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6歳の12月(8)

6歳の12月(8)


「ということだったのよ!」


「長い!!話が無駄に長すぎるのである!」


必死に説明した私をカイサが即座に切って捨てる。


「リルカ、それが遅刻の言い訳だって?おいらには長すぎて意味が分からないぜ!」


オニカが呆れたように口をヘの字に曲げて頭の後ろで手を組む。

そしてそこからの“アブドミナル・アンド・サイ”のポーズで腹筋と太ももの筋肉をアピールしてくる。最近は腹筋の割れ具合が気に入っているらしい。


「リルカのせいで、わてらまで、罰を受けた、だすよ!?」


私の遅刻のせいで連帯責任といって小隊全員が罰として追加の筋トレを課された。それによって精根尽き果てたフマが、襤褸切ぼろきれのように地面に仰向けになったまま息も絶え絶えに叫ぶ。


デデは頬っぺたを膨らませて上目遣うわめづかいにちょっと怒った様子。可愛い。


「今の説明でリルカが朝起きるくだりは要らなかったぞ。雨かな、とか遅刻とまったく関係がない。」


アディルは特に声を荒げることも無く淡々と冷静にツッコミをくれる。真面目だ。もっとこうツッコミには勢いが欲しいところだわ。


「“いただきます”のくだりも必要なかったぜ。感謝とかどうでもいいって!」


「だし巻き玉子のくだりも邪魔だす!自分だけ朝から豪華なご飯を食べた上に、丁寧に美味しそうに味わいを説明するだなんて喧嘩売ってるだすか!?」


「お茶飲むくだりも関係ないのである。そもそも遅刻しそうなのに優雅にお茶を飲んでるとか腹が立つのである!」


デデは眉をひそめて、無い無い、といった感じに手と首を左右に振る。可愛い。


「うむ。要らない情報ばかりだ。カイサ、リルカの言い訳を的確にまとめてやるんだ。」


「登校中に天幕テントがあった。以上である。」


「うん、おいらにも分かりやすいぜ。」


「そんなことでわてら皆が遅刻の罰を喰らっただすか!」


「罰は私が悪かったわよ。でも天幕テントが沢山あったのも襲われたのも本当なのよ!なんで教官は私の話も聞かずに問答無用で罰の筋トレだったのだろう。天幕テントの人たちが攻めてきたらどうするのよ!?」


「俺たちは誰が来ているか聞いていないが、教官はきっと知っているんだ。だから無視したんだろ。それにしてもそんな年齢の子供なのに剣をもっているのは珍しいな。普通は木の槍がせいぜいなのに、ちゃんと鉄の剣を持たせてもらえるなんて随分特別な身分だぞ。有力部族の子供なんじゃないか?」


「あんな間抜け面の弱っちい子たちが有力部族の子供だなんて、親兄弟の顔が見てみたいわよ!」


「間抜けなのはそれにまんまと騙されたリルカの方だす。」


「おいらはその子たちが弱っちいわけじゃないと思うぜ。リルカが異常なだけだって。」


「アディル!リルカがもってきた剣を見るのである!」


「これは……。うちのトーテムだ。」


「トーテムってなに?」


「リルカはトーテムも知らないだすか!?トーテムっていうのは、その部族や氏族が特別に大事にしている象徴で、一族で代々受け継がれていくものだす。普通は動植物だったり自然物だったり身体の一部だったりして、ちなみにわての一族のトーテムはカバだす。」


「おいらの一族はシロサイだぜ。あと自分のトーテムになっているものは食べちゃいけないんだぜ。」


「自分の一族はサルであるな。一族のあかしとして、トーテムの像や旗を持つことも多いし、今回みたいに武器にトーテムの印を刻んだりするのである。」


「デデの家のトーテムはエランドっていってカモシカのでっかい奴だぜ。お互いのトーテム同士の相性が悪いと結婚できなかったりするんだって。」


「私のトーテムは何なの?」


「リルカは王家だからライオンだす!いつでも散々見ているはずだすよ!」


「ああ!アレがトーテムなのね。ライオンって王様の印なのかと思っていたけど、一族みんなの印だったなんて知らなかったわ。」


「リルカは本当に物知らずであるな。」


「で、俺の一族のトーテムはワシなんだが、この剣にはワシの刻印がある。間違いなく俺の一族だ。悪かったな間抜け面な子供で。」


「あ。あれ……。私そんなこと言ったっけ?今から考えたらなかなか凛々しい顔をしていたような気がしないでもないわ。」


「手遅れである。」


「“洟垂はなたれの馬鹿面”って言ってただす。」


その時、町の方角から駆け寄ってくる3人の子供たち。その顔には見覚えがあった。

さきほど私を襲った子供たちだ!

その子たちはアディルを見つけて駆け寄ると、泣き始めた。


「ごめんなさい、アディル兄ちゃん!せっかく兄ちゃんがくれた剣を、箱のお化けに喰われちゃったんだ!」


「アディル兄ちゃん……。ですって!?」


「リルカが親兄弟の顔が見たいって言ってたぜ。願いが叶って良かったぜ。」


「ああ、俺の弟たちだ。よろしくな、リルカ。」


幸いにしてアディルの弟たちは私の顔を見ていないようで、紹介された私の顔を見ても人見知りするように会釈するだけだった。


「か、賢そうな弟さんたちね。」


「今さらである。」


「“頭悪そう”とか、“理性の欠片かけらもない馬鹿っぽい目”って言ってただす。」


「仕方ないじゃない!いきなり殺されそうになったんだから悪口くらい言うわよ。」


「そうか。お前たちは何で急に箱を攻撃したんだ?」


アディルが弟たちに聞くと口々に箱の恐ろしさを言い立てる。


「逆さまになった子象の箱の化け物が動いていたんだ!」


「きっと悪い精霊が中に入っていたんだ!」


「矢を避けて槍を奪って人を喰らう箱なんだ!」


話をまとめると、子象の絵が逆さまになっているのが子供たちの気に障ったらしい。

確かに可愛い子象の絵だったけど、箱を逆さまにして被ったから子象の絵も逆さまになる。

逆さまの子象が動いているから、気持ち悪い、化け物という理屈らしい。

なんとも理不尽な理由で殺されかけたものだわ。


でもその前にキノコ爺が箱に興味を持った時も、もしかしたら子象の絵が逆さまだったのが気になったのかもしれない。そう思えば絵の向きは重要なのではないだろうか。


「おまえたち、急に矢を射かけたり、槍で突くなんて危ないぞ。中に人が入っていたらどうするんだ。」


アディルの問いかけに弟たちが反応する。


「箱の化け物は俺たちの興味の無いフリで簡単に騙されるようなどアホだったから、そんなアホな人がいるわけないんだ!」


「槍で刺されてもへっちゃらな人なんていないぞ!だからやっぱり化け物だったんだ!」


「アディル兄ちゃん!それに俺、喰われた時に見たんだ!箱の中には大きな目が二つ浮かんでいて、おぞましい異形の醜い顔に、その顔が裂けるほど大きな口が真っ赤に開いて、恐ろしく鋭い牙が2重に並ぶ姿を!あれは物凄い邪悪な精霊に違いないんだ!」


アディルの弟たちは興奮した様子でアディルに食ってかかる。

しかも喰われた子は真っ暗で何も見えずに泣き叫んでいただけなのに何を見たというのか。

リルカ探検隊のみんなが笑いを堪えているのが余計に腹が立つ。


「アホすぎて人じゃないとか言われているだす。ふひひひ。」


おぞましい醜い顔であるな。ふふふ。」


「顔が裂けるほど大きくて真っ赤な口に、恐ろしい牙だぜ。わはは。」


デデは赤い顔を横にそむけてプルプルと震えて笑っている。ムカつく、しかも可愛い。


「そ、そんな邪悪な精霊に喰われて、よく無事だったな。」


アディルは笑いを堪えながら弟たちとの会話を続ける。


「箱の化け物はこの俺を喰ったのが間違いだったんだ。俺は箱の中でさんざん暴れてやって巨大な醜い顔を斬りまくって、最後に右目に深く突き刺したんだ。そしたら邪悪な精霊は泣き叫んで俺を箱の外に吐き出して逃げ出したんだ。危ないから深追いはせずに逃がしてやったんだけど、邪悪な精霊に突き刺した剣は戻ってこなかったんだ。ごめんなさい、アディル兄ちゃん!」


途中まで胸を張って自慢げに嘘の武勇伝をかたる弟は、剣のところで思い出したかのようにしょげてしまう。


「その剣ならほら、返すぞ。」


アディルが剣を弟に返してやると、弟たちは驚きと共に目を輝かせる。


「アディル兄ちゃんが邪悪な悪霊をやっつけて取り返してくれたんだね!」


「あっ!あっちに箱の化け物の残骸があるぞ!」


「やった!さすがアディル兄ちゃんだ!」


「そうだな、俺が箱の化け物はやっつけて剣も奪い返したから、もう戻れ。父さんも来ているんだろ?後で会いに行くから。」


「その時にアディル兄ちゃんの化け物退治の話を聞かせてよ!絶対だよ!」


弟たちは笑顔で手を振って駆け戻っていく。

アディルは弟たちに手を振りながら、思いがけず弟たちに懐かれている姿を見られて面映おもはゆいのか、少し困ったように笑って私たちに語りかける。


「俺の父さんが護衛で来るくらいだから、来ているのは各地の部族長たちで間違いないみたいだ。」


「あの子たち失礼よね!何が醜い顔の邪悪な精霊よ!私にお尻引っ叩かれて泣き叫んでいただけのくせに!」


私は走り去っていくアディルの弟たちに聞こえないように誰に向けるでもない抗議の声をあげる。

その抗議を聞いてアディルが腰に手を当てて軽くため息をつきながらいさめてくる。


「リルカも散々悪口言ってたからお相子あいこだろ。リルカの悪口も忘れてやるから、弟たちのことも無かったことにしてくれないか。知らなかったとはいえ王家の者を襲ったとなれば問題になるからな。」


「“血は燃えなくとも、くすぐる”といって、親族の悪口は例えその場では怒らなくても、ずっと根に持つものなので気をつけろということである。アディルが根に持ったらどうなるか分からないのである。どうであるか?」


カイサはアディルをからかう様に覗き込むと、アディルは片眉を上げてカイサを見た後にそっぽを向いてしまう。


「むぅ。久々に出たわねカイサあにきの良く分からないことわざ。アディルにいさんはそんな根に持つような人じゃないわよ。でもいいわ。無かったことにしてあげる。あの子たちも箱の中身が私だったって気付いてないみたいだし。」


「そうだぜ!細かい事はどうでもいいって!おいら腹減ってきたぜ。」


「そうだすな。わてはアホすぎて人じゃないとか言われないように勉強するだす。もう授業が始まるから学校に行くだすよ。」


フマの一言多い言葉でみんなは学校へと歩き出す。

フマ、いつか覚えてなさいよ!


でもなんで急に各地の部族長が集まってきてるのだろう?

その答えはおうちに戻った時に知らされることとなった。



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