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6歳の9月(3)

6歳の9月(3)


さっそく幼年兵部隊に向けて駈け出すと、

ギンシャリに水を飲ませてあげているお母様に呼び止められる。


「リルカ!どこにいくの!」

「前にいるお兄さんたちを見てきちゃダメ?すぐ戻ってくるから。」

「馬車からご飯を貰って食べておきなさい。この後は夜まで食べられないのよ。各部隊はお仕事中だから行動を乱してはだめ!」

「はーい。ご飯貰ってきまーす。」


ご飯を貰って、幼年兵部隊のお兄さんたちと一緒に食べてもいいよね。お仕事中っていっても、みんなもご飯食べているんだから行動を乱してないものね。

とりあえず進行方向を変えて馬車へと赤土の上を走る。身体を動かすのが気持ちいい。

走る足が小石を蹴る。ブーツを履いているから気にならない。

今日のために1か月前から履いて慣らしていたお母様が用意してくれた特別なブーツ。

柔らかくなめされた牛革で脛まで隠れているから小石を蹴飛ばしても尖ったものを踏んでも大丈夫。

でも足が重いから、みんなみたいに裸足で走りたいな。


馬車に辿り着くと、たくさんの幼年兵たちがわちゃわちゃに集まって木の皿を上に掲げている。


「今日は特別な日だからおかずもあるぞ!味わって食べるんだぞ!」


今日は特別におかずありってことは、いつもはおかず無しなの?厳しいね。

馬車の上では補給部隊の人が叫びながら次々に木の皿に白い塊や何かのおかずを盛っている。2人がかりの作業だ。

これはご飯が貰えるまで時間がかかりそう。


しかし近づくにつれて馬車の異様な形状が目立つ。

まず馬車は木でできているわけではないみたい。ほとんど布や紐が巻きつけられているが所々にのぞき見える部分が鉄だ。

馬車の底の部分は四角い形の箱になっており、正面の穴から薪がくべられて燃えている。

その上には四角い釜が何個も並んでいて、馬車の上に立つ補給部隊の人が額に汗を浮かべながらその中から白い塊と、スープを掬いだしては皿に盛っている。

つまりこれは鉄でできた大きなカマドに車輪をつけて馬にひかせているんだ。

馬車なんて初めて見たけど、しかも食事を作るためだけの専用馬車。

……こんな馬車を発明したお母様ってものすごく食いしん坊なんだなあ。


とりあえず近くの違う馬車が配っているお皿とお水を貰って手を洗ってから、ご飯を配る馬車に近づこうとするけど、後から後から人が来て押しのけられてしまう。

私の背が小さいからお皿を上に掲げてもお皿の位置がみんなより随分低い。これでは補給部隊の人からは見えなくて食べ物を盛ってもらえそうにない。

よし、みんなの足元を潜り抜けて、馬車の手前に立っているお兄さんの背中によじ登ろう。

そう思って突撃しようとしたところに大きな怒鳴り声が響く。


「こらー!ガキども!リルカ姫の前を開けんか!」


周りのお兄さんたちが一斉に振り返って私を見ると、馬車まで一人の幅の道を空けてくれる。

見ると筋肉ムキムキな身体で大きな戦槌ウォーハンマーを背負ったお爺さんが、馬車の前で腕組みをして待っている。

この人は、頭の形が三角形というか上向きの矢印というか。

もじゃもじゃした白髪交じりの髪がすごいボリュームで左右に広がり、上に向かって尖がっている。

正面から見るとキノコを被っているみたい。

でも前後には膨らんでないから、本当に大きな上向きの矢印。

これは寝る時どうしているのだろう。絶対寝返りできない。

恐る恐る馬車に近づくとお爺さんは二カッと笑って話しかけてきた。


「ようこそリルカ姫!この馬車は将軍の発明の中でも大傑作、野外釜1号君ぢゃ。」


そういうとお爺さんは私の後ろに回って両脇を抱えて馬車が良く見えるように持ち上げてきた。

逆らうと面倒が増えそう。おとなしく持ち上げられておこう。お腹すいた。


「ワシが作ったんぢゃ!見てみい!この最高作品を。これができたときワシは残りの生涯を将軍に捧げると決めたんぢゃ!」


へー。そうなんだ。とりあえずこの人はキノコ爺と呼ぼう。このキノコ爺もお母様と同じで食いしん坊なんだね。

あ、馬車の上に乗った補給部隊の人が目の前にいる。やった!ちょうどいいから今のうちにお皿にご飯盛って盛って!

白い塊はシマだね。シマは穀物の粉にお湯を加えて練ったもので、今日はモロコシのシマだ。シマはこの国の主食で、基本的に味はつけずに、おかずと一緒に食べるもの。

おかずは煮た豆だったよ。質素だけどお腹すいたから美味しく食べられそう!

すっごい山盛りにしてもらった。3人前くらいあるかな。


「こいつがあれば半刻で500人の食べ物が用意できる。いつでもどこでもすぐに炊き出しができるんぢゃ。

それがどれだけ革命的なことか。どんな尊い意味があることなのか分かる奴がほとんどおらん!たくさんの人の命が救えるというのに!

ワシの職人人生においてもっとも意味のあるものがこの野外釜一号君ぢゃ。そもそもこの発明は……。」


なにかキノコ爺が難しいことをいってる。話が長いね。

それはひとまず放っておいて、抱き上げられたままだけどお味見。

いただきます!勢いよく煮豆をつまんで口にいれる。

うっ。時が止まる。襲ってくる衝撃と混乱に目がくらむ。

例えるなら牛乳かと思ってグイッと口に含んだら白い日焼け止めの液体だったような、想像していた味と口に含んだ味が全く違うものだった時のような焦って混沌とした脳内。

いつもおうちで食べる煮豆は甘いの。でもこれは塩辛い。

味付けが塩だけでしょっぱい上に食感がモソモソしていてなかなか飲みこめない。

シマはもともと味がついてないので、シーマを口の中に入れてしょっぱさを和らげる。

しかしシマもわりとモソッとした食感なので、口の中が水分不足のパッサパサのモッソモソ。

喉が詰まりそうになって慌てて水で流し込んだ。

ふぃー。いきなり死にそうな危機に陥ったけど、相手は狩りの動物じゃなくてご飯だった。


周りを見渡すとお兄さんたちは目の色を変えてガツガツと食べているみたい。おかわりもしている。

でも手元のお皿をみて、もうひとくち食べようと思っても手が止まってしまう。

食べられないのは私だけみたい。おうちで食べるお料理はいつもとっても美味しいのに、こんなに違うなんて。

せっかく食いしん坊なお母様とキノコ爺が作った最高傑作である野外釜一号君なのに、作った食事が美味しくない。

残すわけにもいかず、唸りながら皿に盛られたご飯とにらめっこしていると、私を抱えていたキノコ爺が急に私を地面に降ろして、聞いてくる。


「よいな!」


「は、はいぃっ!」


何を言っていたのか途中から聞いてなかったので、とりあえず振り向きざまに元気に返事してみた。


「そうか。うむ。頼んだぞ!」


キノコ爺は満足そうな笑顔でウムウムと頷いている。

何を頼まれたのか知らないけど面倒なことになりそうだから早くここを離れよう。

とりあえず食べられないお皿は持ったままとして、幼年兵のお兄さんたちの所に行くのだ。

キノコ爺に手を振り、お皿を抱えたまま人混みをくぐり抜けて急いで馬車から離れた。


みんな座り込んでご飯に夢中だけど、ちゃんとそれぞれの武器を傍らに準備している。

馬に乗ったレンジャー!な部隊の1人が周辺を歩き回って警戒している。

良く考えたらまだ狩りをしていない。移動しているだけだ。

動物は鳥くらいしか見かけない。

これだけ大人数で移動していたらみんな逃げちゃうね。


混雑している馬車の周りから抜け出て、ようやく落ち着いた。

さあ、さっき移動中に見かけた幼年兵のお兄さんたちを探そう。

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