6歳12月(27)
6歳12月(27)
ビノは耳を塞ぐようにして喚きだす。
「嘘だっ!嘘だ嘘だっ!おまえらが俺の父ちゃんを焼き殺したんだ!」
ミンはビノに近づき、耳を塞ぐ手を掴み、真剣な顔で覗き込む。
「嘘じゃない。
村に乗り込んだ彼は、流行り病に罹った人と無事な人を隔離した。
ビノ君やタマラさんを含めた無事な人を小分けにして、村の周りに避難所を作った。
しかし、彼は病に倒れた人の側に残って世話をし続けたのだ。
一人でも多くの村人を救うために。
そのまま避難所にいれば、彼だって助かったかもしれないのに!
そして10日ほど過ぎ、彼も病に倒れた。」
ビノはミンの言葉に縋る様な顔のまま、声も上げずに涙を流している。
「衰弱していく彼はそれでも流行り病に罹った村人の最後の1人が死ぬまで世話をした。
そして、自らが死ぬ間際に僕らへ合図を送ったんだ。
“焼いてくれ”と。」
「おまえらが……。父ちゃんを……。」
「そうだよ。僕が命令した。
……彼の最期の合図を見てから、君の父親を何度も何度も声が嗄れるまで呼び続けた。
でも返事が無くなって3日目に、村を焼き払う命令をした。
君のお父さんも、君の育った村も、全て焼き払ったのは僕だよ。
そして君のお父さんは、その命と引き換えに、君とタマラさんを救ったんだ。」
「父ちゃん……。とうちゃああぁぁぁん!うわーん!」
ビノが大声で泣き叫ぶ。
タマラさんも涙を流しながらビノの手をしっかりと握っている。
「タマラさん、二人ともこんなに痩せて、義父さんの家へ行ったのではなかったのですか?何かあれば僕に頼ってくれって言ったじゃないですか!」
「ミンさん、ごめんなさい。義父が流行り病を生き残ったのは悪い精霊に魂を売ったからだといって、私たちを奴隷にした上に酷い仕打ちをしたのです。私は必死の思いでビノを連れて逃げ出しました。それ以来、放浪しながら何とか生きてきましたが、女手ひとつな上に逃亡奴隷では仕事があるわけもなく……、もう食べていくことも……。」
タマラさんはその細い腕で泣き叫ぶビノをひしと掻き抱くと、悔しそうに涙をこぼす。
「僕は、村に向かう彼と最後に約束したことが2つあります。ひとつはこの流行り病をいつか完全にやっつけること。もうひとつはタマラさんとビノ君、おふたりが幸せに暮らすことです。
僕と一緒に住みましょう。僕の親友が命をかけて守った人を、僕も命をかけて守りたい!」
「あぁ、あなた、今も私たちの傍で見守ってくれているのね。ありがとう。ミンさん……。うぅ。うわぁぁぁ。」
ビノとタマラさんとミン。三人で抱きしめ合うように大声をあげて泣いている。
良かった。本当に良かった。
私も目から涙がこぼれているけど、それを拭うこともしなかった。
なぜなら悲しい涙じゃなかったから。
「ゴヒャク!ポーインツッ!」
お母様!?
周りで感動している人も含めて、涙を流している皆が驚いて振り返ると、同じように涙を溢れさせたお母様が500と書かれた札を立てている。
なんという空気クラッシャー!涙が引っ込んじゃったわ!
いや、この結果発表後のタイミングで、500ポイント追加ってありなの!?
◆◆◆
結局、お母様の最後の500ポイントは有効となり、補給部隊は逆転優勝。
2位の歩兵部隊との差はたった8ポイントだった。
ミンの願い事は「全国民へ予防接種するためのキャラバン隊設立」。
お母様はもちろん快諾。これでミンは2つの約束を果たせることになった。
優勝を掻っ攫われた歩兵部隊も私たちも、皆が心からミンを祝福した。
さあ、大掃除のご褒美はここからが本番よ!
「皆、今年も良く働いた!来年も良い年にしよう!フェリース・ナターウ!」
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」
お母様の乾杯の合図で、ナタウ大宴会の始まりだわ!
待っていましたとばかりに太鼓が陽気なリズムを響かせる。
ムビラ(親指ピアノ)の音で身体が勝手に動き出す。
そこかしこで乾杯の大合唱が立ち上がり、そこらじゅうに焚かれた篝火に照らされる空気は、1万人の盛り上がりを示すように赤く染まっている。
「うひょー!ご馳走だす!食べ放題だす!美味しさの海に飛び込むだすよ!」
フマは大興奮で、長いテーブルの上に並ぶ料理を片端から食べて回る。
アディルも、カイサも、オニカも、デデも初めて体験するナタウに浮かれて興味の向くまま、あっちやこっちへフラフラと徘徊している。
私も初めて飲む甘いジュースを片手に、砂糖がたっぷり使われた贅沢なデザートを、大きな皿に山の様に盛り付けて、幸せを噛み締めている。
そんな私の前に、ビノがこっちを向いて恥ずかしそうに立っていた。
「あらビノ。もう、悪い精霊に生まれ変わったりしない?」
「や、やめてくれよ!忘れてくれ!」
「いやよ。一生忘れない。ビノが間違った道に進もうとするたびに、何度でも言うわ。」
そう胸を張って答えて、ニヤリとビノに笑いかける。
「……頼んだ。」
それを見たビノも照れくさそうに返事をして、ニヤリと笑い返す。
2度目に見るビノの笑顔は、なんとも幸せそうだ。
「お父さん、凄く立派な人だったんだね。」
「そうだな。……でも、こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、生きていて欲しかったな。俺と母ちゃんのためだけに、他の村人を見捨ててでも、父ちゃんに生きていて欲しかったな。」
生き残った村人にとっては英雄だったかもしれない。でもビノとタマラさんにとっては誰よりも生きていて欲しかったのはお父さんだ。どちらが正解だったのかは分からない。でも正解なんて無いのだろう。
ビノとタマラさんが生きている。こうして今日、笑っている。それで良いとしよう。
ビノは涙が零れない様に夜空を見上げている。私も一緒に空を見上げると、薄雲の向こう側、満月一歩手前のお月様がぼんやりと大きな暈をかぶって、私たちを照らしていた。
あれー?あれれ?
あの雲の向こうに見え隠れしているけど、お月様の手前を何か飛んでいる!?
遠すぎてちっちゃい上に、逆光でシルエットしか見えないけど、確かに動物が曳くソリのような……。
あれがもしかして白髭のサンタさん!?
「ガハハ!ショナの民なら笑え!」
突然現れたワルダーが、ムキムキした丸太のような腕でビノと私の背中をバンバンと叩く。
ビックリして二人で飛び上がった。
「亡くなった者は覚えている限り、ずっと我らと共にある。
おまえの父親も、今まさにおまえを守っておる。
だから泣くな、悲しむな、笑え!
明るく笑って、前を向いて生きよ!
それがショナの民の生き方だ!
ガハハハハ!」
酔っぱらったワルダーはビノの頭がガクンガクンと揺れるほど乱暴に撫でつけ、去っていった。
唖然としてワルダーを見送った私たちは、二人して目を合わせると、どちらともなく声を上げて笑い出した。
「俺な、絶対に近衛軍に入る!父ちゃんとミンの約束は、俺が完成させるんだ!じゃあな!」
「待ってるわよ!近衛軍では私の方が先輩なんだからね!悪い精霊にならないように叩き直してあげるわ!」
苦笑いしたビノが、タマラさんとミンのところへ駆けていく。
笑顔でビノを迎える2人はもうすっかり家族に見える。
今日で長く感じた大掃除とナタウの大宴会も終わりね。
今年は色々と盛り沢山だったわね。
初めての町の外の世界、お兄ちゃんたちと出会ってリルカ探検隊を作って、学校に通って、蜂と戦って、焼鳥焼いて、お仕事して。
来年はもっともっとこの世界を探検したいな。
白髭のサンタさん、プレゼントは探検装備一式と探検資金が良いです。
まだお空を飛んでいたら持って来てね。
空を見上げるといつの間にか薄く広がっていた雲も途切れ、星々が瞬く夜空に流れ星が1つ。
あれがお返事だったら嬉しいな。
「リルカ~!こっちの肉の塊はヤバいぜ!ハンパねぇ!」
オニカの隣でデデもニコニコ手招きしている。可愛い。
「わての胃袋は暴走カバ状態だす!早く来ないとリルカの分の料理は無いだすよ!」
「こっちは大人向けの味付けであるな。お子様なリルカにはまだ早いのである。」
「リルカ!早く来ないとフマが食べ尽くすぞ!」
お兄ちゃんたちが待ってる!楽しんでこなきゃ!
来年も良い年になりますように!
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●今月のお母様のお取り寄せ万歳!『キャッサバ』
キャッサバはブラジルの中央部辺りを原産として1万年前から栽培されていた。
栽培はとても簡単で、茎を地中に挿すだけで発根し、多少の乾燥や暑さ寒さにも負けず生育する。
茎の根元に数本の芋が付く。芋は両端が尖った細長い形状となる。
作付面積あたりのカロリー生産量はあらゆるイモ類、穀類より多くデンプン質の生産効率は高い。しかし食用とするためには毒抜き処理が必要なことや、毒抜きのために皮や芯を除去した芋はその場で加工しなければ腐ってしまうのが弱点である。
味と食感は甘味の少ないサツマイモに似ている。キャッサバの粉を用いたパンなども作られる。(例:ブラジルのポン・デ・ケイジョはキャッサバ粉で作られ、ポルトガル語でチーズパンという意味である。)
将軍はポルトガル商人に依頼してキャッサバを南アメリカから取り寄せ、大規模に栽培を始めた。
サバンナの気候に合うキャッサバはどんどん収穫量を増やした。
そしてこの時期、のちに小氷河期と呼ばれる100年近い寒冷期によって収穫量が減ったモロコシを補完し、国民に安定的な食事を与えることに成功した。
次話より6才1月に進みます




