6歳の9月(7)
6歳の9月(7)
「そこの頭が眩しいツルピカ手長猿!朝日の角度計算して頭を傾けていたらぶっ殺すぞ!名前は?」
「サー!カイサ、サー!」
ツルッポは、カイサっていうんだね。“賢者”って意味の名前がついているからヘンテコな格言を飛ばしてくるのかな。本当にあるの?あの意味が分からない格言。なんか賢く見えそうだからってハッタリで適当に作ってない?
「貴様の親がせっかくつけた賢そうな名前なのに猿よりも遙かに下等な間抜け面に育ちやがって!そのツルピカ兵器なオカマ頭は生まれたときからか?」
「サー!自分で剃りました、サー!」
「ふざけんな!そんな偽ツルピカ兵器で戦えると思っているのか!二度と髪が生えなくなるまでシゴいてやる!貴様の名前は偽ツルピカ頭の“ツルッポイ”で十分だ!僅かでも髪が生えないように監視してやる!いいな!」
「サー!YES、サー!」
ぴゃー!私が付けたあだ名とまさかの一字違い!レンジャー壱号のセンスに痺れるぅ!
もうだめ、みんながすっごい酷い言葉で罵られている状況なのに、吹き出しそう!でも笑っちゃダメ!
私きっと今、顔真っ赤になってる。落ち着け私。
そうよ!今こそお母様に習った掛け算九九を唱えるのよ。
いんいちがいち、いんにがに、いんさんが……。くっ!ぷぷっ……。
「そこのクソマユゲ!クソ虫張り付けたようなマユゲの分際で、なぜ笑った!」
「サー!笑ってません、サー!」
あ、あ、私の吹きだしたのがマユゲのせいになってる。どうしよう!
「クソガキが!貴様だろ臆病オカマ野郎!ビビったのか!名前はタマなしマユゲか!?」
「サー!アディル、サー!」
別にマユゲが笑おうと私が笑おうと、レンジャー壱号が言う内容は変らないね。放っておこう。
それで、マユゲの名前はアディルね。“誠実”とか“正義”って意味の名前だなんて、真面目そうなマユゲが生えるわけだわ。
「これは傑作だ。貴様のような臆病オカマ野郎が“正義”だと!?このクソッタレな根性無しは、本物の勇気を勘違いした顔してやがる!貴様は今日から“ビビリゲ”だ!ロクデナシの根性無しだと思い知らせてやる!ケツの穴からミルクが飲めるほどシゴキ倒す!いいな!」
「サー!YES、サー!」
臆病なマユゲで“ビビリゲ“ね。レンジャー壱号なかなかやるわね。
ビビリゲのアディルは礼儀正しい真面目な感じなのに、なんでレンジャー壱号はそんなに根性無しって言うんだろう?何かあるのかな?
どうでもいいけどレンジャー壱号は怒鳴りつけている時に顔が近いわね。数センチしか離れていないじゃない。
あれだけ近いと間違ってチューしちゃったりして!キャー!
「次は貴様だ!顔を見たら吐き気がする!タマなしが作る木掘り細工の醜さだ!名前はキモデブか? 」
「サー!フマ、サー!」
プルーン!フマって名前だったのね。太っているからって“お金持ち”って名前なのは捻りがないわね。さっきの腕立て伏せでもうデロデロに汗かいてお腹はプルプル震えているわ。休ませてあげられると良いのだけど。
「“金持ち”って名前だと!?金持ちに買われた奴隷の割れ目に残ったカスがおまえだ!
名前が気に喰わん!オカマ野郎か腰抜けの名だ!
“はなたれプルン”と呼ぶ。
貴様はもう帰りたいだろ!?さっさと帰ってママのおっぱい吸ってろ!」
「サー、NO、サー!」
近い!惜しいよレンジャー壱号!でもそのあだ名センスいいよ!
「良いだろう、そのみっともない無駄肉がすべて無くなるまで地獄をみせてやる!穴という穴から何もかも垂れ流すほどシゴイてやる!いいな!」
「サー!YES、サー!」
そっか。小枝のデデや、はなたれプルンのフマはついていけなさそうだから帰った方が良いと思うけど、本人が“帰りたい”と言わない限りは強制的に排除できない。そういうルールなのね。
本人の根性次第で、挫けない人だけ入隊できるなんて厳しいな。でもなんでこんな厳しいのに軍隊に入りたいんだろう?
とりあえず残り3人の名前が分かったわ。
ツルッポ=ツルッポイ=カイサ
マユゲ=ビビリゲ=アディル
プルーン=はなたれプルン=フマ
これで全員ね。
よし、次はやっと私の番ね。
「最後は貴様だ…「あ、私は帰ります。お世話になりました。」
怒鳴り声に被り気味で離脱宣言をする。
レンジャー壱号は驚いた目で口をパクパクさせて停止している。
今だ!帰ろう。私はそもそもタマ無いし。
「ダメだ!逃さん!」
しかしレンジャー壱号に回りこまれた。
「なんで?帰りたいって言えば帰れるルールでしょ?」
「ふざけるな!ダメに決まってる!貴様は王族だろうが!それに口からクソを吐く前と後ろにサー!を付けろ!」
「じゃあさー、帰りたいさー。」
「じゃあ、じゃない!あと訛った言葉みたいに言うな!ふざけるな!大声出せ!ダメだと言っている!そもそも王族が率いる近衛軍なのに貴様が逃げてどうする!」
「さぁ?王族が逃げるのを助けるのも近衛軍の仕事じゃないの?さー。」
「さぁ?とか疑問形で言うな!それにクソアホに質問するのは俺の役割だ!」
「だってさー、私タマ無いしさー。」
「だってとか言うな!貴様が女だとしてもダメだ!それは皆の前で工作部隊の隊長であるキノト様と約束したからだ!貴様は将軍を引き継ぐと宣言した!将来、将軍になるのならなおの事、逃げることは許さん!」
は?え?何の事?約束とか宣言とか全く知らないんだけど。
思いもよらない事を言われて間抜けな顔をしている自分を認識しながら皆がいる横を見ると、5人も同じ間抜けな顔をして私を見ている。
私とずっと一緒にいた5人も知らないのだろう。
「さ、さー、私はどんな約束しましたさー?」
「貴様!覚えてないとは言わせんぞ!馬車の前でキノト様に抱え上げられたまま、キノト様の“将来、将軍となって我々を導いてくれ”という願いに、皆に響く大きな声で“はい!”と答えていたではないか!」
ええぇ!聞いてなかった!なんかキノコ爺に“よいな!”って言われたからなんとなくノリで“はい!”って返事しちゃっただけなのに大変なことになってる。
チラッと横を見ると呆れた顔の5人の視線が痛い。
「クソったれ!やはり貴様のような女が、わが愛する近衛軍に参加するなど気分が悪い!
女性でも本当に将軍1人だけが特別だったのだ。娘とはいえクソ女を甘やかしたのが馬鹿だった!」
なんですって!女ってだけでどうしてそんな事言われるの!?
「女なんて家事して子供産むのが役割で、それが当たり前だ!男の真似して狩りや軍にしゃしゃり出てくるな!勉強も鍛練も必要無い!家に帰って水くみでもしてろ!帰れ帰れ!」
「勝手なこと言わないでよ!私は世界をこの目で見るために産まれてきたの!“女なんて”って思い込みと決めつけで私の邪魔をしないで!」
「ふざけるな!俺の訓練すら耐えられない奴が“世界を見る”なんて大口叩いても野垂れ死ぬだけだ!1人で生きていく力すらないクソ女はいつも口だけだ!“舌に骨なし”だ!貴様もどうせ口だけで逃げるのだろうが!」
「逃げないわよ!あんたみたいな腐れタマ無し野郎の訓練なんてちょろちょろちょろいって見せてやるわ!」
「貴様、逃げないんだな?」
レンジャー壱号がニヤリと笑った気がした。
上手く乗せられたと気付いたが、すでに引き返せない言葉を吐いてしまっている。
やられた。でも女なんてって言われたら戦うしかない。
それはそうと“舌に骨なし”って本当に使われているのね。ごめんねツルッポイ。
「聞かれるまで口を開くな!口からクソを吐く前と後ろにサー!を付けろ!いいな!」
「サー!YES、サー!」
悔しいけど今だけ従おう。力も知識もないのは本当だから。
「貴様は卒業するまで王族でも女でも人間ですらない!クズ虫のクソをかき集めた価値しかない!俺の訓練は厳しいが公平だ!どんな部族もタマ無しもクソ女もすべて平等に価値がない!俺を憎め!憎めばそれだけ学ぶ!貴様は口から臭いクソばかり吐くから“ゲロ姫”と呼ぶ!いいな!」
「サー!YES、サー!」
「ふざけるな!大声出せ!口だけ女か!」
「サー!YES、サー!」
ムカつく!せっかく姫と呼ばれて嬉しかったのに、ゲロだなんて!
目に涙が滲むけど欠伸だから!ふわわ!欠伸なんだからね!
早朝から始まった幼年兵の訓練は、さらに各小隊ごとに言いがかりのような指摘で腕立て伏せを繰り返し、全体の出発準備が整うまで続いた。
全部隊が整列している。私は早朝の訓練ですでにヘロヘロな幼年兵部隊の中に並んでいる。前方には高い台の上に将軍であるお母様とギョロ髭が立っている。昨日はあそこに居たのになあ。
ギョロ髭が前に出てきて、大声で宣言する。
「今日はツェンベゼ川に届く!乾期である今、乾いて小さくなる川に群がる動物を狙う!メインターゲットはゾウ!その他、今夜に食べる糧となる動物を狩る!貴様らの武勇をここに示せ!」
「「「「うおおおぉぉぉぉ!お!お!お!お!お!」」」
凄い歓声に地響き。次第にリズムを取って地面を武器を突き、足で踏み鳴らす。
前に立っていた昨日と全然違う。中に参加している方が断然痺れる!
訓練は嫌だけど、この雰囲気は嫌じゃない。
いよいよ狩りが始まる!




