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6歳1月(6)

6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』

6歳1月(6)


魔法使いはラムズィに許しをい、しょぼくれて小さくなった身体で屋台を片付けて去っていった。


「なんだー。せっかく面白かったのに終わっちゃったなー。まあ、本当に木札を全部買うお金なんて持ってなかったんだけどねー。」


私もしょぼくれているけど、まだやることがあるわ。デデに謝りにいかないと。


「ラムズィっていうのね。一応御礼は言っておくわ。助けてくれてありがと。」


「いやいやー。妹ちゃんみたいな可愛い女の子が騙されそうになっていて許せなくてねー。」


へらへらとした顔でそんなこと言われても、先ほどの怪しい笑顔がちらついて全く信用できない。

まあ、可愛いという言葉だけは間違いないから信用してあげよう。


「こっちのお兄ちゃんは、護衛なのー?」


「そうだ。俺は護衛だ。助けてもらって申し訳ないが、もう一人の護衛を探さなければならないので失礼する。」


「ちょっと待ちなよー。彼の様な状況になった人は、少し一人になる時間が必要なんだよー。今行っても冷静にお話しできないと思うよー。悪い事言わないから彼のためにも少し時間を与えて欲しいなー。」


「なんでラムズィにデデのことが分かるのよ!」


「分からないよー。でも僕は大人だから同じような状況は何度も体験しているんだー。僕も情けない失敗を何度もして、大切な友達を何度も失っているんだよー。だから君たちも彼が大切なら少し時間を与えてやってくれないかなー。」


この絶妙なさじ加減の断りづらさ。上から目線にならないように自分自身の情けない点をさらけ出しつつ、デデの事が大切ならという仲間意識をくすぐりながら、懇願こんがんという形のおどし。こんな言い方されたらデデを追いかける私たちはデデの事を思い遣っていない愚か者になってしまう。ここにオニカが居てくれたら、“デデのことはおいらが一番分かってるぜ”の一言の下に筋肉で跳ね飛ばしてデデを探しに飛び出せるのに。アディルも同じ気持ちなのか、困ったように私を見ている。


「分かったわ。少しだけ。少しだけ時間を置いてから追いかけるわ。」


「いやー。本当に彼は愛されているんだねー。こんな美しくてお洒落な女性レディから大切にされているなんて幸せ者だなー。」


またこいつは適当なことを。しかも本当のことしか言ってないから否定しにくい。だってデデのことを大好きで大切に思っていることも、私が美しくてお洒落なレディなことも真実だもの!


「あ、妹ちゃん、誰かに似ているって言われなーい? この国の偉大な女将軍って知ってるー? なんか背が高くてスレンダーなのに胸もお尻もボンキュボンと出ていて女神様のようにセクシーなんだよー。君はきっと大きくなったらそうなるよー。」


「みゃははは! 当たり前じゃない! わた――。」


アディルが慌てたように私の口を塞いで、真剣な眼差しで首を振る。

私がその娘だってことはばらさないようにしろってことね。そうよね。危ないものね。


「けふん! 私なんかとても及ばないわ。あの美しい将軍は女神様そのものなんだから。」


「そんな謙遜することないよー。目が二つあって口が1つで、肌が黒いところなんてそっくりじゃないかー。」


「それじゃ、誰でもそっくりになっちゃうじゃん!」


「あははー。ごめんごめーん。」


本当にこいつは適当に言っているだけだわ。きっとお母様を見た事すらない。やっぱり何一つ信用できない。でもちょっとラムズィを憎めなく思っている自分に腹が立つ。


「じゃ、私たちはもう行くわ。」


「妹ちゃんは何を買いに市場メルカドに来たんだーい? あのくじが目的じゃないんだろー?」


「私のテテの町探検のお土産よ。」


「じゃあ、僕が案内するよー。また変なのに引っかからない様にねー。」


「結構よ! ラムズィもお仕事があるんじゃないの? 暇なの?」


「ああー。それを聞いちゃうー? 実は今、とんでもなく困っていて、悩んでいるんだよねー。見てくれよこいつー。」


ラムズィはそういうと懐から十字架の形をしたものを取り出した。

それは鈍い金色で、細やかな装飾と中央の大きく綺麗な空色の石が目をく。

全体的に厳めしくゴツイ作りで、縦は私の掌を広げたよりも長く、厚みは分厚く、私の人差し指と同じくらいある。


何より、中央の空色の石があまりに綺麗で、私は一瞬で心を奪われてしまった。


「この十字架、綺麗だろー? 僕も一瞬で目を奪われて、無理して仕入れたんだー。見ろよ、この鈍い金色はさっきの金ぴかの偽物と違って本物はこういう色なんだー。磨けばもっとちゃんと美しい金色になるんだよー。それにこの細やかな細工はさっきの宝剣とは大違いだろー? 何よりこの中央の宝玉はこの青い大空の精霊が宿っているんだってー。」


「大空の精霊……。またまた、ラムズィは適当なこと言ってるんでしょ。騙されないわよ!」


「べつに信じなくてもいいさー。僕はそう聞いただけだからねー。でも困っているのはここからなんだー。僕は見て分かるようにムスリム、つまりイスラム教徒だろー? だから十字架はおおっぴらに持つこともできないし、売ることもできないんだよー。僕は商人のくせに持っているお金を全部使ってこれを仕入れちゃったからもう無一文なんだー。大失敗しちゃったよー。」


「みゃはは! イスラム教徒なのに、キリスト教徒の十字架を買っちゃうなんて大間抜けね!」


「そうなんだー。僕は本当に良いものを見つけると、カーッと熱くなって、もうそれしか目に入らなくて失敗しちゃんだー。あーもう、キリスト教徒とは言わないけど、イスラム教徒以外の人で買ってくれる人が居ればいいんだけどなー。」


「私、キリスト教徒よ。」


「えぇー! なんでー? この国の人でしょー? なんでキリスト教徒なのー?」


「なんでって、生まれたときに洗礼されたから、かな。」


「ああ、なんか運命なのかなー。妹ちゃん、これ買ってよー。実はその袋以外にもっとお金持っているんじゃないの?」


「ないわよ! これで本当に全部よ。これが無くなったらジュースも買えないんだから!」


「えー。本当にー? 仕入れたお金には全然足らないけど、妹ちゃんのお小遣い全部と引き換えでいいよー。このままだと僕は無一文で宿にも泊まれないからさー。人助けだと思って買ってくれないかなー。でももうちょっと欲しいなー。他にお金になりそうなものとか持ってないのー?」


「持ってないってば! しつこいわね。」


うーん、お金を巻き上げようとしている雰囲気がビシバシ伝わってくるわ。

さっきも同じような手段で騙された気がする。


十字架も偽物くさいのだけど、実際に見た瞬間に心を奪われちゃったしなあ。

渡すお金も元々ラムズィに助けてもらって手元に残ったお金だし、あそこで騙されていたと思えば無くなっても仕方ないお金だわ。私のお小遣いが無くなるだけで済むなら誰にも迷惑かけないよね。それに人助けにもなるというなら、さっきラムズィに助けてもらったお礼になるかもしれない。


でもなんか、なんか釈然としない。上手く言葉にできないけど。


「ほら、手に取って、持ってごらんよー。」


ラムズィは思い悩む私の手を取って、十字架を手渡してきた。

想像していたよりも重くて手が沈む。


「重いだろー。本物の金はこんなに重いんだ、さっきの宝剣なんて中身が木だからスカスカに軽かったからねー。裏にJOYCEって刻印があるだろー? これは有名な貴金属商人の名前で、本物の金だっていう証明の刻印なんだー。そして触ってみろよ、この周りの彫刻をさー。名人が丹精込めて作らないとこんな細かい装飾にならないんだよー。中央の青い宝玉をもっと近づけてみてごらんよ、こんな青い石なんてどこでも見たことが無い、本当に美しいだろー。僕も近くでまじまじと見て、大空の精霊が宿っているって信じたよー。」


細かい装飾、美しい石。目の前で穴が開きそうなほどよく見るけど見飽きない。

濃い青色に時折混じる白い筋がまるで大空と雲のよう。

アディルも横からじっくりと見ているけど異論があるというよりも、見惚れているようにみえる。

カイサがこの場にいてくれたら、“こんなのは真っ赤な偽物であるな!”とかいって空気を読まずに話の腰をバキバキに叩き折ってくれて、とっとと逃げ出せるのに、どうしてこんな時にいないのよ!


偽物かな。でも本物にも見えるな。やっぱり分からないな。

あぁそうか、これが本物の金だったら大儲けだけど、例え偽物であったとしても私が記念品として大切にできればそれでいいんだ。私は市場メルカドでくじ屋に騙されて、助けてもらったラムズィへの恩返しとしてこれを買った。そういう思い出の品ということで、この十字架が本物かどうかなんて関係ないんだ。きっとそうだ、そう思うことにしよう。


だって、これが偽物だったとしたら、ラムズィ自身が騙されて仕入れてきたということだし、くじ屋に騙されていた私を助けてくれたお礼に、私が騙されているラムズィを助けてあげた。そう思えば悔しくないわ。


「分かったわ。これを買ってあげる。私のお小遣い全部でいいのね?」


私は十字架を手に持ったまま、お金が入った袋をラムズィに渡す。


「本当かーい? 助かった、これで今晩はちゃんと宿に泊まれるよー。それに、このお金でなんとか商売をやり直してみるよー。大失敗を助けてくれてありがとねー。そうだ、最後にオマケでこの鎖をつけてあげるよー。これは大きいけどネックレスになるから、首から下げるといいよー。ほら、すごいお似合いだねー。美人さんが付けるとさらに美しく見えるねー。」


ラムズィが十字架に細い鎖をつけてくれて、私の首から下げてくれた。

やっぱり適当で一切信用できないけど、美人さんとお似合いという言葉だけは信用してあげよう。


「私も良いお土産が買えたわ。ありがとう。帰るね。」


「ありがとねー。」


ラムズィはあっさりと人混みに消えていった。

さあ、デデを探さないと。でもとりあえず他のみんなも戻っているかもしれないし、交易拠点フェイラへ戻ってお母様のところへ。


お母様にこの十字架を自慢しよう!


6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。

2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。

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