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6歳1月(14)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(14)


もう迷っている時間は無い。背後の足音は真っ直ぐにこちらへ迫ってくる。


「左手に20歩後退よ。陣形はそのままに。急いで。」


アディルとカイサとオニカに小さな声で伝えると、前方の3人を牽制しながら素早く体制を変えて下がる。幼年兵部隊で散々やらされた訓練のお蔭で考えるよりも先に身体が動く。


前方の相手は私たちが下がったのを好機とみて、すぐさま追いかけてくる。

囲まれて水路を背負う事になるかもしれないけど、挟み撃ちや分断されるよりはマシだわ。時間がかかっても仕方ない。ここで撃退して先に進もう。フマ、ジョイス、ごめんなさい。もう少し待っててね。絶対に助けに行くから!


「「「あ"っーー!!」」」


しかし前方から追いかけてきた3人は、後ろから走り込んできた3人に蹴り飛ばされて、綺麗に同じポーズでシンクロしながら水路に落ちていった。


「やー。リルカちゃんたちは足が速いねー。若いっていいねー。」


息を切らして苦しそうに、でも気の抜けたようなすっとぼけた声が聞こえる。


「ラムズィ! どうしてここに?」


後ろから走ってきた3人はパンツ愛の団ではなく、ラムズィとその両脇にいた護衛の2人だった。


「うん、そうだねぇー。さっきリルカちゃんからちょっと対価を貰いすぎちゃった気がするんだー。だからオマケで助っ人しようと思ってねー。そしたらリルカちゃん、最後まで話を聞かずに走り出しちゃうからー。本当にそそっかしいよねー。」


「うみゃ、ごめんなさい。」


「それに、フマはこんなところで死ぬのは“もったいない”って思ってねー。“もったいない”って分かるー? 」


「分かるわ! まだまだ役に立つのに、捨てるには惜しいってことよね!」


「分かってるねぇー。できる奴に貸しを作っておくのは将来のお金儲けのためさー。さあ、時間が無いんだろー?」


「うん、じゃあ改めて、フマとジョイスを取り返しに行くわよ!」


「「「おう!」」」



◆◆◆



ラムズィの案内を頼りに、何棟も倉庫が並ぶ倉庫街を抜けて、バナナの絵が描いてある倉庫の入口が見える場所に辿り着いた。

一旦物陰に隠れて息を整える。


「あれが、パンツ愛の団の拠点になっている倉庫なのね。」


「そのはずだねー。入口の前で門番している大きな男が2人立っているだろー? あれは見覚えがあるよー。傭兵団にも参加している腕利きだねー。パンツ愛の団だとは思わなかったよー。パンツ愛の団は秘密結社みたいなものでねー。信用していた身内が実はパンツ愛の団だったなんてことが良くあるんだよー。あの倉庫もきっと何処かの商人の持ち物で、倉庫の管理者がパンツ愛の団員になっちゃって、好き勝手に利用されているんだねー。」


「よし、息も整ったんだ、突っ込むぞ!」


「アディル君、冷静になりなよー。あの二人は僕の護衛の二人が相手しても互角の腕前だねぇー。みんなで突撃しても彼らが防御に専念すれば、しばらくは持ちこたえるよー。その間に他の奴らが出てきて、囲まれたらみんなおしまいだねぇー。盾持ちが冷静さを失ったら戦いは負けだよー。」


アディルは下唇を噛むように顔を歪める。私はアディルの隣に寄り添い、背中に手を添えてささやく。


「ここまで来たら落ち着こう。きっと二人は無事よ。幸運にも助っ人だっている。でも二人の救出はアディルが頼りよ。」


私の反対側からアディルの首に長い腕が巻き付く。


「自分もアディルを頼りにしているのである。」


太い腕が私ごとアディルの肩を抱き寄せる。


「おいらもアディルを頼りにしてるぜ!」


アディルは目を瞑り、ひとつ大きく息を吸い込むといつもの顔に戻った。


「任せろ!」


私はカイサとオニカの目を見てニッと笑って頷いた。

アディルのはやる想いは理解できる。でも私以上にジョイスのことで焦っている。アディルが思いもよらない暴走をしたら私たちは簡単に負けてしまう。でももう大丈夫、リルカ探検隊の副隊長だもの、信じるわ。


「おー。仲間っていいねー。一人じゃとても立て直せない気持ちも簡単に蘇らせるねー。」


ラムズィは私たちを見て、手でも叩きそうな雰囲気だ。


「ラムズィ、突撃がダメならどうすれば良い? 今にもフマやジョイスが殺されるかもしれないのよ。考えている時間は無いわ。」


「ここは腕力ではなくて頭を使うところだよねー。僕に考えがあるんだー。のってみるかーい?」


またラムズィの妖しく悪戯っ子のような笑みと低い声。こんな状況で断れない事が分かっているのに提案してきたのは“捕らわれのリルカ作戦”。

ラムズィが捕らえてきた“キリスト教徒の女の子”(つまり私)と護衛の5人という設定で、パンツ愛の団に私を売り渡す為に来たと言って中に入れてもらう作戦らしい。


私は手足を縛られ、口には猿轡さるくつわを咬まされた状態で、荷物のようにオニカの左肩に担がれている。


「いいかーい? リルカちゃんの手足を縛った縄は自分で簡単に外せるけど、何があっても反抗しちゃダメだよー。中に入るまで我慢しててねー。アディル君たちは僕の部下って設定だから演技としてちゃんと僕の言う事をきいてねー。じゃあ行こうかー。」


ラムズィを先頭に倉庫の入口へと歩いていく、私を担いだオニカとアディルとカイサ、それに2人の護衛が続く。ちなみに私はオニカに担がれており、基本的にオニカの背中か横の方向しか見えない。なんとかオニカの脇から前を見ようとモゾモゾ動いているとそれを察してくれたのか立ち止まると同時にオニカが横を向いてくれた。


入口の前には双子のようにそっくりな2人の屈強な門番が、月明かりに鈍く光る曲刀を片手に立ち、殺気を放ってくる。その全身に刻まれた歴戦の傷跡も相まって、半端な覚悟では見た瞬間に逃げ出したくなるような雰囲気だ。


「やー。ここにパンツ愛の団のボスは居るかい? “キリスト教徒の女の子”を捕えてきたんだ。中に入らせてもらってもいいかな?」


ラムズィはそんな門番に対しても相変わらず飄々(ひょうひょう)とした態度で話しかける。


「貴様は強欲のラムズィ! キリスト教徒の女の子だと? 人攫いと奴隷商もやっているのか。」


「おやおや、知っていていただけて光栄だねー。僕は強欲だからねー。儲けるためなら何でもやるさー。今回はパンツ愛の団のボスが探していると聞いたから連れてきたよ―。」


「ふん、探していた女ならすでに我々の同志が捕えた。そちらの女に用は無い。」


「分かっているさー。それでも大儲けのネタになりそうだから連れてきたんだよー。この女は君らが手に入れた香辛料の本来の買主の娘なんだー。香辛料と人質のセットなら売値を10倍にも100倍にもできそうじゃないかーい? 君らのボスに話さないといけないだろー?」


ラムズィがまた怪しい悪戯っ子のような笑みで声色を低くする。

ラムズィは本当に裏切らないかしら? ラムズィが言うとおり私を人質にすれば香辛料の売値どころじゃなく吹っかけることもできるだろう。それをお母様が受け入れるかどうかは別問題だけどね。それでも一生遊んで暮らせるお金を手に入れられる誘惑に勝てるだろうか。


「また汚い商売を考えやがったな。想像するだけで虫唾が走るぜ。ぺっ!」


門番は腐ったものでも嗅いだように顔を歪めて脇に唾を吐き捨てる。


「お褒め頂き光栄だよー。さあ、どうするー? ここで僕を入れなかったら後でボスに怒られるのは君たちだよー?」


「くっ……。入れてやってもいいが、今はパンツ愛の団の神聖なる儀式の最中だ。足を踏み入れることができるのはパンツを穿いている者のみ! 貴様らのパンツを示せ!」


「えー。男に向かってパンツを見せる趣味は無いんだけどなー。仕方ないね。ほら、普通にパンツ穿いているだろ。おい、お前たちもパンツ見せてやれ。」


ラムズィが長い裾をまくってパンツをチラ見せすると、後ろの護衛もズボンを少し降ろしてパンツを見せる。しかしアディルもカイサもオニカももじもじとして3人で目を合わせるばかりで一向に腰巻をまくる気配がない。


そりゃそうよね。3人ともノーパンだもの。


どうするのよ!?

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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