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6歳の10月(5)

6歳の10月(5)


フマが片手で抱えるほど大きなツボを2つ、机の上にドン!と置く。

なんだろう?と片方のツボの中を覗くと、全長4㎝くらい、親指ほどのコロコロした芋虫でツボの半分くらいまで埋まっていて、それぞれがウヨウヨと行き場を探して蠢いている。


「ぎゃー!」


虫はイヤ!虫だけは苦手!

慌てて飛び退いて距離を取る。


「なんだす?大丈夫だすか?」


フマはもうひとつのツボの淵に這い上がって逃げようとしていた“何か”を手で捕まえると、そのままその“何か”の塊を持って近づいてきた。

見ると、でっかいでっかいカタツムリのようなものが身体をウネウネと波打たせている。

大きさは私の顔の半分くらいありそう。なによりグロい!


「ぎゃー!止めて近寄らないで!うわーん!」


「な、なんだす?急にどうしただす?」


「その手!その手をやめて!いやー!」


「これだすか?マイマイがどうかしただすか?」


心配して近寄ってくるフマ。

その手に持ったマイマイをどこかに置いてからにしてよ!

もういやー!


「どうしたのっ!?」


私の声が届いたのか、血相を変えたお母様が慌ててやってきた。

ピンチに駆けつけてくれるなんて、さすがお母様だわ!


「うわーん!お母様!フマあにじゃ!フマあにじゃが!」


「わ、わてはリルカに食べ物の説明をしていただけだす!」


お母様は2つのツボの中身を見て、ため息を吐く。


「リルカ、あなたは何でも食べられるようにならないといけません!頑張って食べなさい!」


「ええー!助けに来てくれたんじゃないの?」


私の抗議を完全に無視したお母様はフマに向き直って叱りつける。


「あとフマ!マイマイは素手で触ってはいけません!その理由は分かりますね?」


「は、はいだす!マイマイは体内や、特にぬるぬるした体液に目に見えない寄生虫がいるだす。住血線虫と住血吸虫と2種類あるだす。」


「よろしい。では感染経路は?カイサ、答えなさい。」


「住血線虫は生で食べたり、傷口に触れなければ大丈夫だが、住血吸虫のほうは皮膚を食い破って潜りこむので素手で触ってはいけないのである。どちらもマイマイが這ったあとのぬるぬるした体液が付いた野菜を洗わずに触ったり、生で食べるだけで感染するので危険なのである!」


「でも、食べると美味しいだす!」


「よろしい。では、ちゃんと手を洗って、トングを使いなさい。あと、食べる時はしっかりと火を通しなさいね。」


「えー…じゃあ、お母様も一緒に食べようよぅ。」


「え?…エホン!し、将軍のお仕事は忙しいの!みんなと食べなさい!じゃ!」


お母様は慌ただしく戻っていった。


…。


いまの絶対逃げたよね。


「ふひひ、何を嫌がっているだす?こんなに美味しそうなものを採ってきたのに。

生で食べる人もいるだすが、お腹壊すから将軍に言われたとおり、ちゃんと火が通ったものを用意しただす。まずこっちの芋虫はマドラっていって気軽に小魚のように食べられるオツマミのようなものだす!タンパク質豊富だすよ!」


う、なんだかフマがわざとやっている気がしてきた。

フマの持つ皿を見ると油で揚がったような姿の芋虫がゴロゴロしている。芋虫がこっちを見ている気がして、とてもお皿を直視できないわ。


「う、わぁ…。」


「それにこっちはマイマイを煮たものだす。コリコリと貝のような歯ごたえがあって、内臓もほろ苦くて大人の味だす!このマイマイはしっかり洗えば臭みも少なくて美味しいだすよ。しっかりと煮てあるから安心だす!」


こちらの皿には土色の煮汁の中に、殻が外されたマイマイだったものが転がっている。しっかりと煮てあるせいか、周りが煮崩れてさらに異形をなしている。殻の外の部分はまだ見ていられるが、殻の中にあったであろう内臓の部分はこの世の生物とは思えないほどグロい。


後ずさりしようとして、それができないことに気が付く。

いつの間にかオニカとカイサが私の両脇に来て、腕を押さえていた!


「お、オニカあんちゃん!?カイサあにき!?」


「わはは!リルカ、このくらい食べられないと生きていけないぜ!」


「フフフ!将軍の命令である。諦めも重要であるぞ。」


「ふひひ、さあ、リルカ、一緒に食べるだす。」


フマがとても悪い顔になって近づいてくる。

手には芋虫とマイマイの皿が。


「いやっ!いやー!」



…。



…。



…。



割と美味しく食べられた。


しかし、芋虫はもっとカラッっと油で揚げた方がポリポリっと美味しいし、すこし油でくどいから野菜と一緒に和えた方がいいわね。

それにマイマイはもう少し臭みを消して、ざらざらしている部分を削ってから料理した方がいい感じだわ。

ちゃんと料理方法を覚えてもっと美味しく食べよう。

おうちに戻らなくても食べられる、ちょうど良い間食だわ。

それに、あとでお母様やおタマさん、おスミさんにも持っていってあげよう。みゃはは!


「おい、なんか、リルカが悪い顔しているぜ。」


「フマ、変なもの食べさせてないか?自分は無関係であるぞ。」


「しっかりと火を通したものしか食べさせて無いだすよ。」


こんな感じで、食べられるものを増やしていく勉強なの。

毒があるものや食べてはいけないものの勉強も重要ね。

沢山あるけど覚えなきゃ。


なにより、美味しく調理するための勉強が必要だって改めて強く思ったわ。

美味しく食べなきゃ損よね!



---



さて、今度は栄養学ね。

何を食べないと病気になるのか、だって。


「とにかくお腹いっぱい食べればいいんじゃないの?」


私の問いに、意外にもオニカが得意げな顔で答えてくる。


「そいつは違うぜ!リルカ。素晴らしい筋肉をつけるためにはこの栄養学の知識が必須なんだって!突撃部隊のみんなはこの栄養学を覚えてから10倍は筋肉が増えたって言ってたぜ!」


「あのガハハって笑って能天気で、筋肉の事以外何も興味無さそうな突撃部隊のみんなが栄養学に詳しいの!?それは驚きね。筋肉を育てるのにトレーニングじゃなくて、食べる物が関係しているの?」


「そうだぜ!おいらも栄養学を猛勉強中だ。まず栄養には種類があるんだぜ。炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの5種類が主なものだって。モロコシの粉で作ったシマとかが炭水化物で、果物とか甘い物が糖質って感じだ。こいつは動いたり考えたりするためのエネルギーになるんだぜ。脂質は、油やバターや肉の脂身に入っていて、身体を温めるのに必要なんだって。一番重要なのがタンパク質!こいつが筋肉になるんだぜ!肉やさっきの芋虫や魚、それに豆にも入っているんだって。つまり、肉食って鍛えて休む。この繰り返しをきちんと守ることが筋肉を育てる最高の方法なんだぜ!」


オニカが両腕を曲げて上に挙げると、輪を作るようにポーズをとる。

デデがそれを聞きながらニコニコと頷いている。

ほとんど喋らないデデは学校で真面目に勉強しているけど、本当に空気のような存在感だわ。

でもデデがニコニコしているだけで可愛い。うん。それでいいのよ。


「へー。それで10倍も筋肉が増えるんだ。すごいね。私もお肉食べたら筋肉が育つかな。それであとの2つ。ビタミンとミネラルはどんなものなの?」


「このビタミンとミネラルってのが難しいんだって。おいらもまだ勉強中だぜ。」


「じゃあ、わてが教えてやるだす!食べ物に関しては負けないだす!とりあえずビタミンやミネラルが足りないと病気になるって覚えておけば問題ないだす。一番覚えなきゃいけない病気は2つ。壊血病と脚気だす。」


「壊血病ってどんな病気なの?」


「まず力が入らなかったり歯茎から血が出るだす。そのあと歯が抜けたり傷が治らなくなったり違う病気にかかりやすくなって死ぬだす。特に1歳にならないくらいの生まれたばかりの赤ちゃんが気が付かないうちになりやすいから要注意って習っただす。」


「食べないと死んじゃう栄養素か。怖いのね。」


「壊血病はビタミンCが足りなくてなる病気だって習っただす。ビタミンCは酸っぱいものに多く含まれていて、新鮮な野菜や果物を食べていれば大丈夫だす。それが無い場合はキャベツの塩漬けのような酸っぱい漬物を食べると治るって習っただす。」


「そういえばキャベツの漬物はたまにお家でも食べたわ。漬物なら長持ちするから便利ね。とにかく酸っぱいものか。覚えておかなきゃ。」


「貧しい家のおかんは、赤ちゃんにお湯で薄めたシマしか食べさせなかったりするだす。きっとそのせいで赤ちゃんがビタミンC不足になったりするだすね。」


「そうなんだ。貧しいのが原因ってことなら、その人が壊血病を知っているだけじゃ解決できないわ。赤ちゃんを守るためには知識以外にも何とかしないといけない問題があるのね。それで、脚気はどういう病気?」


「怠くなって、身体が痺れて、むくんで、最後には心臓が止まるだす。膝の皿の下をコツンと叩くと足がビクッと伸びるのが正常で、それがなければ脚気だす。」


「心臓が止まっちゃうって怖いわね。でも分かりやすい確認方法だわ。」


自分の膝から下をプラプラさせて膝下を何度か叩いてみるとピョコンと足が伸びる。大丈夫。脚気じゃないみたい。


「脚気はビタミンB1が足りなくてなる病気だって習っただす。ビタミンB1はウナギや魚卵。それに牛や鳥のレバーや豚肉に入っているだす。でも豚は主要な貿易相手だったムスリムのアラブ人が食べない事から、この国にはほとんど輸入されてないだす。だからレバーか魚卵を探すのが早いって習っただす。」


「どちらも、そのビタミンっていうのを食べれば治るのなら、病気の症状とお薬になる食材さえ知っていれば安心だわ。でも、お母様は本当になんでも知っているのね。どこでそんなことを覚えたのかしら。」


「神様から教わったって噂だす!」


「いや、おいらが聞いたのは筋肉がこっそり囁いたって噂だったぜ!」


「馬鹿なことをいうな。夢で見たって噂が正しそうだぞ。」


「自分は王家に代々伝わる秘伝の知恵だと思うのである。」


デデはニコニコと頷いている。


みんな勝手なことを言ってるわ。筋肉が囁くって意味分からないし。後でお母様に聞いてみよう。


こんな感じで食べなきゃいけないものを覚えるのだけど、特に食べる物を自分で選べない赤ちゃんや子供が一番犠牲になりやすいって習ったわ。

赤ちゃんや子供を育てる女性全員に授業を受けてもらいたいわね。


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