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6歳の10月(12)

6歳の10月(12)


イズウィは講習の準備をし始めている。


「訓練の説明はこれくらいです。あとは各講習で詳しく勉強してください。他に質問なければ早速講習を始めたいと思います。」


「ちょっとまって。イェンに一言だけ内緒の話を伝えたいの。王族の内部の話よ。他の人に聞かれたくない場合、どうしたらいいかしら?」


イェンはいつの間にか立ち直ったようで、赤い顔も元の通り、また無表情になっていた。


「…。」


そしてイェンが手を挙げるとイズウィが案内してくれる。


「50mほど離れれば良いでしょう。あの地点まで二人で行って、イェンにお伝えください。周りを良く確認するのをお忘れなく。」


幼年兵たちに背を向けてイェンと一緒に歩く。みんなから50mほど離れた地点に着くと二人で辺りを見回す。近くには茂みもなく、赤土が広がっている。隠れて聞くことはできない。

後ろを確認すると幼年兵たちも誰一人として近づいたりもしていない。

前を向くと、念には念を入れて、イェンの耳にだけ届くようなヒソヒソ声で話しかける。


「イェンがお母様から貰って、可愛い可愛いって喜んでいた赤い下着ね、あれ実は60歳になった男性に贈るものだったんだって。あんまり欲しがるからあげちゃったんだけど知ったらガッカリするかしらって、お母様が気にしていたわ。今も使ってる?」


イェンは瞬時に顔を真っ赤に変えて、ヒソヒソ声を返してくる。


「リルカ姫、本当に勘弁して。もう忘れてちょうだい。」


ヒソヒソ声だけど、あの裏声をさらにひっくり返したような甲高い声や女性のような喋り方は変わらないわね。


「やっぱり喋れるじゃない。どうして隠すのよ?」


「この声をみんなに知られると命令を聞いてもらえなくなっちゃうんだもの。お願いだから知らない振りをしてちょうだい。今じゃ知っているのは将軍と副隊長だけだったのに。リルカ姫が生まれた日からの記憶がはっきりとあるなんて反則よ!普通、記憶は3歳くらいからだって将軍から聞いたから、リルカ姫が3歳になってからはおうちに行かないよう頑張ったのに、意味ないじゃない!」


「反則って言われても困るけど、なんだか手間をかけさせて申し訳なかったわね。分かったわ。ちゃんと秘密にする。みんなにバレないように頑張るわ。」


イェンと私で、そっと後ろを振り返って幼年兵たちを見る。

すると、こちらを見ているイズウィの後ろで、デデが横を向いて声を殺して笑っているように見える。

私たちは間違いなくお互いにだけ届くような小さなヒソヒソ声しか出していないし、幼年兵からは背中しか見えないはずだから口の動きも見えるわけがない。


イェンと私は前を向き直ってまたヒソヒソ声で話す。


「リルカ姫、あの子は知り合い?まさかこの話、あの子に言ってないわよね?」


「まさか。今思い出したんだもの。何も話してないわ。あーでも、そういえばデデにぃにが、この間の狩りの時に見えないほど遠くにいるゾウの群れの数まで当ててたわ。なんかデデにぃには、そういう特殊能力があるんだってオニカあんちゃんから聞いたわ。」


「え?あの狩りの日、斥候部隊より早くゾウの群れを発見したのがあの子なの?じゃ、もしかしてこの会話が聞こえている?」


イェンと私で、もう一度そっと後ろを振り返って幼年兵たちを見る。

イズウィの後ろで、デデは間違いなく私たちを見て頷いている。

今まさに私たちの会話を聞いていたかのように。


50mは離れている。風も無いわ。背中を向けてる。

それに本当にお互いにしか聞こえないようなヒソヒソ声だったのに。

デデには聞こえているらしい。

私も相当耳が良いとは思っていたけど、この距離では試したことないし、聞こえる気がしないわ。

慌てて二人で前を向く。


「リルカ姫、これは緊急事態よ!将軍に報告して、彼は斥候部隊に所属してもらうわ。こんな凄い才能を放っておくわけにはいかないもの。彼がいたら情報収集に困らないし、秘密の情報なんて無いも同然。戦場の索敵も負けなしよ。」


「それは凄いわね。でも本当にデデにぃにがこの会話を聞いているのか、どうやって確認するの?さっきのはたまたま頷いただけかもしれないじゃない。」


「話しかければいいじゃない。この声のままで。デデちゃん、聞こえていたらイズウィの隣まで歩いて前に出て、両手を大きく振ってちょうだい。」


イェンと私で、またそっと後ろを振り返って幼年兵たちを見る。

イズウィの隣で、デデは私たちに大きく両手を振っていて、イズウィがそれを止めようとしている。


イェンは手を高く掲げてイズウィに合図を送る。

デデがイズウィにあれを見ろって私たちを指差す。

イェンの合図に気が付いたイズウィはデデを連れてこちらに歩いてきた。

その動きを見届けてイェンと一緒に前に向き直って待つ。


「成功ね。デデちゃん素晴らしいじゃない。楽しくなってきたわ。うふふ。」


「イェン、私のデデにぃになんだからね、変なこと教えたら怒るわよ。」


「あら、変なことなんて教えないわよ。リルカ姫は気になるの?」


「そうじゃなくて、お母様と暗殺のこととかもお話してたじゃない。斥候部隊では秘密でそういう仕事もしているんでしょ?」


「リルカ姫は本当になんでも覚えているのね。腹立つわ。確かに暗殺や、逆に暗殺から守る仕事も斥候部隊の仕事よ。でもそれをできるかどうかは本人の資質次第ね。デデちゃんが暗殺をできるようになるとは思えないけど、暗殺から守る方は教えるわよ。その先は本人次第。やっぱりリルカ姫はデデちゃんのこと気になるんじゃない。うふふ。若いっていいわよね。」


「へー。そういうこというんだ。じゃあお母様とお話してた中でさ…。」


「やめて!許して!デデちゃんに聞こえているし。」


しばらく待つとデデとイズウィが到着した。

幼年兵たちから見たら4人で一列に並んで前を向いているだけに見えるだろう。


イズウィが焦ったようなヒソヒソ声で口火を切った。


「イェン、何があった?なぜこの子を連れてこさせた?」


「デデちゃんは私が喋れるのを知ってしまったわ。それにあの距離から私たちの小さな声が聞こえていたみたい。デデちゃんは私直属の特務部隊に決定だわ。凄い才能よ。」


イェンが手の暗号ではなく喋って返事していることに、イズウィが衝撃を受けている。


「なん、だと?あの距離からこの声が聞こえただと?」


イズウィがそっと後ろを振り返る。

ずいぶん遠くにいる幼年兵たちがジッと動かずに待機している。


「何を馬鹿な。聞こえるわけがないだろう。」


「デデちゃんは私がこの姿勢でこれと同じ大きさの声で言った指示通り、イズウィの隣に進み出て、両手で大きく手を振ったわ。それが証拠よ。」


「な…。デデ、本当か?」


デデはニコニコと頷く。可愛いなあ。


「デデちゃん、何か言いなさいよ。」


デデは困った顔で私の耳元に口を近づけてこそっと喋る。


「(赤い下着もぜんぶ聞いちゃった)」


「あー。デデにぃには、喋るのが得意じゃないの。私にはこそっとお話してくれるけどね。それでデデにぃにが言うには、“赤い下着もぜんぶ聞いちゃった”だって。」


「デデちゃん。それは忘れなさい。国家機密よ。誰かに喋ったら処刑されちゃうんだから!」


デデは真剣な顔でコクコクと頷く。

何でイェンが使う赤いふんどしが国家機密なのよ。


「ということで、デデちゃんは私の声も知っているし、私が直接教えるわ。イズウィは他の幼年兵たちをお願いね。」


「はぁ。仕方ない。イェン、リルカ姫もそっちで引き取ってくれ。一人も二人も同じだろ。」


「いいわ。リルカ姫、デデちゃん、みんなには内緒よ!」


「はーい。」

デデも真剣な顔でコクコクと頷く。


こうして思いもよらず国家機密を背負ってしまった。

口が滑らないように気をつけなきゃ!


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