6歳の10月(21)
6歳の10月(21)
今日はリルカ探検隊のみんなで、休憩時間にお弁当を食べているの。
いつもは一日二食だけど、若い私たちは食べ物があればいくらでも食べることができるわ!
補給部隊の本部から帰った翌日、酷くヘロヘロになっていたフマから渡された牛肉を使って、おタマさんが頑張って料理してくれた。
フマに渡すはずだった報酬のお弁当は、おタマさんの頑張りで全員が食べられるくらいの量になったので、みんなでお弁当パーティよ!
「この報酬は全部、頑張ったわてのものだす!みんな、わてに借りひとつだす!感謝してじっくり噛んで食べるだす!」
「フマあにじゃはちゃんと約束の牛肉の佃煮も貰ったんだから。私も途中まで頑張ったし、その分のご褒美ってことで良いでしょ?」
「リルカがあんな方法で逃げるとは思わなかっただす!」
「ごめんって何度も謝ったじゃない。」
フマは完全に朝になった頃にようやく解放されて、フラフラになって戻ったところに幼年兵の早朝の訓練とランニングのダメージで倒れたの。しばらく寝かせておいたら復活したけど、涙ながらに何度も何度も補給部隊本部で朝まで処理を続けた辛い話を聞かされたわ。
「フマあにじゃは結局、工作部隊と補給部隊とどちらに入るの?」
「両方掛け持ちで入ることになりそうだすな。両方覚えた方が儲かりそうだす。」
「リルカはどこにするんだ?」
アディルがお弁当を頬張りながら聞いてくる。
「そうね、全部の部隊を回ったし、そろそろどこか選ばなきゃいけないわね。」
「自分らのいる幼年兵部隊は、毎年、卒業試験が行われているのである。全部の勉強と訓練が終わった者から試験を受けることができて、毎年死者がでるくらい厳しいという話である。部隊に所属するのはそれからなのでまだ時間はあるが、リルカが部隊を回った感想はどうだったのであるか?」
カイサがお弁当を食べるのを一休みして聞いてくる。
「うーん、じゃあ、まず歩兵部隊ね。
一斉に同じ動きをするのが踊っているみたいでとても綺麗で格好良いのだけど、
その中に入ってみんなとぴったり同じ動きっていうのが私には合わないし、歌や楽器は好きだけど、旗や身振り手振りの連絡方法を全部覚えるのは大変そうだなあ。」
「歩兵部隊が最高だと思うけどな。」
アディルが不満そうに口を挟む。
「次に突撃部隊ね。
性格は豪快で、規則もゆるくて個人的にはすごく好きなんだけど、
この部隊は筋肉がすべてで、女の子が入りづらいのよね。
私もどちらかといえばこの部隊みたいに自由に戦いたいけど、
筋肉ガチムチになってガハハって自慢している自分を思い浮かべると…。悩ましいわね。」
「リルカも筋肉の友になればそんなつまらない事、気にならなくなるぜ!」
オニカは最近大きくなった気がする上腕二頭筋をアピールしてくる。
「あと大弓部隊ね。
あの踊りを覚えなきゃいけないとか無いわ。
そもそも大きな弓はまだ私の手足が短くて引けないのよね。
今はお母様が練習用にと簡単に作ってくれた子供用弓矢を使っているけど、
基本の練習はできても全然飛ばないから遠くを狙えないの。
どちらにしても大弓部隊は身体が大きくなるまでお預けかな。」
「自分もあの踊りだけは嫌なのである。」
カイサは暗い顔をしてこぼす。
「斥候部隊も行ったわね。
何でも知っているのは楽しそう!
でも私は王族だから秘密活動とか絶対無理だし、軍隊で偵察するより戦って暴れる方がいいな。
所属はしないけど、たまに訓練には行くわ。」
デデがニコニコとして頷く。可愛い。
「キノコ爺の工作部隊ね。
物を作ったり、道や砦を作ったりするのは凄くワクワクするんだけど、
物作りを極めるには時間がかかりそうね。
自分で自分の道具をメンテナンスできるくらいには覚えたいけど、
工房に籠ってずっと研究したり鍛錬しているのも性に合わないかなって思っているの。」
「まあ、必要な分だけ覚えて、あとは専門家に任せれば十分だす。」
フマはそっけなく返す。
「最後に補給部隊ね。
人手不足で普段からすっごく忙しいのよね。
見学に行ったとき、みんなヘロヘロになっていたし、
私が行くと探検とかする時間が無くなっちゃいそう。
でもとりあえず補給部隊の調理班を作って、訓練や戦場で出るご飯を美味しくするべきだと思うの。
そのためだけなら補給部隊に入るのもありだわ。」
「わてもそれなら補給部隊に行きたいだす。」
深く頷くフマ。
「まあそれはともかくとして、近衛軍っていうか、むしろこの国全体が、工作部隊と補給部隊に支えられていて、この二つの部隊がなければ成り立たない、ってことが良く分かったわ。
どれもこれも、全部お母様が作ったのだから、凄いわよね。」
「ふむ、そうなのか。俺もその二つを見学してみるべきかもな。フマ、俺が見学に行くとき一緒に行かないか?」
「もうコリゴリだす。ひとりで行くだす。」
アディルはフマにあっさりと断られて当てが外れた顔をしている。
私もコリゴリだから目を逸らしておこう。
「そういえばもう一つ部隊があったぜ!レンジャー部隊っていうのが。」
オニカの言葉で以前の狩りでの姿を思い出す。
「以前の狩りで、レンジャー!って叫んでいた人たちね。私たちの担当教官もレンジャー部隊所属だわ。そういえばレンジャー部隊は見学ができなかったわね。」
「各部隊からレンジャー部隊に入隊希望した人が、いま自分たちがやっている幼年兵の訓練の10倍以上厳しい訓練や試験をクリアすると、レンジャー部隊になれると聞いたのである。」
「10倍以上って、ちょっと想像もつかない厳しさね。」
「レンジャーになれると馬が貰えるだす!さらにレンジャー部隊は基本的に騎馬部隊だけど、実は全部の部隊の仕事や技術が使えるって噂だすよ。」
「俺もそう聞いているな。剣も槍も弓もつかえて、工作部隊の罠も、斥候部隊の偵察も、補給部隊の治療もできる。そんな超絶エリート部隊だってことだ。」
「どんな厳しい訓練なのかしら。絶対そんな訓練受けたくないし、レンジャー!とも叫びたくないけどね。」
「リルカがそんな訓練受けるには筋肉が今の5倍は必要だぜ!」
オニカが冷やかしてくる。
「いや、身長も50cmは足りないようであるな!」
カイサが乗ってくる。
「いやいや、脳みそも今の3倍は必要だす!」
フマが調子にのって口を出す。
デデは心配そうに私の肩に手を置く。
「なによりリルカは泣き虫だしな。」
アディルが真顔で告げる。
「ちょっとみんな、言いすぎよ!お弁当もうあげないから!」
「「「(わはは)(あはは)(フフフ)(ふひひ)(ニコニコ)」」」
……。
ああ、楽しかった。みんなでお外でお弁当を食べるの大好き!
早くリルカ探検隊のみんなと探検に出かけたいな。
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「なに言ってるのよ。リルカは最初からレンジャー部隊で確定よ。」
「ええーっ!」
晩御飯の時に久々にお父様とお母様が揃っていたので、各部隊を回った感想と、できれば補給部隊でご飯を作りながら他の部隊をちょっとずつフラフラしたいなって希望を告げた後のお母様の返事がこれ。
「リルカは王族なんだから、レンジャー部隊に入るのが当り前よ?」
平然とした顔で本当に決まっているかのように話すお母様。
「え、だって、各部隊を回って自分で決めて良いんじゃないの?」
「ああ、レンジャーは全部の部隊の仕事ができないといけないから、各部隊の隊長から許可を貰わないとなれないの。報告は受けているわ。みんなレンジャー部隊に適正有りだって。こんなに早く許可を集めるなんて、よく頑張ったわね。」
「適正有りって何がどう適正なのよ!?」
「幼年兵を卒業するまでは各部隊を回って訓練しながら、レンジャーの訓練も並行して受けることになるわね。忙しくなるわよ!」
ニコニコ顔のお母様と複雑な顔のお父様。心配顔のおタマさんと我関せず顔のおスミさん。
私が泣きそうな顔でみんなの顔を見渡してもお母様の手前、誰も助けてくれなさそう。
助けてお兄ちゃんたち!
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●今月のお母様のお取り寄せ万歳!『馬:アラブ種』
アラビア半島の遊牧民、ベドウィンにより改良が進められた品種。基本的に小柄で華奢な体躯だが、耐候性、耐久性に優れる。
シマウマは気性が荒くて馴致が難しく、騎馬や馬車には向かないため、将軍のお取り寄せにより、アラブ商人やポルトガル商人を介して千数百頭が輸入された。
国内では馬車や騎馬、農耕など様々な形で活用されている。
他国に騎馬兵が無く、サバンナの平原が多い土地であることから、レンジャー部隊の騎馬兵は圧倒的な突撃力を発揮するが、将軍は主にその機動力を生かした伝令兵として活用している。
将軍の愛馬である「ギンシャリ」の白毛は極稀に発生する突然変異。
こういった突然変異の馬は悪魔の仕業と忌避されるか神の馬となるかどちらかだが、今回は売りに出ていたことから忌避された馬だったようだ。
次から「6歳の11月」がスタート。




