6歳の10月(4)
6歳の10月(4)
社会の勉強は、この国の歴史や地理、法律や税、産業や貿易。それにお祭りや各種しきたり、呪術や霊媒師や神様や宗教についてなど盛り沢山。
しかも何もかもが初めて聞くことばかりで、自分があまりに無知すぎることに愕然として言葉が漏れてしまう。
「私、何も知らなかったんだね。」
「リルカは本当に物知らずなガキである。“半端な知識はハイエナの餌、無知はワニの餌”というから、リルカはワニの餌になりそうであるな。」
驚きっぱなしの私の様子に呆れたカイサが口を挟んできた。
改めて言われなくてもそう思っていたところよ!それにガキは余計よ!
今日のことわざは分かるような分からないような。ってどうでもいいわ!
余計な口を挟んできた罰として、復習を手伝ってもらおう。
「カイサあにき!教えてくれるのね!やっぱりカイサあにきはなんでも知ってて頼れるわ!」
「う、あぁ、当然である。フフ…。」
カイサは褒められて頼られるのに弱いの。
「この国の歴史の復習がしたいわ。教えて!」
「仕方ない、ちゃんと聞くのである。
建国の英雄は2人いる。
ひとりはニャティンバ・ムトタという戦士。今から100年くらい昔、遙か南からやってきた。」
「その遙か南には何があったの?」
「遙か南にはショナの国があった。周辺の木を伐り尽くし、草という草を牛の放牧で食べ尽くされ、さらには動物まで狩り尽くして飢餓に陥った国だ。ムトタはその国の貴族の息子だった。
ムトタは北へと旅立って、新しい豊かな土地を探した。
そして大きなツェンベレ川と岩塩、それに豊かな自然を見つけたムトタは、ここ、ツォンゴンベに町を作って新しく国を興した。
リルカ、自分が住んでいる町がツォンゴンベだって知らなかったのであるか。」
「うう、町の外に出られなかったから、町は“町”と言えば通じたのよ。名前を意識したこともなかったわ。」
「とんでもない箱入り娘であるな。
さて、次の英雄はマトペという。
ムトタの後を継いだマトペ王子は軍を率いて遠征し、北の川の周囲を支配するトンガ王国、海への途中にあるマニカ王国、海岸沿いにあるキテベ王国などを制圧して属国にした。
その他にも多数の部族を従え、それらをまとめて大きなひとつの国にした。
さらにマトペ王子はツェンベレ川に集まる象を捕まえて象牙や、チトゥンギザの銅、マニカの金などを、海の近くに住むスワヒリ語を話す者たちを介して輸出することで、とても裕福になって、この国や周りの王国をまとめていった。
そうして大きくなった国は、“征服した領土の王子”という意味のムウェネムタパ王国と呼ばれるようになった。」
「軍事だけじゃなくて、貿易でも英雄だったのね。」
私はこの国がムウェネムタパ王国って呼ばれていることも知らなかった。
自分が治めている国の名前を娘が知らないなんて、お父様もお母様もうっかりが過ぎるわ。
まあ、今までは町の中だけが私の世界の全てだったから、まったく必要無かったんだけどね。
「次は地理ね!」
「地理もやらせるつもりか!いい加減にするのである!」
「ごめんなさい。カイサあにきの教え方がものすごく上手だから頼ってしまって。みんながカイサあにきの事を必要としているのに、私ばかり独占しちゃいけないわよね。」
「こ、これで最後!良く聞くのである!」
「…。ちょろいだす…。」
「いや、カイサはなんだかんだ言っても面倒見が良いのだぞ。」
横で聞いてたフマとアディルがカイサの様子をみてコソコソ話している。
しー。もっと聞こえないように話しなさいよ。
「まず大きな川が流れている。母なるツェンベレ川である。リルカの住むツォンゴンベの町は、このツェンベレ川の中流から伸びる支流に沿って作られた。ツェンベレ川の本流は雨季に氾濫して大きく川の流れが変わったりするから、その近くには作れなかったのである。
ツェンベレ川は、ツォンゴンベの町からみると、遙か西から始まって、北へと斜めに流れ、そこから南東の海へまた斜めに流れている。ムウェネムタパ王国はツェンベレ川に大きな屋根のように囲まれる形になっているのである。それに自分たちの住む地域は高原で、周りより高くなっているから川が氾濫しても水で流されたりしない。また川の近くより自分たちの住む高原の方が随分涼しいのである。」
「随分涼しいって…ツォンゴンベの町も十分暑いけどツェンベレ川沿いはどれだけ暑いのよ。“ちょっと”じゃなくて、“随分”差があるってことよね。想像できないわ。」
「ツォンゴンベの町からツェンベレ川へ、一番近いのは北の方角。
先月、狩りをするために行ったところである。
そこから川沿いを200kmくらい下るとテテの町。テテの町はツォンゴンベの町から見ると東の方角になる。さらに250kmくらい川を下るとセナの町。セナの町はツォンゴンベの町から見ると南東である。さらに250kmくらい下るとやっと河口でその先が海になるのである。」
「見てみたいな海!海は空のように青いんだって。このあたりみたいに赤い大地と青い空じゃなくて、青い海と青い空に囲まれるのよ。想像できる!?」
「北のツェンベレ川からテテの町までは浅瀬や急な岩場があってカヌーのような小さな船しか進めないが、テテの町から海までは、川幅が広くて割と大きな船で行き来できるのである。
近隣の位置関係は、北の川辺にトンガ王国。南東の海辺にキテベ王国。南南東の海の手前にマニカ王国。その他小さな部族が沢山、ムウェネムタパ王国の支配下になっている。」
「とっても沢山の王国や部族が集まった連合国なのね。」
「逆にムウェネムタパ王国の支配下ではないが、遙か北東にマラヴィ帝国。遙か南西にトルワ王国がある。
このマラヴィ帝国とトルワ王国は、ムウェネムタパ王国と同じころに建国されている。
英雄ムトタと同じように、新たな地を探してショナの国を旅立った人々が建国したのである。
だからこの2つの国とムウェネムタパ王国は、兄弟のように交流をしているのである。」
「へー。どちらもいつか行ってみたいな。でもカイサは本当になんでも知ってるわね。学校の先生より詳しかったかも。誰に教わったの?」
「それは自分の祖父が長老をしているからである。自分は小さな頃から長老になれるようすべての知識を教えられている。リルカみたいに毎日遊んでいるわけじゃないのである。」
「リルカみたいは余計よ!そっかー。小さい時から大変だったね。立派だね!格好いいわ!だからえーと、あとは、法律や税、産業や貿易。それにお祭りや各種しきたり、呪術や霊媒師や神様や宗教についてお願いね!」
「全部ではないか!もう今日は終わりである!」
カイサが怒ってどこかに行ってしまった。
先生の授業よりもカイサがまとめたものの方が分かりやすいのはなんでだろう。
“もう今日は”終わりってことは、また今度教えてくれるのね!
あとで沢山褒めておこう。
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このあとの3つ、生物学や栄養学や衛生学は、今までの勉強と少し毛色が違っているの。
この3つは、それぞれ範囲を限定して詳しく勉強するんだって。
生物学は、その中でもどの動植物がどうすると食べられるのかということ。
栄養学は、その中でも何を食べないと病気になるのかということ。
衛生学は、その中でも怪我や病気をしないように、また、してしまった時にどうしなければいけないかということ。
つまりこの大地で生き抜くための勉強だね。
国語・数学・理科・社会や外国語と違う点は、この内容を知らないと簡単に死んじゃうってこと。
探検隊をするためにも、これはバッチリ覚えなきゃ!
まずは生物学ね。
どの動植物がどうすると食べられるのか、ね。
まず、毒があるかないか判別すること。
そして一番重要なのは、しっかりと火を通すこと。
野菜や果物はしっかり洗ってから使うこと。
この3つが基本中の基本ってことね。
最初の、そのあたりの草花や動物たちに毒があるか無いか、全部覚えないといけないのが面倒だわ。
「あんまり考えたことなかったけど、食べるものが無かったら牛肉食べればいいじゃない。」
私のつぶやきを聞いて、フマが血相を変えて怒り出した。
「ふざけるんじゃないだす!このぜいたく娘が!
いいだすか!この国では牛を飼うことに大きな意味があるだす。
貨幣がほとんど使われていないこの国では、畑から採れた作物や、放牧で飼う牛こそが個人の資産なのだす。
つまり、牛は大切な大切な資産であって、簡単に潰して肉になんかできないだす!
牛肉を食べられるのは結婚式とか特別な儀式の時だけで、普段肉を食べようと思ったら、野生の動物を狩るしかないだす!」
「えー、だってすっごく沢山の牛がいるじゃない。みんなで牛の世話しているしさ。」
「あれは全部ぜーんぶ!王様の牛だす!この辺一帯の牛はほとんど全部王様の資産だす!王様は大資産家だから、リルカはいつでも牛肉を食べられるだけで、普通の家庭は牛肉なんて特別な日だけだす!」
「そ、そうなの?」
他のみんなの顔を見回すと、全員が呆れたように頷く。
うう、なんだかとても恥ずかしくなってきた。
「じゃ、じゃあみんなはいつも何を食べているのよ。」
「そんなリルカのために用意してきただす!」
みんなが食べているものは興味があるわ!
どんなものかしら。
美味しいといいな!




