6歳12月(20)
6歳12月(20)
「第6回!歳末大掃除!チャキチャキッ!公衆衛生ポイントラリー!」
「「「「「うおおおおぉぉぉぉ!」」」」」
レンジャー部隊の隊長、アルギィこと“ギョロ髭”(リルカが勝手に呼んでいるあだ名)の野太い掛け声に合わせて、広場に集まった近衛軍一万人が気合の入った雄叫びをあげる。
「ねえ、なんでも知ってるカイサあにき。なんか色々と分からないお題なのだけど、とりあえずチャキチャキってどんな意味?」
雄叫びの中、幼年兵部隊として整列している私は、隣で興味無さそうに丘の上の開会式を眺めるカイサに顔を近づけると、頭の上に浮かぶ疑問符をぶつけてみる。
「“チャキチャキ”は手早い仕事ぶりの事であるな。」
自分で聞いておいて変な話だけど、カイサから簡潔な解答が即座に返ってくることに驚いた。
「すごいわ、カイサあにき!本当に何でも知ってるのね!」
「ふふん、自分も疑問に思って、将軍に直接聞いたのである。」
「まあ、実際は語呂が良いとか、勢いが良いとかそんな理由で言ってるだけだと思うぞ。」
アディルが丘の上で続く開会式をボンヤリと眺めながら会話に加わってくる。
「へー。アディルにいさんも物知りね。さすがリルカ探検隊の副隊長だわ。あと、このポイントラリーっていうのは何?」
「その辺は学校で教えてくれたぞ!リルカも授業に参加してただろ?」
「おいら知ってるぜ。リルカはその時間、机にヨダレ垂らして寝てたって。」
横から会話に加わったオニカとアディルが呆れたような目を向けてくる。
特にオニカは呆れた視線に加えて、握った両手を腰の左右に当てる“ラットスプレッド”のポージング付きだ。背中の筋肉を広げてアピールしているのであって、決して“怒って叱りつけるポーズ”ではない。脇の向こう側に見える広背筋が良い形だわ。キレてるキレてる。
「みゃはは。ごめんなさい。教えて、カイサあにき!」
二人の視線を逸らすようにカイサへと向き直る。
「は~。またであるか。このポイントラリーというのは、王都であるツォンゴンベの町を中心に約100km四方に散らばる、約1000もある村々、その村を巡って大掃除や害虫害獣の駆除をするのである。」
「それならいつもお母様がやっている巡回と同じね。」
「将軍がやっている巡回と違うのは、近衛軍の各部隊が出動して、それぞれの仕事でポイントを争う点である。
今回のルールは、2種類のポイント獲得方法があって、
まず1つは、各部隊が1000の小さな村々に隊員を派遣して仕事をする。その仕事ぶりを村長に見てもらって一番役に立ったと思う部隊がポイントを貰える、通称“村長ポイント”である。
もう1つは、各部隊の代表となる選抜チームが、順路の定められた主要な村で仕事をして廻り、その仕事ぶりを将軍に見てもらって良い仕事をするとポイントを貰える、通称“将軍ポイント”であるな。」
「なんだか楽しそうね!ポイント集めるとどうなるの?」
「各村長ポイントと将軍ポイントの合計で、1番ポイントを集めた部隊が優勝である。そして優勝した部隊にはご褒美として将軍にひとつだけお願い事ができるのである。」
「将軍に“お願い事”ができるなんて機会は年に一度、この時だけなんだぞ。」
興味無さげなカイサに代わって、アディルがニヤリと笑ってお願い事を強調する。
「お願い事かあ。何をお願いしてもいいのかな。ワクワクするわね!私たちはどんな仕事をすればいいの?」
「各部隊で仕事が決まっているんだ。
補給部隊が流行り病にかからなくなる白魔術のまじない。
工作部隊が蚊帳の設置。
突撃部隊がノミ、ダニの駆除。
歩兵部隊がトイレ設置・清掃と堆肥作り。
大弓部隊がネズミや害獣の駆除。
奴隷部隊が牛糞ケーキ作り。
そして俺たち幼年兵部隊はキャッサバ毒抜き方法の説明だぞ。
選抜チームはもちろん俺たちの小隊だ。今まで幼年兵部隊が優勝したことは無いらしいが、今回はリルカが居るし、俺たちなら分からないぞ!」
アディルが自信に満ちた顔で頷く。
「他の部隊の仕事は内容がいまいち分からないものもあるけど、私たちの部隊はキャッサバね!お母様がお取り寄せして新しく広めている農作物のイモだわ。今の説明に出てこなかったレンジャー部隊と斥候部隊は何するの?」
「レンジャー部隊は各村でトラブルが無いか監視したり、村長からポイントを集める連絡係など裏方の仕事だから、ポイントラリーには参加してないんだ。」
「そっか、イベントの裏方が必要だものね。じゃあ斥候部隊は?」
「デデがいうには、斥候部隊は公衆衛生ではないけど“別の大掃除”っていうのがあって別行動らしいぜ。な?」
同年代の中でも背の低い方であるデデは、12歳なのに大人と変わらないくらい身体の大きなオニカに向かって、上目遣いでコクコクと頷く。可愛い。
「“別の大掃除”って具体的に何するのか分からないけど、斥候部隊もお掃除を頑張っているのね。その2つの部隊が参加しないならご褒美のチャンスもさらに高まるわ!みんなが張り切るのも納得ね。」
「みんなが張り切っている理由はそのご褒美だけじゃないだすよ!例え将軍からのご褒美が貰えなくても飛び切りのお楽しみが待っているだす!それはナタウだす!」
今まで黙っていたフマが、突然大きなお腹を突き出して、割って入るように会話に加わってきた。
「急にどうしたのよ。ナタウなら知ってるわ!ポルトガル語でキリスト教の“イエス・キリスト”さまのお誕生日のことよね。でもなんでナタウでみんな喜ぶの?」
「大掃除の最終日はナタウの前日だす。毎年ナタウの前日はお掃除を頑張った近衛軍の全部隊でご馳走やお酒を並べて夜通し大宴会のお祭りワッショイだすよ!」
「ええー!?お家の外はそんな事になってるの?毎年お家の中で家族みんなとご飯食べる日だと思っていたわ。」
「毎年、町中を巻き込んでムビラ(親指ピアノ)や太鼓で陽気な音楽をかき鳴らし、朝まで飲めや歌えや踊れのどんちゃん騒ぎらしいだす。リルカの家は町の中なのに、なんで気が付いてなかっただすか?」
「うぅ……、それは“白髭のサンタさん”が寝ている間にプレゼント持ってくるからって言われて、早く寝てたのよ。私が寝ている間にそんな事になっていたなんて。」
「“白髭のサンタさん”なんて初めて聞いたのである。どこの長老であるか?」
カイサが片眉を上げて聞いてくる。
「長老じゃないけど、サンタさんは真っ赤でモコモコした服と帽子を着た、白髪で白髭のお爺さんよ。」
「この暑いのにモコモコした派手な服を着てプレゼント持ってくるなんて、随分とヘンテコな爺さんであるな。」
私の回答を聞いて、カイサはモコモコの服を自分で着ることを想像したのだろうか、暑苦しそうな顔で舌を出す。
「トナカイっていうガゼルのような見た目の動物が引くソリに乗って、空を飛んでプレゼントを持ってくるの!」
「空を飛べるだすか!?わてもそのソリを欲しいだす!大儲けできるだすよ!サンタさんに言えば貰えるだすか?」
私の話を聞いたフマが、空を飛んでくるほどの勢いで空飛ぶソリに喰いつく。その目にはお金しか映っていないようだ。
「良い子にしてないとサンタさんは来ないってお母様から聞いたわ。」
「おいらにはプレゼントを持ったサンタさんなんて来たこと無いぜ。おいらだって良い子にしてたって。なぁ?」
相変わらず筋肉のアピールに余念のないオニカが、小枝のように細身のデデに話を向けると、デデは呆れたように目を細めてフルフルと左右に首を振る。可愛い。
「ナタウの話に戻るが、ナタウから新年までは、一年に一回だけある長期休暇なんだ。休んだり、実家に戻ったり、遊んだりできるぞ。それもみんな楽しみにしているんだ。」
脱線した話を元に戻すのはいつでも真面目なアディル。
「つまり今年一年の仕事の締めくくりとなる日がナタウだす!今の将軍になってから始まった新しいお祭りで、今年で6回目のナタウだす。今ではナタウなくして近衛軍なしだす!わてはこのナタウに参加するために近衛軍に志願したといっても過言ではないだすよ!」
「お金とご飯にしか興味が無くて、掃除なんて嫌いでいつも文句ばっかり言っているフマあにじゃが、今回に限って張り切っている理由も良く分かったわ。ナタウの大宴会に出るご馳走が目当てなのね。」
「ふひひ。でもわてだけじゃなく、近衛軍の全員がこのナタウ大宴会とそれに続く休暇を楽しみにしているだす。」
「楽しみの前の一仕事ってわけか。頑張らなきゃ。」
私たちがお喋りしている間に、丘の上で続く開会式は長い説明を終えて、最後の締めくくりに差し掛かっていた。
「・・・それでは最後に将軍より開会のご挨拶です!」
ギョロ髭の司会によりお母様が前に進み出ると、皆の前で良く通る声を響かせる。
「今年は、“大掃除キャンペーンガール”を将軍と同行させる。リルカ!前に出てきなさい!」
「はっ?はいっ!」
周囲の注目に戸惑いながらも返事を返すと、
整然と並んでいた隊列は左右に分かれ、丘への道が開かれる。
「ええっ!?俺たちの小隊からリルカが居なくなっちゃうのか!?」
私は悲しげなアディルの声を振り切り、後ろ髪を引かれる思いでお兄ちゃんたちを置いて丘の上に駆けつける。
丘を勢いよく登り切り、お母様の隣に並ぶと、目の前に広がる1万人の黒く逞しい軍団から声援が飛んでくる。
「リルカが私に同行する大掃除キャンペーンガールとなる!リルカの出すポイントは将軍ポイントと同等とする。皆、張り切って仕事ぶりをアピールせよ!以上!」
黒い軍団はお母様の宣言に対して足を踏み鳴らして地響きのような雄叫びで応えると、各部隊が早速動き始める。
遠くからも目に見えてガッカリしているアディルは可哀そうだけど、お母様の命令には抵抗できないや。ごめんね。
しかし大掃除キャンペーンガールってのは何をするんだろう?




