表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/128

6歳の11月(9)


6歳の11月(9)


今日はお母様と一緒に近くの村々を巡回することに!


たまたま学校が終わって遊びに行こうとすると、お母様を見かけて話しかけた。


「お母様!おタマさんとおスミさんも。みんなでどこかへ行くの?」


「近くの村へ巡回にね。リルカは訓練?」


「今日の午後は専門訓練もないし、お兄ちゃんたちはお仕事に行ったから、特にやること無いの。お料理の練習でも良かったのだけど、おタマさんとおスミさんもお出かけなら無理ね。そしたら何しようかな。」


「何もないならリルカも一緒に来なさい。これも勉強だわ。」


こうして久々にお母様の愛馬であるギンシャリに乗せてもらって、初めての巡回に連れて行ってもらえることになったの。


「久しぶり!よろしくね、ギンシャリ!」


お母様の前に乗せられて、ギンシャリの首筋を撫でると返事をするかのように短く嘶く。

ギンシャリはご機嫌のようで、2拍子のリズムを取るように足取りが軽い速足。


隣には2頭立てで引かれる荷馬車の御者台に、布でグルグル巻きになったおタマさんとおスミさん。

布でグルグル巻きなのは白い肌をできるだけ見せないためですって。暑いのに大変だわ。

前方にはレンジャー部隊の騎馬が3騎、同じく軽快なリズムで足を進めている。

護衛や連絡役として先導してくれているみたい。


私は最近、ギンシャリやレンジャー部隊が乗る馬をみて、羨ましくて仕方ない。

お母様が導入した馬や馬車は本当に速くて、人が歩けば3時間かかる村へ、馬の速足で1時間ほどで着く。

自分専用の馬がいたら、そのと一緒にこの世界を飛ぶように駆け巡るのに。


「リルカは馬に乗れるようになったの?」


「まだ1人で跨れるようになったばかりよ。」


最近、私もたまにレンジャー部隊で乗馬を習っている。

まだ自分専用の馬はいないし、漸く1人で鞍に這い上がれるようになったばかり。


ちなみに軍馬としての練習なのでただ乗るだけではなく、馬を走らせたまま槍や剣を振るったり、弓矢を射る必要がある。

それには裸馬のまま乗馬したのでは安定が難しくてすぐに落馬してしまうため、馬の口にくわえさせるはみ、馬の背中に乗せるくら、足を乗せるあぶみ、馬のひづめを守るための蹄鉄ていてつなど様々な装備が作られた。


「この馬の装備、はみとかくらとかあぶみはお母様が発明したの?」


「違うわ。1000年以上昔からある装備よ。馬を売ってくれる商人が馬と一緒に装備も売りたがっていたもの。」


「そんなに昔からあるなんて!1000年前なんて想像もつかないわ。昔にも頭の良い人がいたのね。」


はみの発明なんて本当に革命的なんだから。

馬の口の奥の方に歯の無い位置があるなんて発見した人も凄いし、そこに棒をくわえさせて手綱を繋いで人の意思を伝えようと考えた人も天才よ。


「それで、装備は買わなかったの?」


「1セットだけ試しに買ったわ。でも使い難かったから工作部隊キノトにお願いして全部新しく作らせたわね。」


馬の装備をキノコ爺たちが作っちゃったのは想像通りだったわ。あの作りたがりな人達が製作可能な装備を買うなんて許すわけないものね。


「リルカも馬に乗れるようになったら自分の馬を持たなきゃね。」


「そうよね!ギンシャリみたいな白くて可愛いがいいわ!」


近衛軍での速足は側対歩。左右片側の前脚、後ろ脚が前後に揃って動く。

この速足だとト、ト、ト、トと揺れも少なくリズムを取りやすいので、馬上から弓矢とかクロスボウを射るための重要な走り方。


そんなリズムでお母様の前に座ってのんびり揺られていると気持ちの良い風と陽気も相まって眠気が襲ってくる。


昨日の夜から降っていた雨も上がって今は流れる雲間からお日様も覗いている。

赤土の地面は乾いているものの、茂みや草木はまだ水玉を残して宝石のように輝いている。

時折吹く乾いた風が暑さと湿気を飛ばしてくれる。

これでおタマさんとおスミさんのお弁当でもあったら最高のお散歩なのに。

でも遊びじゃなくてお仕事だから頑張らなきゃ!


「そういえばギンシャリって名前はどんな意味なの?」


「……。」


返事が無いので振り向くと、お母様が微妙な顔をして黙っている。


「リルカちゃん、うちが初めてそのを見たときに、あんまり真っ白で綺麗だったけん、“白いお米のご飯”を思い出してギンシャリって言うたっちゃ……。」


隣の荷馬車からおタマさんが申し訳なさそうに口を挟んでくる。


「そしたら賢いそのはギンシャリ以外の名前で返事をしなくなった。この食いしん坊が悪い。」


おスミさんの冷たい声も飛んでくる。なるほど、白いお米のご飯という意味だったのね。白い馬を見ていきなり食べ物が思い浮かぶところがおタマさんらしいわ。


「リルカは自分の馬に逢えたらすぐに自分で名前を付けなさい。白雪とかマレンゴとか……ペガサス…照夜玉獅子…マックイーン…。」


お母様は自分でつけたい名前があったみたい。なんか自分の世界に入り込んで独り言をブツブツと言葉にもならない言葉を呟いている。怒っているわけではないみたいだけど複雑な心境なのね。


「はぁ……。ギンシャリ。」


お母様が色々と名前を呟いた後、長い溜め息と共に呟いた名前。

それに大きな嘶きで返事をするギンシャリ。

返事を聞いたお母様はガックリと項垂れて悲しいとも諦めともつかないトホホな顔。

おタマさんは困ったように苦笑い。

ギンシャリ、いい名前だと思うのにな。でもお母様に悪いから話を変えなきゃ!


「それでお母様!今日の巡回では何するの?」


「あ、はいはい、子供たちの様子を見に行くのよ。特に生まれたばかりの子ね。それに村の衛生状態の管理ね。」


良かった。お母様がこっちの世界に戻ってきた。

おタマさんもホッとした顔をしている。


「へー!でもなんでわざわざお母様が行くの?補給部隊の人も巡回しているんでしょ?」


「補給部隊は怪我人や病人に対して応急処置したり町へ運んだりができるけど、子供は怪我や病気をしやすくて繊細だからまだ補給部隊じゃ対応しきれないの。だから一番近くで子供を見ている母親たちへの教育が重要なのよ。私が行くのは母親たちの教育のためよ。」


「母親たちの教育って栄養学に衛生学?そしたら私も教えられるわ!学校の成績だって良いんだから!」


「リルカちゃん。母親さんたちは手強いけん。簡単にはいかんと。」


「おタマちゃん、それが分かるのもリルカの勉強よ。リルカ、自分で母親たちに聞いてみなさい。」


「はーい。」


なんだか“あなたには無理”みたいに言われると頑張りたくなるわね。

お母様が褒めたくなるくらい頑張っちゃうんだから!


ちょうど目的の村が見えてきた。

前もって伝令役が先触れしてあったみたいで、すでに幼児を抱えた女性が大勢集まっている。


小さな小屋が雑然と立つ村の中でも1番大きな建物の前で馬を降りる。

小柄で坊主頭、以下にも長老といったあご髭を蓄えたお爺さんが杖を支えに建物の前で待っていた。


「私は村長に話を聞くわ。先に離乳食を配っていて。リルカも手伝いなさい。」


お母様は村長らしきお爺さんと建物の中へ。

おタマさんとおスミさんは慣れた手付きで荷馬車から離乳食を配り始める。私は二人の後ろで離乳食を器に盛ったりお手伝い。

レンジャー部隊は馬上のまま列の整理と誘導。

幼児を抱えた母親たちも慣れているようで混乱なく整然と並んで受け取っている。


おタマさんとおスミさんはただ離乳食を配っているのではなく、子供の様子を見て母親たちに話しかけている。


「薄めたシマだけ食べさせていたらダメ。野菜や肉をすり潰したものも作って。」


「可愛かね!元気そうだけん、少しづつ離乳食初めて大丈夫たい!」


さらに明らかに衰弱した幼児を抱えた母親は、離乳食を渡されずに荷馬車から離れた場所に待機を命令されて選り分けられていく。


「ねえねえ、おタマさんおスミさん、あっちの子たちはなんだかすごく弱っているよ。離乳食あげてくるね!」


「待って!あっちの子たちはリルカ姫では手に負えない。」


「おスミさん、大丈夫よ!ご飯をあげるだけだから!」


おスミさんを振り返ることもせず荷馬車を下りたら、離乳食の入った器を並べたお盆を持って、離れた場所で待機している母親たちのところへ。


私の栄養学と衛生学が炸裂するんだから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ