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6歳の10月(6)

6歳の10月(6)



最後に衛生学ね。

怪我や病気をしないように、また、してしまった時にどうしなければいけないか、ですって。


「まず怪我や病気は、神の怒りか、黒魔術で呪いをかけられたからと原因が決まっているのである。」


カイサが不満げな顔で話し始める。なんでそんな顔しているのか分からないけど、教えてくれるなら聞いておこう。


「へー。そうだったんだ。じゃあ怪我や病気をしないようにするには、どうしたら良いの?」


「神の怒りに触れないように慎ましく生活し、他人に嫉妬されたり、恨まれないように気を配るのである。」


「うわ。いつも気を使ってすっごく大変そう。じゃあもし怪我や病気をしてしまった後はどうするべきなの?」


「その時こそ白魔術である。神の怒りを収めて、黒魔術をかけた相手に逆に跳ね返すのである。」


「すごいのね、白魔術!じゃあ、その白魔術を覚えれば安心ね!」


「白魔術は選ばれしものしか使えないのである。自分たちは白魔術を使える人にお願いするのである。」


「えー!それじゃあ白魔術を使える人がいなかったらどうなるの?」


「神の怒りや黒魔術にいいようにやられて、怪我や病気をして、死ぬのを待つだけである。」


「そんなの嫌よ!とにかく白魔術が必要なのね!」


「そこらの白魔術では、神の怒りや黒魔術の力が上だと負けてしまうのである。何者よりも強い白魔術が必要なのである。」


「そんな!白魔術が使える人の中でも、強い弱いなんて分からないわよ!どうやってを探せばいいのよ!」


「…将軍が歴代最高の白魔術を使えるのである。」


「え?お母様が!?白魔術ですって?使っているのを見たことないけど。」


「将軍は白魔術の儀式として、国民全員を守るために命令を出したのである。それがこの衛生学の内容である。」


カイサが苦い顔をして話を続ける。さっきから何が辛いのだろう。


「白魔術の儀式が衛生学なの?どんな内容なの?」


「これが、ものすごく沢山ある上に、儀式を守るのが大変なのである!

全てを覚えることすら難しくて、こんな白魔術の儀式なんて聞いたことないのである。

しかもいつまで守るのか?と聞いたら、“黒魔術にかかって死にたくなければ、生きている間ずっと”と言われたのである。自分も儀式を覚えなければならないが、長老をやっている祖父は覚えるだけじゃなくて、みんなに守らせるために本当に困っているのである。」


「分かった!分かったわ。カイサあにきが辛いのは分かったって。だから具体的な儀式の内容を教えてよ。」


「リルカ、良く聞くのである。これは最初のほんの一部なのである。


1.水は神聖なる井戸水を飲むこと。井戸水が無い場合には川から汲んできた水を一度沸騰させて黒魔術の呪いを追い払ってから飲むこと。


2.ネズミや蚊、ハエは黒魔術の使い魔なので家の中に入らないようにすること。入ってきても身体に触れないようにすること。


3.黒魔術は狙う相手のうんちやおしっこを儀式で使うので、黒魔術に狙われないようにうんちやおしっこはトイレで一カ所にまとめて、埋めるなどして処理すること。トイレがない場合にも使われないように穴を掘って埋めること。


最初の3つだけでもこんなに難しいのである!


神聖なる井戸水なんて、将軍がツォンゴンベの町に作ったものしかないのである!他の地域に住むものはみな、一度沸騰させないと水も飲むなというのである!

そもそも水を川から運んできて家のツボに溜めるのは女の仕事で、同じように日々の料理に使う薪を集めるのも女の仕事である。日々使う水を運ぶのは本当に重労働で、薪も木が少ない地域では簡単に集まらない上に重いので大変な仕事である。そんな贅沢に使える水や薪は、どこにもないのである!


ネズミや蚊やハエなんて、どこにでもいるものである。ネズミなんて捕まえて食べていることだってあるし、誰も気にしていないのに、これを追い払うなんて真面目にやっていたら夜も眠れないのである!


さらにはうんちやおしっこは、自分だってこの町に来て初めてトイレを知ったくらいで、他の村に住む誰もトイレなんていう存在を知らないのである!毎回穴を掘って埋めろなんて、どうやって守らせればよいのかも分からないのであるっ!

ハァハァハァ。」


興奮したカイサは息を吸うのも忘れて一気に喋り倒したのでフラフラしているわ。

なんだかお母様がとても悪いことをしているみたいね。


「俺もトイレはツォンゴンベで初めて使ったな。」


「わての村では見たことないだす。」


「おいらもだぜ。」


なんだか衝撃的な告白をお兄ちゃんたちがしている。


「えー!お兄ちゃんたちはいったいどこでうんちやおしっこをしてたのよ?」


「どこでって、その辺で、だぜ?」


「大地は広いのだ。場所はどこにでもあるぞ!」


「女の子は藪とかに隠れてしてるみたいだす。」


その辺の大地って、そりゃ広いけど家の近くも大地じゃない。

藪の中って、虫だらけよ?そんなところでお尻出すの?


「いや!何言っているのよ。踏んじゃったりしたらどうするのよ!」


「そんなの牛のフンも人間のフンも同じだ。気にしてたら歩けないぞ。」


「おいらは乾燥している奴は気にしないけど、生っぽい奴踏んだ時のうにゅぅっていう感触と匂いが嫌いだぜ。」


「食べた物が出てきているだけだから一緒だす。うんちなんて気にしないだす。」


気にしてよ!生々しい踏んだ感触とかいらないから!うんちと食べ物はまったく別の物よ!


「いやー!何言っているのよ!ちゃんとトイレ使いなさいよっ!使わなかったらお兄ちゃんたちみんな嫌いになるんだから!」


「いや、今はみんな使っているのである。ツォンゴンベにはきちんとトイレが用意されているし、将軍の命令であるからな。ただ、他の村はトイレ自体無いところがほとんどである。だから各村の長老はこの命令を守らせるのに本当に苦労しているのである。はぁ。」


息を整えたカイサが変わらず苦い顔してため息をついている。

ううー。なんだか各村のみんなにトイレを使ってもらうのは簡単じゃないのね。


でもその辺に人間のうんちがゴロゴロしている大地なんて絶対にいや!

私はこの大地が好きなのに、人間のうんちがゴロゴロしてたら許せない!

牛とか動物のフンと、人間のは違うもん!

理由もなにも分からないけど、絶対違うんだもん!


トイレね、まずこの国にはトイレが必要よ。あと井戸ね。

この大地のすべてに普及させるわ。


そして、詳しく聞くと衛生学という名の白魔術の儀式は、さっきの3つだけじゃなくて、100個以上あったわ。

お外から帰って来たら手を洗ってうがいをしなさいとか、トイレから出たら手を洗いなさいとか、私が毎日なんとなくやっていることも儀式だったのね。


ああ、そういえば昔、うちにネズミが出たときにお母様が大騒ぎしてみんなで退治していたけど、それも白魔術のせいだったのね。

あ、うちの寝床の周りにかかっている網も、蚊を寄せ付けないためっていってたから、これも白魔術か。私、知らないうちにお母様の白魔術に囲まれているわ。


とても全部覚えきれないっていうカイサの言葉も仕方ないわね。

なんでそんな細かい儀式が必要なのか、お母様に聞いてみよう。


勉強って本当に大変なのね。

お母様に聞きたいことも沢山増えたわ。


頭が疲れる勉強よりも、身体を動かしていた方がよっぽど楽。

明日はようやく専門訓練だから暴れるわよ!

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