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6歳の9月(9)

6歳の9月(9)


野太い怒号が聞こえてきた右翼側を見ると、

ムキムキな筋肉が遠目にも分かる部隊が戦斧や両手剣などを持ってゾウの群れに突撃している。

全力で走り込んだムキムキ筋肉たちは暴れるゾウの脇をすり抜けながら足の関節に武器を叩き込んでいく。

足を挫かれたゾウはさらに悲鳴を上げて座り込む。

あんなに暴れているゾウの足元に走り込むのは怖くないのかな。


「あれは突撃部隊だぜ!己の筋肉を信じて突っ込む特攻野郎ってか。将軍に教わったトレーニングによって通常の何倍もの筋肉をつけた男たちが、さらに将軍の作り出す最高に固い鉄の塊である戦斧や両手剣を軽々と振り回して暴れるんだ。人だろうとゾウだろうと吹き飛ばす!無敵の部隊だぜ!」


ガッツが熱く説明してくれる。うん、偏っているね。ガッツはこの部隊に憧れているのかあ。

あのバカみたいにデカい戦斧や両手剣を振り回してガハハ!って笑うのは気持ち良いのだろうけど、

私の筋肉は…。自分の腕を曲げて力こぶを作るが、ぷにぷにしてる。

あんなにムキムキしてないからね。無理だわ。


振り回されるゾウの長い鼻や牙を掻い潜って足を切りつけていく筋肉男たちは、

なぜ皆あんなに身体がテカテカとしているんだろう?

しかも途中途中でポーズを決めている。危険な場所なのに、すっごい余裕だわ。


あ!危ない!あそこの人がゾウの振り回す鼻に当たって……。

鼻を受け止めて雄叫びをあげてポージングしてる。しかも喜んで周りとハイタッチしているわ。

このくらいへっちゃらっていうアピールだったみたい。

とんでもない変態たちね。絶対に敵に回したくないわ。


その後は突撃部隊と入れ替わりに、私たちの正面で待機していた大きな盾を持った部隊が大きな歌声をあげながら全く乱れない隊列のまま、整然とゾウに向かっていく。

6名が綺麗に一列に並んで板みたい。それが数えきれないくらいいるのに綺麗に揃って進んでいる。

一挙手一投足まで揃った行進は地面に模様を描いているようで美しさすら感じさせる。


6人のうち右端に居る人がリーダーのようで、大楯を左手に短槍を右手に持ち、大声で歌っている。あの歌は指示になっているみたい。

各列が足を怪我して座り込んだゾウを囲むと大楯で押さえつけて槍で止めを刺していく。

ゾウたちの最後の悲鳴が聞こえる。ごめんなさいゾウさん。みんなで美味しくいただきます。


「あれが近衛軍の主力である歩兵部隊だ!将軍が開発した全ての攻撃を防ぐ大楯と、様々な攻撃に使える短槍。そして腰に付けた長剣を抜けば切れぬものは無い!何よりあの美しい練度!一糸乱れぬ動きと将軍が編み出した6人組を縦横無尽に操る指揮力!この国で最高の部隊だよ!」


真面目そうなマユゲが珍しく熱く語ってくる。マユゲのご贔屓はこの部隊なんだね。そして突っ込まずにはいられないから聞いておこう。


「ねえねえ、あの長剣であの大楯を斬りつけたら切れるの?それとも防げるの?」


「あ…。う…。」


マユゲが真剣に悩んでしまった。真面目だ。というか自分で矛盾に気が付いていなかったみたい。この場合はおバカだ、ってことになるのかな。

でもこの歩兵部隊は確かに主力だけあって、どれだけ訓練したのか想像もつかないくらいに揃った動きで、しかも全体が生きもののように意思をもって動いていたわ。どうやって指揮していたのかしら。

格好良いわね。私はこの部隊の一員じゃなくて、この部隊の指揮をしてみたいな。自分の身体のように自由自在に大軍団を操るなんてちょっとワクワクしちゃうね。


「大楯だ!大楯が勝つ!」


急にマユゲが大声を出すからビクッとなってしまった。マユゲはどうだ!と言わんばかりの顔で覗き込んでくる。暑苦しい。主に顔の眉毛が。


「どうして大楯が勝つの?」


「それはな!歩兵部隊はこの軍団全体の盾となるのが大きな役割なんだ。俺はそこに一番憧れたんだ。どんな敵がどんな武器を持ってこようと受け止める。だから何よりも大楯が重要なんだ!」


なるほどね、軍団全体における役割もあるのね。歩兵部隊が受け止めていれば、大弓部隊も突撃部隊も自由に活躍できるわけだから重要なわけだわ。

マユゲは満足したようでキラキラとした目で歩兵部隊の活躍を見ている。

暑苦しいのが離れて助かった。煽ったのは私だから自業自得なのだけど。


歩兵部隊が多くのゾウに止めを刺して、残りの処理をしている頃、

見学している私たちの後方から荷車や馬車を引いた部隊が私たちを追い越していく。


「あれが補給部隊だす!将軍が発明した馬車によって全部隊の水と食料の補給をするのはもちろん、武具や必要品の購買のため商売にも通じていて、さらには傷病者の搬送や治療までできるだす!補給部隊がいなければ軍隊なんて一歩も動けない無駄な集団だす。補給部隊こそがこの軍を牛耳っている黒幕だす!」


今度はプルーンが熱く語り始める。確かに夢中で語る気持ちも分かるわ。ご飯は大事!でも商売や治療までできるなんてすごいわね。工作部隊と補給部隊の人たちはやることが多くて大変だわ。

ひとつだけ、お料理が美味しくないのが残念ね。そこはお母様が教えないのかしら。


「クソ虫ども!仕事の時間だ!補給部隊の解体と運搬の手伝いをする!貴様らサボっていると夕食抜きだぞ!」


「「「サー!YES!サー!」」」


レンジャー壱号の号令がかかって補給部隊の後ろについて移動する。


大量のゾウを仕留めた罠の区域はたくさんの部隊が入り乱れて混沌としている。

まだ何も落ちていない罠を撤去していく工作部隊。

獲物を解体する補給部隊やその運搬を手伝う奴隷部隊。

矢を回収する大弓部隊や罠にかかったゾウ以外の動物を仕留めて回る歩兵部隊。

お互いにポージングをしては褒め合う突撃部隊は邪魔だから仕事するか何処かに行ってほしい。


皆が集まって非常にゴチャゴチャとしている。

みんなとはぐれて迷子にならないように気をつけなきゃ。


私たちは奴隷部隊がやっているのと同じように、

補給部隊が解体した獲物の肉や骨を荷車や馬車に載せていく。

30kgはあるのだろう大きな肉の塊を受け取り、二人組で一緒に運ぶ作業だ。


「おいらは一人で運べるって!」


一緒に運ぼうと思っていた相方であるはずのガッツが肉を肩に担いでさっさと歩きだす。

私は一人で残される。

後ろを振り返っても知らない人だし。三人でって言っても足手まといっぽく扱われるのも嫌だ。

えー。ガッツ空気読みなさいよ。


「私だって一人で運べるわ!」


下に置かれているゾウがバラバラにされた部位の中でもできるだけ大きい、長い鼻の部分を持ち上げる。

ふぐっ!重い。胸の前まで持ってきたけどこのままじゃ長い鼻を引きずってしまう。もう一度力を込めて頭の上まで持ち上げる。それをみた補給部隊の人が慌てて頭に草で編んだ輪っかを置いてくれた。

それに合わせて頭の上にも置くと安定して重さも楽になる。長い鼻も引きずらないで済みそう。

先にスタスタと歩くガッツをパタパタと小走りに追い越して振り返る。


「ノロノロ歩いていると夕食無しだからね!」


長い鼻を振り回してガッツに皮肉をいってやる。


「お、おい!おいらが姫の分まで持ってやってるのに、なんでそんなデカ物を一人で運んでいるんだって!」


「ガッツが非力だから私が持ってあげているの。ちゃんとその小さい物を運びなさいよ!」


前に向き直ってパタパタと小走りで馬車へ向かう。


「おいらは非力じゃないって!あとガッツって誰だよ!」


「じゃあ肉ゴリラ!」


後ろからガッツが追いかけてくるけど振り向いてやらない。

それよりも早くこの鼻を降ろしたい。

なんか後ろでガッツが言っているけど無視しといた。


ゾウの鼻を馬車に放り込むと補給部隊の人が目を丸くしていたので、

美味しく作ってね!と言っておいた。

ほんと、こんなに大変な思いで運ばせて、美味しく作ってもらわなきゃ悲しいわよ。

ガッツも担いでいた肉を馬車に置いて話しかけてくる。


「なんで怒ってるんだ?おいらが何かしたってか?」


「私をひとり置き去りにしたわよ!二人で運べばいいのに、格好つけて一人で運ぶから。あれじゃ私が役立たずの足手纏いみたいじゃない!」


「そんな、おいらは姫様を守ろうと…。」


「それを怒っているのよ!私は自分で自分を守れるわ!力だってガッツよりもあるんだから!」


「わはは!おいらより力持ちってか。ふざけた冗談だぜ!この筋肉を見ろって!てかガッツっておいらかよ!」


「じゃあ肉ゴリラね!そうよ、あなたより私の方が力持ちよ!私より小さな肉を自慢げに運んで。こんなに年下の女の子に負けて恥ずかしくないの?」


「なんだと!やるってか!?」


「なによ!」


エスカレートするガッツと私の間に、マユゲが割り込んできた。


「くだらない喧嘩してると夕食抜きだぞ!早く次の荷物を受け取りに行こう」


周りを見るとひとつ運んで疲れ果てて座り込む小枝とプルーンを含めて私たち6人以外は、皆せっせと荷物を運び続けている。レンジャー壱号に怒られないうちに次の荷物を運んだ方が良さそう。


「とりあえず休戦よ!後で決着を着けてあげるから!」


「何いってやがる!おいらの方こそ同じ言葉を返すぜ!」


腹が立つので相方をマユゲに変えて、6人で今度は罠にかかったシマウマを処理している補給部隊に向かう。

罠には何頭もシマウマがかかっており、首に縄をかけて順番に落とし穴から引きずり上げると、

そこで押さえつけて止めを刺しているところだった。


「姫様、シマウマに近づかないで。手負いの獣は危険だ!」


私がすでに解体を終えているシマウマに向かおうとするとマユゲが声をかけてくる。


「大丈夫よ!首には縄が付いているし、もう噛み付けないわ!」


真面目なマユゲが相方だと口煩いわね。適当に後ろを振り返って手をヒラヒラさせて応える。

前に向き直ったその先は首を押さえつけられているシマウマの真後ろだった。


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