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6歳の10月(18)

6歳の10月(18)


3人で工房を見て歩く。


「さて、どんどん紹介しないと日が暮れてしまうな。素材関係からまとめていこうか。皮革職人、織物職人、石工職人、炭職人、煉瓦職人と、こんなもんぢゃな。」


「素材だけでも沢山あるのね。」


「他の国でもこのくらいはあるはずだす。まあ、規模と技術力はずいぶん違うみたいだすが。」


「まず皮革職人は狩りで獲ってきた獲物や牛のかわなめしてかくにするんぢゃ。動物の皮は剥がしてそのままだと脂肪などが固まって板のようにカチコチに硬くなってしまってな。それを使えるように柔らかくすることを鞣すというのぢゃが、叩いたり引っ張ったり揉んだり煙で燻したりして、物理的に鞣す方法もあれば、草木の汁に漬けて鞣す方法もある。中には唾をつけて口で噛むことでも鞣すことはできる。」


「動物の皮は剥げばいいだけじゃなかったのね。知らなかったわ。」


「次に織物職人は繊維を織って布地を作る仕事ぢゃ。ココナツの繊維や最近では将軍が輸入して栽培に成功したラミーという植物も使っておる。将軍の実験農場にある綿花の栽培に成功すれば木綿の布が作れるようになるかもしれないな。」


「お母様が動くと、どんどん新しい仕事が生まれていくわね。」


「石工職人は、他の職人の注文に応じて、石を加工する仕事ぢゃ。例えば矢のやじりは石と鉄のものがあるが、石の部分はここで作っておる。また、リルカ姫の家は石造りぢゃろ。ああいった石積みの建物でも活躍しているんぢゃ。」


「石をイメージ通りの形に削ったり割ったりするのは難しいだす。奥義のように“石にも目がある”とか言われてもまったく分からなかっただす。」


「石に目が付いているの?なにそれ気持ち悪い。」


「その目じゃないだす。」


「木の木目と同じ意味でな、石のこの点を叩くと、こう割れる、みたいな構造が見えるんぢゃよ。まあ熟練しないと分からんな。」


「へー。さすが職人ねえ。」


「炭職人は木を焼いて炭にする仕事ぢゃが、将軍の発明でな、燃える石を焼いて炭にするという魔法みたいな仕事が増えた。」


「なにそれ、燃える石自体が魔法よ。」


「石炭っていうだす。地面に埋まっている石で、よく燃えるだす。それをさらに窯で蒸し焼きにすると炭になるだす。」


「フマ、よく勉強したな。その石炭で作った炭をコークスと呼ぶらしい。将軍の発明だ。これも高炉の秘密の一つぢゃ。」


「高炉は最新技術っていってたけど、秘密が沢山あるのね。」


「秘密はまだあるぞ。次の煉瓦職人がまた大変なんぢゃ。粘土を固めて日干しして焼くと煉瓦ぢゃ。元々焼いてあるからそれなりの温度に耐えられるが、コークスがその温度を大幅に超えてしまったんぢゃ。そのままでは炉を作ってもすぐにボロボロになって壊れてしまうということで、将軍が海外から幾つも素材を取り寄せて、何年もかけて開発が進み、ついにコークスの温度に耐えられる耐熱煉瓦になった。これが無いと高炉も鍛冶場の炉もすぐに壊れてしまう。非常に重要な秘密なんぢゃ。」


「うわー。煉瓦職人がいないと鍛冶もできないんだね。凄いね煉瓦職人。ごめんなさい、ちょっと軽くみていたわ。」


「他国では炭職人も煉瓦職人も職人と呼べるほどの仕事ではなく、他の職人の片手間仕事だったりするだす。こんなに重要なのは、この国だけだす。」


「もう素材系の職人だけでもお腹いっぱいだわ。」


「まだまだ続くぞ。次は武具職人と弓矢職人ぢゃな。武具と弓矢は分かりやすいぢゃろ。将軍の発明する武具や弓矢を大量に生産しないといかん。大楯、短槍、大弓などなど、軍だけではなく狩りにも使うから食料確保にも重要ぢゃな。あとここには特別な研究チームがおってな、将軍の我がままや、ふっと漏らした考えを実現するために人生を捧げると決めた変人たちが頑張っておるんぢゃ。」


「その変人たちのリーダーが師匠だす。」


「キノコ爺がいうほどの変人たちなの?」


「どういう意味ぢゃ!ワシは普通ぢゃ!

彼らは変人ぢゃな。本来の職人とは違うが、創意工夫がずば抜けておる。ワシも将軍もアドバイスはするが、なんとしてでも実現しようという意地があるんぢゃな。そうでなければ将軍の発想についていけん。将軍の胸甲みたいな一品物も作るが、最近だとポルトガル人の持っていたマスケット銃というのを真似して作ったな。まだまだ試作段階ぢゃが。」


「へー。マスケット銃。まだ見たことないや。」


「大型武器も作るぞ。ほら、あそこに置いてあるぢゃろ。」


私の身長の5倍はありそうな長くて太い丸太を使った、スタッフ・スリングのような機材がおいてある。

その下には馬鹿みたいにでっかいクロスボウ。


「何これ、巨人が使うの?」


「投石器とバリスタと呼ぶんぢゃ。でもこの周りの国はあまり砦を築かないので作ったはいいものの使い道がなくてな。」


「変人だから、使い道を考えて作ることはしないのね。」


「変人とはそういうものぢゃよ。」


「変人と天才は鼻毛一本分しか差がないだす。」


「罠職人というものがおる。これも将軍の発案でできた職人ぢゃな。動物を捕えるための罠を作るのが中心ぢゃが、実は戦争で非常に重要な仕事をする。」


「戦争での罠?」


「そうぢゃ、動物も人も基本的に同じぢゃ。罠にかかってくれれば戦わずに勝てるからな。将軍がいうには人に対して作る罠をブービートラップと呼ぶらしい。“まぬけがひっかかる罠”という意味ぢゃ。落とし穴のような大規模な罠もあれば、足を怪我して歩けなくする罠や石とか矢が飛んでくる罠もある。狭い地形に罠を仕掛けて誘い込むんぢゃ。」


「みんな裸足だから、足を狙われるのは厳しいだす。」


「私はブーツを履いているけど、裸足じゃ棘を踏んだだけで歩けなくなるものね。」


「他にも水車職人は川の流れを力にして、モロコシを粉にしたり、ふいごを動かしたりする。歯車を沢山作るんぢゃ。なんかのパズルを解くみたいな仕事ぢゃ。頭が良くないとできんな。」


「わてには無理だす。」


「服飾職人は、布地や革を使って服を作る。これも将軍が発達させた仕事ぢゃな。鍛冶屋が作る鋭い針と糸がなければ成り立たないからな。」


「可愛い服を沢山作ってもらいたいわ!」


「服はアラブ人やポルトガル人がもってくる輸入品しかなかったのを国産化させたばかりなので、まだ輸出できるような複雑なものは難しいだす。」


「馬車職人は馬車、牛車、荷車を作る職人ぢゃ。この車輪と軸に台を載せるという構造を将軍が発明したからこそできた仕事ぢゃ。重い荷物の運搬には欠かせないので、資材の運び込みにも使うし、軍の物資搬送にも使う。ただ雨が降ってぬかるんだ道や岩場は通れないので、道の整備が必要になったという点は注意ぢゃな。」


「野外釜1号君もここの工房の作品ね!」


「そうぢゃ!釜ごと運ぶなんて将軍以外は誰も考えもしなかった。大傑作ぢゃ。」


「野外で食べる温かい飯はまた格別に美味いだす!」


「楽器職人もいる。太鼓やムビラなどを作るんぢゃ。」


「ムビラは儀式の時に聞いたことがあるわ!なんだか木の板に鉄の棒が何本もくっついていて指で弾いて演奏するの。ピコピコ可愛い不思議な音で、楽しいわよ。太鼓は歩兵部隊でも使っていたわ。」


「わてはそんなに興味がないだすが、みんな歌や楽器が大好きだすな。」


「土器職人もいるな。粘土を固めて焼くのは煉瓦と似ているが、水を溜めるツボや皿やコップなど、食器になるんぢゃ。」


「師匠の陶磁器が広まれば、陶磁器職人に変わるだすね!」


「大きな工事では土木職人や建築大工左官職人などの出番ぢゃ。道や橋、砦などを設計することができる。実際に身体を動かして作るのは奴隷や村人や近衛軍になるがな。」


「私も野営地の堀を掘ったわ!」


「リルカは土に埋まっただけだす。」


「まだ珍しいところで言えば、紙職人、靴職人などぢゃな。紙が無いと設計など仕事にならんし、靴はリルカ姫のブーツを初めとして徐々に金持ちから履き始めておる。そのうち近衛軍にも支給されるぢゃろ。」


「靴は早く欲しいだす。」


「重くて走れないわよ?」


「職人の紹介はこんなもんぢゃな。

1つの事だけをやって極めようとする職人もいれば、いくつもの職人を兼業している者もいる。それが技術の交流になってまた互いに発展することになるんぢゃ。」


「うん、凄く沢山の職人たちが頑張っているって分かったよ!」


「んほん!リルカ姫、だから将軍には女神像の件はくれぐれも内密にな。」


「もう!良いこと言ってまとめたと思ったらそれなの?」


「師匠には本当にガッカリだす。」


「また貴様は!この裏切り者が!」


「……!」


「……!」


キノコ爺とフマに白い目を向けてみるが、二人は泥の擦り付け合いに夢中で気が付いていないみたいだわ。

工房を巡っているだけで日が暮れそう。

お腹が空いたわ。フマとキノコ爺は放っておいて、今日はもう帰ろう。


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