表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/128

6歳の12月(13)

6歳の12月(13)


「よくやった!リルカ!愛してるぞ!」


お母様と一緒におうちに帰るとお父様が待っていた。

お父様は私の顔を見るなり私を抱きしめて最大限の愛情表現で褒めてくれた。


「カッとなってやった。反省はしてないわ。」


「偉いぞ!リルカ!」


お父様は抱きしめたまま私の頭をぐりぐりと撫で回す。


「私の大切なおっぱいに触るなんて万死に値するわ!」


「当たり前だ!俺の大事なおっぱいに触るなんて一族根絶やしにしても生ぬるいわ!」


「そうよね!お父様!」


「そうだぞ!リルカ!」


「間違ってないよね!お父様!」


「間違ってないぞ!リルカ!」


「「イェーイ!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぎゃ!(みゃ!)」」


お父様とハイタッチして喜び合っていると、お母様からゲンコツを喰らって、お父様と2人で頭を押さえてうずくまった。


「あなたたち、私の我慢を無駄にして!反省しなさい!

おっぱいおっぱいうるさいのよ!私よりおっぱいが大事なの!?」


蹲ったまま見上げるお母様は、いつもより大きく見える。

さらにお母様は腰を折って怒った顔を近づけてくる。

精神的圧力に押されてお父様と一緒にジリジリと後退する。


「それに言葉で返すならまだしも、暴力で返したら私の我慢が台無しじゃないの!

リルカは動くなって言ったのに動いて蹴り飛ばすし。

お父さんは祭壇から手やら声やら出しちゃうし。

罰として二人とも今晩のご飯抜きよ!」


「「ええー!」」


「そりゃ可哀そうだよ。お母さん。リルカはお母さんを守ったんだよ?」


「そうよ!あんな気持ち悪い豚は早くやっつけた方がいいのよ!ふみゃっ!!」


お母様がまた私にゲンコツを落とす。お母様を見ていたのに防ぐことも避けることもできなかったわ。それはお母様に対する畏怖という精神的な圧力により動けなかったわけではなく、純粋にスピード。またたきよりも速い光速のゲンコツ。これがナイフなら私は何をされたのかも分からずに死んでいたわ。頭痛い。ぐすん。暴力を否定して5秒後にゲンコツで叱るお母様の理不尽さが歪みない。


「リルカ!!ングルウェの外見や名前は本人が望んでなったわけじゃないでしょ!親から生まれたときに授かったものなんだから、それを揶揄するなんて最低よ!」


「うう。ごめんなさい。なんだかングルウェには霊媒師に沢山纏わりついていた黒い影の一匹がくっついていて気持ち悪かったのよ。」


「なによそれ。霊媒師にもングルウェにも影なんて見えなかったわ。リルカ大丈夫?邪気眼が使えるようになるには8年早いわよ?」


「それに喋り方が疑問形ばっかりで意味分からないし、女性を物扱いするし、お母様にみすぼらしいとかみっともないとか、酷い事沢山言ったわ!」


「あぁ……。うーん。まず価値観がまったく違うのよ。ングルウェの価値観では、女は太っていれば太っているほど美人で立派。それに女は子供産んで家事をする財産であって、男の所有物だと思っているわ。」


「え?ええっ!?太れば太るほど美人?じゃあ、お母様に向かって痩せぎす女だとか言ってたのは勘違いじゃなくて本気だったんだ!?お父様もそう思っているの?」


「いや!俺はお母さんのスタイルが最高に大好きだ!この国で最高の美人はお母さんだぞ!」


突然話を振られたお父様は必死に自分は違うとアピールする。


「じゃあ、お父様はお母様のことを子供産んで家事をする財産で所有物って思っているの?」


「いやいや!お母さんは俺より賢くて強くて、俺の最高のパートナーで相棒だ!神様よりも尊敬しているぞ!もちろんリルカもお母さんと同じように特別愛してるんだ。本当だぞ!」


必死に説明するお父様を、私とお母様は少し楽しくなって見ている。


「ただ残念なことにこの国の多くの男は“女は財産で所有物だ”って思っている奴が多いな。」


「ええー!お兄ちゃんたちも私の事を財産って思っているのかな。ヤダー。」


「リルカは特別なお母さんの特別な子供だからそんなことないぞ!リルカの事をそんな風に扱う奴がいたらお父さんに言いなさい。全世界を敵にしてもお父さんが守ってやる!」


急にキリリとした真剣な顔で格好良い事を言うお父様。とても軟弱だなんて思えないわ!


「みゃは!照れちゃうけど格好良いわお父様!ありがとう。」


「それに近衛軍の奴らはお母さんをみているからな。“子供を産んで家事をするだけ”じゃない女性を知っているんだ。だから奴らはきっと単純に女は財産だなんて思っていないぞ。特にリルカは将軍候補だしな。」


「そっか。そうだと良いな。」


「正直な、俺もお母さんに出会うまでは“女は財産で所有物”に近い考えをしていた。王になった途端に覚えきれないくらいの数の女性たちをハーレムとして受け継いだからな。でもお母さんと出会って変わったんだ。女性で一括りにしちゃいけない。一人一人違うんだって。近衛軍のみんなもきっと同じだと思うぞ。」


「お母様が変えてくれたのね。女性を物扱いなんて許せないわ!」


「うーん。リルカ、俺が言いたいことは“女性の物扱いが許せない”って話ではないんだ。確かに物扱いって良い言葉ではないけど、言いたいことはそれじゃない。“女性の選択肢が増えた”ってことなんだ。お母さんと一般の女性では、何が違うと思う?」


「えー?お母様は強くて賢くて綺麗で……。全然違うわ!」


「俺は考えたんだ。重要な違いは、女性に自立する力がある事、じゃないかな。お母さんみたいな人はこの国で二人と見たことがないけど、俺なんか居なくても立派に生きていける。いつでも独立する力があるから、お父さんに不満があったらすぐに離婚されちゃうな。でもお仕事で活躍する分、子供は沢山産めない。

逆にこの国では、男の財産であり所有物であることを望んでいる女性はたくさんいるんだ。物扱いって言葉は適切じゃないけど、男にお金があって大事に大切にさえしてくれるなら、多少不満があっても男の庇護下にいた方が子育てに集中できるからね。子供は5人でも10人でも沢山産んで育てることができるよ。」


「むむー。単純にお母様の生き方だけが良いわけじゃないのね。子供を沢山欲しい人も多いものね。」


「どちらの生き方が良い悪いでもなく、優劣も無い。どちらが自分と相手に合っているかってだけだね。

リルカは子供を沢山産みたいっていう女性に、自立した生き方を強制したいかい?」


「そんなの強制したくないわ。物扱いって言葉が嫌なだけで、旦那さんが大事に大切にしてくれるなら沢山子供を産んで育てることも幸せな生き方だわ。」


「そうだね。でも今、この国では“女性は子供を産んで家事することだけが役割だ”って価値観が定着して固まってしまったんだ。

そんな中で“一人一人の女性に違う生き方がある”、“違う女性もいるんだ”って新しい選択肢を示してくれたお母さんはみんなの固まった価値観をぶち壊すスーパースターなんだよ。才能ある女性がお母さんに続いて活躍してくれたらこの国はもっと豊かになれる。そのためのシンボルとしてお母さんに将軍になってもらっているんだ。俺のことを軟弱だなんて言う奴もいるけど、そんなの気にしないさ。」


「価値観をぶち壊す……。」


「お父さんや近衛軍の価値観は変わって随分経つわ。でも地方にはングルウェのような人がほとんどね。」


「その人たちの価値観をぶち壊すにはどうすればいいの?ングルウェみたいな奴の価値観を変えさせるにはぶっ飛ばすしかないの?」


「リルカ、悪意に囚われないで。

価値観が違うからって悪意を持っては駄目。

彼らは価値観が違うだけで、それ自体には悪意は無いの。自分の知識が当たり前に正しいと思っているだけ。同じようにリルカの価値観や知識も、リルカが当たり前に正しいと思っているだけ。

リルカの価値観を世界中全ての人に聞いたら、どれだけの人が正しいと言ってくれると思う?」


「さっきまでの話を聞いていたら、きっと私を正しいって言ってくれる人は少ないわ!じゃあ私は間違っているの?」


「半分正しくて、半分間違っているわ。価値観なんて全てその程度のものだと思っておきなさい。」


「む、難しいわね。そしたら私は何を信じて生きればいいの?自分?お母様?神様?」


「この世界で信じて良いのは1つだけ。“100%正しいなんてものはこの世界に一つも無い”って事。これだけは揺るぎなく信じて良いわ。100%正しいなんていう奴は馬鹿か詐欺師ね。」


「そんな!自分も、お母様も、神様も信じないなんて辛いわ!いつも不安じゃない!」


「全部信じて良いのよ。ただし全ての半分は間違っていると理解したまま信じるの。そして沢山の友達や、良いと思うものを半分間違いのまま信じなさい。中には自分の意見と正反対の事を言う人もいるわ。それも半分正解なのだから全て学びなさい。そうして沢山の知識が溜まったらおぼろげながら全体が見えてくるわ。それがリルカの中の真実よ。」


「自分もお母様も神様まで、全部半分正解、半分間違い……。それは素直に何も疑わず100%信じて生きるより、遥かに辛い生き方よね。」


「そうね、真実なんて必要無ければ、何かを信じて頼って生きれば楽でいいわ。でもリルカには力がある。力がある者はその力を正しく使う為に真実を知る事が必要なの。辛くても真実の欠片をたくさんたくさん集めなさい。特に敵や嫌いな人にもあるはずの真実の欠片を見逃さないようにね。」


「敵や嫌いな人にも真実の欠片が……。」


大好きな人だけ信じて生きていきたいけど、それは許されないのね。

真実の欠片を集めなきゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ