6歳1月(1)
全国26人(2018/1/1現在のブックマーク数)の黒姫ファンのみなさまお待たせいたしました。
新たにエンターテイメント要素を重視したストーリー構築手法を開発したので、
お正月向け劇場版のようなお話を書いてみました。
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
『劇場版 いうこときかない黒姫の失敗 ~探検テテの町~』
適当な部分はたくさんありますが、ノリと勢いでお楽しみください。
6歳1月(1)
「新年あけましておめでとうございます!」
これは御伽話の国の新年の挨拶なんだって!
1月1日を“元旦”と呼んで、家族揃ってご馳走を食べるのも御伽話の国のイベント。
しかもこの元旦だけしか出てこない食べ物があるの。
その1つがこのおモチ。
お母様がこの元旦のためだけに、すごく遠い国からお取り寄せしたの。すごく高かったらしくてお父様は渋い顔だけど私はおモチ大好き! 白くて柔らかいのに噛み切ろうとするとゴムみたいにグイーンと伸びるのよ。
御伽話の国では毎年死者がたくさん発生する恐怖の食べ物なのに、みんな大好きで食べるのを止めようとしないんだって。
死のリスクと引き換えにしても美味しいものを止められないなんて酔狂な国ね。
私? もちろん、大好きだからやめないわよ!
私が長~く伸びるおモチと格闘していると、お父様からウサギの絵が描かれた紙の封筒を手渡された。
これは“お年玉”だわ!
御伽話の国において、子供はお正月になると、親や親戚からお年玉というお小遣いを貰えるのだ!
しかもそのお年玉は高額で、毎月のお小遣いを1年分まとめた額にもなるとか。御伽話の国のルールは最高ね!
去年までは家の外に出ることができなかったから、“お金を持っていても使う場所が無いでしょ”というお母様の横暴によって、お小遣いもお年玉も貰えなかったの。
しかし! 今年は町に出られるし、ちゃんと働いている!
私はお年玉を受け取る権利を持っているのだ!
大喜びする私をニコニコと眺めるお父様。
お父様大好きよ♪
お父様に抱きついてありがとうありがとうありがとう♪
お年玉♪ お年玉♪ お年玉♪
きっと中身は白髭のサンタさんにお願いした探検の装備一式と探検資金だわ。
こんなに早く願い事が叶うなんて!
もう待ちきれないっ!
紙封筒を開けて中身を取り出すと、それは紙切れ一枚。
“お母さんが預かっておきます”
紙切れには一言、そう書かれていた。
……。
はぇ!?
いま私は、去年お母様の机の上にあった果物のジュースを、一人だけズルいと思ってこっそりひとくち飲んだら、実はペン先を突っ込んで文字を書くためのインクだった時と同じ顔をしていると思う。
甘く芳醇な香りの味わいを想像して口に入れたものが、甘いどころか痛いような刺激が走り、ぬたりぬたりと絡みつく感触に濃厚な油の匂いで口の中を蹂躙される衝撃を受けて、この世界のすべてに絶望したような顔。
私はそんな顔で、ギギギと音が出そうなほど固まった首を回してお母様を見る。
「な、何よこれ! 私のお年玉でしょ! 返してよお母様!」
「リルカはすぐに使わないでしょ! それにリルカの手元に置いておくと無駄使いして無くなっちゃうじゃない。本当に必要になるときまでお母さんが大事に貯金しておいてあげるから。安心して預けておきなさい。」
「うう~。絶対よ! 絶対返してもらうからね!」
どうもお母様に、上手いこと言い包められて、騙されている気がしてならない。
二度と戻ってこない気がするけど、手元にあったら無駄遣いして無くなっちゃうというお母様の言葉には今までの実績を鑑みるにまったく反論できない。早く“本当に必要なとき”っていうのを探さないと危険だわ!
お父様は私に渡したお年玉の中身が、いつの間にかお母様によって入れ替えられていたことに気が付いて、とてもしょんぼりとしている。
「ねえ、お父さん。私たちもお年玉が欲しいわ。リルカにだけって事は無いわよね?」
そのしょんぼりしたお父様に追い討ちをかけるように、お母様が怪しい笑顔と甘い声でおねだりしている。香辛料や調味料類が足りなくなったから、テテの町へ買い出しに行きたいというのだ。むしろ、もう注文してあって取りに行くだけだからお年玉としてお金をよこせと。それはお年玉といって良いのかな? そもそもお年玉を貰えるのは子供だけってルールでしょ!?
「でも香辛料も調味料も心臓が口から逃げ出すほど高いんだぞ。そんな気軽に注文するなよ。」
「ああ、なんとひどい事を! ご馳走を食べているのはあなたや国賓のお客様だというのに! もうあなたはこの小宮で、私たちと一緒にご飯が食べられなくなるのね。」
芝居じみた仕草で大袈裟に嘆き悲しむお母様と、げんなりとしたお父様。
お母様はとても料理が上手で、お父様や国外からのお客様が見たことも無い、美味しいご馳走を作ることができる。そのご馳走の作り方をお母様から仕込まれたおタマさんとおスミさんの2人は国賓のお客様が来た際の宮廷料理人としても活躍している。
だから、うちが使う調味料などが保管されている食材倉庫は、国の食材倉庫も兼ねているのだ。
さらにお父様はうちでご飯を食べる機会がとても多い。お母様は9番目の奥さんであり、合わせて3000人のハーレムがあるにも関わらず、週の半分以上はうちでご飯を食べている。お母様が良く言う“男の子にいうことをきかせるには、まず胃袋を掴むのよ”という言葉はこうして実践されているのだ。
ともあれ、胃袋をガッチリと掴まれているお父様は、いくら王様として厳しく国の財政を引き締めなければならない立場を持ってしても、強くは抗えない。せいぜい最初のような愚痴をこぼす程度。
ついには萎れたモロコシのような表情で許可を出すお父様。
「お父様、元気出して! 私が一緒に行って、お母様が買いすぎないように見張っておくから!」
「生意気言わないの! リルカが焼鳥屋台なんかで私の香辛料を使うから無くなったんでしょうが!」
お母様に叩かれた私の頭がスパンと小気味良い音を立てて衝撃が走る。今、どこからハリセンなんて出してきたの?
「見張りはともかく、私も一緒に行きたい! お母様、いいでしょ?」
「うーん、テテの町は危ないから、リルカに護衛をつけなきゃいけないじゃない。」
「リルカ探検隊のお兄ちゃんたちを連れて行くわ。5人も一緒にいたら大丈夫よ!」
「まあ、アディルはしっかりしているし、大丈夫かなぁ。」
「やったやったー! 初めて王都以外の町に行けるわ!」
テテの町は王都ツォンゴンベから南東に100km以上。ツェンベレ川沿いにあるムウェネムタパ王国随一の交易拠点。ポルトガル商館もあって色々な商人が集まって、とっても栄えているんだって。
リルカ探検隊のお兄ちゃんたちと一緒に、初めての町、テテを探検! 新年からこんなに心沸き上がることってあるかしら。
あ! でもきっと、おめかししていかないと馬鹿にされるわよね。“どこの田舎村から出てきやがった?”なんて感じでジロジロ見られたら恥ずかしくて歩けないわ。街中なんだから、サバイバル用の戦闘服じゃなくて可愛い恰好にしよう。それに何か記念になるお土産が欲しいわ。きっと王都では見たこともないようなものが沢山あるんだもの。
そこまで考えたところで、ハッと思い出して寝室に駆け込む。枕元に置いてあるカバの貯金箱に飛びつき、両手に持って振るとカランカランと寂しい音が虚無な空間に木霊する。
なんてこと……。
私には記念のお土産を買うためのお金すら残ってないわ。華やかに思い描いていた町探検が急にみすぼらしく貧乏くさいイメージに上書きされていく。こんなことなら焼鳥とか食べて無駄遣いしなければ良かった。ちゃんと貯金しておけば町で色々なものを沢山買えたのに。
私はカバの貯金箱を抱いたまま俯いてとぼとぼ歩き、みんなが食卓を囲む居間に戻る。泣きそうな顔のまま椅子に座ると、みんなが何事かと私の様子を伺っているのが分かる。そうよ。今よ。今こそ強く主張するべき時だわ。
「あのね、テテの町でお土産を買いたいの。でも貯金箱はほぼ空なの。それでも町探検にはどうしてもお金が必要なの。今こそ“本当に必要な時”だと思うのよ。だから、おか……。」
お年玉の返還を求めるために勇気を出して喋りながら伏せていた目をお母様に向けると、お母様は般若のような形相で今にも呪詛のような“ダメ”の言葉を口から発射する瞬間だった。ああ、分かっていたわ。ダメの後には貯金してないお説教や無駄遣いのお説教が歩兵部隊の一斉投石のように降ってきて私を打ちのめし、町探検に浮かれた私の心は陶器製のカバの貯金箱の様に粉々に砕け散るのだわ。
いけない! これは回避しないとテテに辿り着く前に私の心が折れる!
「おか、お父様っ!」
なんとか“お母様”という言葉を言い切る前に、お父様に差し替えたわ。
お母様は驚いた顔で口が閉じたし、急に振られたお父様はビクッとしている。
ええい。このままの勢いで突っ切るのよ。
「お父様! お小遣いちょうだい! お父様にもお土産買ってくるから! お願い! 初めての町探検なのにお土産も買えないなんて寂しいじゃない! ウサギって寂しいと死んじゃうのよ!? 知ってた? それにお父様の娘が無一文だなんて恥ずかしいじゃない。私が屋台とか見てヨダレ垂らしていても買えないのよ? 屋台の人から“なにあの貧乏人の娘は? まさか王様の娘?”とか言われて馬鹿にされちゃうかもしれないのよ。私の事はいいのよ。でも私が大好きなお父様が馬鹿にされるなんて許せない! ほら、お父様のお土産とお父様の名誉と、ふたつもお父様のための理由があるわ。大好きなお父様のためにもぜひともお小遣いを貰わないといけないと思うの。戻って来たらお父様の肩を頑張って揉んであげるから。お願い今回だけ助けて!」
息継ぎも挟まず言い切ったわ。
我ながら勢いの割には良い事言ったと思う。
息を整えながら上目遣いにお父様を見ると、困ったような笑い顔で口を開いた。
「ウサギは関係ないだろ。」
終わった。私の町探検、終了。
再び全ての顔の筋肉が引っ張られるように下に落ちて、絶望のうちに首がガックリと前に折れる。
「でも無一文だと可哀そうだから少しだけ特別にお小遣いをやる。無駄遣いするんじゃないぞ。」
「えぇ? ほんと? やった! 大好きお父様!」
私の町探検、再開!
このあとお母様のお説教の矛先はお父様に向き、甘やかし過ぎと怒られてまた萎んでいた。
ごめんねお父様。大好きだから許してね。
でもこれで準備は万端! 記念すべきテテの町探検の始まりよ!
6歳1月(1)~(23)までの23話分がひとまとまりのお話しです。
2018年1/1の0時から、2時間毎に1話更新予定です。




