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6歳1月(13)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(13)


「思いついたー? つまらないものだったら追い出すよー?」


ラムズィの両脇を固める男たちが、こちらに剣を向けて威圧するようにジリジリと前に出る。

しかし私にそんな威圧は関係ない。そこにラムズィ1人しか居ないかのように大きく一歩、前に出る。


「ラムズィのために、新しい町を1つ作るわ!」


「まちー!? 町って、この町のことかーい? はっはー! こいつは随分と大きくでたねー。」


さらわれてしまったジョイスとも約束したの。肌の色も宗教も関係なく、みんなが仲良く暮らせる町よ。」


「ふーん? それで僕はいくら儲けられるのかなー? いう事が大きければ良いってものじゃないさー。金にならないものはいらないよー。」


「ラムズィ、あなたが本当に欲しいものはお金じゃないわ。“居場所”よ。ラムズィと、その周りの全員に、私がそれを用意してあげる。」


「居場所ぉー? それに“僕の周りの全員”ってのは誰のことだーい?」


「ラムズィがお金を集めて守ろうとしている仲間も、盗人も、乞食も、屋台の人たちも、みんなまとめて全員よ。みんなが爪弾つまはじきにされない場所。みんなが必要とされて、大事にされて、愛されて、生きていける約束の場所。みんなの“居場所”。そんな新しい町を作るわ。それが私の用意する対価よ!」


怪しい笑みを浮かべていたラムズィは毒気を抜かれたように素の顏になっている。

その目は私に向けられているが、私のことは見ていない。ラムズィの目に映っているのは未来の新しい町の姿なのかもしれない。


「……ふ、ふふ……。ふあっはっはー。いやー立派だねー。とてもお子様のいう台詞には聞こえないよー。でも絵空事だねー。口だけなら何とでも言えるさー。リルカちゃんにそんな金はないだろー? 誰が作るんだよー?」


ラムズィがいつものへらへらした顔に戻って、気の抜けた声で問いかけてくる。

今なら分かる。ラムズィの今の顏は私の対価を一瞬でも“いいな”と思ってしまった顔だ。

私がラムズィから十字架を見せられた時に心奪われたのと同じ顔だ。


ここだ! 最後のひと押しだ! 根拠なんて必要ない! 自信満々に押し切るのよ!


私はできる限り怪しく悪い顔になって、口には歪んだ笑みを浮かべ、ラムズィを真似するように低い声で答えを返す。


「実際に作るのはラムズィ! あなたよ。

正確に言うなら、私を信じるたくさんの仲間たちが作るわ。フマも、ここにいる仲間も、ジョイスや孤児たちも、あなたたちも、みんなが作るの。私は導くだけ。なぜなら、私の名前は、リルカ・マリア・デ・マニカ・ムプンザクト。この国の王族にして、偉大なる将軍の娘。そしてこの世界を照らし、人々を導く者だからよ! ラムズィがいくら頑張ってお金を集めても、みんなの“居場所”は作れないわ。でも私が導けば作れる! 私が示す未来の姿、私につどう仲間たち、それが導く者の仕事。私の存在こそがラムズィのいう神様の望んだものよ!」


私はまばたきすることも忘れ、ラムズィを呑み込むほどに強い眼差しを向ける。

へらへらした顔のラムズィが、溜息のように深く息をつくのを見逃さなかった。


「リルカちゃんは、あの将軍の娘かー。あの将軍の嘘くさい伝説がすべて本当だとしたら、リルカちゃんが町の一つや二つ、作っても不思議じゃないかー。実際君たちなんなのよー。まだ子供だろー?フマはこの俺を出し抜くしさー。後ろの3人は強いしさー。リルカちゃんなんてお子様が言う台詞じゃないよー。まあ、やるって言うならお手並み拝見させてもらいますかねぇー。」


「じゃあ! 契約は――。」


「駄目駄目ぇー。そんなに時間のかかる約束じゃ、対価にはできないよー。」


「ええー!」


「だから、もう一つ追加で、手っ取り早い約束をしてもらおうかなー。リルカちゃんがこの町に来た時には、必ず最初に僕のところに声を掛けるってのはどうかなー。」


「そんなことでいいの?」


「十分だよー。何か売り買いの相手を探していたら紹介するし、金儲けの匂いがしたら絡ませてもらうけどねー。リルカちゃんとフマが来るときは大きな金が動きそうだから、その情報だけでも十分さー。何より、ちゃんと町を作ってくれるまで逃げられちゃ困るからねぇー。どうだーい?」


「私だって、町を作ってくれるラムズィに逃げられちゃ困るからね! 契約成立ね?」


私は左頬を上げるように二ッと笑って右手を差し出す。


「ああ、契約成立だねー。リルカちゃんももっと場数を踏んだら交渉も手強くなりそうだー。楽しみだねぇー。」


ラムズィも同じように笑って私の右手を強く握った。


「さあ、情報を教えるよー。最初に僕へ香辛料の買取を持ち掛けてきたのは、“パンツ愛の団”だよー。だけど、奴らは間抜けにも盗んだ袋を置き忘れて、誰かに持って行かれたとかで必死に探し回っていたんだー。だからフマとジョイスをさらったのはおそらくそいつらだねぇー。そして、いまパンツ愛の団が拠点としているのは――。」


「ありがとう! 助けに行くわ!」


ラムズィの話を全てを聞き終わる前に、私は宿屋を飛び出した。

デデを探すが見当たらない。きっとお母様を探してくれているはず。

デデ、信じてるわよ。

私の後を追って飛び出てきた3人が揃う。


「アディルにいさん、カイサあにき、オニカあんちゃん、時間が無いわ。突っ込むわよ!」


「「「おう!」」」


私たち4人は月明かりを頼りに全力で走る。行先は倉庫。川から離れる方向の町の端にある。川から離れると建物は急にまばらになり、人の気配も感じない。

しかし走る先には水路。そしてそこにかかる小さな橋。橋の周りには4人の男がたむろしていた。彼らは私たちを見つけるとその一人が私たちの前に躍り出た。


「ひゃっはー! ここは通さねえぜ! 穿いているパンツを見せるか、持ち物を全部見せな!」


通せんぼの様に両手を広げている男は頭の両脇が剃られており、中心部だけに髪の毛が立ち並んでいる。このヘンテコな髪型は、テテの町で最初に絡んできた変態!


「おぉっ? おめえら朝の! 逃げた女もいやがる。でももうおめえらに用はねえ! 帰りやがれ!」


変態も朝のことを覚えていたらしく、大きなナイフを抜き放ち横に振って吠える。

アディルも、カイサも、オニカも武器を構えて一触即発の緊張が走る。


「私が、あなたたちに、用があるのよ。」


しかし私は静かに、でもはっきりと聞こえるように言い放ち、変態の目を見据えたままツカツカと正面から近づいていく。


「あぁん?」


変態は片眉を上げ、唖然とした顔でピクリとも動けない。しかし次の瞬間に内臓を吐き出しそうな声をあげて顔が歪む。私の編み上げサンダルの先端部分が変態のパンツにめり込む鈍い音と共に。


「ふんぐぉおごごごごごぐべああああ!」


変態はパンツを両手で抑えて倒れ込み、ビクンビクンと震えて泡を吹いている。

つま先に残った感触が最悪だわ。まあ本気で容赦なく蹴ったけど、パンツっていうクッションがあるから大丈夫よね。たぶん。きっと。だといいな。


「フマとジョイスを取り返しに来たわ。ここは通してもらうわよ。」


残る3人も大きなナイフを抜いて身構える。アディルとオニカが私の前に立って牽制する。カイサの弓矢がある分、私たちが有利か。でもここで時間をかけるわけにはいかない。


その時、私たちの背後から駆け寄ってくる足音。

こんな人気のない場所に複数人で走ってくるなんて、パンツ愛の団しか考えられない。

まずい! ここで挟み撃ちにされたら乱戦になる。前の3人を一気にぶっ飛ばすか、一旦引くか。


前方の3人も私たちの背後から近づく存在に気が付いたようで、不敵な笑みを浮かべてにじり寄ってくる。もうさっきのような奇襲はできない。


こんなところで足止めなんて喰らっている場合じゃないのに!


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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