表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/128

6歳の10月(17)

6歳の10月(17)


このあいだ説明を受ける前に飛び出してしまった工作部隊へ、次の専門訓練の日に改めてフマと一緒に行ったの。


「なるほどキノト隊長と仲良くなっただすな。」


「キノコ爺は優しかったよ。」


「それはリルカが物作りをしていないからだす!キノト隊長は500人いる工作部隊の頂点!実力主義で滅多に他人を認めない頑固な職人揃いの工作部隊において、唯一全員からオヤッサンと呼ばれて恐れられ、一目置かれているだす。他の部隊からも慕って訪ねてくる者が多いだすが、物作りの現場では殴る蹴るは当たり前のとんでもない暴力ジジイだす!」


「おう、暴力ジジイで悪かったのう。」


「ふはぁぁわわあわ。キノト隊長!ごめんなさいだす!」


キノコ爺が急に後ろから顔を出してくるものだから、フマは慌てふためいてペコペコ謝っている。


「フマは器用だが、根性が無くてのう。殴るとすぐに逃げるんぢゃ。」


「キノコ爺のムキムキな腕で殴られたら、そりゃ逃げるわよ。」


「リルカ姫、今日は顔色も良く元気になったのう。見違えるようぢゃ。って、キノコ爺ってワシのことかい!」


「この間はありがとうね!」


「なんの、茶飲み話でよければいつでもおいで。もう幼年兵たちはそれぞれ弟子入りしたい職人の工房に行っているから、今日はワシが案内してやろう。」


「じゃ、わてはこれで。」


「いかん。フマも一緒に来るんぢゃ。貴様はまだどこにも弟子入りを決めておらんぢゃろうが。」


「あで!あででで!痛いだす!痛いだす!」


キノコ爺はフマの頭に大きな手を置いて、髪の毛を掴むわけでもなく握力だけで頭の骨を強く掴んでいる

自由に前後左右上下に振られるフマの頭はとても痛そう。


キノコ爺の案内で町から少し離れた場所に作られた工房街を歩く。

逃亡を諦めたフマは大人しくついてくる。

川に沿って様々な大きさの工房が並んでおり、それぞれ煙突から煙がたなびいている。


「リルカもワシの工房には一度来たことがあるが、この工房街は将軍が作りはじめたもので、煙が凄いからと町から少し離れた川沿いに設計されたんぢゃ。」


「この道、石畳ね!町の中の道だって土がほとんどなのに凄いね。」


「工房街のメイン通りは馬車が通りやすいように石畳で作ったんぢゃ。道路整備の練習の意味もあるがな。これなら雨が降っても重い荷物を積んだ馬車や牛車が通ることができる。資材を運ぶには必要なんぢゃ。資材はこの川を使って船でも運んでおる。どちらも重要な運搬方法ぢゃ。」


ここでは頻繁に馬車や牛車とすれ違う。荷台には様々な資材が載っている。


「ここが資材置き場ぢゃ。みんなで共同になっておる。」


屋根だけで壁の無い建物には活気があって、表には何台もの馬車や牛車が並んで停まって荷物を運びこんでいる。裏の川には何艘も川舟が係留されて、同じように荷物を運び入れている。

屋根の下には木材、灰色の石や黒い石などなど、何に使うのかよく分からないものが積み上がっていて、隣には高いレンガ積みの塔が聳え立ち、上から煙を吐いている。


「あの隣の塔はなに?」


「あれこそが最近運用に成功した、我が国にしかない最新鋭の設備、高炉ぢゃ。鉄を溶かしておる。」


塔の上の方に向かって板のようなものが伸びていて、何やらその板の上を黒い物が昇っていって、塔の中へ投入されている。


「あの板はなに?」


「あれも将軍の発明でな、ベルトコンベアというのぢゃ。水車の力で板の周りが動く。その上に物を載せれば塔の上に運ばれるというわけぢゃ。塔の中に空気を送り込むための強力なふいごが水車で動いているのも将軍の発明ぢゃ。最新技術ばかりで他国の者にはとても見せられん。この高炉だけで100人くらいの職人が付きっきりになっておる。この国の最重要施設ぢゃな。」


「100人っていったら、工作部隊の5分の1はこれに付きっきりになっているのね!」


「もっと人数が必要なのだが、なかなか集まらなくてのう。」


キノコ爺がギロリとフマを睨む。


「わ、わては無理だす!」


「最近の若いのはこんなのばかりなんぢゃ。」


フマの必死な様子をみて、キノコ爺はやれやれといった渋い顔で前を向く。


「次に鍛冶屋ぢゃ。鉄製の武具や農具や工具、料理用の包丁から馬車や荷車に使う金具まで、鉄を使うものはほとんどここで作っておる。いくつもの工房に別れて、100人くらいが鍛冶をやっておる。高炉と同じくらい職人が多いのも鍛冶屋ぢゃな。」


鍛冶工房を覗くと、中央の柱にかけられた鉄の女神像の下、いくつもの窯から凄い熱気が伝わり、ハンマーが鉄を撃つ音が響いている。


「穴掘りに使った“エンピ”もここで作られたのね!使い易かったわ!」


「あれは携帯用に折りたためるし、鍬にもスコップにもなる。家に1本は必要な大人気アイテムぢゃ!沢山作っておるぞ!」


鍛冶工房を離れて3人でまた歩き出す。


「次は木工職人ぢゃ。各職人からの依頼で木材の加工をするのが主な仕事ぢゃが、椅子や机などはここの職人がそのまま作っておる。何か作ってみるか?」


木工工房を覗くと、一番奥に先ほどとは違った大きな女神像が立っており、ノミ、カンナ、のこぎりといった工具を振っている職人がずらりと並んでいる。


「キノコ爺、あの女神像は何?さっきの鍛冶屋の工房にも似たようなものがあったけど。」


「あれは将軍ぢゃ!最近、将軍の姿をした女神像を作るのが流行っておってのう。それぞれの工房が自分の女神像の方が上手い、自分の女神像の方が綺麗ぢゃと競い合って様々な女神像が作られておるのぢゃ。」


「なんという技術の無駄遣いなの!暇なのね。」


「そんなことないぞ!技術の研鑽のため、互いの切磋琢磨のためぢゃ!工作部隊が発明の女神と崇める将軍をモデルにするのは当然のこと!」


「お母様って発明の女神だったのね。」


キノコ爺はどこから出したのか分からない30cmほどもあるスラリとした女神像を持ち出す。


「見よ!ワシの最新作!1/6可動フィギュア女神像ぢゃ!」


「こ、これは!手足がちゃんと動いてポーズを変えられるだす!」


見ると先日狩りに出たときのお母様の服装を忠実に再現しており、滑らかな身体のライン、黒く艶やかな肌が美しい。胸甲の部分はちゃんと鉄でできている。革製の服の部分や装飾品まで全て1/6サイズで作られていてその精巧さは他の職人が真似できる水準を遙かに超えているのが分かる。さすが全ての職人から恐れられているオヤッサンに相応しい技術。


関節部分は木でできているようだが、黒く艶やかな肉体部分の素材は木でも鉄でもなさそう。この素材はどこかで見覚えが。


「師匠!この身体の部分はどんな素材を使っただす?こんなに透き通るように黒く艶やかな素材は見たことがないだす!」


キノコ爺は満足そうな笑みで頷いている。

いつからキノコ爺はフマの師匠になったのだろうか。


「まさかこれは、明の陶磁器?」


先日、キノコ爺の工房で出てきた茶碗、あれの表面に感触が似ている。


「よく分かったな、リルカ姫!この部分を作るために明の陶磁器を真似て作っていたのぢゃ。」


途方もない技術開発力の無駄遣いに眩暈がする。


「やっぱりすごく暇なんじゃないの?」


「リルカ!この技術開発の価値が分からないだすか!この陶磁器の技術があれば新たな輸出品、新たな工房が作られるほどの発明だすよ!」


余りに必死なフマの剣幕に一歩たじろぐ。


「う、それはそうだろうけどさ。」


「師匠!この、この中はどうなっているだすか!?純粋に技術的な好奇心だす!」


「この中か、良くぞ気付いた!これはな、こうしてこうして、ほら!こうぢゃ!」


キノコ爺に喰いつくように近寄ったフマは、何やらフィギュアを持って二人でコソコソと覗き込んでいる。


「ふおおぉぉぉ!これは!この曲線は凄いだす!」


「わははは!我が技術を思い知ったか!」


「ふひ!ふひひひ!師匠は最高の天才だす!」


なんだか二人の会話がとてもムカついてきた。


「二人とも、お母様に全部お話しておくからね!」


「ダメぢゃ!それはいかん!」


キノコ爺が全力で振り返って必死に止めてくる。もう良い歳なのに。


「師匠!これは作ったらダメだす!将軍に言いつけるだす!」


フマのなんという変わり身の早さ。フマのこともお母様にお話するって言ったのに。いつの間にお母様に言いつける側に立っているの?


「はっ!?フマ、貴様!今さっき一緒に楽しんだのに裏切る気か!」


あまりのフマの裏切りっぷりに私も言葉も出ない。キノコ爺が可哀そうになってきた。


「なんのことだすか?わては技術を確認していただけだす!なにもかも全て師匠の責任だす!将軍にぶっ殺されるのは師匠だけで十分だす!」


「あんまりぢゃ!ワシの技術の全てを使ってフマも道連れにしてやるんぢゃ!」


どの技術をどう使うと道連れにできるのか教えてもらいたいものだけど、グダグダな醜い泥試合を見せつけられて、もううんざりだわ。


「いい加減にして!お母様には黙っていてあげるから、早く続きを案内しなさい!」


「はっ!リルカ姫、次はこちらの工房ぢゃ!」


「リルカ、お腹空いて無いだすか?わてのオヤツ食べるだすか?」


なんだか二人の痛々しい変わり様を見ていると、文句をいうのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

お母様は早く自分で女神像を発見して止めないと、大変なことになるわね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ