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6歳の10月(20)

6歳の10月(20)


私は続けて書類を処理していく。


「こっちは食料購入届、こっちは資材購入届だわ、各部隊が買いたい食料や資材はここに注文が来るのね。どうしたらいいの?」


「ここに相場表があるだす。数量と価格をチェックして、合計額を計算しなおして、正しければミンに渡すだす。」


学校で習った掛け算とか足し算は、こういう時に使うのね。得意で良かったわ。


「これは傷病者治療報告書だって。各部隊や村の一覧の隣に数字があるわ。補給部隊は近衛軍だけじゃなくて村の人たちも治療しているの?」


「疫病の発生や災害をチェックするために村の治療も必要だす。特別大きな数字が無ければそのままミンに渡すだす。変な数字があったらその村に人を派遣して調査するように指示書を書くだす。」


補給部隊がこの国の病院になっているのね。それだけでも大変なお仕事だわ。


「馬車・牛車・荷車メンテナンス案だって。これは何?」


「こっちに交易計画書と隊商計画書、納入計画書があるだす。全部の使う馬車、牛車、荷車の数を計算して、そのメンテナンス案でメンテナンスをすると馬車や牛車が足りなくなったりしないか確認するだす。大丈夫ならそれと同じ表を各部署に渡すので、4枚作ってミンに渡すだす。」


なにこれ、パズルなの?ここの馬車をこうしてこうして…この隊商の馬車が足らないじゃない!ここに余裕があるからこう入れ替えて……このパズルを完成させてから4枚も同じものを書くの?うへー。


「やっと終わったわ。今度は交易売却物リストだって。これをどうしろって?」


「次の交易で売却するものとその売り先だす。こっちに取引先別交易禁止品リストがあるから、禁止品が紛れ込んでないか確認してミンに渡すだす。」


「農地拡張計画書は?」


「補給部隊でも農地を独自に開発していて、購入する食料を減らしているだす。地図で他の用途と被ってないか場所を確認、人員と資材の費用を計算して、5年間の収穫予想額の範囲内に収まっているか確認して、ミンだす。」


「模擬遠征兵站報告書?」


「前回と前々回の報告書と比較して数値の増減をまとめて、ミンだす。」


「馬・牛管理報告書?」


「頭数の増減を確認して、今後必要な頭数の発注書を書いて、ミンだす。」


「隊商ルート変更届?」


「新しい村ができただすな。その隊商の運搬量に余裕があればそのままミンだす。運搬量が規定を越えそうなら新しい隊商の設立申請書を作成してミンだす。」


「実験農作物収穫報告書?」


「将軍が色々な植物を海外からお取り寄せしていて、それを栽培できるか実験しているだす。目標収穫量を超えていなければそのままミンだす。もし目標収穫量を超える農作物が出てきたら新しい農地拡張計画書を書くだす。」


「食品加工報告書?」


「収穫したもろこしを粉にしたり、狩ってきた動物の肉を燻製にしたりした作業報告書だす。こっちに食料品在庫管理台帳があるから、増減を記入して、ミンだす。」


「ぷはーっ!ちょっと休憩!随分減ったんじゃない!フマあにじゃ!流石だよね私ら!」


私とフマの間にあるテーブルの上を埋めていた書類の山は、最初の半分以下にまで減っている。


「なんでフマあにじゃはどんな書類でも処理できるの?分からない書類なんてなかったじゃない。」


「専門訓練が始まって最初の頃に散々やらされたからだす!」


フマは私に返事をしながらも、書類から目を離さずバリバリと処理していってる。

すごいなあ。フマは意外と仕事ができる男だったのね。


ここまでの書類を処理して補給部隊の仕事が色々と分かったわ。

軍の水と食料を補給して、

各部隊の資材を仕入れて、

馬車や牛車や荷車で物の運搬をして、

隊商で各村々の物流を作って、病院にもなって、

外国と交易して、

新しい農地や作物を開発して

保存食を作って備蓄しているのね。


……。

補給部隊って、近衛軍どころじゃなくて、この国の中枢なのではないかしら。

こんな量の書類を隊長が一人で処理しているのをみると可哀そうな気がするけど、書類が処理できないと国の血が止まってしまうっていうのも間違いではなさそうね。


「リルカ!いつまで休憩してるだす!?さっさと書類に戻るだす!」


「なによ。もうあと少しじゃない。そんなに早く終わらせたいの?」


「何言っているだす!奴らが!奴らが帰ってくる前にこのテーブルの上を終わらせるだす!」


フマが吐く不穏な言葉に私の心が警鐘を鳴らし始めると同時に、入り口から賑やかに人が入ってきた。


「ただいまー!隊長一人にしてごめんなー!」


「今から手伝うから待っててなー!」


「あー!フマ君!戻ってきてくれたのか!」


10名以上の補給部隊員が一斉に戻ってきて、口々に挨拶などを言いながら入り口正面にある私とフマの間にあるテーブルに重い音を立てて書類を置いていき、テーブルの上の書類は最初の倍以上の大きさの山になっていく。


「な、な、なによこれ!」


「間に合わなかっただす。この書類は全部、今日中に処理しなきゃいけないだす。明日にはまたこれと同じ量の書類が届くだす。止めるわけにはいかないだす。」


帰ってきた補給部隊の人たちを出迎えるミンの嬉しそうな声が響く。


「みんなーリルカ姫とフマ君がいれば百人力だよー!」


「うるさいだす!手伝うのは今日だけだす!」


戻ってきた補給部隊の人たちはそれぞれ書類の山積みとなった机の前に立ち並ぶ。

ミンが前に立って真剣な表情で宣言する。


「今からこの書類を今日中に終わらす!この国のために頼む!みんなの命をくれ!」


ミンが泣きながらみんなに向かって頭を下げる


「おおー!」


補給部隊の人たちは悲壮な雰囲気の中に笑顔をもって応えている。


ええっ!なにこの雰囲気!重いなんてものじゃないわ!帰るなんて言えないじゃない。


「リルカ姫!がんばりましょー!」


「リルカ姫、一緒に戦えて光栄です!」


「リルカ姫、僕が倒れたら後を頼みます!」


補給部隊の人たちは私の背中を叩いて顔を覗き込むように爽やかな笑顔で重い言葉を置いていく。

どんどん帰れない方向に追い込まれていくわ。


「リルカ、諦めるだす!こうなったら終わらせるしか帰れる道はないだす!」


「本当に終わるのこれ!?」


カリカリカリ パサッパサッ カリカリカリ……。

補給部隊本部は紙を捲る音と書く音だけに支配される時間が続く。

風が草木を揺らす音が聞こえる。


「あ、暗くなってきちゃった!もう書類が読めないな~…なんて。」


「リルカ姫、気が付かなくて申し訳ない、将軍が輸入してくださったランプがあります。リルカ姫の分もちゃんとありますよ!」


「あ、はい。ありがとう。」


カリカリカリ パサッパサッ カリカリカリ……。

補給部隊本部は紙を捲る音と書く音だけに支配される時間が続く。

遠くで笑いハイエナが笑っている声が聞こえる。


「あ、なんかお腹減ってきちゃったかな~…なんて。」


「リルカ姫!ほら夜食の用意がしてあります。片手で食べられるようになってますから書類を処理しながら食べられる優れものですよ!」


「あ、はい。ありがとう。」


カリカリカリ パサッパサッ カリカリカリ……。

補給部隊本部は紙を捲る音と書く音だけに支配される時間が続く。

虫がカサカサと草を動かす音が聞こえる。


「フマあにじゃ、助けて…。」


「黙って手を動かすだす!逃げろっていったのに、いうこときかないリルカが悪いだす!」


「う、うえ~ん!」


私がえぐえぐと泣き続けてもそんなこと慣れているとばかりに誰も何も言わず書類を処理し続ける。

仕方なく止まらない涙をそのままに私も書類の処理を続ける。


結局帰ってこないのを心配したおタマさんとおスミさんが補給部隊の本部に突入して来て、あっという間に私を攫って帰ってくれるまで、ずっと書類の処理をやらされたの。

もうしばらく補給部隊の本部には近づきたくないわ!


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