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6歳の9月(8)

6歳の9月(8)


ツェンベゼ川はとても川幅が広く、乾期で川幅が小さくなったとは思えないほど大きな川だった。

しかしその手前には地面を見ると石や木片が転がっており、元は川だったであろう土地が広がる。

その範囲は非常に広大だ。これが全部、雨季には川になっているのだろうか。


私たち幼年兵部隊はお母様のいる騎馬部隊の前方にいる。

そして幼年兵部隊の最後尾にいる私はお母様と割と近い。

ギョロ髭の大きな声も聞こえてくる。


「レンジャー!先行した工作部隊は罠の設置完了いたしました!偵察部隊がターゲットを発見次第、誘導を開始いたします!」


お母様が頷くと、ギョロ髭は周りに向かって大声を張り上げる。


「偵察部隊は力を見せろ!最初にターゲットを発見したものには褒美だ!」


偵察と思われる人たちが四方八方に散っていく。

工作部隊や偵察部隊はこうやって役割を果たしていくんだね。

他の部隊も活躍を見るのが楽しみだよ。


「あ…の…。」


何か小枝ちゃんがもぞもぞし始めた。おしっこかな。

年上だけど可愛いから小枝ちゃんなのだ。

と思ったら急にお母様の方に駈け出した!

ちょっとまって!怒られちゃうよ!

思わず追いかけて走り出す。


小枝ちゃんはお母様の近くに走り寄ると護衛が3騎出てきて、前を塞がれる。


「貴様は何だ!早く戻れ!」


小枝ちゃんに追い付くと土下座のような格好で頭を地面につけていた。

正確には顔は横を向いていて、耳を地面につけている。


「怒られちゃうよ。早く戻ろう。」


小枝ちゃんを引っ張り上げようとすると、追い付いてきたガッツに止められる。


「デデは言いたいことがあるってか。言わせてやれよ。」


護衛の間を割ってお母様が顔を出す。


「よい、前を開けろ!顔を見せろ!」


「あ…、こっち…、の…。…。…。」


小枝ちゃんは顔をあげて10時方向を指さすと何かを必死で訴えているが、

声が小さくて何を言っているのか聞こえない。


「貴様!将軍の時間を無駄にするか!大声出せ!」


ギョロ髭が怒鳴ると、黒い顔を赤くさせて俯き、さらに声が小さくなってしまう。

仕方ないなあ。小枝ちゃんに寄り添うとゆっくり落ち着いた声で言い聞かせる。


「小枝ちゃん、私にだけ教えて、向こうに何があるの?」


小枝ちゃんの口に耳を近づけると、内緒話をするように小枝ちゃんが口に手を添えて喋ってくる。

ふんふん、なるほど。


何か続けて言おうとするギョロ髭をお母様が手で制する。

私は立ち上がるとお母様に大きな声で報告した。


「サー!10時方向にゾウの大群、20頭以上。距離およそ3km。と言ってます、サー!」


「なんだと?なぜそんなことが分かる!適当なことを言うな!」


ギョロ髭が怒鳴り声をあげるが、お母様は思案顔だ。


「良い、偵察をそちらに追加で何人か向かわせろ。貴様らは部隊に戻れ!」


「「「レンジャー!」」」

「「「サー!YES!サー!」」」


ギョロ髭や護衛は渋い顔をしながら返事をして早速指示を出す。

小枝ちゃんとガッツは嬉しそうな顔で返事して元の場所へ駆け戻る。


「デデはな、昔から遠くの動物や人に気づくのが誰より早いんだぜ。」


ガッツが自慢するように言ってくる。


「昔からの知り合いなの?」


「ああ、生まれたときから一緒ってか。おいらの自慢の弟分だぜ!

デデのお蔭で何度も命拾いしたんだ。

でもお前は凄いな!おいらでもデデと会話するのに何年もかかったってのに!」


部隊に戻ると、頭にレンジャー壱号のゲンコツが降ってきた。


「クソ虫どもが勝手に動くな!死ぬ気か!死ぬならば部隊に迷惑かからない場所で1人で死ね!今度勝手に動いたら死ぬまで走らせてやる!いいな!」


「「「サー!YES!サー!」」」


結果は割と早くやってきた。ギョロ髭の声が響く。


「レンジャー!10時方向にターゲット25頭発見!各部隊配置完了!状況開始します!」


やったね!小枝ちゃんの報告が合ってたよ!

小枝ちゃんとガッツと目を合わせてニンマリ笑う。


「貴様ら、幼年兵のクソ虫どもは前線に出たら簡単に死ぬから見学だ!どの部隊に参加したいか良く見ておけ!また貴様らは仕留められた獲物を補給部隊が解体・運搬する手伝いだけしてよい。だが、罠にかかった獲物には絶対に近づくな!手負いの獣は貴様らクソ虫を一撃で殺すことができる。分かったな!」


「「「サー!YES!サー!」」」


怖いこと言うなあ。言われなくても近づきたくないよ。

私だけ何も武器持ってないし。みんな武器は持参しているのかな。

私も家の練習用の剣でも持って来ればよかった。木製だけど身を守るくらいできるかも。

そういえば補給部隊ってこの間の馬車に乗っていた人たちだよね。

解体と運搬もしてくれるんだ。すごいね。夕食はお肉だ!美味しいと良いなあ。

頑張ってお手伝いしなきゃ。


そんなことを考えていると、左手前方、遠くから土煙が見えてくる。

大勢の人が遠巻きにゾウの群れを取り囲んでいる。


「あれは奴隷部隊である。王様に買われた奴隷の中でも希望者だけが入ることができる。たくさん功績を積めば奴隷から解放されて普通の市民になれるから必死である。奴隷部隊の特徴は三人組。常に3人で1チームを組んで行動する。装備はショボイくて、普段は訓練もあまりできないから三人組の連携だけ徹底的に教わるのである。」


ツルッポが、ゾウの群れを誘導している部隊を説明してくれる。

私たちが奴隷部隊は所属することはないけど、ほとんど武器も持たず、手に持つ木の板を打ち付けて音を鳴らし、ゾウを誘導している。たまに向かってくるゾウを三人でうまく助け合って逃げているのが見て分かる。


ゾウの群れの先頭あたりで大きな土埃と歓声が上がった!

先頭が罠にかかったようだ。


「あれは工作部隊の仕事である。工作部隊は人数は少ないが、今回のような落とし穴のような罠から大型兵器まで、また道や橋のような土木工事、さらには鍛冶、武具製造などの生産系まで何でもできる頭のおかしい連中が集まる部隊である。工作部隊の頭であるキノト様は身の丈ほどもある戦鎚を振りまわし、相手が100人でも戦えるほどの腕がありながら、より巨大な鎚を火事場で振るって、将軍の指令で次々と新しいものを開発しているのである。」


ツルッポの説明を聞いていると、罠がたくさん仕掛けられた地域にゾウの群れが入ったようで、そこかしこで土埃が上がっている。


「第一射、距離200、標高差無し、観目方位角1500、ゾウの群れ、正面100、縦深50、石鏃」


左翼でゾウの群れに近寄った部隊から大きな声で指示が聞こえてくる。

部隊に並ぶ人の手には全員大きな弓が構えられている。


「よーい!撃て!」


全ての弓が綺麗に同じ角度で空に向けられている状態から、ものすごい数の矢が一斉に放たれる。


「だんちゃーく、いま!」


ゾウの周辺には雨のように矢が降り注ぐ。

当然罠にかかっているゾウにも突き刺さったり、弾かれたり。

ゾウは怒りの声をあげている。


「修正射、三連、距離180、標高差無し、観目方位角1400、ゾウの群れ、正面70、縦深30、鉄鏃」


ゾウの近くの観測員から旗信号が送られているのを見て、1発目とのずれを修正した指示が伝えられている。指示の鏃が石から鉄に変わった。今回が本番ってことね。


「よーい!撃て!」


また全ての弓が綺麗に同じ角度で空に向けられている状態から、ものすごい数の矢が一斉に放たれる。


「だんちゃーく、いま!」


今度は明確にゾウに向かって矢が突き立つ!ゾウの大きな悲鳴が聞こえてくる。石の鏃より遙かに重くて鋭い鉄の鏃は、ゾウの堅そうな皮膚も突き破っている。

さらに続けて2射3射と放たれる矢の雨に、罠にかかって暴れるゾウの悲鳴がさらに大きく響く。


「あれは大弓部隊である。将軍の発明により最大射程は400mともいわれる大きな弓と、これも将軍が量産に成功させた強力な鉄の鏃を使っている。さらに各人が剛腕な上に素晴らしい腕前で、一人でも狩りに出ればたくさん獲物を獲れるほどの人間たちが、射撃管制と観測手の連携でさらに精度高く矢の雨を降らせる最強の部隊である!」


ツルッポが急に熱く語り始めた。説明がとても偏っているのが分かる。カイサ自身が弓矢を使っているから大弓部隊に憧れているんだろうなあ。でも格好良いのは間違いないわね。私も…。

自分の手を広げてみるが、昨日引けなくてひょろひょろ矢を放った忌まわしい過去が蘇る。

私は手が短くてあんな大きな弓を引けるようになるほど成長するには時間がかかるわ。無しね。


矢の雨が終わるか終らないかのタイミングで今度は右翼方向から野太い怒号が届いた。


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