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6歳の9月(10)

6歳の9月(10)


馬の攻撃方法は大きく分けて4つある。


ひとつめは噛み付き。草を擦り潰すような大きな歯が並ぶ口で噛み付いて持ち上げるように振り回す。人が噛み付かれれば流血間違い無しだ。


2つめは体当たり。馬のスピードと人間より遥かに重い体重を活かして肩や腰をぶつける。人がまともに体当たりを喰らえば吹き飛ぶだけではすまない。


3つめは前脚を振り上げての踏み潰し。後脚二本で立つように前脚を高く振り上げて、上から空を掻くように前脚を叩き付け、そのまま踏み潰すように体重を乗せる。シンプルな硬い蹄と馬の体重は、普通の人間では耐えられない。


最後に4つめは後脚による蹴りだ。馬の巨体を速く動かすために鍛えられた後脚は木製の盾を軽くぶち抜き、それが人の頭であれば簡単に割れて中身が飛び散るほどの威力。


この最も危険で注意すべき攻撃方法を私は知らなかった。

シマウマが首を押さえつけられているのを見て、噛み付く事しか想像できなかった。むしろ最も危険な後脚を避けて取り押さえているのだと知らなかった。

いや、知らなかったとしても、あれだけ近付くなと言われていたのに。


私はマユゲを適当にあしらうよう手を振ったあと、前に向き直ると進行方向に取り押さえられているシマウマがいた。すでに解体されているシマウマしか目に入らなかった私は、ほんの少し避けるように取り押さえられたシマウマの後ろをすり抜ける。


その時シマウマは最期の力を振り絞って暴れ、後脚を跳ね上げる。

音が消え失せた世界でスローモーションに動くシマウマの太い後脚から硬い蹄が伸びてくる。

全く油断していた体勢からもう目の前に迫るそれを避ける事ができないと悟る。


ほんの僅かな時間の筈なのに産まれてからの事や昨日からの事を次々と思い出す。まるでその場面が目の前にあるかのように浮かんでは消えていく。


ああ、私の人生短かったな。昨日からの狩りは楽しかったな。みんなにすごく悪いことしたな。みんなごめんね。お母様お父様ごめんね。でも楽しかったよ。世界中、見たかったな。

もうぶつかる。痛いかな。目を瞑ろう。



真っ暗な世界で顔にゴチン!と衝撃が襲ってきて吹っ飛んだのが分かる。


地面を激しく転がって上下の感覚が無くなる。

身体は止まったが痺れて身体があるのか無いのかすら分からない。

小さく縮こまった意識だけが宙に浮いている。


……。


……。


……。



徐々に、音が、戻ってくる。


「アディル!」


「姫様!」


「アディル!しっかりしろ!アディル!」


アディル?マユゲに何かあったのだろうか。

薄っすらと目をあける。顔が痛い。でも見える。両眼とも。

私を心配してくれるガッツの泣きそうな顔が見える。

ガッツが上半身を抱き起こしてくれる。


痺れている身体を端っこから確認していく。手足の指先、手首足首、肘と膝、肩に脚の付け根、お腹そして首。動く。大丈夫だ。

極度の緊張からかまだ動き辛い首をゆっくり回して、マユゲが呼び掛けられている場所を向く。


見えたのは、私より遠くに蹴り飛ばされて木っ端微塵になった盾の残骸と、ツルッポやプルーンに囲まれて倒れているマユゲだった。


あ、私、マユゲに庇われた!?

私の身体が思ったより痛くない。手で顔を触ると右目の周りは痛いけどシマウマに直接蹴られたわけでは無さそう。

手も足も擦り傷だらけだけど大したこと無い。何よりちゃんと動く。

じゃあ、代わりにマユゲが?


「マユゲっ!…嘘でしょ!」


マユゲの傍に行こうとするとレンジャー壱号が来て押さえつけられてしまう。


「動くな!頭を打った可能性がある!補給部隊の治療まで静かに寝てろ!」


「いや!マユゲ!死んじゃヤダ!マユゲー!離して!」


「暴れるな!貴様!死ぬ気か!」


お母様が馬を降りて駆け寄ってくるのが見える!


「お母様!私のせいでマユゲが!マユゲを助けて!私が悪かったの!マユゲ死んじゃヤダ!お母様助けて!」


お母様は私の傍まで来ると、レンジャー壱号に押さえつけられてボロボロと涙を流しながら必死に訴える私をじっと見る。

強張った顔で私を見ていたお母様は急に振り返り、マユゲの方へ歩いていく。

お母様は凄いんだから!きっと助けてくれるから!

お願い、マユゲを助けて!


お母様がマユゲを覗き込むようにしゃがんで何かお話してる。

どうしよう。最期の言葉とか聞いてたらどうしよう。

ハラハラしながら待っているとどんどん最悪な想像は膨らんでいく。

涙が溢れる。


「ごめんなさい……。うう、うわ〜ん。」


言葉にすると余計に私のせいで、私がマユゲを殺してしまったかもしれないって心に刺さる。もうダメ、緊張も涙も決壊してしまってどうにも止まらない。冷静に自分自身を見ている私と、感情が止められずに泣いている私と、私の中に2人存在しているみたい。


思い切り泣いていると、いつの間にかお母様とツルッポが肩を貸した状態でマユゲが近付いてきた。

少なくともマユゲの頭にはタンコブができているけどそれ以外の見た目は無事だった。


「マユゲ!大丈夫!?」


「誰がマユゲだ!大丈夫だよ。」


「本当に?マユゲ死なない?」


「マユゲって言うな!死なないよ。」


マユゲは改めて私の隣に寝かされる。


「マユゲ、ごめんなさい。ごめんなさい。私…。私の代わりに死んじゃったらどうしようって。」


「心配かけたな。死なないよ。」


マユゲが頭を撫でてくれている。緊張が切れてますます涙が止まらない。


「二人共、暫く寝ていなさい。気持ち悪くなったり何かあれば周りに言って。それから補給部隊!二人の身体を冷やさないよう何か被せて。水もお願い。」


それだけ言い終るとお母様は傍に待機していたギョロ髭に目配せする。


「全部隊、ここで休憩とする!安全な場所を確保して食事の支度をしろ!」


ギョロ髭の大きな声の指示が一体に響く。


お母様とギョロ髭はそのまま去ってしまった。


近くで見ていたガッツに聞くと、

あの瞬間、マユゲは走り込んで盾を突き出し、ギリギリで私とシマウマの後脚の間に滑り込ませると同時に私を突き飛ばしたらしい。

シマウマの後脚は盾を粉砕する代わりに上に逸れてくれて直撃を免れたんだって。

私の顔が痛いのは、私を突き飛ばし損ねたマユゲの頭が当たって吹っ飛んだから。

マユゲは私に頭突きした痛みと盾を蹴り壊された衝撃で大きく飛ばされて気を失ったみたい。


私が諦めたあの瞬間にマユゲは身を投げ打って助けてくれたんだ。

マユゲへの感謝と共に、私自身への不甲斐無い怒りがこみ上げてくる。


あのスローモーションの瞬間が今度あったら、絶対に目を瞑らないって心に決めたわ。

最後の最後まで悪足掻きするの。


ーーー


その後、私は泣き疲れて少し眠ってしまったようで、起きるとマユゲが水を渡してくれた。

ツルッポもガッツも小枝ちゃんもプルーンも、みんな傍にいてくれた。


「飲めるか?気持ち悪くないか?」


「うん、大丈夫。ごめんね、私が怪我させちゃって。」


「もういい。次から気を付けろ。みんなはもう撤収だ。動けるか?」


「うん。ごめんねマユゲ、タンコブ痛い?」


「いい加減にアディルって呼べ!姫様こそ青タンがヤバイな。」


「うぇ?青タンて何?あと姫はいらないよ。リルカって呼んでよ。みんなもお願い。」


「ああ、分かった。リルカ、目の周りに青いアザがクッキリで腫れて膨らんで酷い間抜け面だって事だ。」


真顔で酷いことを言うマユゲ。

わははと笑うガッツ。

鼻で笑うツルッポ。

顔をそむけて笑いをこらえる小枝ちゃん。

どうでも良さげなプルーン。

これが私の小隊のメンバーだ。


「ま、間抜け面ですって?本っ当に無神経ね!」


感謝はしてるけど、女の子に対して余りにデリカシーが無いわ!

こんな奴らもう一緒にいてやらないんだから。


サッと立ち上がってプリプリ怒りながら何歩目だったか。

瞳に飛び込んできた景色に足が止まった。


空の青さが瞳に映る。

お日様は天頂を過ぎて赤みを帯び。

空高く雲が浮かぶ青空と赤土の大地がどこまでもどこまでも続いている。


あの森の中には何がいるだろうか。

あの遙か遠くに霞む山からは何がみえるだろうか。

そのさらに先には何があるだろうか。




この世界を全部、見て回るんだ。





連れがいた方がいいか。





「早く来ないと置いてくわよ!」


振り返って笑顔でみんなを呼ぶ。




って、みんなまた私の顔見て笑ってるぅ!


「わははは!リルカの格好つけた笑顔に、目の周りのぷっくり青アザの組合せが最高に間抜けだぜ!これ以上笑わせるなって!」


ガッツが私を指差して笑ってる。みんなも笑ってる。プルーンだけボケーッとしてる。


「うう~!ほんとにもう!知らないから!」


今度こそみんなを置き去りに、ひとり先に幼年兵部隊の集まっている場所へと走り出した。


書き溜め分おわり、次から目標、週2話更新。

…できればいいな。

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