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6歳の9月(6)

6歳の9月(6)


休憩明けの行軍は、厳しかった。

まずお尻が痛い。走るのは大好きなはずなのにお尻が痛くてヨレヨレになってしまう。

お尻はなんとか2つ以上に割れることはなかった。触ると飛び上るほど痛いのを我慢して触って確かめたから間違いない。

でもいつもの2倍には膨らんでいると思う。しかもホカホカ湯気が出ていそうなほど熱く火照っている。

そんな状況で走ると、服がお尻に擦れるだけで痛い。

膝の下だけでちょこまか走ることになるが、そんな走り方で追いつけるほど甘くはなかった。


そもそも歩幅が違う。

普通の大人の半分程度しか歩幅が稼げないということは、倍の速度で足を動かさないといけない。

幼年兵のお兄さんたちもそれで苦労していたのをみていたのだから、彼らより小さい私はなおさらだ。


それでもお尻さえ、お尻さえ痛くなければ。

変な走り方をしていたのでブーツが石に引っかかって転んでしまう。

プルーンがそうされていたようにマユゲとツルッポが両脇を抱えて引きずるように立たせてくれるが、私の背が低いので両足が浮いてしまう。


「こんなの置いていくのである。」

「そういうな。将軍によろしくって言われたろ!」

「特別扱いするなとも言われたのである!とっとと自分で走れ!」


休む間もなく地面に降ろされ、走らされる。

プルーンも小枝もヘロヘロになりながら走ってる。


「おらー!もっと気合いいれて走れぇ!遅れるとケツが割れるぞ!」


部隊の最後尾からはフル装備を担いだレンジャー壱号が棒切れを振り回しながら遅れた人のお尻を叩いて怒鳴っている。

ええ!あんなに山ほどの荷物持って走れるの凄い!

そんなこと驚いている場合じゃない。最後尾まで遅れたらレンジャー壱号にまでお尻叩かれちゃう。

今叩かれたらきっとこのお尻は破裂すると思うんだ。パーン!って。


そうして今日の野営地まで死に物狂いで走ったよ。

途中で何度か意識が無くなったけど、ガッツの背中で気が付いたの。

ガッツ背負ってくれてありがとう。


糸の切れた操り人形のように崩れ落ちたのはなんとか辿り着いた野営地のテントの中。

せっかくマユゲが持ってきてくれた食事のお皿とお水も、シマをふたくちとお水をカブガブ飲むだけで、また意識が遠のいてしまう。


お母様と一緒に狩りに出かけたはずなのに。


お尻叩かれて


走って…


お尻……


……


朝、まだ明るくなる前に揺り起こされる。

そうだ、私は幼年兵部隊に入れられたんだ。

見ると小枝が必死な顔をして私を揺すっている。小枝はなんだか可愛いなあ。6歳も年上だけど。

小枝に引っ張られてテントの外に出ると幼年兵がすでに整列している。

慌てて列の端っこに加わる。


「遅れた奴が居るのはお前ら全員の責任だ!全員腕立て10回!」


列の前方にまだ別の小集団が整列しており、その先頭に立つ1人が号令をかける。

私の周りに立っていた全員が一斉に地面に伏せ、腕立て伏せを始める。

慌てて私も伏せて腕立て伏せを始める。

全員が腕立てを終えてまた一斉に立ち上がり整列する。

私も遅れて10回終わらせ、慌てて立ち上がる。 


「腕立てが遅れた奴がいる!もう10回!始め!」


え?私のせい!?

今度は皆に合わせて腕立て10回を終わらせて揃って立ち上がる。


「顎を地面に着けてない奴がいる!もう10回!始め!」


ええ?また私のせい!?

確かに慌ててちょっと浅い腕立て伏せになったけど。次は言われないようにやらなきゃ!

皆に合わせて地面まで顎を着けて腕立て10回を終わらせて揃って立ち上がる。

腕が少し震えてるけどこれくらい大丈夫!

お母様との訓練の方が全然厳しいわ。

ふと横を見るとプルーンがまだ腕立て完了してない! 

ぷるぷる震えながら腕立てを続けている。

顎の前に出っ張ったお腹が地面に着いちゃてる。

また腕立て10回だわ。これじゃ終わらないじゃない。仕方ないわね、覚悟しておこう。

怠い腕を腰に当て、足を軽く広げながらプルーンの方を向いて腕立て伏せが終わるのを見守る。


「姿勢を崩した奴がいる!全員もう10回!始め!」


「え、ちょっと、私が悪いの!?」


「今は質問の時間じゃない!さらに10回追加だ!さっさと始めろ!」


慌てて伏せてみんなに追い付くよう腕立て伏せを頑張る。きっと何を言っても問答無用で追加される。

自分自身もさすがに50回を超えてこれ以上は厳しいのに加え、

何より自分のせいでみんなに50回も腕立て伏せをさせているのが腹立たしいやら情けないやらで泣けてくる。

全速力で周りの追い付いて勢いよく立ちあがり、直立不動の姿勢になる。

呼吸は荒くなり肩が激しく上下し、心臓は胸の中で跳ね回っている。腕は全身の血が集まってはち切れんばかりだ。

じっとり汗をかき始めた手を握り締め、今度は姿勢を崩さないよう視線を横に向けるとプルーンはまだ伏せている。

しかし次の指示は止み、立っているものは全員が直立不動のまま静寂が辺りを包み、腕立て伏せを続けるプルーンの荒い息遣いのみが耳に聞こえてくる。


どうしろっていうんだろうか。そもそもこれは何の訓練なのだろうか。このままずっと続くのだろうか。

漸く腕立て伏せを終わらせたプルーンは重い身体をさらに重々しく起こし、直立不動の姿勢になった。


「よし、各班別れ!各班の指導員の指示に従え!」


終わった?なんで?何の理由で罰ゲームだったの?

深く考える間もなく指導員がやってきて横に並んだ一列を誘導して移動する。

あ、指導員はレンジャー壱号だ!

それでこの一列が同じ班なの?マユゲ、ガッツ、ツルッポ、プルーン、小枝と私で6人!

知っている人ばかりなのは偶然、なんてありえないよね。

レンジャー壱号の指示で一列に並ぶ。


「わたしが本日の教官、ムォヨムルメ軍曹である。昨日も言ったはずだがクソ虫共は覚えて無いだろうからもう一度だけ言ってやる。ありがたく思え!分かったかクソ虫ども!」


「「「サー、YES、サー!」」」


昨日のトホホな顔をしたレンジャー壱号から想像もつかない、

とんでもなく大きく恐ろしい怒鳴り声が響く。

それに、みんなどうしたの?“サー”って何?


「貴様らが幼年兵を卒業したら次に会うのは戦場だ。もしかしたら俺の背中を任せるかもしれん。その時に貴様らが今と同じ足手まといのままだと俺が命を落とすことになる。

俺が背中を任せられる一人前になって卒業するか、今すぐ帰ってママのおっぱい飲んで寝るか、好きな方を選べ。」


「ルールは一つだけだ“帰りたい”と言えばこの地獄から逃げられる!俺の使命は役立たずどもに“帰りたい”と言わせて一人残らず刈り取ることだ!愛する近衛軍の害虫を!分かったかクソ虫ども!」


「「「サー、YES、サー!」」」


「クソったれ!大声だせ!タマ落としたか!」


「「「サー、YES、サー!」」」


うわー。うわー。何なのよこれ。私は狩りをしたかっただけなのに。

タマって……私は女の子なのよ!


「そこの細いの!名前は?」


「サー!デデ、サー!」


あ、小枝ってデデって名前だったのね。細くて可愛いのになんだか勇ましい名前ね。

でも顔を白くしてガクガク震えているわ。


「ふざけんな!“勇敢な”なんて名前は腕を100倍太くしてから名乗れ!今から貴様は“小枝”だ!いつでもポッキリ折れる貴様に相応しい名だ!どうだ、嬉しいか!」


「サー、YES、サー!」


ふぁ!レンジャー壱号とまさかの同じセンス!ヤバいわ。


「“小枝”じゃ役に立たん!今すぐ帰った方が良いとは思わんか。今帰ればこの先の地獄を味わうこともないぞ!残るというなら一生笑えなくなるくらい徹底的にシゴキ上げてやる!どうだもう帰らないか?」


「サー、NO、サー!」


すごい!あんなに震えているのに、黒い顔を白くして今にも倒れそうなのに、帰らないんだ。

顔が歯を食いしばって必死に教官を睨んでる。あんなに弱そうなのに心は強いんだね。


「“小枝”が一人前になんてなれるものか、血反吐まき散らして、のた打ち回るまでシゴキ上げて必ず帰ると言わせてやる。覚悟しておけ!」


「サー、YES、サー!」


「見えてるのが小枝でも、根っこは太いってか」


「誰だ!どのクソだ!

アラブの手先のオカマ豚め!ぶっ殺されたいか!?

その勝手な口を槍でこじ開けてケツの穴に貫通するまでシゴき倒してやる!」


「サー、おいらだぜ、サー!」


「そこのクソか、くだらんお調子者のオカマ豚野郎は!

正直なのは感心だ。気に入った。俺の足の指の間を舐める権利をくれてやる!

名前は?」


「サー、オニカ、サー!」


おおお、ガッツが言葉を挟んだよ。オニカって名前だったんだね。

あのペラペラ良く口が回る罵声にタイミングよく入れるなんて、

“戦士”って名前の割に、実は賢いのかも?


「“戦士”なんて顔じゃないな、貴様ゴリラは見たことあるか?」


「サー、NO、サー!」


「貴様にそっくりだ!今から貴様は“肉ゴリラ”と呼んでやる!

“肉ゴリラ”は何のために近衛軍に入った?」


「サー、敵をぶっ飛ばすためってな、サー!」


「最前線の斬り込み隊志望か、敵陣に斬り込む顔をしてみろ!うがあーー!こうだ!やってみろ!」


「うがあああぁぁぁ!」


「ふざけるな!そんなもんで敵がぶっ飛ばせるものか!このオカマ豚野郎が!練習しとけ!」


肉ゴリラ。見たことないから分からないけど、ゴリラ、ガッツ、ゴリラ、ガッツ。

なんとなく近いイメージがするのは気のせいなのだろうか。


今の所、ふたりの名前が判明したよ。

小枝=デデ

ガッツ=肉ゴリラ=オニカ

残りの3人の名前も分かるかな。


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