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6歳の12月(4)

6歳の12月(4)


新しい焼鳥は飛ぶように売れていく。そこかしこで食べたお客様の感動の声が上がる。


「焼きたての鳥がシャカリキポン!と舌の上で跳ね回るわ!刺激的な味、腰の曲がった杖突く爺さんも食べた瞬間に背筋伸ばして杖をぶん投げて象すら持ち上げるくらいよ!」


「うほおぉん!止まらない。堪らない。手が自動的に口へと焼鳥を運び続ける!オラは人間製鉄高炉だばぁ!」


「様々な食感の肉が歯を弾き返す!そして鳥の油がまたコッテリとしていて、それをピリリと際立たせて爽やかな後味に変えるこの魔法の粉!宇宙!この焼鳥に宇宙を感じるぞぉぉ!」


「噛むたびに無数の瞬く星のように刺激が走る!この焼鳥一本が香りの天の川やぁ!」


「ふおおおぉぉ!うぅぅまぁぁぁいぃぃぃぞぉぉぉ!ブルルルァァァァブォォォォ!!パァン!」


なんだか変な人たちも混ざって色々と叫んでいるけど、私に分かるのは食べた人がみんな感動しているってこと。

そしてその人たちは食べ終わると二度三度と並び直して焼鳥を追加で買っていく。


「これではすぐに売り切れるだす!」


「大変だって!薪がもう無くなるぜ!」


もう仕込む鳥が無くなってしまったのか、デデが何も刺さってない串の束を掲げて必死のアピールをしてくる。可愛い。


「フマあにじゃ!値上げしましょう!今ならいくら高くても売れるし、売れる数を少しでも抑えられるわ!オニカあんちゃん!工作部隊に行って炭を貰ってきて!荷車もあるはずだからありったけ運んできて!鳥はそろそろカイサあにきとアディルにいさんが戻ってきてくれるはず……。お願い!早く戻ってきて……!」


「待たせたなリルカ!鳥を獲ってきたぞ!」


祈りが通じたのか、まさに今!というタイミングで現れたアディルは、その後ろに50人はいるだろう子供たちを引き連れていた。

子供たちはそれぞれに袋を持っていて、作業机の上に次々と鳥を出していく。


投石スリングは1人じゃ効率が悪いからな。投石スリングで遊んでいる子供たちを組織して、投石スリング部隊を作って鳥を狩っていたんだ。500人でも喰いきれないくらいの量があるぞ!」


アディル自身も大きな袋から鳥を机に出す。机の周りまで鳥で埋め尽くされそうだ。


「やっぱり副官は一味違うわ!アディルにいさん素敵よ!」


私がデデと一緒に飛び上がるように喜んでいるとアディルより更に大きな袋を持ったカイサがやってきた。


「随分と客が並んでいるのであるな!自分も追加の鳥を持ってきたのである!」


カイサはあの後1人で狩ったとは思えない量の鳥を机に乗せていく。

その鳥の量を見た私はこの商売バトルの勝利を確信した。


「みんな聞いて!アディルとカイサ。どちらも最高の仕事をしてくれたわ。これで品切れの心配はない!あとは全力で焼鳥を仕込んで売りまくるわよ!かかれー!」


「「「おおおー!」」」


アディルと一緒に鳥を狩ってきた子供たちも合流して、狭い屋台の中は手伝う子供たちで大混雑。

でも人手の多さはその不都合を補って余りあるほどのスピードを見せる。

価格をあげても品薄感と高級感から更に行列は伸びる。

オニカが運んできた炭は安定した高火力で焼鳥が焼けるスピードを劇的に上げ、さらに炭の香りで今までよりも焼鳥を美味しく仕上げている。


鳥の仕込みはいつの間にか流れ作業のラインが形成されていて、繋げて長くした作業机の端から端まで鳥が移動するうちに、鳥だったものは串の刺さった焼鳥に姿を変えている。

作業する人は同じ場所で同じ作業を繰り返しているため、覚えの早い子供たちの手はみるみるうちに作業効率を上げていく。


「みんな頑張ってー!そーれ!わっしょい!わっしょい!焼鳥わっしょい!」


「「「「わっしょい!わっしょい!焼鳥わっしょい!」」」」


「みんないらっしゃい!焼鳥わっしょい!」


「「「「みんないらっしゃい!焼鳥わっしょい!」」」」


適当に節をつけて歌いだすと、作業をしている子供たちも続けて歌いだす。

こういう単純作業は歌を歌いながらやることでさらにリズムが出て効率が上がっていく。


威勢の良い掛け声はお日様が傾き始めた町中に響き、煙や匂いと共にそろそろ夕食時の腹ペコな人々を呼び寄せる。

時折、子供たちに手伝ったご褒美の焼鳥を振る舞うと余りの美味しさに興奮した雄叫びが上がり、それがまた衆目を集めて盛り上げる。


「なんだよこりゃ。何の祭りだ?」


奴隷部隊の隊長ホルデンが率いる柄の悪い隊員たちは、今日も酒場で憂さを晴らしにやってきたようだ。


「あ!ホルデン!お仕事お疲れ様!1人1本無料でプレゼントするからお酒を飲む前に食べてって!」


葉っぱの皿に乗せた焼鳥を子供に持たせて持っていかせる。


「リルカ姫の串焼き屋さん?なんだか旨そうな匂いだな。まあ、無料なら食ってやるか……。うほー!なんだこりゃ食った事ねえぞ!一緒に飲めば酒も旨いだろうな。おい!てめえら!酒場から机と椅子と酒を持って来い!ここで飲むぞ!焼鳥?これで買えるだけ買ってこい!」


「「「いやっほー!隊長のおごりだぜ!」」」


みゃはは!計算通りだわ!酒飲む人がこの味に我慢できるわけないもの。ホルデンたちの給料は頂いたわ!

周りで酒を飲み始める人が増えて、さらに屋台は賑やかに盛り上がる。


「なんぢゃ?ワシらの炭を無理やり持っていくから文句を言いに来てみれば、串焼き屋さんとな?」


「あ!キノコ爺!私たちが作った屋台よ!焼鳥食べてって!」


「まあ待て。ちょいと屋台の中を見せろ。」


工作部隊の隊長であるキノコ爺は、子供たちで大混雑な屋台の中を見て回る。

そして子供たちに立つ場所や動き方を細かく指示していく。

するとつっかえ棒が外れたように全体の作業の流れが速くなっていく。

大したことは変えていないはずなのに劇的な効率の向上。なにこれ?魔法なの?


「まあ、目立つ改善ポイントはこんなもんぢゃろ。なかなかに素晴らしい製造ラインぢゃて。作業台を増やすとさらに速くなるぞ。」


やっぱりキノコ爺は物事の見え方が全く違う。物作りの神様だわ。

御礼に焼鳥をプレゼントすると、食べて何やら愉快そうに頷きながら去っていった。


加速する製造ライン、加速する焼き台。それに追い付かないのは売り場だ。

お金の受け渡しができるのは私とフマだけ。

子供たちでは計算ができない。

いくら私たちが素早く計算して頑張っても、絶対的に人手が足りなければ現場は回らない。

逆に作業が遅くとも人手さえ増やせれば何とかなるのが現場というもの。


「これで子供たちも売れるようにならないだすか?どうだす?」


フマが忙しい間に作ったものは料金表。

1本の値段、2本の値段といった形式で本数と値段が文字で書いてある。

確かにこれなら計算をしなくても本数で値段が分かる。

しかし年長の子供たちに見せてみると反応が悪い。不安そうな顔が消えない。


「違うわ!この子たちに必要なのはこうよ!」


私はその表を書き直す。ただし文字は一切書かずに“絵”だけで。

1本の焼鳥の絵の横から矢印を引いて貰うべきお金の絵と繋げる。

2本の焼鳥の絵はその分の貰うべきお金の絵と繋げる。

絵によって作られた交換表を見た年少の子供たちは自信に満ちた顔つきになった。


「ほら!これでこの子たちもお会計できるわ!」


「はー。勉強になるだすなあ。」


こうして作られた交換表によって、会計は見た目が同じものを交換するだけの単純作業になった。

売り場にも子供たちが並び、交換表を見ながらどんどん手を動かしていく。

ついに私とフマは後ろから監督しているだけで良くなり、遂に手が離れた。


こうして最初は自分たちだけで必死になって働いて動き始めた屋台は、もうリルカ探検隊の隊員たちが直接動かなくても子供たちだけで回り始めている。

私たちは後ろから監督していて、ミスを指摘したり、遅れた人を手助けするだけになった。

そのうち私たちの役割も年長の子供たちが変わってやれるだろう。


「フマあにじゃ!やったわ!屋台が軌道に乗って動き出したわよ!」


「値段を上げても売れまくっているから、馬鹿みたいに大儲けだすよ!今日一日でわての借金を返済どころかリルカ探検隊みんなでお金持ちになれるだす。しかも子供たちを使えばこれが毎日続くだすね?」


「そうよ!これで美味しい物をいつでも食べ放題よ!」


「甘い物もなんでも食べ放題だすな!」


「おいらの筋トレ用の道具も買えるぜ!」


「自分の弓も新しくできるのであるな!」


「探検の支度もバッチリできるぞ!副官の腕の見せ所だ!」


デデは両手を挙げて喜んでいる。特に買いたいものは思いつかないらしい。可愛い。


「夢が広がるわ!全世界を探検してやるんだから!」


そんな盛り上がりに水を差すような声が聞こえてくる。


「あー!フマ君。なんでサボっているかと思えばこんなところで屋台やってる。あーもう!早く手伝いに戻ってよ!」


文句を言いながら来たのはミン。補給部隊の隊長だ。


「ふひひ!借金は今日で完済するだすよ!世話になったけど、もう本部で手伝う事は無いだす!残念だすな!」


「へー。借金完済できるんだ。お祝いに僕も焼鳥を買えるだけ買っていくよ。また借金ができたらいつでも手伝いにおいで。フマ君ならいつでも歓迎だよ。」


「不吉な事を言わないでほしいだす!これから毎日屋台が繁盛して大金持ちになるだすよ!」


「そっかそっか。じゃ、フマ君、“また明日”、ね。」


「“明日”も“明後日”も無いだす!もう金輪際、本部の手伝いなんていかないだすよ!」


ミンは飄々とした態度で去っていった。

しかしやり取りの中で何やら意味ありげな言葉を残していったのが気にかかる。


「フマあにじゃ、塩を撒いておくといいよ!黒魔術を清める効果があるらしいよ!」


「本当だすか?塩をくれだす!」


フマはミンの去った後に向かって盛大に塩を撒き散らす。

その塩を被るように現れた人にも気が付かないほどに。


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