6歳1月(11)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(11)
「みんな、沢山食べてね! あ、これはね、こんな感じで食べると美味しいの。ほらあーん。アディルちゃんよくできまちたー。ほらリルカちゃんもあーん。」
「いやいやジョイス、孤児院の小さな子たちじゃないから、自分で食べられるわ。あーんは恥ずかしいよ。」
「リルカちゃん、そんなこと言わずに食べてよ。もう何でもしてあげたい気分なの。だって私のロザリオが戻ってきたのよ。神様にだってあーんってしたい気分! じゃあこれは特別に美味しいからリルカちゃんにあーん。」
ジョイスは泣き止むと、十字架の御礼といってご飯を準備してくれた。といっても、屋台の残り物らしい。アディルは、あーんとかされちゃって、すました顔しているけど顔が赤い。もう決定的ね。アディルはジョイスのことが……。あーん。むぐむぐむぐ。お腹ペコペコだったから美味しい。
「今日は屋台から沢山ご飯を貰ってこれたからご馳走なんだよ! 料理が得意な仲間が戻ってきたらもっともっと美味しい物を出せるんだ。でも屋台のものも沢山あるからお腹いっぱい食べてね!」
「他に仲間が10人もいるんだろ? 俺たちにこんなに出したら食べる物が無くなるぞ?」
「アディルちゃん、心配しないでいいんだよ! だいじょーぶ! 実はね、ここだけの内緒の話なんだけどね、拾い物をしたの。大きな布袋。道端に落ちてたの。辺りを見渡しても誰も居ないから貰っちゃった。仲間にお願いして売り先を探してもらっているの。ジョゼお父さんには絶対に絶対に内緒よ! キリスト教じゃそんなこと許されていないんだから。けど私の十字架も奪われたし、もういいやって自棄になっちゃってたの。中身は何か知らないけど、仲間が言うには結構高く売れそうだって。だからそれがあれば沢山食べ物を買ってこれるし、リルカちゃんにもお礼を渡せる。リルカちゃん騙されて買ったんでしょ? 高かったんでしょ? 買った金額分を払えるか分からないけど、できるだけ渡すね。ああ楽しみだな。きっとリルカちゃんへお礼を渡すための、神様がくれたプレゼントだったんだな。神様って本当にいるって思ったよ。十字架は戻ってくるし、プレゼントも拾えた。一生懸命に正しく生きていれば、ちゃんと神様は見ているんだって。私ね、夢があるの! この国の人たちとポルトガルの人たちが仲良く一緒に暮らせる町を作るの! メスチーソも黒人も白人も関係なく、みんな仲良しで、みんなの居場所があるの。アディルちゃん、リルカちゃん、デデちゃん、黒人で最初のお友達になって。そして私と一緒に全員が仲良しの町を作ってほしいの。」
「もう友達だぞ。」
「アディルちゃーん! ありがとう!」
ジョイスがアディルの抱きついてキャッキャと喜んでいる。おーおー。澄ました顔して、アディルの鼻の下が伸びてる。うん、身長は私と同じくらいだけど、ジョイスの方が10歳だからおっぱいも大きいし、抱きつかれたら嬉しいよね。むっつりスケベだし。アディルの恋路は応援したいような、からかって邪魔したいような。複雑な心境だわ。
「アディルにいさんの恋路、どう思いますか? デデにぃに。」
デデは目を細くして何ともいえない顔でご飯を食べるだけの全自動からくり人形になっている。可愛い。
「リルカちゃんも友達ー! いえーい! 一緒に町を作ろうね! 約束だよ!」
「はいはい、いえーい。」
ジョイスは友達だと思えるし、そんな町が作れたら素敵だと思うけど、今はこのハイテンションについていきたい気分ではない。私にはまだやらなきゃいけないことがある。
さて、お腹も膨れたことだし、元の目的に戻らなきゃ。
どんな手段か分からないけど、ラムズィに一泡吹かせる。
そしておそらくラムズィのところにあるだろうお母様の香辛料を取り返す。
期限は明日の昼過ぎまで。時間が無いわ。
「ジョイス、そろそろ行くわ。ご飯ありがとう。」
「あ、ちょっと、ちょっと待ってよ。もうすぐ仲間が帰ってくるから。紹介したいの。いま迎えに行ってくるから。すぐだから。ちょっとだけここで待っててよ。リルカちゃんはまだ本調子じゃないでしょ? もう少しだけ休んでいて。ほら、お水、お水。絶対ここにいてよ。絶対よ。すぐだから!」
ジョイスはひとり騒々しく言い立てると外に出て行ってしまった。そんなにすぐというなら少しだけ待とう。アディルもデデもお腹いっぱい食べて苦しそうだしね。
◆◆◆
ジョイスを待つにも手持ち無沙汰になり、孤児院を出て教会の前で待つことにした。ジョイスの仲間にも簡単に挨拶だけしてすぐにラムズィを探さないと時間もない。もうお日様もずいぶん傾いていて、あと3時間もすれば日が沈んでしまうだろう。
すぐと言っていた割には遅いジョイスにやきもきしながら待っていると、ずいぶん長く会っていなかった二人に出会えた。
「カイサあにき! オニカあんちゃーん! こっちこっち!」
「どこにいたのであるか? ずっと探していたのである。」
「あの変態たちを追い払うの大変だったぜ。腹減った。」
孤児院に戻り、勝手に残った食べ物を2人に食べさせながら、事情を説明する。
「大変だったのであるな。じゃあ、フマはそのラムズィっていうのを探しているのであるか?」
「実はおいらたちはフマを探していたんだぜ。なんか市場で知り合った人が、フマみたいな町の外から来た商人を探しているっていって。」
「じゃあ早速フマと、ラムズィとやらを探しにいくのである。」
「ちょっと待ってよ。私たちは人を待っていてまだここから動けないの。」
「じゃあ、とりあえずおいらとカイサの2人でフマを探してくるぜ。なーに、お腹もいっぱいになったし大丈夫だって。」
「すぐにフマと合流して、この場所に戻ってくるのである。ラムズィはその後であるな!」
「気を付けてね! カイサあにき、オニカあんちゃん!」
カイサは軽く手を上げ、オニカは上腕二頭筋をこんもり盛り上げて応えると探しに行ってしまった。
これだけ待っているのにジョイスは戻ってこない。
だんだん心配になってきた。
◆◆◆
また教会の前で、私とアディルとデデの3人が待ちぼうけ。
ジョイスも戻ってこないけど、カイサとオニカも戻ってこない。
お日様がもうすぐ沈んでしまう。
ジョイスもカイサもオニカも心配だけど、このまま待つわけにもいかず、教会をノックするとジョゼが出てきた。交易拠点へ戻る旨の伝言を頼んで、ようやく移動開始。
夕暮れ近くになると市場もほとんどの屋台が閉店しており、歩く人も疎ら。
足元も暗く、所々にしかない篝火を頼りに交易拠点へと戻る。
お母様もまだ戻ってきていない。
みんなどこに行ってしまったのだろう。
私たちが交易拠点の玄関で待っていると、暗い道を2人が駆け寄ってきた。
「大変だ! フマが攫われちまったぜ!」
「なんですって!?」
「一度はフマと合流できたのである。その時に聞いたのは、“ラムズィにはきっちり10倍返ししてやっただす”と言っていたのである。」
「ラムズィに10倍返ししたって? 本当?」
「それからフマをロレンソって奴に紹介したんだぜ。市場で知り合って、町の外から来た商人を探していた奴だぜ。フマはそいつから何かを買っていて、聞いたら“大儲けのネタだ”って言ってたぜ。」
「“大儲けのネタ”。ラムズィも同じことを言っていたわ。」
「そのあとである。教会に向かって歩いていたら急に背後からごっつい男に首を絞められて、自分は必死に抵抗したのだけど、気を失ってしまったのである。」
「おいらは突然目潰しを喰らって何も見えなくなったところへ、散々投石を喰らったんだぜ。」
「自分たちがそいつらの相手をしている間に、一緒にいたはずのフマが攫われてしまったのである。」
「ちくしょう! おいらが居ながらフマを守れなかったぜ! 今度会ったら、全力でぶちのめしてやるって!」
「誰が襲ってきたか分からないの? 何か特徴は無かったの?」
「自分は首を絞められて何も見る余裕がなかったのである。大男だということくらいしか分からないのである。」
「すまねえ。おいらも突然の目潰しで何も分からないぜ。直前に見えたのはチビデブな奴だったぜ。」
「じゃあ、今の情報で推測できることは、ラムズィに仕返しをしたフマが、さらに何か別のラムズィの大儲けのネタを横取りして、ラムズィの手下に襲われたって事かしら。」
「だとしたら、フマの命が危ないぞ。生かしておく理由が無いんだ。」
敵にはカイサとオニカがやられるほどの腕利きがいる。
お母様はまだ帰ってこない。
でも急がなきゃ、フマが死んじゃうかもしれない。
迷うことは何もないわ。
「フマを助けに行くわよ。アディルにいさん、カイサあにき、オニカあんちゃん、デデにぃに、良いわね?」
「「「おう!」」」
3人の怒りの掛け声に合わせてデデも強く頷く。可愛い。
さあ、リルカ探検隊マイナス1人、出撃よ!
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




