにほんのちょっぴりだけ同情するわ。その日その時その人がパンツさえ穿いていればこんなことにならなかったんだもの。
そしてジョイスは死なずに済んだのに。
そう、私の大切な友達、ジョイスは死なずに済んだはずなのに。
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




