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6歳の10月(11)

6歳の10月(11)


でも大弓部隊は疲れたわ。色々な意味で。

残りの部隊はもっと楽に見学だけとかで済むといいな。


そういえば、カイサとの賭けに勝ったわね。

カイサに“なんでもいうこと聞いてもらう”権利か。

どんな事をお願いしよう。みゃはは、楽しみだわ。


次の専門訓練の日、今度はデデと一緒に斥候部隊を見学にいったよ。


「デデにぃにはあまり喋るの得意じゃないから、ちゃんと説明してくれる人がいるといいのだけど。」


デデはニコニコと頷いてくれる。

良い!いいわ。この静かに落ち着いた空気。

今までの3部隊は騒がしすぎたのよ。隊長は変な人ばっかりだったし。


幼年兵の集合場所にいくと、幼年兵が私たち合わせて15人いるのに、

斥候部隊の人は2人しか待っていなかった。

他の部隊はみんなで出迎えてくれたのに、2人だけなのね。


中央に立つのは軍人とは思えないほど横にでっかいおデブさん。

脇には細身な人が立っているので余計におデブが大きく見える。

あれ、あのおデブさんは見たことあるわ!

私がまだ生まれたばかりの頃だけど、何度も私のおうちに来てお母様とお話していたもの。


「…。」


おデブさんが無言のまま無表情に手を軽く上げると脇に立つ細身な人が話し出した。


「ようこそ、“王の耳”こと斥候部隊へ。こちらは斥候部隊の隊長、イェン。私は副隊長のイズウィ。幼年兵の諸君、今日も良く来てくれた。宿題はやってきたかい?」


ああ、良かった。ちゃんと説明が聞けそう。何か宿題があるのね。


「ごめんなさい。私は宿題を知らなかったわ。」


「これは失礼。リルカ姫は初めてでしたね。宿題は知らなければ大丈夫です。分からないことがありましたら何なりと。」


「えーと、じゃあ、隊長のイェンはなんで喋らないの?」


「…。」


イェンは一拍無言の間を空けて、また無表情なまま手を挙げる。

さっきと微妙に指の形が違うわ。何かの合図なのかしら。

それを見たイズウィが話し始める。


「隊長は小さい頃から喉の病で声が一切出せません。私が代わりにお話いたします。」


「えー。嘘よ。昔、私のおうちでお母様とお話してたじゃない。覚えてない?」


急にイェンがすっごく怖い顔をしたと思ったら、そのまま固まっている。

顔がどんどん赤くなって、両手がブルブルと震えているのがわかる。

うわっ、嘘つき呼ばわりしたから、怒らせちゃったかな。

イズウィも焦った顔をしているし。


「リ、リルカ姫!勘違いではありませんか?隊長が将軍のおうちに行ったことはありませんよ。」


「え?私が生まれた日にも来たわよ。そのあと3歳になるまで何度も。3歳になってから急に来なくなったわね。イェンを見間違えるわけないじゃないの。その体型であの声がたっ…。」


突然!喋っている最中に副隊長のイズウィが襲いかかってきたと思ったら、私の口を塞いできた。

イズウィは私の耳元に口を近づけ、私にだけ聞こえそうなヒソヒソ声で話しかけてくる。


「リルカ姫!リルカ姫!それ以上はいけません!国家機密の漏洩となってしまいます!リルカ姫に罪を犯させるわけにはいきません。止めさせていただきます!」


国家機密ですって?私、何かすごくまずいことを言ったかしら。

イェンを見るとブルブル震える両手で真っ赤な顔を押さえている。

あれぇ?もしかして怒っているんじゃなくて、恥ずかしがっているのかしら。


昔からイェンってああ見えて可愛いのよね。

裏声をさらにひっくり返したようなすっごく高い声をしていて“ウフフ”って可愛く笑うの。

それがあの太って怖い外見からかけ離れていて、印象が強すぎなのよ。

笑顔もあの怖い顔をくしゃくしゃにしてニッコリとするから愛らしいの。

そんな強烈な人を忘れようにも忘れるわけがないじゃない。


でも生まれた日から明確に記憶が残っている私がおかしいのよね。

私が3歳になった後、3年間も会っていないのだからイェンが私の事を忘れていても仕方ないわ。


「もぐも、まがもご、もががんご?(何を、話しちゃ、いけないの?)」


「これ以上、隊長の事をお話するのはお止め下さい。そうすれば大丈夫なはずです。」


口を押さえつけられながらだけど、言葉が通じたわ。

イズウィがまたヒソヒソ声で言うには、イェンの事を話すのがまずいのね。なぜまずいのかは分からないけど、後でコッソリ聞けばいい話だわ。とりあえず斥候部隊の話に戻りましょう。

私が頷くとイズウィは私から離れて元の位置に戻ると、居住まいを正して話しかけてくる。


「リルカ姫、大変失礼いたしました。他に何か?」


イェンはまだ両手で真っ赤な顔を押さえて震えている。放っておこう。

デデが心配そうに隣に来て、私を見てくる。


「デデにぃに、大丈夫よ。」


デデに笑顔を返すと、ホッと安心した顔になる。こっちも可愛いなあ。

さて、イズウィに聞きたいこと聞かなきゃ。


「えと、斥候部隊ってどんな部隊?」


「はい、斥候部隊は従軍する人数が500名ほどおりますが、全体の人数は秘密です。従軍する際の仕事内容は現地調査、敵の偵察など情報収集となります。強襲偵察という形で戦闘をすることがありますが、基本的には敵と戦わず、むしろ敵に気づかれないように動くことが重要です。」


「秘密ってなんだか格好良いわね!従軍しない人たちは何をやっているの?」


「はい、国内も国外も合わせて各地へと散って潜伏し、そこの情報を集めて報告しております。“王の耳”と呼ばれるのはこのためです。」


「じゃあ、たくさんいるのね。」


「たくさんいるとも言えますし、いないとも言えます。本人が気が付かないで斥候部隊のために情報を集めていることもありますし、現地で普通の生活をしている人が実は斥候部隊だったりもします。どこにでもいて、どこにもいない。けど何でも知っているのが斥候部隊です。」


「うわぁ!秘密組織っぽくてワクワクするわね!斥候部隊はどんな訓練をするの?」


「まずは情報収集のやり方です。相手に気が付かれないようにさりげなく話を聞いて、欲しい情報を引き出す。他人の会話をコッソリ聞く。一緒に食事をしたりお酒を飲むという方法もあります。今回の幼年兵に出した宿題も、情報収集の練習です。今回のお題は“王様の噂”です。町や軍の中でできる限り王様の噂を集めるのが宿題でした。」


「へー!面白そう!どんな噂が集まるのかしら。教えて!」


「それは規則ですので、情報を集めた者とその上司しか知りません。それ以外には誰にも。例えリルカ姫でも教えられません。」


「それはお母様は知っているの?」


「もちろん、将軍は私たちの上司ですから、全てご存知です。」


「お父様は?」


「将軍からお話を聞いているはずです。」


…。


なるほど、お母様が何でも知っているのはこういうことなのね。

そしてお父様はどこで何をしていても全部お母様に知られているのね。

お父様は悪い事できないわ。王様なのになんだかとっても可哀そう。

でもこの可哀そうなお父様の情報もきっと国家機密ね。


「他にどんな訓練があるの?」


「集めた情報はまとめる必要があります。デマや敵の偽装情報などを見ぬく練習も必要です。その情報が本当の事かどうかを確認する術も学びます。また情報が集まると、その傾向から新たに分かることがあります。例えば、“武器を集めていた”、“食料を集積していた”、“軍の訓練が増えた”という情報から戦争が近いと分かるような感じです。これを情報分析といいます。」


「ふわー。頭が良くないと駄目ね!でも格好良い!他には他には?」


「情報は守る必要もあります。こちらの情報を敵に流さないようにする術を学びます。情報を管理し、外に流れないようにしたり、情報が漏れた際に誰が漏らしたか特定できるようにします。また敵の斥候を捕えたりもします。

逆に敵の斥候にわざと情報を流すこともあります。これは嘘の情報を流してこちらの情報を守る意味と、敵の動きを操るための情報を流す攻撃的な意味もあります。これらを情報操作といいます。」


「わわっ。頭が混乱しそう。情報ってなんでもできるのね!」


「なんでもできるし、何にもできません。きちんと勉強して理解して使えば武器にもなるし防具にもなります。しかし、意味も分からずに使えば毒にしかなりません。情報は怖い物です。だからこそ慎重に、かつ積極的に扱わなければなりません。リルカ姫もぜひ勉強してください。」


「分かったような分からないようなお話だけど、勉強が必要ってことだけ、分かったわ。他には訓練はあるの?」


「そうですね、戦争の時の現地調査方法や、偵察方法なども勉強します。これは連絡方法が重要なので様々な信号や暗号も覚えます。斥候部隊は身体を動かす訓練というよりは勉強が多いですね。」


学校の勉強も大変だけど、こっちもすごく覚えることが多そう。

探検隊も情報収集は重要だわ。頑張って覚えなきゃね。


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