6歳の10月(7)
6歳の10月(7)
やっと専門訓練の日だわ!
やっぱり勉強よりも身体を動かす方が心踊るわね!
今日はオニカと一緒に「突撃部隊」の専門訓練へ。
歩兵部隊の専門訓練では幼年兵の半分くらい参加していたけど、突撃部隊の専門訓練は20人くらいしか居ないわ。
人数が少ない代わりに、オニカを筆頭として見るからに力自慢といった身体の大きな人ばかり。
「突撃部隊は全員で500人くらいと数は少ないけど、みんなおいらたちとは比べ物にならないほど、身体が大きくて素晴らしい筋肉たちなんだぜ!」
他の幼年兵たちと一緒に突撃部隊の前に集合して待っていると、オニカが説明してくれる。
筋肉たちってどういうことよ。その言い方じゃ“筋肉に人がくっ付いている”みたいじゃない。
「武器はみんなそれぞれバラバラなのね。」
突撃部隊の人たちが雑然と集まっている。
見渡すと、歩兵部隊のお揃いの大盾と短槍とは違って、大剣やこん棒や戦斧などそれぞれバラバラの武器を持っている。両手で持って振り回す近接武器がほとんどみたい。
「ガハハ!武器は筋肉を輝かせるための飾り!盾なんざ軟弱者が持つもの!」
ふわ~。一際でっかい筋肉の塊が出てきたよ。
スキンヘッドで目つきは鋭いのに、すっごくすっごく“ニコッ!”っていう口の形をしている。
歯の白さが際立つわね。
「わしゃあ、突撃部隊長、ワルダー!今日も良く来た!我が“王の剣”こと突撃部隊へ!筋肉の友よ!アッーー!」
ワルダーの筋肉アピールをするポーズに幼年兵たちが異様に盛り上がる。
「うおー!おいらの筋肉も燃えるぜ!筋肉の友よ!」
ちょっと、待とうよオニカ。筋肉の友ってなによ。
筋肉の友ってそんなに熱い言葉になっているの?
「そこのちっこいのはリルカ姫。心配するな。育てた筋肉は裏切らないぃ!アッーー!」
ワルダーの急に背中を向けてのガッツポーズ。背中の筋肉がモコモコと盛り上がってくる。
汗なのか油なのかテッカテカに輝く黒い肌が筋肉の窪みをさらに強調させて全体が輝いてるかのよう。
何か良い台詞を言っている感じがするんだけど、見せつけられる筋肉に上書きされて全く心に響いてこない。
この取り残された感はどうしてくれよう。
ワルダーの背中を見た幼年兵たちはさらにヒートアップしている。
「ほら!背中に羽が生えてるぜ!ハンパねえ!」
オニカが意味の分からないことを叫んでいる。
背中の筋肉が広がっているように見えることだろうか。
「歩兵部隊の玉無し野郎どもに魅せつけろ筋肉!この世の全てを蹴散らす筋肉!アッーー!」
「「「アッーー!」」」
ワルダーの後ろの突撃部隊たちも一緒にそれぞれのポーズで筋肉をアピールしてくる。
総勢500名のポージングは呼吸を忘れてしまいそうな威圧感ね。
風も無いのに後ろに吹き飛ばされそうだわ。
「「「キレてる!キレてる!デカいよ!ナイスバルク!大胸筋が踊ってるよ!」」」
もうオニカを含む幼年兵たちの熱狂の叫びは止まらない。
何を言っているのかすら分からない。
1人だけ乗り損ねたこの置いてけぼり感がやるせない。
「以上だ!質問が無ければ各自筋トレ!」
「まって!まってー!部隊の特徴とか説明とかは?私、何も分からないわ。」
「リルカ、おいらが教えてやるって。みんなの筋トレ時間を削っちゃ悪いぜ。」
「ガハハ!坊主、リルカ姫を頼んだぞ!では解散!」
幼年兵たちも突撃部隊の人たちもそれぞれ散って筋トレを始めている。
取り残された私はオニカに聞いてみる。
「オニカあんちゃん。この部隊はどうなってるの?」
「おう、この突撃部隊はな、歩兵部隊に馴染めなかったはみ出し者で、勝手に突撃ばかりしていた奴らを集めて、将軍が別部隊にしたんだって。みんな歩兵部隊のように揃って動くのができなかったんだぜ。」
「我がまま、なの?」
「我がままっていうのも違うぜ。合わなかっただけだって。突撃部隊としては皆ちゃんと将軍のいうこと聞いてるぜ。将軍が素晴らしかったのは、この部隊にあった役割や教育を与えて、皆の良いところを伸ばしてくれた事なんだぜ!」
「ふーん。この部隊の役割ってなに?」
「よくぞ聞いてくれたぜ!あの隊長の輝く筋肉を見ただろ!まずあの筋肉で敵はビビっちまう。そして動けなくなった敵は、重さが存在しないかの如く軽々と振り回される大きな武器で木端微塵に蹴散らされるんだ。」
「えーと、分かりにくいけど、要するに敵をビビらせて、突撃して蹴散らすのが役割ね。」
「そうだぜ!特に隊長の大剣はやべぇって!横にして振ったら、風圧だけで歩兵部隊の奴らなんて大盾ごとふっ飛んぢまうぜ!」
「へー。なんだか凄そう。突撃部隊の戦い方とかってどうなっているの?」
「戦い方は簡単だって。隊長についていく!蹴散らす!以上だぜ!」
「規則も何にもないのね。楽でいいわ。私は好きかも。じゃあ、お母様が与えてくれた教育っていうのは何?栄養学のこと?」
「おう!それが栄養学だけじゃねぇんだって。まず各筋肉の名前だ。腹筋とか背筋とか全部の筋肉に名前があるんだぜ!それに各筋肉の鍛え方だ。今までただ重い岩を持ったりするだけだったのを、一番筋肉が育つ重さや動かし方、回数まで細かく教えてくれたんだって!筋肉を育てるための重りもすげぇ沢山の種類があって、腰を痛めないためのベルトや関節を守るためのサポーターも全部、将軍が開発してくれたんだぜ!」
「うわー。なんでそんなに何もかもお母様は知っているんだろう?」
「噂では隊長が聞いてみたら“筋肉が囁いたの”って言われたらしいぜ!それに、あの隊長が将軍に初めて会った時、隊長は将軍に力比べで負けたんだって!それ以来、隊長は将軍に忠誠を誓って、将軍を神として崇めているらしいぜ。」
「おう、坊主。昔の話はよせやい。」
ワルダーがちょっと照れながら近寄ってきた。
「ねえ、ワルダー。オニカが言っていたことは本当なの?」
「そうだな。力比べで負けたのは本当だ。わしゃあ、歩兵部隊を追放されたばかりだったが、力だけは誰にも負けん自信があった。しかしそんな時、将軍にベンチプレスに誘われたんだ。これを持ち上げてみろってな。
わしゃあ張り切ったさ。自慢の力を認めてもらうチャンスだったからな。
言われた通り寝転んで、その重りが付いた棒を持って、胸の前まで降ろした。
今から考えればその時のわしゃあ、本当に雑魚だった。
その棒を降ろしたはいいものの、そこからウンともスンとも動かん。頭に血がのぼってクラクラしてきて、このまま棒に潰されてて死ぬかと思ったときに将軍が上から補助して持ち上げてくれた。」
「ああ、お母様が持ち上げて助けてくれたから、ワルダーが負けたことになっているのね。」
「いいや、違う。その後、将軍は交代ねといって入れ替わりに寝転ぶと、同じ重りのついた棒を軽々と何回も降ろしたり持ち上げたりを繰り返した。わしゃあ、その姿を見てすっかりやられっちまった。一回も持ち上げることができなかった重りを女であるはずの将軍が何回も持ち上げている!その筋肉の躍動感、神々しさは本当に輝いていた。そしてわしゃあ人生の全てを捧げると誓って正しい筋肉の育て方の教わった。将軍こそ筋肉の神だ!ガハハ!」
「本当にワルダーが負けたのね!お母様凄いわ!」
「ああ、見た目は当てにならねぇ。正しい筋肉は、ただ身体がデカいだけの奴なんて軽々と越えていく。リルカ姫も案外そこの坊主より強いかも知れねぇな。」
「あら、私はもう非力なオニカには勝っているのよ。」
「なっ!あれは穴掘りの勝負だって!おいらは力じゃ負けてねぇって!」
「なによ、“おいらの負けだ!リルカに人生の全てを捧げる”って言ったじゃない。」
「その台詞はいま隊長の話を聞いてから作っただろ!おいら、そんな台詞は言った事ないって!」
「ガハハ!突撃部隊じゃあ口の言い争いは意味がねぇ。筋肉で決着をつけな!野郎ども!アレ持って来い!」
突撃部隊の筋肉たちが担いで持ってきたのは背の高いガッチリした太い木で作られた机。台の上には棒が二本立っている。
「突撃部隊名物、アームレスリングだ!アッーー!」




