6歳の11月(6)
6歳の11月(6)
「反省会を開きたいと思います!」
リルカ探検隊における第一回目の記念すべき冒険が大失敗の上、全員脱落という不名誉な結果を迎えたあの日から7日後、定例会議に6人全員が揃った。
腫れもすっかり引いてみんな後遺症も無く元気な様子。
「この間、勝手に抜け出した罰として基礎訓練が倍になったのである。それで終わりじゃないのであるか?」
カイサはうんざりした顔になっている。
あの日は直接お尻叩きなどの罰やお説教はなかったけど、治療のため絶対安静だった期間が終わると早朝からのランニングや小隊訓練など毎日のメニューが倍になった。まだ蜂に刺された後の痛みで身体中が辛い時だったので、厳しさは倍を遙かに超えていたと思う。
「違うわよ!なんかの罰って話じゃないわ。」
「金ならもう無いだす!」
フマは焦ったように宣言する。
フマは蜂蜜猟師から無事にハチミツを仕入れて、約束していた相手には渡せたが、切れた縄や割れた甕の代金を請求されて大赤字な上に借金を背負っていた。借金は補給部隊のミン隊長に立て替えてもらって、本部であの辛い手伝いをすることでちょっとずつ返済をしているらしい。
「安心して、お金の話でもないわ。」
「おいらの必殺技はまだまだ改良中だぜ。」
オニカは珍しく申し訳無さそうにしている。
実は突撃部隊では必殺技は認可制になっていてワルダー隊長に見せて認められないと必殺技と名乗れないルールだった。それなのにオニカは無認可で必殺技を名乗った上、安易に使って味方をピンチに陥れたということで隊長からこってり絞られている。あの必殺技は名称に相応しい技になるまで使用禁止になっていて、今は非常に厳しく筋肉を鍛え直されて改良中らしい。あの名称に相応しいって隊長が認めるような技をオニカが使いこなしたら間違いなく世界一だわ。だって究極疾風筋肉旋回蜜蜂乱舞(アルティメットマッスルサイクロンハニービーダンス)よ。ハンパないわよね。
「必殺技の話でもないわよ。」
「じゃあ、反省会って何するんだ?」
アディルが訝しげな顔で聞いてくる。
「この前の冒険は失敗だったわ。その原因を確認するのよ!」
「失敗の原因は黒魔術だす!きっと誰かが呪いをかけていたに違いないだす!」
フマが即座に大真面目な顔で言い放つと、他の4人が大きく頷く。
「ふむ、きっとそうに違いないのである!」
「とんでもない野郎だぜ!見つけたらおいらがぶっ飛ばしてやる!」
「次は白魔術をかけてもらってから行くべきだ!」
デデも真面目な顔で頷いている。可愛い。
なんだかみんな、誰かが急な事故や病気に遭うとすぐに黒魔術のせいにするの。黒魔術は嫉妬や恨みを持った人が使うことで相手に災難をもたらすって信じられていて、呪いのようなものね。みんな頭から黒魔術が存在するものだって信じているから、なんでも黒魔術のせいにしているけど、絶対に黒魔術じゃない原因だってあるはずよ!
「みんな本気で言ってるの!?考えるのを放棄しちゃダメよ!あれは黒魔術なんかじゃないわよ!自分たちにいくらでも原因があったでしょ?」
「わては悪くないだす。蚊帳の服を渡したアディルがいけないだす。」
フマがアディルを指差す。
「俺は悪くないぞ!服の解れた脇の部分を縫ったのはカイサだ。」
アディルがカイサを横目で見る。
「自分は悪くないのである。暴れたオニカがいけないのである。」
カイサはオニカの肩に手を乗せる。
「おいらは悪くないぜ!縄が切れたのがいけないんだぜ。」
オニカは堂々と腕を組んで胸を張っている。
デデは涙目で首を左右に振っている。可愛い。
「ちがーう!反省会は他人のせいにしたり、他人の責任を責めるための会じゃないの!ちゃんと原因を確認しないと、次にまったく同じ失敗を繰り返すでしょ!」
「おいら、次は蜂に負けないぜ!」
「最後まで頭を低く我慢するのである。」
「次の蚊帳の服は前より上手く縫えるぞ。」
「ハチミツは最初から買うだす。」
え?デデはまた助けを呼んでくれるって?可愛い。
「ちがうちがーう!それじゃハチミツ採りにしか役に立たないでしょ!それにハチミツはもう買った方がいいわ、採りにいかないわよ!そうじゃなくて、今度違う冒険をする時にも役に立つように、お互いの直すべき点とかを話し合うのよ!」
「そんなお互いに気分悪い事を話し合って何の役に立つのであるか?」
「みんな結局生きてたんだ。問題ないぞ。」
「そうだぜ!もっと楽しいこと考えようぜ!」
「金儲けするだす!」
「ダメー!!もう話にならないわ!まず最初に私が反省するから黙って聞いてなさい!」
「「「……。」」」
「んー。こほん、えっと私は隊長として今回の失敗に責任を感じているわ。1番大きな反省は撤退の判断ができなかった事ね。崖を見た段階で無理って判断して、一旦帰って作戦を練り直せば良かったわ。それを“ハチミツ食べたい”とか“とりあえず近くまで見に行こう”とか“秘密兵器”とかで心が動いてしまってズルズルと止められなかったの。その結果が大失敗よ。私はもっと強く心を持って、早い段階で決断できないといけないわね。」
「じゃあリルカが全部悪いだす。」
「リルカが悪かったのであるか。」
「リルカは筋肉に耳を傾けないのが悪いぜ。」
「だからそういう事じゃなくて!みんなにも改善点があるんだって!」
「ちょっと待て、リルカ。もし撤退して作戦を練り直したとして、何を準備できたと思うんだ?」
「え?それは……。もっと丈夫な蚊帳の服とか、全員分の蚊帳の服とか、切れない縄とか、かな?」
「そんなの全部失敗したから言えることだ。失敗する前にそんな事予想できないぞ!」
「そこは頑張って考えてさ、色々な事態を想定するのよ。準備するのが大事ってアディルにいさんも言ってたじゃない。」
「頑張って考えた結果があの蚊帳の服だ。それが甘かったのは認めるが、あまり考え過ぎると逆に何も行動できなくなるぞ。それにリルカが一度撤退してゆっくり考えたとして、やっぱり無理ってハチミツを諦めたと思うか?」
「……。きっと諦めなかったわ。」
「じゃあ、結果は同じだ。みんな生きてた。それで良いんだ。」
「むむ~。でも隊長として、もうみんなをあんな危険な目に遭わせたくないのよ!どうしたら良いの?探検隊が、みんなが成長しないとこの世界を見てまわる大冒険の前に死んでしまうわ!」
「おいらの筋肉が今より千倍強くなる!!」
「自分が今よりもっと役に立つ知識を集めるのである!」
「わてが今よりガッツリ楽ちんに資金を集めるだす!」
デデが両手を握り締めて口の横まで挙げ、口を一文字に結んで真剣に私を見ている。
今より頑張るって事ね。可愛い。
「俺が今より慎重に死なないように準備する!」
みんなを見回すと、どこにも何にも根拠はないはずなのに何とも自信に満ち溢れた頼り甲斐のある表情で私を見つめている。これは理屈じゃないんだわ。そう感じると直したい点や改善点とかいって、細々としたルールや制限で彼らを縛ることがなんだかとっても無駄な気がしてくる。
「あともう1つ別の方法があるんだ。探検隊を解散すればみんなが危険な目に遭わなくなるぞ。どうするリルカ。解散するか?」
「絶対に解散しないわ!みんなと冒険したい!」
「じゃあ、これでいいんだ。みんなそれぞれ危険に負けないように強くならなきゃいけないぞ。」
「危険の無い冒険なんて無いのである!」
「危険を乗り越えてこそおいらの筋肉が輝くぜ!」
「危険の無い商売なんて儲からないだす!」
デデがニコニコと小さくファイティングポーズして私を見ている。
一緒に危険と戦ってくれるって事ね。可愛い。
なんだか誤魔化されたような気もするけど、今はダメなものを突いて直すより、それぞれが得意なものを伸ばす方が大事だと思ったわ。
なにより、みんなが次の冒険も一緒に乗り越えてくれるつもりでいるのが嬉しい!
「うん、じゃあ次の冒険までに、みんなで強くなろうね!」
「「「おー!」」」
こうして私が反省するだけで反省会は終わったわ。
でも話し合えて良かったと思う。
次の冒険こそ成功しますように!




