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6歳1月(10)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(10)


「はっ!」


今度は一気に目が覚めた。

教会とはまったく違う天井。隙間だらけの木の屋根からは木漏れ日が降り注ぐ。

アディルとデデとジョゼ、それに先ほど外に出て行ったジョイスが心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。

私は表面がでこぼこした木製の長椅子に、一枚引かれた薄い布の上で寝かされている。背中が痛い。


「わ、目を覚ましたわ! ごめんなさい! ごめんなさい! 許して!」


「これはうちの娘だ。いつもいつも本当にそそっかしくて。何度も扉は静かに開け閉めしろと言っているのだが。申し訳ないことをした。」


「両手がね。塞がっていたの。水を運んでたの。だから足しか使えなかったの。でも扉が大きくて重いじゃない? 私チビじゃない? だから渾身の力を込めて体重の乗ったケンカキックで扉を開けたの。まさかリルカちゃんがいるなんて思わなかった。本当にごめんなさい。」


目を覚ましたらすぐに早口でお詫びを連発されて何が何やら。

横からアディルが説明してくれた。


「リルカは、ジョイスが蹴り開けた扉に跳ね飛ばされたんだ。そして倒れたリルカをジョゼさんが運んでくれた。ここは教会の隣の孤児院だぞ。」


「申し訳ない。教会の方にはそろそろポルトガル人たちが来るのだ。君たちは居ない方が良い。悪いがジョイスたちが住む場所へ運ばせてもらった。」


「でも良かった~。リルカちゃんが目を覚まして。また死んじゃったと思って棺桶のサイズを測ったけど無駄になって良かったわ。もう痛くない? 眩暈めまいは? 気持ち悪かったら早めに教えてね。大丈夫? あ、水飲む? せっかく水を汲んで来たんだから飲んでよね。アディルちゃん、そこの水とって、水っとー。あ、あわわ! キャー! あいたっ! ととっとっとっと。ふぎゃっ!」


悪びれた様子も無く陽気な声で、縁起でもない準備をしていたと告げるジョイスは、こちらが口を挟む隙がないくらい早口で喋りつづけた挙句に、アディルから水の入ったコップを受け取ろうとして手から滑らせ、お手玉して、慌ててコップを捕まえようとするアディルと頭をぶつけた上に、長椅子に足を引っ掛けて盛大にすっ転び、水の入ったコップをまだ横になっている私の顏にぶちまけてきた。私は頭からびしょ濡れだ。


う~ん。私よりそそっかしい子を初めて見たかもしれない。それに“アディルちゃん”とか言ってたよね? 私が寝ている間に何があったの? ずいぶん仲良しな呼び方になっているよ。


「あいたたた。キャー!」


ジョイスの悲鳴に驚き、濡れた頭を振って目を開くと、仰向けに倒れたアディルの顏の上には、短パンのようなヒラヒラした白いパンツに包まれたお尻が乗っている。どうしてそんな体勢になったし。


見事に捲れ上がったスカートを抑えながらジョイスが起き上がると、さらにパンツは強くアディルの顔を押さえつけて逃さない。


「いやーん! アディルちゃんのエッチ!」


「この野郎! うちの娘に何してんだ! 私の手で地獄に送ってやるぞ!」


いや、ジョゼも見てたよね? 悪いのは全部ジョイスだよね? いくら娘を愛していても教会の責任者が自分の手で地獄に送っちゃダメよね?


「むごー!」


「やだ! 動かないでー! んあっ!」


「貴様には地獄すら生温いわー!」


口と鼻を塞がれたアディルが息を吸おうと暴れ出す。それに合わせてジョイスも悲鳴をあげ慌てて立ち上がるも足を滑らせて更に深くアディルの顔の上へ尻餅をつき、ジョゼが怒り狂ってアディルの短槍を奪って振りかぶる。もう滅茶苦茶だわ。

ちなみにデデは端っこで体育座りをして空気になっている。可愛い。


私は咄嗟とっさに起き上がってジョイスを蹴り飛ばす。


うるさーい! いい加減にしなさーい!」


まったく! どいつもこいつも!

ジョイスはそそっかしいの通り越してラッキースケベ体質だし、ジョゼは父親としての気持ちが暴走してシリアスな助祭キャラが残念な方向に台無しだし、こういう時に冷静に場を鎮めるはずのアディルが役立たずだわ。


いい話だな~って感じで恰好良く教会を去るはずがどうしてこうなった。



◆ただいま説教中、しばらくお待ちください◆



3人は地べたに正座させている。

私はその前にある長椅子に座って3人を睨み付ける。


「ごめんなさい! ごめんなさい! 許してください!」


「はあ。うちの娘ともども、申し訳ないことを。」


アディルはムスッとした顔で黙っている。……ように見せかけてさっきからチラチラとジョイスを見ている。どうしようもないむっつりスケベだわ。


「はあ、もういいわ。許すから落ち着いて。」


「優しい! リルカちゃん大好き! 私もアディルちゃんを許してあげるね。神様は寛容なのよ。」


いや、アディルは悪くないし。って何よアディル、その満更でもない顔は!?


「私はそろそろ教会に戻らなければならない。ここなら君らを嫌う者もこない。ゆっくり休んでから帰るといい。では失礼する。」


足の痺れたジョゼが孤児院から逃げだした。


「ところでアディルはいつの間にジョイスと仲良くなったの?」


「べ、別に仲良くなってなんかいないぞ! リルカが倒れている間に“世話が焼ける奴だ”と言ったら、ジョイスも孤児院の子達はみんな世話が焼けると言い出して、お互いの苦労を言い合っていただけだ。」


「えー、アディルちゃん冷たいなあ。似たような苦労をしてきた仲間じゃない。私はこの孤児院で2番目に年上なの。1番年上がお料理が得意だから、それ以外の世話をするのは私の仕事。病気で倒れたり怪我したりする小さな子たちの面倒もみるし、みんなの洗濯したり縫い物したり、屋台も手伝って食べ物を貰ってくるし、ネコの彫り物も作って売って生活費も稼ぐのよ。この孤児院の壁や屋根だって私が板を拾ってきては少しずつ直してここまで形になったんだから! どう? 見直した?」


ジョイスはこれだけそそっかしいのに、みんなの面倒はちゃんとみていたみたいだ。意外だ。

それにしても周りを見渡すと天井も壁もスカスカに隙間が空いていて、とても雨風を防げるような小屋ではない。外よりはマシといった感じだ。これで形になったというなら、前はどれだけ酷かったのだろうか。


「直したといっても隙間だらけの家だな。雨が降ったら大変じゃないか?」


「アディルちゃん、ひどーい! だいじょーぶ! 大丈夫よ! 雨が降ったら中に布を張って、雨水を貯めるの。ぴっちょんぴっちょんばしゃんばしゃん♪ 愉快な音楽会。孤児院には10人も仲間がいる。今はみんな外にでているけどね。みんなでくっつき合えば寒くなんてないんだから。それに雨の日はね、屋台の人がご飯をくれるの! 雨の日は売れないからって。ご馳走が食べられるんだよ! だから晴れている日は屋台のお手伝いするの。雨は良いことも沢山あるんだよ。あとね――。」


「ストップ! ストーップ!」


私の静止に、ジョイスがピタッと口を閉じる。

私が思っていたことを10倍無礼な感じでアディルが聞いてしまった。

余計なこと聞かないでよ。話が脱線しまくるじゃない。


「ごめんね、ジョイスが喋りはじめると、なかなか割り込めないから。」


「そうだぞ。さっきから聞きたかったが、ジョイスのその浅黒い肌はどこの出身なのだ? 私たちの部族とは違うし、アラブ人でもないぞ?」


「アディルちゃん、私の肌をそんなにジロジロ見てたの? エッチね! 確かにあんまり見ない肌よね。気になるよね。仕方ないわ。私の本当の父はポルトガル人。母は黒人。つまりハーフ。メスチーソっていうの。ジョゼお父さんも同じ。私のこと“うちの娘”だなんていってたけど、本当は血が繋がってないの。ここの孤児院にいる子はみんなメスチーソよ。父親はすぐ船で国に帰っちゃう。母親は1人じゃ子供を育てられない。だからみんなこの孤児院に来るの。この孤児院はメスチーソしかいない。だからみんな家族なの。ジョゼはお父さんね。まだ結婚相手もいないのにお父さん。ぷぷ! 私たちは肌の色が違うだけ。でもなかなか働けない。警戒されたり、いじめられたり。気にしないけどね! 負けないし。ジョゼが集めてくれる寄付でなんとか生きていけるし。でも私はこの国で生まれた子よ! ポルトガルも本当の父親の国だから好き。それだけよ。それ以上でもそれ以下でもない。リルカちゃんと同じ女の子。それなのにこの国じゃ生きる場所が無いみたい。かといってポルトガルにも行けない。どう――。」


「ストップ! ストーップ!」


私の静止に、ジョイスがピタッと口を閉じる。

私も聞きたかったことだけど、アディルは直球過ぎるわ。そして口調が陽気だけど重すぎる内容のジョイス。ジョイスは気にしている様子もないけど、この先は気軽に首を突っ込むには大変な気がする。話題を変えよう。

アディルを強い視線で睨み付け、もう余計な事を言わないように釘を刺す。うん、頷いているから大丈夫だろう。


「ジョイス、また止めちゃってごめんね。ところで――。」


「ジョイスのブレスレッドは豪華だな。服は草臥くたびれているのに非常に浮いてるぞ。」


ジョイスは服の草臥くたびれ加減とは裏腹うらはらに、とても綺麗なブレスレッドをしていた。

私が言おうとしたことを100倍無礼な感じでアディルが言い放つ。アイコンタクトにミスっただろうか。押すなよ、絶対押すなよというお約束だろうか。何にせよ話題が変わったとホッとしたのもつかの間、陽気だったジョイスが急に悲しい顔になっている。


「アディルちゃん、これはロザリオなの。この部分に以前は十字架がついていたんだ。大きな空色の石がとても綺麗で、本当に大事に、大切にしていたの。でも数日前、町中で急に突き飛ばされて十字架を引き千切られて盗られたの。追いかけても全然追い付けない。誰も助けてくれなかったわ。本当の父親が唯一残してくれたものなのに! 私の名前が分かる、唯一の証明だったのに! この国は私から何もかも奪うの! 夢も! 希望も! 私自身の証明も! 神様なんて――。」


「ストップ! ストーップ!」


私の静止に、ジョイスがピタッと口を閉じる。

ああ、聞きたくなかった。一番触れちゃいけないところへ、アディルは泥だらけの身体でフライングボディアタックをぶち込んだみたい。陽気にみえるジョイスがこんなに負のオーラを放つなんて、邪神とか召喚させそうな雰囲気だったわ。


しかもなんだか聞き覚えのある十字架が出てきたような。

横を見ると、アディルとデデがじーっと私の胸元を凝視している。

ですよねー。


「ジョイス、その十字架は聞き覚えがあるんだ。リルカ、それを見せれば何か分かるかもしれないぞ。」


なんでアディルがそんなに積極的なのよ。なんだかモヤモヤするわね。まあ元々見せるつもりだから良いんだけどさ。


「あ、あのねジョイス。これはある詐欺師に騙されて買ったんだけどね。もしかしたら――。」


私はショールで隠していた十字架を取り出し、鎖を首から外してジョイスに渡す。

十字架を手渡されたジョイスは目を丸くして固まっている。

その目から大粒の涙が溢れ出し、指で確かめるようにゆっくりと十字架を撫でる。


「うわー! アディルちゃん、リルカちゃん、ありがとう! ありがとう! もう二度と戻ってこないと思ってた! 私が生まれたばかりの頃、この孤児院に捨てられた時、たったひとつ私が身につけていたロザリオ。お母さんに愛されていたっていう証明。お父さんの子だっていう証明。私が生きている証明。ほら、この裏のJOYCEって刻印が私の名前よ。この大きな空色の石が大好きだったの。私の心そのものだったの。戻ってきた! 神様はいたんだ……。」


ジョイスは私やアディルに抱きついて、泣きながら喋り続けている。

デデはひとりちょこんと部屋の片隅に座って蟻んこか何かとたわむれている。可愛い。

もうジョイスは泣き止むまでそのまま喋らせておこう。


なにが“JOYCEは有名な金属商の刻印”よ。ラムズィの適当男め、絶対許さないんだから!


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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