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6歳1月(12)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(12)


今日は満月。ところどころに焚かれた篝火かがりびよりも遙かに明るく、大きな丸い月が道を照らす。

私たち5人ははぐれないように一団となって町を駆ける。時折デデに耳を澄ましてもらい、フマの声が聞こえないか確かめながら。そしていくつかの大通りを駆け抜けた後、デデが音に反応したように路地に向けて駆け出す。私たちもそれを追って路地に走り出す。どうかフマが生きていることを願いながら。


細い路地の突き当り。ボロ屑のように転がっていたのは、ジョゼだった。


「どうしたの!?なんでジョゼがこんなところで怪我しているの!?」


話しかけるが返事が無い。呻き声は聞こえるけど意識が無いようだ。腕は変な方向に曲がっているし、頭から血を流している。どうみても命に係わる。フマの命が時間の問題かもしれない。でもいま目の前のジョゼを見捨てることもできない。


「ジョゼを教会まで運ぶわ。みんな手伝って!」


大急ぎでジョゼを教会まで運ぶと、教会の中にはもう一人、倒れていた。


「これはロレンソである!」


「フマに紹介してやった男だぜ。何故こんなところに倒れているんだって?」


「ぁ、あぁ、カイサさん、オニカさん、何故ここに?」


ロレンソと呼ばれる男の子はなんとか意識があるみたい。


「いいから答えなさい。あなたがフマあにじゃに売ったものは何? どこから手に入れたの? あなたが売った物のせいでフマあにじゃがさらわれたのよ。フマあにじゃが殺されたら許さないんだから!」


「フマさんもさらわれた……!? 香辛料だ。フマさんには香辛料を買ってもらった。ジョイスが拾ってきたんだ。僕は料理を勉強しているからすぐに高い香辛料だって分かった。でもこの町で盗品を扱っているのはイスラム教徒のアラブ商人たちだ。キリスト教徒の僕らでは売りに行けない。だから町の外から来た商人を探していたんだ。」


「おい、今“フマも”って言ったぞ? 誰だ? 他に誰がさらわれたんだ!?」


アディルが喰いつくようにロレンソへ詰め寄る。


「ジョイスだ。僕と一緒にいるところを襲われた。僕は立てないほど痛めつけられて、彼女は連れて行かれてしまったんだ。お願いだ! ジョイスを助けてくれ! 頼む! ジョイスを!」


フマだけじゃなかった。ジョイスまで。私の大事な仲間だけじゃなく、大切な友達まで! 本当にここまでやるなんて。そんな奴じゃないと思っていたのに!


「ラムズィィィィィィィ!」


許せない! フマやジョイスを少しでも傷つけてみなさい。10倍返しじゃ済まないんだから!

私の叫びが聞こえたのか、隣に寝かせていたジョゼが目を覚ます。


「マリア……。済まない。ジョイスがやってしまったことは神の道を外れたことだ。でも命だけは助けて欲しいんだ。ラムズィは私が倒れていた路地から通り3本離れた宿屋にいる。イスラム教徒であるアラブ商人たちのたまり場だ。私はそこに乗り込んだのだがこのざまだ。本当なら君らみたいな子供に頼むようなことじゃない。でもマリア、君にしか頼めないんだ。ジョイスは血が繋がってなくても、私の家族、私の娘なのだ。頼む。」


「仲間は、友達は、絶対に見捨てないわ。それに私はリルカ・マリア・デ・マニカ・ムプンザクト。この国の王族にとって、この国の全ての民が家族よ。ジョイスは必ず助ける!」


「神の……ご加護を……。」


ジョゼはロレンソに任せて、私たちは教会を飛び出る。

リルカ探検隊マイナス1名は月明かりに照らされた道を走る。

フマも、ジョイスも、必ず助ける。絶対よ!


デデに耳を澄ましてもらい、目的の宿屋に着いた。

閉じられた扉の隙間から煙が漏れている。

作戦なんて思いつかない。

いや、作戦があった。何度も助けられてきた“作戦デデ”だわ。


「デデにぃに。外で待っていて。私たち4人で突っ込むわ。戻らなかったらお母様を探して呼んできて。」


デデは涙目で私を引き留めようとする。可愛い。


「ごめんなさい。デデにぃに、時間が無いの。お願い。」


デデは悲しそうな目をしながらクルリと背を向けて走り、通りを隔てた曲がり角まで離れてこちらを見ている。可愛い。


「アディルにいさん、カイサあにき、オニカあんちゃん、行くわよ!」


「「「おう!」」」


両開きの宿屋の扉を、派手な音を立てて蹴り開ける。

中は薄らとした煙で充満している。

タバコの煙だ。

ソファに座って水タバコを吸っているのが10人はいる。

敵意丸出しの視線が身体に突き刺さる。


カウンターから男が1人立ち上がり、詰めよってくる。


「ここはガキがくるところじゃ――。」


お決まりの脅しを言ってくる男の喉元には、アディルが鋭く研がれた短槍の矛先を突きつけて黙らせる。


「この野郎!」


カウンターの奥で振りかぶった男の手の中にある大ぶりのナイフを矢が叩き落とす。


「次に動けばその目を狙うのである。」


次の矢をつがえてカイサが周りに睨みを利かせる。


「ふざけるなぁ!」


「うがあああああぁぁ!」


机を盾にして突っ込んできた男に向かって、オニカが近くにあった石でできた椅子を持ち上げ、投げつけて潰す。男は机と椅子の下敷きになってうめいている。


他の男は3人の牽制のため迂闊うかつに動くことができず、互いに隙を伺う様なヒリヒリとした焼けつく空気が漂う。


「ラムズィ! 出てきなさい! ここにいるのは分かっているのよ!」


「おやー。妹ちゃんじゃなーい。こんなところまで何しにきたのー?」


気の抜ける嬉しそうな声を出しながら、緊張感の無い足取りで奥の部屋からラムズィが現れた。

その背後からは両手に幅広のシャムシールを持った2人の男が現れ、ラムズィを守る。

あの2人はどう見ても格が違う。まともにやり合ったらまず勝てないわ。


さらった2人を返しなさい! 私の仲間と友達よ! 少しでも傷つけていたら100倍にして返してやるんだから!」


「えー。知らないよー。全然知らないってー。誰のことー?」


「ここまで来てとぼけるんじゃないわよ! フマとジョイスのことよ! 二人をどこにやったの!?」


「フマとジョイスー……? フマー!? もしかして、妹ちゃんの名前はリルカっていうのかー?」


「そうよ! 私はリルカよ!」


「なんだってー! おい、さっきの袋を開けて中身を全部出してみろー。」


ラムズィは奥の部屋に向かって何やら不思議なことを叫びだした。


「ラムズィさん! 立派な羽毛は表面だけだ! 中の方はクズみたいな羽毛のばかりだ! あのガキ! 騙しやがったな!」


ラムズィは悲しいようなショックのような、口があんぐりと開いて、眉毛は泣きそうに垂れ下がっている。あんな情けない顔を初めて見た。


「あっはっは。あーっはっはっはっは! あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!」


かと思ったらラムズィが狂ったように笑い始めた。


「やられたー! やられたよー。ひー。あの小僧に完全に一杯食わされたー。あーっはっはっは!」


「何よ。どういうことよ!」


「いやー。あのフマって小僧がさ、北欧から輸入品の最高級な羽毛で、盗品があるから買い取ってくれって来たんだよー。なんだか異常に詳しくてさー。商品の特徴や交易ルート、仕入れた商人の名前から納入予定の相手の名前や、何に使う予定だったのかまで詳しく説明するんだよー。持ってきたのも山のような数の袋でさー。いくつか袋を開けたら確かに上等な羽毛が詰まっていたんだよなー。盗品ってことで散々買い叩いたつもりだったんだけど、元の値段が高いからそれなりの金額になって、支払ってやったんだよー。そしたら最後にあの小僧は何と言ったと思うー? “リルカって名前を聞いたら、わてはその人の代理で来たと思い出してくれだす”だってよー。俺がリルカちゃんから巻き上げた金の10倍以上の金を、たかがクズ羽毛で巻き上げていきやがったー。あーっはっはっはっはー!」


フマが言っていた、“ラムズィに10倍返し”って奴だわ。


「でもフマを襲って、さらったでしょう!? 卑怯者が! 二人を返しなさいよ!」


「えー? 商売で負けたからって、暴力で返すような、そんな恥晒しなことはしないよー。それに、もう一人のジョイスって人は本当に何も知らないよー?」


「じゃあ、香辛料をどこやったの!? ラムズィが持っているんでしょう?」


「香辛料だってー? もしかして、そのジョイスっていうのはキリスト教徒の女の子なのー?」


「そうよ! 教会の孤児院で暮らしているメスチーソの女の子よ!」


「ああー。リルカちゃんじゃなくて、そっちだったかー! キリスト教徒の女の子が香辛料を拾ったって情報を聞いて、探した結果がリルカちゃんだったんだよねー。情報が間違っていたんじゃなくて、同じようなの女の子が2人いたのかー。ごめんねー。リルカちゃんが香辛料を持っていると思っていたから、それを巻き上げるためにあの十字架を売りつけたんだよー。」


「え? じゃあ、本当にジョイスはここに居ないの?」


「その子には会ったこともないなー。」


「フマもここには居ないの?」


「フマもいないねー。羽毛を買った後は、会ってもいないよー。」


「じゃあ、二人はどこにいるのよ!?」


「心当たりはあるよー。どうするー? 知りたいかーい?」


「教えて! 急がないと殺されちゃうかもしれないの!」


「じゃあ、対価は何をくれるのかなー?」


ラムズィは急に声色が低くなり、顔は悪戯っ子のような怪しい笑みに変わった。


「情報はタダじゃないよー。二人の命がかかった情報だー。安くもないねー。リルカちゃんは何か価値のあるものを持っているのかーい?」


「二人の命を金儲けのネタにするだと!」


「ダメ! アディルにいさん! 動かないで!」


アディルがいきり立って、ラムズィに短槍を突き立てようと振りかぶるのを片手を上げて制する。

ラムズィの脇に控えていた二人の男が剣を向けて牽制してくる。


ダメ。ダメなんだ。これは商売の勝負だから、暴力を使っちゃダメなんだ。暴力を使ったら人数が少ないこちらが最後には潰される。


「いーい判断だねー。暴力なんて使ったらもう教えてあげないところだったよー。」


「ラムズィには散々騙されたわ。あなたが教える情報が正しいなんて、信用できるわけないじゃない。だからあなたの情報の価値なんてほとんど無いわよ!」


「いいねいいねぇー! なかなか言うようになったねぇー! でも今回の僕の情報はかなり自信があるんだー。なんなら契約にしてあげるよー。アラブ商人はどれだけ嘘ついても、契約だけは必ず守るんだよねー。アッラーに誓うよー。」


「分かったわ。契約が成立したら、必ず正しい情報を教えてもらうわよ!」


「ご心配なくー。アッラーがお望みならば二人を助けることができるさー。ほーら、考えて考えてー。時間が無くなっちゃうよー。」


今は他に当てが全くない。ラムズィの情報に賭けるしかないわ。

考えろ、考えろ!

どんな情報があったか思い出せ。

ラムズィは金のためなら何でもする。

ラムズィは盗賊や乞食や屋台の人の味方。

ラムズィは大儲けのネタを見つけていた。

私が渡せるもの。私が約束できるもの。

何? どれ? どういうこと?


あっ――。


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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