6歳1月(16)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(16)
倉庫の中は暗く、所々に焚かれた篝火は山と積まれたバナナをゆらゆらと照らす。
僅かな明かりを頼りに奥へと進むと、小さな扉の前、開けた場所に出た。
そこには筋骨隆々としたパンツ一丁の間抜け面な大男と、チビでずんぐりむっくりしたパンツ一丁の狡猾そうな顔のハゲ、その両脇には10人のパンツ一丁の男たちが、みんな揃って仁王立ちに背を向けていた。
全員のお尻がえくぼを作りながら食い込んだネジリパンツを見せつけている。
「あのデカいのは、自分を絞め落した奴である!」
「あのチビデブは、おいらに目潰しを投げてきた奴だぜ!」
「げへへへへ。良くここまで辿り着いたべ。貴様らをやったのは我ら2人、パンツ愛の団の最高幹部だべ。あの小僧を取り返しに来たべか? すでにこの奥でボスが儀式の最中だべ。もう手遅れだべよ! それでも会いたければ我らを倒していくべ!」
チビデブが背中を向けたまま喋っているのだが、喋りながらお尻のえくぼが言葉に合わせて動くのが気になって仕方がない。まるでパンツが意思を持って喋っているみたい。なんなの? あいつの本体はパンツなの? じゃあ“パンツ一丁の男”とかって長いからもう“パンツ”でいいね。
「手遅れだなんて信じないぞ! 俺たちの行く手を阻むというなら押して通るまでだ!」
アディルが盾を構えて前に出る。大丈夫、冷静さを失ってない。この背中は頼りになる。
「あの真ん中の2人は、おいらが貰ったぜ! ぶちのめしてやる!」
「独り占めはズルいのである。自分が片方貰うのであるよ!」
オニカとカイサがアディルの後ろに続く。
「簡単に絞め落された貧弱はすっこんでろって!」
「目潰しなんかにひっかかった間抜けに言われたくないのである!」
オニカとカイサが憎まれ口を叩きながらニヤリと笑い合う。
「足を引っ張るんじゃないぜ!」
「そちらこそ間抜けな真似したらまとめて射殺すのである!」
今にも駆け出しそうな二人の肩を掴んでラムズィが慌てた様子で大声をあげる。
「盛り上がっているところ悪いが、僕たちは逃げるよー。あんな人数に勝てるわけないんだ、君たちも逃げなよー。」
「ふざけんなって! おいらの仲間があの先にいるんだぜ!」
「今さら怖気づいたのであるか!?」
「僕は絶対に勝てる勝負しかしないんだよー。命が大事だからねー。あんなに強そうな奴らには勝てっこないさー。君たちが逃げないならおいていくからねー!」
「ラムズィ! こんなところで裏切るの?」
「僕は助っ人だから最後まで付き合う義理はないさー。命を賭けるほどの対価は貰ってないよー。じゃあね~!」
「げへへへへ! こんなところで内輪揉めなんて勝負にもならないべ! 生まれ変わった後にゆっくり内輪揉めでもなんでもするべさ! さあ、お仕置きだべ~!」
ラムズィと護衛の2人は背中を見せて逃げ出した。
「ラムズィィィィ! 覚えてなさいよ!」
「リルカちゃんが生きてたらね~!」
パンツたちは私たちの人数が減って余裕が出たのか、最高幹部の2人をその場に残したまま、左右の10人だけが私たちに向かってくる。
そのパンツたちは背中を向けたまま手を腰に置き、そのお尻にえくぼを作ったり膨らませたり腰を捻ったりと、様々に食い込んだネジリパンツを歪ませながらにじり寄ってくる。その姿はニヤニヤとしたパンツとしか言いようがない。
非常に不愉快だわ!
今すぐあのお尻にアディルの短槍を突き立てたいけど、半円状に囲んでくる10人は絶妙に左右のパンツと連携して的を絞らせず、意外なほど隙を見せない。このパンツたち、馬鹿だけど強い!
アディルとオニカとカイサが私を囲むように陣形を変え、構える。
「げへへへ。一斉に襲いかかるべ。人数の差は気合や根性ではどうにもならないべよ。そうだ、その女は傷付けずに捕えるべ。売り払えばいい金になりそうだべよ。」
10人はじりじりと距離を詰めてくる。一歩踏み出せば簡単にその尻を蹴り飛ばせる距離。しかし囲まれた私たちは動けない。このまま一斉に襲われたら反撃すらできない。さっきラムズィと一緒に一度逃げれば良かったかもしれない。でも後悔してももう遅い、囲まれてしまって逃げることすらできない。お互いの牽制が交錯する。少しでも隙を見せれば一斉に襲いかかってくるに違いない。
こんなところで終わるわけにはいかないのよ。あの扉の一枚向こう側では、フマとジョイスが辛い目にあっているかもしれない。絶対に助けると約束したわ!
「フマー! ジョイスー! 待ってなさいよ! 絶対に助けるわ!」
扉の向こうに届くように、そして目の前の3人を奮い立たせるように、精一杯の声で叫ぶ。
それを合図に、パンツたちが一斉に動き出す。
と、同時にパンツたちの一部が吹き飛んだ。
「はっはー! ただ今戻ったよー! これで相手の人数も減ったねー。絶対に勝てそうな勝負になったよー。」
ラムズィだ! 2人の護衛も一緒に戻ってきてパンツたちに不意打ちしてくれた。
余裕を見せて油断していたパンツたちはあっという間に数を減らし、慌てふためいて最高幹部たちのところまで戻り、体勢を立て直す。
しかし、その人数は不意打ちによって5人にまで減ってしまっている。
これで7人対7人、人数の不利は無くなったわ。
「いやー。僕はつい癖でねー。いつも真面目な戦いになると台詞と真逆の行動をしてしまうんだよー。護衛の2人は知っていたけど、リルカちゃんたちには言ってなかったねー。驚かせちゃってごめんねー。」
へらへらと笑いながら気の抜けた口調。いつも通りのラムズィの態度。
「裏切ってなかったのね!」
「リルカちゃんに死なれたら何も対価を貰えなくて大損だからねー。この程度じゃ捨てるわけにはいかないよー。」
「もう少し危なかったら捨てられるってことね、覚えておくわ!」
「はっはー。全てはアッラーのお望みのままにだよー。」
私の嫌味も、ラムズィはどこ吹く風といった感じで飄々(ひょうひょう)と受け流す。覚えておこう、この程度までは信用できるって。
「よっしゃあ! おいらが突っ込むぜ! 残りの奴らは頼んだぜ!」
「あの2人は自分たちの獲物である!」
体勢を立て直したのはこちらも同じ。オニカとカイサが中央の最高幹部の2人めがけて駆け出した。
「ぬうううおおおおおっ!」
オニカが振りかぶった斧を勢いのままに上から叩きつけるが、背中を見せていた大男の幹部が振り返り、棍棒で受け止める。大男幹部はオニカよりも二回りほど身長も体格も上回っている。その筋肉はオニカよりも大きい。
受け止められた斧を力のままに振り下ろそうとするオニカと、受け止める棍棒を両手で押し返そうとする大男幹部。武器同士が壊れそうなほどギリギリと悲鳴をあげる。
大男幹部の脇で、チビデブ幹部が袋を手に持ち、オニカの顏にぶつけようと振りかぶる。目潰しだわ! しかしその袋はチビデブの手を離れる直前に矢で射抜かれて後方に吹き飛ぶ。
「貴様の相手は自分である! 自分には卑怯な手など通じないのである!」
チビデブ幹部は慌てて革の紐に石を挟んでクルクルと回し始める。投石紐だ。
「舐めるんじゃないべ。目潰しだけじゃないべ。この正確無比な投石紐こそ負けなしの本気だべよ!」
弓を引き絞るカイサとスリングを回すチビデブ幹部が睨み合う。
このままではオニカもカイサも膠着状態だ。二人の横からパンツたちが襲いかかろうとしている。
「仕方ない、援護するぞ!」
アディルやラムズィたちも駆け寄り、2人の邪魔をしそうなパンツたちを牽制して引きつける。
オニカとカイサ、絶対勝つって信じているわよ!
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




