6歳1月(2)
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
6歳1月(2)
私は今、馬を牽いて荒れた道を歩いている。
荷物や人を乗せた馬は100頭を越え、その馬を引く人や荷物を担ぐ人など大行列となっている。
馬車に乗って順調にきた旅路は途中までで終わり。
王都ツォンゴンベとテテの間には一定区間、馬車が通れない道がある。
ゴツゴツと根っこが足に引っかかる鬱蒼とした森の中だったり、岩がゴロゴロとしたツェンベレ川沿いの渓谷だったり。
荷物を馬車から馬の背に載せ替え、ほとんどの人は歩くことになる。
この区間はテテに向かって急な下り坂が続いている。
坂を下るうちに急激に暑くなってきたのは、照りつけるお日様の下で歩いているからなのか、この頭から手足まで全てグルグルに巻かれた布のせいなのか。
「お母様、せめて頭の部分だけでも布を外しちゃだめ?」
「絶対ダメ!この区間はマラリアを持った蚊や、眠り病をもったツェツェバエが沢山いるのよ。『眠り病』なんてかかったら眠ったまま二度と目を覚まさなくなって死んじゃうんだから!アディル、ちゃんとリルカの護衛してね!」
アディルたちリルカ探検隊の5人は、私と同じく全身布でグルグル巻きになって手には虫取り網。
蚊もハエも一匹たりとも近寄らせない鉄壁の護衛体制。
護衛が必要ってこういうことだったの?
お母様は愛馬ギンシャリに乗っている。
足場の悪い急な下り坂のため、2人乗りは危ないということで私はギンシャリから降ろされた。
私は練習しているから一人でも馬に乗れる。ゆっくり歩かせるくらいなら十分に。だから、いま牽いているこの馬に乗りたいのに、馬の上には布袋が冗談みたいな高さまで山の様に積まれている。
「フマあにじゃ、この荷物は中身なんなの? こんなに荷物を積んだら、さすがに馬が潰れちゃうじゃない。」
「大丈夫だす! 中身はふわっふわな羽毛だからまったく重くないだすよ。」
「私が馬に乗りたいんだけど。」
「我慢するだす! テテの町で羽毛を売り払って大儲けだす! 探検の資金もきっとできるだすよ!」
どうやらフマは補給部隊の本部で仕事のお手伝いをしている中で、「王家御用達 リルカ姫の串焼き屋さん」の経営を任されているらしい。
串焼き屋さんは元々、フマの発案によりリルカ探検隊のみんなで始めた商売。だけど、現在は補給部隊の管理下となり、私たちは全員手を引いている。
しかしフマは肩代わりしてもらっている借金の返済のために補給部隊の本部で仕事を手伝っている。そうなれば一番その商売を知っているフマに管理の仕事を押し付けられるのは当然だそうだ。
フマも直接自分の儲けになるわけではないが、自分が立ち上げた商売が大きくなるのは嬉しいらしく頑張って経営している。すでに支店となる屋台が10軒を超えているとか。
「屋台を運営する子供たちが捕まえた鳥はサイズも種類もてんでバラバラだけど、そこで毟った羽が全部ゴミとして捨てられていることに疑問を持っただす。“もったいない”だすよ。」
「“もったいない”ってどういう意味?」
「まだ役立つかもしれないのに、捨てるなんて惜しいってことだす。」
「なんだかケチ臭いわね。鳥の羽なんて、綺麗でサイズが揃っていたらお洋服や頭の飾りに使えるけど、そうじゃなければ使い道がないわ。捨てるしかないんじゃないの?」
「ケチ臭いだなんて失礼な! こういうのを本当に賢いっていうだす! 北欧では水鳥の胸の羽毛を集めたものは布団の中身として最高級だすよ。補給部隊本部で見た過去の輸入記録には、目玉が飛び出るような金額とか、極上で蕩けるような使い心地とか、生産者から加工方法から交易ルートまで非常に詳細な情報があっただす。羽毛を売るためにバッチリ覚えただすよ!」
「あ、そういえば私が寒いときに使っている布団は羽毛かも。」
「……。あのとんでもない金額の羽毛を北欧からお取り寄せしたのは将軍だっただすか……。王族とはいえ、リルカがそんな高級布団でぬくぬくしているなんて想像すると腹が立つだすね……。」
フマは口に虫が飛び込んだかのような表情で、ぼそぼそと何かを呟いている。
「フマあにじゃ、何か言ったー?」
「なんでもないだす! まあ、使っているならリルカも羽毛布団の素晴らしさが分かるはずだすよ! だから多少品質がバラバラな羽毛でも、たくさん集めればふわっふわで高級な布団やクッションの中身として、きっと高く売れるだす。」
「本当? 焼鳥のために捕まえた鳥の羽なんて売れるのかなあ? 抜いた羽をクッションに入れたら、羽の骨っぽい部分がごわごわして使いにくくならない?」
「大丈夫だす! 屋台の子供たちにお願いして、羽の軸を外してフワフワなところだけ集めてもらっただすよ。羽毛は串焼きの売上じゃないから補給部隊とは関係ないだす! 売れたら全部わてのものだすよ! ふひひひひ!」
こんな訳で大儲けを企んでいるフマによって、私の引く馬は荷物が山積み。
そして道を下るほどにどんどん暑くなっていく。川の近くのため湿度もあり、本当に不快な気分のところへ、さらに不快な怒鳴り声が後ろから聞こえてきた。
第1正妃のシェリルだわ。
「揺らすなっていうのが分からないざますか! 何度言っても分からないなんて近衛軍は奴隷以下の無能ざますね!」
第1正妃であるシェリルは、第9正妃であるお母様をいつも下に見て馬鹿にするようなことを言ってくるので私は好きじゃない。正確に言えば大嫌いだ。
そしてお母様とは何もかも反対の考え方で、女性は太っていれば太っているほど魅力的だと思っているので、シェリルは雨水を貯めておくための大甕よりも太い身体になっており、馬にも乗れない。現在も近衛軍の精鋭20人くらいが担ぐ輿の上に乗って“揺らすな”と怒鳴りつけているのだ。あまりの重さに他の荷物を持つ人や馬を牽いている人など、100人以上が入れ代り立ち代りに担いでいるけど、そんな重さでこの荒地を揺らさずに運ぶなんて無理よ。運んでくれている近衛軍に文句言って当り散らすなんて最低! 自分で歩きなさいよ!
お母様がテテまでお買い物に行くと聞いて、自分も買い物があるからと無理矢理一緒に行くと決めてきたのだが、輿に乗ったシェリルのせいで随分と全体のペースがゆっくりになってしまっている。
「まったく! シェリル義母様も無理矢理一緒に来るって言ったのだから、文句言わないで自分で歩いて欲しいわ。」
「無理矢理一緒に来るっていって、馬に乗りたいと文句言っているリルカも同じよ。頑張って歩きなさい。」
お母様の言葉に反論できない。人のふり見て我がふり直せ。シェリル義母様のように思われなくないから頑張って歩こう。
下り坂もなだらかになり、左右が山に囲まれた谷のようだった景色が急に開けてきた。まだ少し高台になっている道からは、遙か遠くまで見通せる。遠くの川がとんでもなく大きく広がっているわ。王都の近くじゃ雨季でも見れないくらいの川幅。その川には大きな建物が浮かんでいる?
「小さい頃に親の行商で連れてこられたから知ってるだす。あれは船だす。ポルトガル人が海の向こうから何か月もかけて乗ってくるものだすよ。」
「あんな建物みたいな船があるなんて! そして海の向こう側! どんな世界があるんだろう!」
その船が泊まっているのは川沿いの建物。なんだか四角い大きな建物がいくつもあって、王都よりも発展しているように見える。ついにテテの町が見えたわ。
テテに向かう道の両脇に立つ大きな木がヘンテコな形をしている。太くてずんぐりむっくりした幹に、木が逆立ちしたように根っこが空に向かって生えてるような枝の形。
「バオバブという木である。幹に傷を付ければ水も出てくるし、実も食べられて栄養豊富。旅人にはとても大事な木である。」
さすがなんでも知っているカイサ。バオバブっていうんだ。初めて見たわ! 私には何もかも初めての発見ね!
あの町まで辿り着いたら楽しい探検。うー、わくわくする。暑くてへばった身体も少し軽くなった気分で足を前に出した。
「新しい町を探検したら、運命的な出会いとかあるかな。お友達とか増えちゃうかな。もしかして素敵な結婚相手とか見つかっちゃうかな。」
「リルカは何を言ってるんだ。たかがお買い物に行くだけだぞ。出会いも友達もあるわけないし、変な人が寄ってこないように俺たちが護衛するんだ。そんな期待はするだけ無駄だぞ。」
アディルがけんもほろろに全否定してくるけど、私のわくわくは止められない。町に近づくと外壁や門などは無く、道の周りに家がだんだん増えてくる。中心部に近づく頃には夕焼けと同じ色に染まった建物が並び、多くの人が帰り道を急いでいる。
まずは交易拠点に向かう。交易拠点とは、ポルトガル商人がムウェネムタパ王国の中で商売することを認める代わりに、税金を納めるための施設。多くのポルトガル商人が頻繁に出入りしているほかにも、とても大きな施設なため、テテの町の代表である町長もこの交易拠点におり、町役場など様々な機能が集まっているみたい。
交易拠点はテテの町の中心にあり、ツェンベレ川沿いに建てられている。あの建物の様な船が停泊しているのもこの隣だった。
私たちはこの交易拠点に宿泊するようだ。私はお母様と一緒のお部屋。
もうお日様は沈みかけ、ヘトヘトに疲れた私たちは軽く身体を拭いて倒れ込むように眠りについた。
さあ、明日は朝から探検よ!
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




