6歳の9月(5)
6歳の9月(5)
「ヘッタクソ!あんなゆっくり狙って当てられないなんて。才能がまったく無いのである。」
ごめんなさいって言おうと思っていたのに、思いもよらない責められ方した。
「な、なによ!ツルッポの矢だって手前に落ちてるじゃない。同じじゃない!」
つい反論してしまうのは仕方ないと思う。
「ツルッポって誰だ!それに自分の矢は奴らの勢いを止めるために鼻先に落ちるよう狙ったのだ。一緒にされては心外である!」
「私だって間違いなく真っ直ぐ撃てたのよ。下に外れたのは矢かクロスボウが悪いんだわ!私は真っ直ぐ撃ったもの!」
「真っ直ぐ撃って外れるのは当たり前である。そんな事も分からずに道具のせいにするなんて恥知らずもいいとこである。」
「道具さえまともなら私は絶対外さないもの!いつでも見せてあげるわ!」
「ふふん!昔から“舌に骨無し”と言ってな。そんな雑魚の話を誰が信じるというのだ。ほら、この弓を貸してやるからあの木に当ててみるのである。」
また出た!意味不明な格言だか諺だかと一緒に、遥か天空から見下ろすような上から目線。
「くっやしー!見てなさい!」
弓矢を受け取って標的の木に向けて勢い良く弦を引く!
ひ、引けないぃぃ!
私の手が圧倒的に短い!
元々大きな弓な事もあってほんの僅かしか引けてない。
「えいっ!」
放たれた矢はヘロヘロと5mも離れない場所に落ちる。
「……フハハハハ!わっはっはっは!あはははは!」
落ちた矢を見つめて呆然としていると3人に大笑いされて悲しくなってきた。
「ば〜か。見ての通り弱いんだからな。これに懲りたら二度と勝手なことしないように気をつけるのである。フハハハハ!」
くぅ~。手が短いのがいけないんだ。くやしいぃぃ!
な、泣いてなんかいないんだから!
「リルカっ!!」
後ろからの怒鳴り声に身体がビクッと跳ねて涙も引っ込む。
前方の3人は黒い顔を幾分か白くさせて下を向いている。
緊張のあまり動かない首をギギギッと無理矢理回して後ろを見ると御伽話に出てきた鬼のように黒い顔を赤く怖い顔にしたお母様が近付いて来る。
昼間でお日様は燦々と輝いているのにお母様の周りだけが暗くなっていくかのようなオーラが見える。こんなに怒っているお母様は初めて見た。
「あんたって子は、みんなの行動を乱すなってあれだけ言ったのに!」
「ぎゃーー!ごめんなさい!ぎゃー!ごめんなさい!ごめんなさい〜。」
めちゃくちゃ強くお尻叩かれてる。何度も何度も。3人も見てる前なのに。もうお嫁いけない。
ていうかもうお尻が麻痺して分からないけど、これだけ叩かれたら4つに割れているに違いない。生きていけないかも。
「うわ〜ん。ごめんなさい!ごめんなさい!もうやらないから!」
泣いて謝っていると数え切れないほど叩いていた手が止まって抑えられてた手もようやく離される。
お尻痛いしそのままうつ伏せて謝り続ける。
「貴方達はリルカを助けてくれたのね。本当にありがとう。」
お母様が3人に話しかけていると近くで更に大きな怒鳴り声が響いた。
「このクロスボウは誰のであるか!」
「れ、レンジャー!」
ギョロ髭がクロスボウを拾い上げて怒鳴ると
焦った声のレンジャー壱号が答える。
「貴様か!リルカ姫に武器を渡して前線に送り込んだのか!答えよ!」
「れ、レンジャー!」
レンジャーという返事に込められた心境がとても良く伝わって来る。
こうして聞くとレンジャーって表情豊かな言葉なのかも。
あぁ、勝手なことをしてレンジャー壱号にも悪い事をしちゃったなあ。
けど私がコソコソ盗んだって言ったらもっとお尻叩かれる。
うう、言っても地獄、言わなくても地獄、どうしよう。
「ちが……の、違うの、私が、ヒック、私がレンジャー壱号の目を離した隙に、勝手に借りてきたの、私が悪いの、ヒック。」
泣きながらも何とか伝える。
あぁ、言っちゃった。またお尻叩かれる。お尻8つに割れちゃう。もう生きていけない。
「ほう、貴様はリルカ姫ほどの子供にすらクロスボウを持っていかれるほど管理不行き届きだったという事だな。しかもリルカ姫に謝らせて罪を逃れようとは何たる不敬!」
「レンジャー↑」
う?え?なんかレンジャー壱号が余計に怒られてる!私が謝ったせいなの!?レンジャーって返事も声が裏返ってるわ!もうやめて、レンジャー壱号のHPはゼロよ!
でもまだギョロ髭のターンは続くの。
「なら貴様の馬はワシが勝手に持っていくとしよう。貴様はフル装備担いで幼年兵と共に走って参れ。良いな!」
「レンジャー!(泣)」
そう言うとギョロ髭は馬に載せられていた様々な武器や荷物をそこらに落としていく。落ちるたびに赤土を抉るような重そうな音が響く。それもすごい量だ。
すべての荷物を落とすとギョロ髭は馬を連れて行ってしまった。
レンジャー壱号は落ちた荷物を拾い集めている。
「ご、ごべんなざい〜。」
涙と鼻水でグジュグジュの顔をあげてレンジャー壱号に謝るもレンジャー壱号はチラッと一瞬視線をくれるだけで黙々と荷物を整理している。
「リルカ。クロスボウまで……。」
レンジャー壱号と反対側、お母様が腕組みをして仁王立ちしている。
見上げる胸甲はお日様をキラキラと反射してとても綺麗で胸の出っ張りは大きく、もはやどんな顔をしているのか分からない。怖い。お尻叩かないで。
「ちょうど良いわね。リルカ、走りなさい。」
「うぇ?」
「ここから先、リルカの身柄は幼年兵所属とする。特別な配慮は無用!通常の幼年兵として扱え。良いな!」
レンジャー壱号も、幼年兵のお兄さんたち3人も、唖然として微動だにできず固まっている。
「返事!」
「「「「はいぃ!(レンジャー!)」」」」
こうして私はお母様の懐でヌクヌクと見ているだけの立場から急転直下、軍隊で1番下っ端である見習いの幼年兵として狩りに参加することになったの。
お、お尻痛い。




