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6歳1月(18)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(18)


「リルカちゃん、さっきの話覚えているよねー? こんな相手楽勝だよー。あのボスさえ倒せばこんな雑魚ども何もできやしないさー。僕たちが突撃して道を作るから後は頼んだよー!」


敵を挑発するような大声で、ラムズィが話しかけてきた。

ラムズィはいつも()()()()()()()()をする。ということは突撃する振りをして逃げると教えてくれているんだ。もちろん、私たちも一緒に逃げろという意味なのだろう。この人数は絶対に相手できない。今度こそラムズィは裏切ると思ったのに、意外と義理堅いわね。


「あんた、強欲のラムズィじゃないか。あたいと香辛料を取引しようっていうのに、なんだってそんな小娘と一緒にいるんだい?」


「残念ながらパンツごときに渡す金はないよー。人攫いするような奴は好きじゃないしねぇー。」


「金になるなら何でもやるって聞く強欲のラムズィが、らしくないじゃないか。」


「そりゃ噂だけだよー。僕は殺しも人攫いも好みじゃないからねー。それにここでお前をぶっ飛ばして香辛料も金も全部奪う方が強欲らしいだろー?」


ラムズィが怪しい笑みと共に低い声で威圧する。護衛がそれに合わせて両手の曲刀を掲げる。


「ボスのお前さえやれば残りはパンツの残りカスさー。さあ、本物の強欲を見せてやろうかー!」


ラムズィが護衛の2人と共に突撃し、前に立ちはだかるパンツの数人を吹き飛ばす。

ここから3人は反転して出口に向かって逃げるはず。今のうちに逃げろってことだわ。

お母様の言葉が脳裏に蘇る。“全力で逃げること”って約束したっけ。


「パンツたち! し潰しな!」


パンツたちはボスまでの道を塞ぐように集まってくる。ラムズィたちはパンツたちを片っ端から叩き伏せていくが、次から次にパンツは押し寄せ、パンツボスまではとても届かない。しかしラムズィの狙い通り、退路のパンツは手薄になった。


「潮時だよー。リルカちゃん、逃げるよー。」


ラムズィが反転して逃げてくる。


「ありがとうラムズィ、もう逃げて。私は逃げない!」


「いい仕事だったぜ!」


「立派な助っ人だったのである!」


「あとは任せろ!早く逃げるんだ!」


「なんだよ、なんだよ君たちー! 命懸けで引きつけたのに無駄骨じゃないかー! 大損だー! もう付き合い切れないよー! じゃあねー!」


ラムズィたちはパンツたちを蹴散らしながら入ってきた扉に向けて突き進み、扉に飛び込むように逃げて行った。ラムズィを恨む気持ちはまったくない。裏切ったとも思わない。

50人はいたパンツたちが3分の1も倒れている。助っ人として最高の働きをしてくれたわ。


「おやおや、あんたたちは逃げないんだね。その人数であたいのパンツたちに勝てるとでも思っているのかい?」


残り30人ちょっと。私たちは4人。


「無理だろうと、無茶だろうと、リルカ探検隊は目の前に倒れている仲間を、友達を、絶対に見捨てない!」


「あーっはっはっは! 甘ちゃんだね! あんたたちもパンツになっちまいな!」


「ひとり8人くらいよ。大したことないわ!」


「「「おう!」」」


私たちは必死に戦った。頭の中が真っ白になるくらい無我夢中に暴れた。それでも四方八方から伸びる手は尽きない。こちらはカイサの矢が尽き、武器を失ったオニカが力尽き、アディルの盾が奪われ、私を含めた4人全員が地面に押さえつけられてしまった。


「随分と手こずらせてくれたじゃないか。あたいのパンツたちも10人ちょっとしか残ってないわ。だけどあんたたちは強いね。最高のパンツになってくれそうだ。そいつらにパンツを穿かせな!」


「やめて!」


「小娘は大人しくそこで見てるんだよ。あんたのいう仲間とか友達ってやつが、心の底までパンツに塗り潰される瞬間をね! あたいの言いなりパンツに変わってしまうその姿をね! あーっはっはっは!」


「やめるんだ! パンツをそんなに食い込ませるな! ぐわあっ!」


「ぬわー! パンツが! パンツがおいらの股間を優しく包み込むぅ!」


「パンツが……こんなに吸い付く様なフィット感だなんて知らなかったのである! ふおおぉぉ!」


アディルが、オニカが、カイサが、パンツを無理矢理に穿かされて悶え苦しんでいる。


「いやー! みんなパンツなんかに負けちゃダメ―!」


私のせいだ。

私が逃げなかったからみんなが、大切なみんながパンツになってあんな変態パンツ女の言いなりになっちゃう。でもフマも、ジョイスも見捨てることなんてできっこない。


まだよ、まだ終わっていないわ。何かできることがあるはず。押さえつけられていたってまだ手足も動く、声だって出る。この命がある限り、諦めない!


「リルカちゃん! パンツにはパンツよ!」


「ジョイス! 気が付いたの!?」


「ふさふさ毛のネコさんよ! 見せつけてやりなさいよ! リルカちゃんの誇りを! 魂を!」


「ええい! うるさい女だね! 黙りな!」


パンツボスがナイフを投げる。

そのナイフが手を離れる瞬間から、時間がゆっくり流れる。ナイフがゆっくりと回転する。1回転。ダメだよ。あれを止めないとジョイスが。そそっかしいジョイスが。ラッキースケベなジョイスが。お喋りが止まらないジョイスが。10歳のくせに私と背が変わらないジョイスが。でも優しいジョイスが。世話焼きなジョイスが。2回転。止めないと。十字架が戻ってきて大喜びなジョイスが。大切なご飯をご馳走してくれたジョイスが。ネコが大好きで木彫りが作れる器用なジョイスが。ダメ。ダメだよ。孤児院の子たちのお母さん代わりであるジョイスが。貧乏でも差別されても明るくめげないジョイスが。あれを。大きな夢を持っているジョイスが。3回転。あれを止めないと。アディルが好きになったジョイスが。私の大事な友達のジョイスが。死んじゃう! この世界から居なくなっちゃう!

私は手を精一杯伸ばすけれどもナイフは止まらない。それはジョイスの胸にゆっくりと吸い込まれ、その衝撃に一瞬のけ反ったジョイスは、胸を手で押さえて横に倒れ込み、地面で軽く跳ね、そのまま力が抜けたように横たわる。


そして時間は勢いよく流れだす。


「いやああぁぁぁ! ジョイスぅぅぅ!」


「黙っていれば生きていられたのに、お喋りな女は嫌いだよ!」


「アディル……ちゃん、リルカ……ちゃん……、けほっ! ありが……とう。」


胸に突き立ったナイフを手で押さえたまま、懸命に声を出すジョイス。


「うわああぁっ! ジョイス! ジョイスー! 放せえええぇぇ! ジョイスー!」


アディルが血反吐を吐きそうな声を出しながら死ぬ気で暴れているが4人がかりで押さえつけられる。


「ごめん……ね……。」


ジョイスは最後の力が尽きたように、震えながら辛うじて上げていた顔がガクリと下がり、肩の力が抜け、全身が沈み込む。


ジョイスが死んだ? ジョイスともうお喋りできない? ジョイスともう二度と会えなくなる? ジョイスを助けることができなかった? 私のせい? 私の力が足りなかったから?

ジョイス。ジョイス。ジョイス。


ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。ジョイス。


ジョイスは最期になんて言ってたっけ?

“ごめんね”? いや、もっと前。

“ありがとう”? その前。

“誇りを、魂を”?


……。


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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