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6歳の9月(11)

6歳の9月(11)


私のせいで軍全体の計画が遅れたようで、元々の計画では初日に泊まった野営地まで戻る予定だったのを変更して、近くで建設中だった新しい野営地に移動することになった。


野営地に着くと早速、補給部隊は馬車を中心に走り回って、てんてこ舞っている。

狩りで取れた素材や肉の処理が大量に、しかもできるだけ早く処理しなければならないものが多くて、さらに今晩の夕食である肉祭りの準備もあって、もっとも忙しい時間なんだって。


他の部隊は工作部隊の指示で野営地の拡張工事を命令された。

工作部隊の頭であるキノコ爺が前に立って説明している。


「良く聞け!小僧ども!

建設中だったこの野営地はまだ小さくて一万人以上いる全軍を収容できないんぢゃ!

このままでは外にはみ出た部隊は夜通し動物たちと戦うことになる。

せめて全体を堀と柵で囲むところまで作れば安心ぢゃ。

サボった奴は夕飯抜きな上に柵の外に放り出すぞ!

頑張った奴は腹一杯になるまで肉を喰わせてやる!

日が暮れる前に全力で終わらせるのぢゃ!」


「「「うおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!」」」


みんなで声をあげるとその勢いで持ち場に走っていく。

そんなわけで幼年兵部隊は野営地を囲む空堀を作るためにみんなで穴掘りね。

駆け足で作業場に向かうと工作部隊の誘導で掘る場所を割り当てられる。


「エンピ?これで土を掘るの?」


工作部隊の1人から手渡された道具の名前はエンピと呼ぶらしい。

棒の先に平たい板がついている道具だ。

板は鉄製で、片側の端っこがギザギザになっているけど、およそ先が尖った5角形になっている。

持ち手の方の端っこは逆三角形の輪っかになっていて上から握りやすい。

将軍の発明品だと言っていたからお母様が作ったのだろう。


そういえば、あれからお母様を見ていない。気になるのはあれだけ騒ぎを起こしてまだ怒られていないどころか、罰も何もない。後でどんな目に合うのか想像すらできなくて恐ろしい。お説教で済めばまだよいけど。


「1時間しか時間が無いのである!」


「ボーっとしてると夕飯抜きだす!」


「まだ頭が痛いならそこで休んでな!おいらがリルカの分も代わりに掘ってやるって!」


小隊のみんなはもう穴を掘り始めている。

私も慌てて掘りはじめる。


「何言ってるのよ!非力なガッツが私の分まで掘れるわけないでしょ!」


「おいらを非力って呼ぶなって!この腕の筋肉を見てみろリルカの倍はあるだろ?リルカの倍は掘れるぜ!」


「へー。そんな見てくれだけのへなちょこ筋肉で私に勝てると思っているの?ちょうどいいからさっきの決着をつけましょうよ。」


「そんなの楽勝だぜ。勝負にもならねえって!おいらが勝ったらもう非力って言うなよ!」


「おい、リルカもオニカももう止めろ!遊んでいる暇はないぞ!」


マユゲが割って入ってきた。真面目か!

でも、さっき助けてもらった恩もあるし、夕飯抜きは嫌。


いいこと思いついた!穴掘りしながら力比べならいいんじゃない?


「じゃあ、この穴掘りで決着よ!勝負は“掘った穴の深さ”で!私が勝ったらなんでもひとつ言うことを聞いてね!」


「よっしゃあ!その勝負受けたぜ!ぬわりゃああ!」


マユゲは呆れた顔でため息を吐くと、自分の持ち場に戻っていった。



エンピを地面に力一杯突き立てると、赤土に深く突き刺さる。

私のエンピはずいぶん使い込まれているらしく、先の尖った部分が刃物のように鋭い。

深く突き刺さったエンピの持ち手部分を横に倒すと土がえぐれて浮き上がる。

この土を穴の脇に放り投げる。

この繰り返しをできる限り速く動いて掘っていく。


純粋な腕力だけでガッツを超える必要は無いの。

深く掘れば勝ちなんだから。


腕力では不利かもしれないけど有利な事も沢山あるわ。


まずエンピの先に付いている鉄の板は上が平らになっているから、足で踏みつけることができる。

ガッツは裸足だから痛くて使えないけど、私はブーツを履いているから体重を乗せて足で踏みつけることができるわ。

つまり腕力ではなく体重を使ってエンピを土に刺すことができるってこと。


穴の形もよく考えないと。

このエンピを真っ直ぐ突き刺して横に倒すと楽に土が掘れる。

ということは、エンピを倒せる幅が必要って事ね。

形的には丸よりも四角が良いわね。それも長細い長方形。


何より私の身体が小さい事がもっとも有利に働いている。

ガッツが身動きできないような小さな穴でも私なら掘り続けることができる。

つまり、身体が大きなガッツは、私より大きな穴を掘る必要がある。


隣を見るとガッツが掘ろうとしている穴は形が丸くて私の3倍は広い。

私の3倍の量の土を掘り返さないと同じ深さにできないって事ね。

勝負は量じゃなくて、深さなんだから!


しばらくせっせと土を放り投げていると、もう差が付き始めている。

私は腰まで隠れているけど、ガッツはまだ膝くらい。


「ガッツ、ずいぶんゆっくりね。私はもうすぐ頭まで穴に隠れて見えなくなっちゃうけど頑張ってね!」


「ぬ、ぬわりゃああ!負けるか!」


私の3倍の量を掘り起こしているのだから、遅くて当たり前よね。

そして、膝の高さを超えるとエンピが引っかかって横に倒せなくなる。


「くそっ!壁が引っかかって掘りにくいぜ!」


ふふ、これでガッツの掘る速度が遅くなるはず。


それにしても私も予想外だったのは、思ったより真っ直ぐ下に掘れないってこと。

掘り始めた最初の形より、深くなるにしたがってどんどん狭くなっちゃう。

余裕をもって大き目に掘り始めたはずなのに、もう両肩ギリギリの幅ね。

もうちょっと周りを掘って広げないとこれ以上無理だわ。


「おいらの身体じゃ、もっと穴を広げないと身動きできねえってか!」


見るとガッツの穴はすり鉢状に中心だけ深くなっているため、どんどん穴の形が小さくなって、もう足場も無い状態。

あっちも同じ問題で躓いているのね。早く穴を広げなきゃ!


さらにしばらくせっせと土を放り投げていると、ガッツが穴の上から覗いてくる。

私の穴はすでに頭まで隠れてさらに深く掘り進んでいる。

ガッツがまだ胸くらいまでしか掘れていないようだから、40cmくらい私の穴の方が深いわね。


「リルカずるいって!こんなに小さな穴で深く掘れるなんて!」


「なによ楽勝っていってたじゃない。あ、もう言い訳するの?まあ仕方ないわよね。へなちょこで非力なガッツにはお似合いだもんね。」


「なんだと!ぬがありゃああぁぁ!」


ここまでで相当疲れて腕がもう重たいっていうのに、さらにスピードアップするなんてガッツの体力は底無しね。

私はそろそろ限界だわ。

穴を掘るのにはあまり腕力は使わない。

だけど掘った土を穴の外に出すために、頭よりも上の高さに放り投げなくてはいけないの。

この投げる作業が厳しい。もう腕がパンパンで動かない。これも予想外の問題だったわ。


…もうこの深さでいいでしょ。勝てるよね。

そろそろ1時間が過ぎて号令が聞こえてくる時間だし、少し休もう。


なんだか疲れすぎてお腹が空きすぎて眩暈がしてきたよ。

エンピを突き刺すように置き、両足を抱えるように穴の底に座り込む。


上を眺めるとぽっかり深い青色の空がみえる。

赤い夕陽が穴の上部を浅く照らす。

ぼんやりと眺めていると、隣の穴でガッツが掘ると音と雄叫びが、遠くに聞こえる。

はぁ。なんだか静かで落ち着くなぁ。


ポカーンと口を開いたまま上を向いていると不意にバラバラと土が降ってきた。

ぺぺっ!口に入った土を吐き出して隣に向かって叫ぶ。


「ガッツ!私の穴に土を投げな…。」


いや、違う。この土は上からじゃない、横から。


突然横の壁が崩れてくる。

咄嗟に頭を庇うけど逃げられない。

私の身体が土で埋まっていく。


「おわぁ。おいらの穴の壁が崩れて…。リルカ!?リルカ無事か!アディルー!カイサー!来てくれ!リルカが!」


ぺっぺっ。

なんとか頭だけ庇うことができて、壁際で首から上だけが出ている状態。

身体は全部埋まってしまった。

もう重くてピクリとも動けないし動きたくない。

ガッツが焦って、私を覆う土を両手で必死に掻き出す姿が見える。


「ガッツ、私の勝ちよね。」


「リルカ!大丈夫か。いま掘り出してやるって。」


「ガッツ!私の勝ちよね!」


「分かった!分かったからおいらの負けでいいから静かにしてろって!」


勝った。

そしてお腹空いた。


そういえば最後にご飯食べたのいつだっけ?

昨日の夜にふたくちくらい食べて寝ちゃってそれきりだわ。

今日のお昼も食べ損ねたし、もう動けない。

掘り出してくれるまで寝てよう。


「ガクッて首を倒すな。おいリルカ!リルカー!しっかりしろってー!」


うるさいわね。お腹が空いて動きたくないのよ。いいから早く助けてよ。土に埋まっていると重いんだから。

と考えたけど力が入らなくて声にならない。口をパクパク動かしただけになっちゃった。

まあいいや、とそのまま放っておいた。


「うわぁ!ちゃんと声を出せって!リルカー……。」


マユゲやツルッポと、騒ぎを聞いてやってきたレンジャー壱号も手伝ってくれて割とすぐに穴の外に出してもらえた。擦り傷以外に大きな怪我は無いみたい。

ガッツはさらに凄いスピードで土を掘ってくれたみたい。信じられないほどの体力ね。

私がグッタリしてるのをレンジャー壱号に心配されたけど、お腹が空いてるだけだって説明したら怒りはじめた。


「このゲロ姫が!貴様はさっきシマウマに蹴られて死にそうになって、今度は穴で埋まって死にかけて、挙句の果てに腹減って死にそうだと!?ちょっと目を離した隙に…。どれだけ迷惑かけているか…!将軍になんと…。くっ!早く連れていけ!」


「「「サー!YES、サー!」」」


まだ何か言いたげなレンジャー壱号を残して食事が用意されている場所へと急ぐ。

ガッツが私を背負って運んでくれている。

最初の行軍の時も背負ってくれたから2度目だ。

なんだか安心する。


ああ、おなか、すいたな。

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