6歳12月(21)
6歳12月(21)
村々に散っていく隊員。
各部隊の選抜チームも我先にと最初の村に向かう。
私はお母様の愛馬であるギンシャリの鞍上。お母様と一緒にのんびり揺られている。
護衛と連絡要員のため、ギョロ髭が率いるレンジャー部隊の20騎ほどがギンシャリの前後に分かれて歩調を合わせる。
久々の晴れ間を楽しむようにギンシャリがカッポカッポと陽気な蹄の音を響かせている。
「もう、急に大掃除キャンペーンガールだなんて、お母様も早めに言って欲しいわ。」
「ごめんね。急に思いついたのよ。でもリルカも色々な部隊の仕事を見学できた方が良いでしょう?」
「色々見れるのは嬉しいけど、ちょっとお兄ちゃんたちが可哀そうで。それはそうとお母様、キャンペーンガールって何すれば良いの?」
「そうね、私と一緒に各部隊の仕事を視察して応援して、良い働きだなって思ったらポイントをつけてあげて。私が将軍ポイントを各部隊へあげるところをみて、真似すれば良いわ。」
「ふーん。応援して、ポイントあげて回るのね。」
「レンジャー!最初の村が見えてきました!」
突然の大声にビクッと驚くと、片眉を上げて申し訳なさそうなギョロ髭と目が合う。
そうだ、忘れていた。ギョロ髭の報告はいつも大声だった。
「大きな声にビックリしてごめんなさい。意外と近い村がスタートなのね。」
「王都ツォンゴンベの周りに大きい村が多いのです。しかもこの近辺の村で流行り病が発生するとすぐにツォンゴンベまで危険になるため、重点的に公衆衛生を高めることになってます。」
言われてみればその通りで、ツォンゴンベと人の行き来の多い村で流行り病が出てしまうと防ぎきれない。ツォンゴンベの街中でバタバタ人が倒れていく姿を想像するとゾッとする。
私は真剣な顔のギョロ髭に向かって、キリッと口を結んで頷き返す。
「さて、もう各部隊の選抜チームが仕事を始めております。どの部隊から視察されますか?」
「まずは適当に目についた部隊から見て回る。同行せよ。」
「レンジャー!」
ギョロ髭の返事が大きく響く。
最近漸く“レンジャー!”の掛け声の意味が分かってきた。
話し始めにレンジャー。返事も全てレンジャー。
返事としては以前はYESなのかNOなのか分からないと思っていたのだけど、騎馬部隊の訓練を受けて分かったのは、NOが存在しないということ。
できようができなかろうが、“やる”しか選択肢がないのだから、返事は“レンジャー!”だけで済むの。
命令は絶対で、その命令を問答無用でクリアする人だけがレンジャーになれるんだって。
何を言っているのか分からないと思うけど、私も分からないわ。
会話とか返事とかそんなちゃちな問題じゃないってことだけは確かね。
そんな事を思い出していると目に入ってきたのは、いかにも職人らしい厳つい顔の一団と、その中でも一際目立つ上向きの大きな矢印に見えるキノコっぽい髪型。
「あそこにいるのはキノコ爺よ!まずは工作部隊ね。」
「キノコ爺……工作部隊の隊長、キノトのことか。リルカはあだ名で呼べるほど仲良しなのね。」
「キノコ爺はお茶飲み友達だし、工作部隊の職人さんたちはみんな仲良しだわ。」
「いいことね。職人さんからは色々と教えてもらいなさい。今回の工作部隊は蚊帳の設置をしているはずだわ。」
キノコ爺たちに近寄ってみると、虫取り網を持って、子供たちに使い方を教えているようだった。
「キノト。これは何をしている?」
「将軍!それにキャンペーンガールのリルカ。ちょうど良いところに来たのぢゃ。これは蚊帳を設置するための準備ぢゃよ。」
「キノコ爺、なんで虫取り網と蚊帳が関係あるの?」
「昨年の蚊帳設置の後、点検に行かせた部下からの報告では、蚊帳を切り取って虫取り網にしてしまった家が多くてのう。」
「えー?せっかくの蚊帳を虫取り網にしちゃうなんてもったいない!穴が開いたら蚊が入ってきちゃうじゃない。寝れないわ!」
「リルカたちだって、蚊帳を縫って対蜂防護服を自作したじゃない。変わらないわよ。」
「え、あ、ちょっと。それは必要に迫られて……。むーん。」
お母様から至極真っ当な突っ込みを受けて言い訳をしようと思ったけど、自分でも虫取り網も防護服も大して変わらないなと感じられて言葉に詰まってしまう。
お母様は困っている私を見て呆れた感じに笑うとキノコ爺に向き直って問いかけた。
「それでキノトはなぜ虫取り網を持っている?」
「リルカたちも村の者たちも同じぢゃよ。村の者たちも必要に迫られて虫取り網にしたんぢゃ。だから最初から虫取り網も一緒に用意して配れば蚊帳を壊す必要もあるまい。ちゃんと蚊帳を使ってもらうための工夫ぢゃよ。」
「ジュッポーインツッ!」
「ひゃあ!」
急にお母様はどこから出したのか“10”と描かれた札を掲げて良く響く声で叫ぶ。
私は驚いて悲鳴をあげてしまう。
周りを見渡すと、お母様の声を聞いてキノコ爺は笑顔で部下と一緒に喜んでいて、ギョロ髭は部下に指示を出して何やら書き記しているようだ。
「びっくりした-。お母様?今のは何?」
「将軍ポイントよ。キノトの蚊帳を使ってもらうための工夫が素晴らしかったから10ポイントあげたの。リルカも良いと思ったらポイントをあげなさい。ほら、ギンシャリの脇の袋に札が入っているでしょう。」
見ると鞍の脇にぶら下がった袋に色々な数字が描かれた札がいくつも入っている。
お母様の真似をして“10”と描かれた札を掲げてみる。
「じゅ、じゅうぽいんとー。」
「ダメよ!リルカ!もっと大きな声で高らかに言ってあげないと皆に聞こえないし、嬉しくないでしょ。もう一度!」
「じゅっぽいんとー!!」
「まあ、初めてだから許してあげるわ。でももっと勢いよく言わないとダメよ!」
「これは嬉しいのう。20ポイントも貰えた上に、初のキャンペーンガールポイントはワシら工作部隊のものぢゃ!」
「「「おおー!」」」
工作部隊の見知った職人のおっちゃんたちに歓迎されてちょっと恥ずかしい。
でも私のポイントでこんなに喜んでもらえるなら悪くないわね。
「楽しいのう。好きな物作りして、国民の皆に喜んでもらえて、さらに将軍から給料やご褒美まで貰えるのぢゃ。」
キノコ爺の言葉に職人のおっちゃんたちもニコニコと頷く。
いいなあ。こんな楽しそうにお仕事できる姿。私もこうなりたいな。
「さあリルカ、どんどん見て回るわよ。」
「任せて!お母様!」
◆◆◆
「ガハハハハ!もっとだ!もっと筋肉を震わせろ!あ”っ--!」
「「「「あ”っ--!」」」」
おお?急に飛び込んできたあのダミ声は突撃部隊の隊長、ワルダーだわ。
「お母様、突撃部隊のお仕事はなんだっけ?」
「ノミやダニの退治よ。」
「……。筋肉を震わせるような仕事じゃないわね。ノミやダニ相手にどんな筋肉が必要なのかしら。」
ノミやダニを並べて筋肉を魅せつけるようにポージングする突撃部隊を想像してげんなりとした私の顔を、お母様が後ろから覗き込んで苦笑する。
そしてお母様は手綱を操りギンシャリの鼻先をダミ声のする方向に向ける。
「ほらリルカ、考えていないで突撃部隊を見にいくわよ。」
お母様の明るい声に元気をもらい、開き直って進むと、
その異様な儀式はすぐ目に入った。
「「「「あ”っ--!」」」」
それは堰を切った川の鉄砲水のように押し寄せる黒い筋肉が1つの家を飲み込む様だった。
100人ほどいるだろうか。それぞれ身体をぶつける様に押し合いへし合いながら家を囲んで筋肉を震わせたポージングを決め、声を上げる。
黒い筋肉に飲み込まれた様に見えて、しかし家の出入口に続く形で人が1人通れる程度に通路が開いている。
その通路を住んでいる人が慌てて飛び出てくる。
「ガハハ、突撃〜!」
「ヒャッハーー!」
家が無人になったのを見計らった突撃の号令と共に何人か家に押し入り、布や草束のような物を持ち出すと待機している馬車に投げ込んでいく。まるで強盗だわ。
あの馬車は“野外釜1号君”だわ。キノコ爺自慢の炊飯用の馬車。なんでそこに?
「ワルダー!これは何をしている?」
「ガハハ、強制筋肉執行だ。ノミダニ退治を拒否されたが、わしゃあ、ぐちゃぐちゃ説得などできん。」
お母様の問いにワルダーは悪びれる様子もなく胸を張って答える。
拒否も困るけど、問答無用ってどうなの?それに強制筋肉執行って何よ?
「ジュッポーインツッ!」
「お母様っ!?」
お母様は“10”と描かれた札を掲げて高らかに叫ぶ。
「何よリルカ。これは良い仕事よ。ちゃんと布は煮沸しているし、草束は燻蒸しているわ。それに公衆衛生の観点から1つでもやらない家があると意味が無いの。その1つから流行り病が発生したら終わりだもの。そして強制といっても誰かを怪我させるような暴力は一切使ってない。許せる範囲よ。」
「ガハハ!良い仕事をすると飯が旨い!筋肉もよく育つわい!」
ワルダーがこれ以上無いほどのドヤ笑顔を振りまきながら黒い小山のような筋肉に深い渓谷を作るようなポージング。ナイスバルク。
むむ、家族の意思よりも流行り病の方が大事なのね。でも強制なのはいいのかなぁ。うーん。納得できるようなできないような。
「やい!ふざけた遊びしやがって!おまえらの極悪非道な仕打ちは絶対忘れないからな!」
私がキャンペーンガールポイントを出そうか迷っているところに、
急に見覚えの無い男の子が近寄ってきて、まだ声変わりもしていない高い声で怒鳴ってきた。
この子は誰??




