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6歳1月(7)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(7)


交易拠点フェイラに戻ると、玄関の前に申し訳なさそうな顔のデデがいた。


「デデにぃに! こんなところにいたのね! 私が騙されそうになっていたのを助けてくれたのに、全然分かってなかったの! 本当にごめんなさい!」


デデに抱きついて謝っていると、デデが胸に下がる十字架を指差してくる。


「あ、これね、さっきのラムズィって商人が私をくじ屋で助けてくれたの。その代わりに、彼が失敗して仕入れたものを人助けとして、お小遣い全部で買ってあげたの。なんか、良いものでしょう?」


私はニコニコと自慢するけど、デデは十字架を見て申し訳なさそうにしている。


「大丈夫、デデにぃにが助けてくれたお蔭で、くじ屋にお小遣いを全部取られなくて済んだわ。結局お小遣いは全部使っちゃったけど、この十字架に変わって後悔してないの。」


デデは申し訳なさそうな顔をしたまま、頷いてくれた。


「ありがとう! デデにぃにに感謝しているわ。また助けてね!」


またデデをぎゅっと抱きしめて頭をなでる。私とあまり変わらない身長。可愛い。


「お母様に自慢しにいくわ。お母様はどこ?」


デデを放して交易拠点フェイラの奥へ向かうと、途中の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。


「それは我らの将軍を疑うということか! あまりにも無礼だぞ!」


「そうとは言っておりません! ですがあなた方しか知らなかったはずのものですぞ!」


「将軍が盗んだといっている事に等しいではないか!」


「だからそうは言ってないですって! やましいことがあるからそういう態度をとられるのですか!?」


困り顔のデデが怒鳴り声の響く部屋を指差す。

えー。この中にお母様が居るの?中に入りづらいなあ。


そうか、あの時デデは逃げたんじゃなくてお母様を助けに呼ぼうとしてここまで来て、こんな状況でお母様を呼べなかったから申し訳ない顔していたのか。ありがとうね、デデ。


こんな状況じゃ私だって中に入れないもの。デデが助けを呼べなくても仕方ないわ。

どうしようか迷いながらも、続けて部屋の様子を伺う。


「貴様! いい加減にしろ! 死ぬ覚悟があって言っているのだろうな!」


「あの香辛料が盗まれたら商人としては終わりです! 殺すなら殺すが良いでしょう! ただし商人ギルドには報告してありますからね! 私を殺せば、将軍が香辛料を奪って私を殺した犯人だとなりますぞ!」


「担当官、剣を納めなさい。それ以上は許しませんよ。そちらも言葉に気を付けなさい。」


「そんな脅しをしても無駄ですぞ! 香辛料をこの町まで運んだのは事実なのです。どうあっても香辛料の代金は払ってもらいますぞ!」


「貴方は間違いなく、私が盗ませたというのだな?」


「現在分かっている状況からは、それ以外に考えられませんな!」


「では、もし、そうではなかったと証明できて、香辛料を取り戻してきた場合は、相応の落とし前をつけてもらえるのだろうな。」


「ええ、香辛料さえ戻ってくるなら、落とし前でもなんでもやってやりますよ! ただし期限は明日のこの時刻まで! 明日までに解決されなければ、商人ギルドに訴えてやりますからね!」


扉が蹴り飛ばされたように勢い良く開け放たれて、壁に当たり音を立てる。

顔を真っ赤にしたポルトガル人たちが私の目の前に迫ってくる。


『邪魔だ! これだから野蛮な黒い猿たちは信用できないんだ!』


驚いて固まっている私たちを、手で横に払うように強引に押しのけて、ポルトガル人たちは去っていってしまった。ふぁー。ビックリした。しかもポルトガル語でなんか捨て台詞を吐いていったわね。こちらには分からないとでも思っているのかしら。無礼な人たちだわ。


部屋の中を見てみると、机に両肘をついて手を組み、どこを見るともなく怖い顔で固まっているお母様と、怒りが収まらぬ様子の商談の補佐をしていたであろう補給部隊の買い付け担当官たち。


ちょこちょこと部屋に入っていって、お母様に話しかける。


「お母様、どうしたの? 買い付けに来た香辛料が盗まれちゃったの?」


そこに横から補給部隊の買い付け担当官が口を出してきた。


「そうだ! 奴らが保管していた倉庫から盗まれたのに、我々が盗ませたと言い張るのだ! 将軍、やはりあの無礼者たちを捕まえて処分しましょう! 商人ギルドにはちゃんと説明すれば何とかなります!」


「少し、落ち着きなさい。」


お母様が担当官を睨み付けるように言い聞かせると、まだ何か言いたそうにしていた担当官は口をグッと閉じる。


「この件は、まずできるだけ調査しなさい。情報を集めて、答えは明日になってから出します。今やれることをやりなさい。解散!」


「「「はいっ!」」」


担当官たちは一斉に部屋を飛び出していく。

部屋に残ったのはお母様と私、それにアディルとデデだけ。


「お母様、こんなときにごめんなさい。これを見て。」


私はおずおずと十字架を首から外して、お母様に渡す。


「色々あって、お小遣い全部でこの十字架を買ったの。金でできているって聞いて買ったけど、お母様に本物かどうか鑑定してもらいたくて。どうかな?」


「ん……、これは真鍮しんちゅうね。銅と亜鉛の合金よ。これが金なら、こんな重さじゃ済まないわ。それに金はこういう鈍い色じゃないわ。」


「えー、だって裏のJOYCEって刻印は有名な金属商の名前で、金の証明だって聞いたよ。磨けば綺麗な金色になるんじゃないの?」


「そんな話は聞いたこと無いわ。JOYCEは誰かの名前ね。これの元の持ち主かもね。それに残念ながら真鍮は磨いてもそこまで綺麗な金色にはならないの。」


「じゃ、じゃあこの細やかな装飾は職人の技じゃないの? この石は?」


「この装飾は鋳造ね。型に溶けた真鍮を流し込んで作られたものよ。でもこの石はとても綺麗ね。トルコ石とかターコイズと呼ばれる石だわ。」


「大空の精霊が宿っているっていうのは? 青い石は見たことが無いほど珍しいって……。」


「この石に? トルコ石は空の様な青色が特徴の石よ。普通は黒い模様があるものだから、この雲のように白い模様は珍しいけど、どのトルコ石もみんな青いわ。」


「じゃあこの十字架の価値は?」


「まあ、それほどではないわね。キリスト教徒にしか売れないからそもそも売ることも難しいけど。その十字架にお小遣いを全部使っちゃったの? うーん、まあ、良い勉強になったわね。」


はぁ。分かっていた。偽物だって分かっていたけど、ショックだわ。

もしかしたらほんのひと筋の希望でも、本物の可能性があるって思っていたもの。

でもいいの。偽物を掴まされて困っていた無一文のラムズィを助けてあげた記念品よ。

石は良い物みたいだし、偽物でも私が気に入っていればいいの。

私の思い出が詰まった大切なお土産だわ。


「ごめんなさい。俺が横についていながら、偽物に騙されてしまいました。」


アディルがお母様に謝っている。その隣でデデも申し訳なさそうにしている。


「いいのよ。貴方たちの仕事はリルカの護衛よ。リルカが怪我せずに無事に連れて帰ってきてくれたのが何よりの仕事よ。ありがとう。まだこの後もよろしくね。私はちょっと忙しくなりそうだから。リルカを守ってね。」


お母様が私たち3人を一緒に抱きしめてくれる。

お母様、優しい。大好き! 私も抱きついてお母様成分と匂いを補充補充!

横を振り向くと、アディルもデデもすでにキリッと戦う顔に戻っている。

お母様の抱っこは偉大だわ!


「さあ、私もちょっと外へ出てくるわよ。リルカは危ないところへ行かないようにね! アディル、デデ、頼んだわよ! リルカを守ってね!」


「はいっ!」


アディルの元気な返事で、私も元気が出てきた。

気分良くお母様と部屋を出ると、廊下でばったりシェリル義母様かあさまに出くわした。


「あらー? 香辛料を盗んだ将軍様ざますね! もう噂でもちきりざますよ! まったくお買い物1つろくにできないなんて、これだから下賤な血筋から嫁いできた女は始末に負えないざます。」


ムカつく! お母様の出身であるマニカ王国の王族が、なんで下賤な血筋なのよ! お母様だってお姫様だったのよ。何かにつけて貶してくるこの人は本当に嫌い。あれ? 水瓶のように太い身体の後ろから、もう一人、背の高い男が。


「ああー! なんでラムズィがここにいるのよ!」


「やー。これは奇遇だねー。」


面長な顔にちょび髭、へらへらした顔に気の抜けた語尾の喋り方。

間違いない。さっきお別れしたばかりのラムズィだわ。


何故ここに、しかもシェリルと一緒にいるの!?


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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