6歳12月(24)
6歳12月(24)
さらに進むと馬車の周りに子供たちや幼児を抱えたお母さんたちが集まっていた。
「あれは補給部隊。流行り病に罹らないための予防接種ね。簡単に言えば御呪いをしているの。」
「お前らの御呪いだなんて、信じるものか!流行り病にそんなもの効くわけないだろ!」
お母様の説明にビノが食って掛かる。
「急にどうしたのよビノ!失礼ね!お母様は史上最高の白魔術師よ!」
「だったら、なぜ、おれの父ちゃんを殺した!?」
「え?ビノのお父さんは殺されたの?それとも流行り病だったの?」
怖い顔で睨んでくるビノに、何と声を掛けたら良いのか困っているところへ、補給部隊の隊長、ミンが駆け寄ってきた。
「将軍!牛化人痘は順調です!これで完全に天然痘を根絶できる。国中に広めねば!」
興奮気味に話すミンが、私とお母様に挟まれた男の子に気が付く。
「おや?ビノ君!ビノ君か!?大きくなって。」
「え?ビノはミンと知り合いなの?」
「こんな奴知らねえよ!誰だよおまえ!」
私がビノに尋ねると、ビノは困惑したように否定する。
「そうか忘れてしまったか……。気にしないでくれ。悪かったね。」
とても哀しそうな、それでいてビノを慈しむ様な、複雑な表情のミン。
「なんだよ。気持ち悪いな。」
それを見たビノが肩をすくめて吐き捨てる。
「そうだ!ビノ君は種痘してないだろう?良い機会だから今やってあげるよ。」
「え!?なんだよそれ!いらねぇよ!」
「あーもー!君は絶対に種痘しなきゃダメなんだ!いいからおいで!」
ギンシャリの上で抵抗するビノをミンが強引に担ぎ下ろして馬車へと連れて行く。
こんな強引なミンは見たことがない。意外だわ。
私たちも慌ててギンシャリで追いかける。
「なんだよ!種痘って?なにするんだよ?」
「種痘っていうのは、天然痘という流行り病を予防するために一度弱い天然痘にかかることだよ。」
「ふ、ふざけんな!弱くても関係ねえ!流行り病なんかにかかったら死んじまうじゃねぇか!人殺し!」
「暴れてないで種痘を受けなさい、ビノ。この種痘は昔より遙かに安全になっているんだから大丈夫。リルカなんてもっと小さい時に済ませたのよ。それともビノは怖いの?」
「え?ちょっとまってお母様?私は種痘なんて受けてたの?」
「そうよ。3歳になった頃、針でチクッと腕を刺されたでしょ。」
「ああ!なんか針で刺されて、その後1週間くらいずっと寝ていなさいって言われて退屈だったわ!あれが種痘だったのね。」
「そうだ。将軍は自らの身体と、リルカ姫を実験台として安全を証明したのだ。この牛化人痘法はそれをさらに安全に進化させたものだ。天然痘にかかった人の膿をウサギの金タマに感染させると毒が弱くなるなんて誰が気が付くものか。将軍の発見は神としか思えない!そのウサギの膿をさらに子牛に感染させて、その子牛の膿を人間に感染させるんだよ。この種痘で死んだ人を、まだ僕は聞いたことも無い。本当に安全なんだ。」
「ウサギの金タマってなんだよ!そんなもの俺の身体に感染させるなんて鬼か!」
「あーもー!問答無用だ!君はどうしてもこの種痘を受けなければいけないんだ!……あっ!あれを見ろ!あんなところで丸出しのおっぱいが吸われまくっているぞ!いやらしいっ!」
「えぇっ!?……イテッ!ふざけんな!子牛が親の乳を吸っているだけじゃねえか!なにどさくさに紛れて刺してんだよ!」
「ジュッポーインツッ!」
「あはは!今ビノの腕に刺した針が種痘なのね。気を逸らした隙に素早く見事な手際だわ。じゅっぽいんとー!」
「うわー!うわー!死んじまう!」
「ビノ、怖いんだ?3歳の時の私でも大丈夫だったのにみっともないわね!」
私がからかうと、ビノは涙目になりながらもなんとか口を噤む。
さっきからビノに馬鹿にされていたから、ちょっぴり気分いいわ。
泣きそうな不安顔で腕を押さえるビノをギンシャリに乗せて、さらに部隊を回ってポイントをたくさんあげて一日が終わった。
明日はいよいよ最終日よ!
◆◆◆
「第6回 歳末大掃除チャキチャキッ公衆衛生ポイントラリー」。
この無駄に長い名称のイベントもいよいよ最終日。
今日の終わりには、お母様になんでもひとつお願い事ができる優勝部隊の結果発表と、ナタウの大宴会が待っている。
タマラさんには大宴会の準備をお手伝いしてもらって、ビノだけ最後まで私たちと同行することに。
「おまえらに飯を貰った代わりに、最後まで付き合う約束だったからな。」
ビノは嫌々ながら付き合っているような言い方だけど、初日と違って随分とノリノリだわ。
「一緒にお仕事を見て回って楽しいんでしょ?もっと素直になりなさいよ。えいっ!」
急に後ろへ倒した私の背中はビノに受け止められた。
ビノはその後頭部を、鉄の鏃すら跳ね返すお母様のピカピカな胸甲へとぶつける事なく、しかし硬く輝くおっぱいで挟まれるようにそっと押し付けられている。
やるわね。
そう心で呟いてニヤリとビノに笑いかける。
それを見たビノも照れくさそうにニヤリと笑い返す。
初めて見るビノの笑顔は、寂しそうだ。
そうかそうか、このおっぱい大好き男子め。
最後まで同行しているのはこれが目的か。
本当はイヤだけど最終日だし特別サービスしてやる。
「えいえい!」
「えへへ、えへ、や~め~ろ~よ~。」
さらに背中を押し付けるとビノの嬉しそうな声が。
「えべっ!」「ぎゃっ!」
「いい加減にしなさい!」
お母様のゲンコツが私とビノに落ちる。
二人で頭を押さえ、涙目になりながらもニヤリと笑い合った。
◆◆
「ジュッポーインツッ!」
「じゅっぽいんとー!」
早朝から村を歩き回ると各部隊のアピールも激しく、お母様も私もどんどんポイントをばら撒いていく。
そしてお日様も天頂に差し掛かろうかという頃。
「そろそろ終わりの時間も近いわね。アルギィ!現在の各部隊のポイントは?」
「レンジャー!
歩兵部隊550ポイント、
突撃部隊250ポイント、
大弓部隊320ポイント、
奴隷部隊360ポイント、
工作部隊310ポイント、
補給部隊380ポイント、
幼年兵部隊110ポイントです!」
ポイントを記録していたギョロ髭のアルギィから大声の返答がくる。
さすがにポイントは歩兵部隊が大きくリード。
あの群舞はアピールが強い。納得だわ。
それにしても影の薄かった幼年兵部隊のお兄ちゃんたちは大苦戦ね。
幼年兵部隊の仕事である「キャッサバの毒抜きの説明」というのは公衆衛生的に大切なことだけど、
そもそも新しい輸入作物であるキャッサバ自体がまだまだ普及して無い。
それなのに、毒がある農作物だなんて聞かされたら余計にキャッサバを作らないよね。
どうにかキャッサバを作りたくなる魅力も一緒に伝えられないかな。
でもまあ、いずれにせよ今から歩兵部隊を逆転するのは難しい。
優勝は歩兵部隊で仕方ないわね。
……。
そんな常識的な私の考えは、象に蹴り飛ばされたアリンコの様に、儚く空へと舞い散った。
◆◆
「さあ!ここで大逆転チャーンス!次のポイントは何と!
1000ポイントー!」
突如響くお母様の宣言に、私もビノも凍りつく。
「ええー!?今まで私があげたキャンペーンガールポイントが全部台無しじゃない!」
「なんだそりゃ!?やっぱりお前らふざけているじゃないか!」
ほら、ビノもドン引きよ。こんなので良いの?
「そういえばお母様、ポイントって何ポイントまであげて良いの?」
「好きなだけ。」
「え?」
「将軍は好きなだけポイントあげて良いの。」
「千ポイントでも一万ポイントでも?」
「そうよ。各地の村長が出せるポイントは1ポイントずつ。それに対して将軍ポイントは好きなだけ出せるの。ちなみにリルカは1回に10ポイントまでよ。」
「それじゃあ、村長ポイントもキャンペーンガールポイントも意味無いじゃない!」
「意味無くはないわよ。みんながちゃんと頑張って働いたって証拠になるんだから。でもご褒美は私が出すんだから優勝は私が決められるようになっているわね。」
何それ!?
完全にお母様の気まぐれで優勝決めるって言っちゃってるし。
ここ3日間のレースもみんなの頑張りも、全てを平然とぶち壊すお母様はまさに悪魔将軍だわ!
でも悪魔っていう程には極悪じゃないから小悪魔かな。小悪魔将軍。
うん、なんだか可愛らしくていい感じ。
「張り切ってアピールするように各部隊に通達!」
「レンジャー!」
お母様の号令一下、護衛のみんなはいつも通りといったテンション。
一部が伝令として散っていく。
あれれ?こんなとんでもないルールにみんなが無反応だなんて。
「お母様、もしかして大逆転チャンスって、最初から決まってたの?」
「ん?これは毎年恒例よ。みんな知ってるわ。これが無いと盛り上がらないもの。様式美というものよ。」
私は知らなかったわよ!
様式美とかって意味分からないわ!
横を見るとギョロ髭が苦笑いしている。
やっぱりこれで盛り上がると思っているのはお母様だけじゃないかしら。
あれ?
でも1000ポイントあったら幼年兵部隊だって大逆転優勝できるじゃない。
これは、大チャンスだわ!




