6歳1月(8)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(8)
「ラムズィ! あなた、無一文でやり直しているんじゃないの? なんでシェリル義母様と一緒にいるのよ!」
「何を下賤な娘がごちゃごちゃ言っているざますか? こちらのラムズィさんはこの町でも有力な大商人ざますよ。此方との商談を終えて、次の商人に案内してもらうところざます。」
「なによ大商人って! ラムズィ、言っていることが全然違うじゃない! 何が人助けよ! 何が無一文よ! 嘘つき!」
「なにも嘘なんてついていませんよー。妹ちゃんが勘違いしちゃったのかなー。まだ小さいお子様だから仕方ないですねー。」
「まあー。親が親なら子も子ざますね。まともにお買い物ひとつできない上に嘘つきざますのね。こんな親子が将軍とか名乗っているなんて、本当にこの国の恥晒しざます!
ほら、こんなのに構ってないでいくざますよ。そなたと違って、此方は忙しいざます。次はネゴモが大好きなバナナや寝室用の柔らかいクッションの買い付けに行くざますよ。そなたは商人ギルドにでも訴えられていれば良いざます。ほっほっほ。」
「ご案内しますねー。」
シェリルとラムズィはわざと私たちを無視するように振る舞い、交易拠点の外へと去っていった。
私の頭の中は嘘と現実がグルグルと巡っている。
十字架は偽物だった。ラムズィが無一文なんてのは嘘。有力な大商人であるラムズィに、私がお小遣いを出して助ける必要なんて無かった。単にラムズィの遊びで私のお小遣いを巻き上げるためだけに、私は騙されたのだ。
今思えば、私をくじ屋から助けたのだって、きっと私のお小遣いを魔法使いに渡さずに、ラムズィ自身がまき上げるため。そういえばラムズィがデデを遠ざけていたのは、魔法使いの手品に気が付くような勘の鋭いデデがいたら私を騙すのに邪魔だからだ。デデが居ない方が都合が良かったんだ。ラムズィは私たちのことなんてこれっぽっちも思い遣って居なかった。
もう何も信じられない!
振り返れば、私は必死に言い訳を積み重ねていた。
自分に対して言い訳して、騙されることを肯定していた。
思い出だとか、元々無かったお金だとか、人助けだとか、偽物でも構わないだとか。
大切なお父様からのお小遣いを失って、いま手元に残っているのは、騙された苦い苦い思い出しか残らない十字架。この十字架に罪はない。でもぶち壊してしまいたい。十字架を握る手に力が籠る。そして涙がポロポロと零れてくる。
「お父様のお小遣いが……。うわーん。」
「リルカ、その十字架はあの男から買ったのね。」
「ごべんだざい”~。うわーん。」
「分かったわ。リルカはもう部屋で休んでいなさい。私は出てくるからね。」
お母様は私の頭をくしゃっと撫でると、足早に交易拠点の外へと向かう。
「おがあ”ざま”~! うわーん。」
お母様を追いかけて交易拠点の玄関まで来ると、フマが入れ替わりで入ってきた。
「おわぁ! リルカ、どうしただすか!?」
「うわーん。フマあにじゃ~!」
「リルカ、とりあえず落ち着くだす! アディル、デデ、何があっただすか?」
泣きじゃくる私がぐちゃぐちゃに説明するのを、アディルが補足してくれて、フマに今までの経緯をすべて伝えた。
「つまりそのラムズィという商人が、リルカを騙してお小遣いをすべて巻き上げただすね?」
「私が悪いの! 私が勝手に自分に言い訳したの! でもラムズィは全部嘘だったの。うわーん。」
「リルカはド阿呆だす。でも本当に悪いのは騙す方に決まっているだす。商人として許せないだすよ! わてはラムズィを探して落とし前をつけてくるだす! リルカはここで待っているだすよ!」
フマも私を置いて飛び出していってしまった。
「フマあにじゃ~! ド阿呆っていうな~。うわーん。」
お母様もフマも、私のために落とし前をつけに行ってしまった。
私はここで泣いていて良いのだろうか。
違う。絶対に違う!
私は自分の手で雪辱を果たさなければいけないんだ。
初めてのテテの町探検を、こんな情けない、悲しい思い出にしちゃいけないんだ。
私が戦うんだ。覚悟を決めた。
悔しさを呑み込み、涙を拭って、振り返る。
心配顔のアディルとデデがいる。
「私は、これより、雪辱を果たしに行くわ。楽しい探検を取り戻すの! アディルにいさん、デデにぃに、お願い、私を守って!」
驚いた顔になっていたアディルとデデは、ニヤリと笑うように表情を変える。
「任せておけ!」
アディルの力強い返事に合わせて、デデも強く頷いている。可愛い。
さあ、リルカ探検隊マイナス3人だけど、元気を出して再々出発よ!
まずはラムズィを探さなきゃ。
ラムズィに会ってどうするのかは決めてないけど、とりあえず情報収集が必要だわ。
どうやら有名人らしいから、さっきの市場あたりで聞き込みね。
先ほどと同じくデデの先導で人混みをすり抜けて進んでいく。
お日様はまだ高く、陽射しは気が遠くなるほど熱くジリジリと肌を焦がす。
ハァ、暑い。そうだ、十字架は人に見られないようにショールで隠しておこう。
あれ? あの路地で何やらごそごそと作業をしているのは先ほどのくじ屋の魔法使いだわ。
「魔法使いさん!」
「な、なんじゃ! ワシはもう関係ないぞ。もう勘弁してくれ!」
「違うの、ラムズィのことを教えて。名前を知っていたわよね?」
「なんじゃ、ラムズィはおらんのか。ちっ! 知っているも何もワシは噂で聞いていただけじゃ。」
「どんな噂なの? 何でもいいから教えて!」
「小娘が調子に乗るな! なんでそんなこと貴様に教えてやらんといかんのだ! 何か対価を払えるのか?」
アディルが無言で短槍を魔法使いに向ける。
「ひぃ! こんな年寄りに暴力を振るうというのか!」
「止めてアディルにいさん。魔法使いさん、私がラムズィに一泡吹かせてやるわ。それが情報の対価よ。」
「ほ? ふわっはっはっは! こりゃ可笑しい! ワシごときに騙されておった小娘が、あのラムズィに一泡吹かせるというのか。よかろう。ワシの情報なんて大したものじゃない。教えてやろう。楽しみにしておるぞ!」
魔法使いの情報によれば、ラムズィはテテの町のアラブ商人グループのリーダー格で、関わって潰された商人や屋台は数知れず。暴力や詐欺に限らず、汚いやり方で相手を選ばず金を巻き上げ、裏の世界まで広く通じているらしい。つまり金のためならなんでもやる奴らの頭目ということね。
「リルカ、思った以上にヤバい奴だぞ。」
「そうね、もっと情報を集めないと。デデ、次はどこが良いと思う?」
デデは斥候部隊で英才教育を受けている。
しかもデデの耳は超能力といってもおかしくないほど遠くの音まで聞き分ける。
デデに集められない情報なんてあるわけないわ!
次にデデに連れてこられたのはタバコ屋だった。
「ラムズィって知ってる? 彼の事を教えてほしいの。」
ギロリと怖い目を向けてくるタバコ屋のおっちゃん。
しかしデデがちょこちょこと近寄ってなにやらおっちゃんに手渡すと急に態度が変わった。
「分かってるじゃねえか。俺が喋ったって誰にもいうなよ? ラムズィの旦那は危険だからな。」
タバコ屋のおっちゃん情報によれば、ラムズィは盗品や落し物を高く売り捌く天才らしい。だから逆に盗賊や乞食には、何でも高く買ってくれるってことで人気があって、テテで物が無くなったらラムズィに聞けっていうくらい有名なんだって。物が無くなったら……。もしかして、お母様の香辛料もラムズィのところにあるのかも?
ちなみにデデにはタバコ屋のおっちゃんに何を渡したのか聞かなかったわ。
斥候部隊の秘密のアイテムよね。きっとそうよね。
ハァハァ、暑いわね。さあ、次々!
さらにデデに連れてこられたのは私に布切れを買わせようとした布屋。
隣のパンツ屋のお姉さんはもう店を閉めたのか、屋台には商品も人も見えない。助かった。
「ラムズィって知ってるわね? 彼の事を教えてほしいの。」
「さっきのガキどもじゃねえか。ラムズィの名前を出すとは何かの脅しかい?」
「違うわ。私がラムズィに一泡吹かせたいのよ。」
「そんな危ない話に関われるか! 散れ散れ! 商売の邪魔だ!」
デデが手を引っ張るので大人しくその場を退散する。しかし100歩くらい離れて路地に隠れ、デデだけ顔を出して布屋の様子を伺う。何やら隣の屋台と話しているみたい。
“ラムズィさん、なんだか大儲けのネタが入ったって、上機嫌だったからよ。しかもなんかキリスト教徒の小さな女の子を探しているって言ってなかったか? さっきの変なガキどもはその関係に違いねえ。ここらの屋台は全部ラムズィさんに世話になっているからラムズィさんの味方だっていうのに、馬鹿な奴らだな。ガキのやることだから大したことはないと思うが、念のためラムズィさんに教えておこうぜ”。
なるほど、そんなことを言っているのね。デデに顔を近づけて、こっそりと教えてもらう。
この人混みと喧騒の中、あの布屋の話し声だけをピンポイントで聞き取る耳はデデにしかできない技よ。
大儲けのネタっていうのはきっとお母様の香辛料のことに違いないわ。キリスト教徒の女の子って、私のことね。ラムズィも私を探しているってどういうことだろう? 会いたいなら会ってやるわよ。望むところだわ! しかしラムズィはこの辺りの屋台の人たちといい、盗賊や乞食といい、変なところで人気があるのね。
ハァハァハァ。なんだかボーっとしてきたわ。
そういえばお昼ご飯食べてないかも。
「おい、リルカ、なんだか顔が赤いぞ。大丈夫か?」
「ハァハァ、うん、なんだか、暑くって。ハァ、あと、お腹が、空いているのかも。」
あ、フルーツジュース屋がある!
あそこで美味しいフルーツジュースをグイーッと飲めば。
ん? あああ!
私、お小遣い全部使っちゃったから、無一文じゃない! ジュースも飲めないわ!
そう思うとなんだか急に気が遠くなってきた。
『危ない!』
そこへ迫りくる黄緑色の果実。
私の身体が地面にぶつかった衝撃を最後に、世界は暗闇に閉ざされた。
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




