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6歳の11月(1)

6歳の11月(1)


11月は雨季の始まり。8月の半ばから始まる暑い乾期を越えて、今月から恵みの雨が多く降る季節。

植物は喜び、動物や鳥たちはそこら中にできる水たまりで喉を潤し、細くなっていた川は大きく広がる。


農作物は今からの季節が勝負。

朝は晴れて夕方から雨が降ることが多いため、農作業は早朝から動き出す。


補給部隊が管理する農地では近衛軍はもちろん、幼年兵まで駆り出されて、みんな総出で畑を耕して苗を植える。種じゃなくて苗なのはもちろんお母様の発明。苗を食べ尽くす鳥や動物たちから作物を守るのは近衛軍のお仕事。ぐるっと柵を巡らせて朝も夜も警戒を怠らない。雑草を抜いて苗につく害虫を取り除くのは奴隷部隊や幼年兵のお仕事。みんな素手で虫を潰していくが、虫が苦手な私は小枝を2本、お箸のように使って取り除く。お兄ちゃんたちには器用だなってからかわれる。


そんな11月のある日、アディルから招集がかかる。

休憩時間にリルカ探検隊のみんなが集まったのはいつもの学校近くの丘の上。

いつもの岩に腰かけて何の用かと聞いてみれば……。


「探検隊の定例会議ですって?」


「そうだ。探検隊の副隊長になったのに何もしていないと気持ち悪いから、とりあえず何をするべきか話し合うための定例会議だけでも始めることにした。」


本当にアディルは真面目で有能だわ。名前だけの役職を押し付けただけなのに自分で仕事を作ってしまった。


「良い!すごく良い!探検隊らしくなってきたわ!」


「おいらは別にいいぜ!」


リルカ探検隊、初の定例会議。


デデはニコニコと頷いている。


これから会議と探検を何度も繰り返して難問難関を乗り越えて。


「まあ、いままでのお喋りと大して変わらないのである。」


まだ見ぬ景色もまだ食べたことない味も体験していって。


「それで、何を話しあうだす?」


世界が、夢が、どんどん膨らんでいくわ!


「まずは探検をするのに必要なものは何なのかだ。おい、リルカ!聞いているのか?」


え?なに?私?

咄嗟に今やりたいことが口を衝いて出てしまう。


「甘い物が食べたいっ!」


みんなが苦いものを食べたような顔になって私に注目する。


「リルカ、自分で隊長だっていうくせに会議を聞かないとはどういうことだ。」


アディルがため息交じりに窘めてくる。


「ち、違うわよ!目的よ!探検をするために必要なものはまず何よりも先に探検の目的なのよ!目的が決まっていなければ会議なんて時間ばかりかかって何の意味もないわ!隊長としての強い責任感と果てしない使命感から目的を提案したの!リルカ探検隊の最初の目的は“甘い物が食べたい”よ!」


みんなの冷ややかな視線が痛い。ほんの少し無理なこじつけがあったような気がしないでもないけど、良い事言った感で相殺されて真面目な提案として受け止めてくれる気がしないこともないかもしれない、というかだったらいいな。


しばらくの沈黙。


……。


「じゃあまず探検するのに必要なものから話し合うぞ。」


アディルに無視された!?


「ちょっとちょっと待ってくれって。甘い物に関してはおいらに考えがあるんだぜ。」


「わーん!オニカあんちゃん大好き!何々?どんな考え?」


「最近素早さの筋肉を鍛えるトレーニングしていて気が付いたんだ。おいらな、アイツ、れると思ってんだ。」


「アイツって何?」


右側に座るデデはきょとんとした顔で首をかしげている。可愛い。


「アイツだぜ……蜂だ!」


「蜂…。甘い物…。ハチミツってことであるな。」


「わあ!ハチミツ!強烈に甘いわよね!最高だわ!」


「でも、ハチミツを取ると怒った蜂に刺されるだすよ。」


「そうよ、オニカあんちゃん、蜂が刺してきたらどうするのよ?」


「そこだぜリルカ!おいら、素早さの筋肉を鍛えていて分かったんだぜ!」


「何が分かったの?」


「蜂がこう刺してくるだろう?…こうだぜ!」


オニカは華麗に身を躱して蜂を叩き落とす動きを見せてきた。


「そしたら蜂がここを狙ってくるだろ?…そしたらこうだぜ!」


オニカは身を躱した先に待ち構える蜂を岩も割りそうな重い蹴りで撃ち抜く動きを見せる。


「これはまずいと思った蜂は3匹で囲んでくるだろ?…こうして!こうして!こうだぜ!!」


オニカは回転しながら素早く3匹を叩き落とす動きを見せる。


「オニカあんちゃん、ハンパないわ!」


「だろ?おいらもそう思うぜ!」


ハイタッチして盛り上がる私とオニカに、アディルが真顔で水を差してくる。


「やめとけよ二人とも。たかが甘い物のために危険を冒すことないだろ。それに蜂に刺されると最悪死ぬぞ。」


「たかが!?分かってないわね!アディルにいさん!女の子にとって甘い物は宝石と同じなの!

私たちは普段甘い物なんて全然食べられないでしょ?。その中でもおタマさんの作るような豆の煮物とかは自然なほのかな甘みでそれはそれは美味しいわ。でも違うの!お砂糖とかハチミツみたいな強烈な甘い物は背骨から稲妻が走って全身を痺れさせて脳を焦がすの!頭の中が真っ白になって幸せで満ち溢れるのよ!

女の子は甘い物が必要なの。それはお魚が水が無いと生きられないように、鳥に翼が無いと空を飛べないように、女の子には甘い物が無いと可愛くならないの!

でも甘い物は滅多に手に入らないからそれ自体が宝物なのよ!女の子を可愛くするための財宝。そんな素晴らしい財宝を得るために危険を冒すな?それじゃあ何のための探検隊よ!」


私ちょっと必死すぎたかしら。でも嘘を言ったつもりはないわ。最近甘い物を全然食べてないもの。


「おいらは修行のために蜂と戦いに行くんだぜ!おいらの素早さの筋肉はいまキレッキレに漲っているんだぜ。危険なんて承知の上だって!」


オニカが胸を張って言い切る。こういう時のオニカの格好良さは最高だわ!ところで今さらだけど素早さの筋肉って何だろう?


「わても甘い物を食べたいだす。それにハチミツを取ってきて売れば、探検隊の資金になるだす。」


フマの食い意地と金儲けへの執念は素晴らしいわ!そうね、こういう狩りや採集で得たものを売れば資金もできるわね。オニカが活躍してハチミツが沢山採れて大儲けよ!


「近くの村に蜜蜂猟師ハニーハンターがいたはずだから、彼らに話を聞けば危険も減るのである。それに装備や資金がなくてもできるのは、初めての探検にちょうど良さそうであるな。」


カイサの知識や合理的な判断力は頼りになるわ!蜜蜂猟師ハニーハンターという職業があるなんて知らなかったけど、プロに聞けばより確実にハチミツを手に入れられるわね。凄く重要な情報ね。


デデはニコニコと頷いている。


デデは可愛いわ!うん、それだけでいいの。


アディルは渋い顔になって腕を組んで考えている。


「アディルにいさんはこれだけ揃ったというのに、何を考えているの?

オニカあんちゃんが蜂をやっつければ全てが上手くいくでしょ?

オニカあんちゃんを信じてないの?

動きを見たでしょ?マジでハンパないわよ?蹴りとかドゴーン!って入ってたしドゴーン!って。最後の“必殺オニカグレートローリングマッスル”なんて決まったら、蜂に囲まれても目じゃないわよ。」


「俺はドゴーンって音も聞いてないし、そんな技の名前聞いてないぞ。」


「そうだぜアディルの言うとおりだぜ!それに技の名前は“オニカ流筋肉格闘術48の必殺技がひとつ、究極疾風筋肉旋回蜜蜂乱舞(アルティメットマッスルサイクロンハニービーダンス)おいらの前に出てきたとは運が無い奴だ”だぜ!」


「やっばい!オニカあんちゃんマジハンパない!カッコいい!でも最後の部分は“おいらの前に出てきた不運ハードラックダンスっちまいな”っていうのはどう?」


「おお!リルカやるな!さすがおいらのことよく分かっているぜ!“オニカ流筋肉格闘術48の必殺技がひとつ、究極疾風筋肉旋回蜜蜂乱舞(アルティメットマッスルサイクロンハニービーダンス)おいらの前に出てきた不運ハードラックダンスっちまいな”で行くぜ!」


「「いえーい!」」


ハイタッチして盛り上がる私とオニカに、アディルが眉を顰めて水を差してくる。


「技名長い!ていうか突っ込みどころが多すぎだ!48の必殺技って他の技はなんだ?」


「まだおいらの筋肉の中に眠っているからおいらにも分からないぜ!」


「決まってないのか!なんで48なんだ?」


「昔、将軍が突撃部隊うちの隊長に言ったらしいぜ。“筋肉を極める男なら48の必殺技くらい持て!”ってな!」


「さすがお母様、言うことが痺れるわ!」


「まったく意味が分からん!」


腕を組んで難しい顔のまま突っ込み続けるアディルにカイサが近づく。


「“ヌーの群れに飛び込むヒョウは子ヌーを得る”というのである。何もやらなければ得る物がない、そこはどう思うのであるか?」


カイサがまた聞いたことの無いことわざを言ってアディルを畳み込む。凄い説得力だわ。今日のことわざは分かりやすいけど、子ヌーって言い方がなんだか可愛いわね。


「むぅ……仕方ない。分かった。だが危険は危険だ。せめて、いくつか装備を相談してからだ。」


やった!ついにアディルが納得してくれたわ!


「よっしゃ!今度の専門訓練の日にみんなで抜けていくぜ!」


「儲けはみんなで等分だすよ。」


「一度、蜜蜂猟師ハニーハンターを尋ねて、蜂の情報を聞いてくるのである。」


デデはニコニコしている。可愛い。


「いよいよリルカ探検隊、初めての冒険よ!」


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