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6歳の10月(3)

6歳の10月(3)


いざ、模擬戦を始めようとしたら、私の相手が居なくて困ってしまった。


2人組になれって言われて見回したら、あからさまにみんなに目を逸らされたの。

女の子が私一人だけだし、王族だってことでやりにくいから仕方ないけど傷付くわね。

困っていたら、見かねたアディルが私の相手になってくれたわ。

アディルは優しいな。


でもアディルは大楯と短槍に慣れてない私に、基本的な使い方やよく使う技を教えてくれてる。

これはアディルの優しさと共に、私が相手にならないくらい弱いと思っているからよね。私はアディルよりも弱いかも知れないけど、アディルの想像よりは戦える自信があるわ。ちょっぴり腹が立つから一発鋭い攻撃でも喰らわせて目を白黒させる姿が見たいな。


アディルが教えてくれる内容は分かりやすくて良いのだけど、私は模擬戦だから思いきり戦いたい。

でもアディルはさっきからキョロキョロと周りの目を気にしていて本気でできないみたい。

“仕方なく相手してやってる”風を装わないと、後で寄宿舎の男の子たちから馬鹿にされたり、からかわれるのか。


しかも私が全力で闘って、下手にアディルに攻撃を当てちゃうと、“年下の女の子にやられるなんて”と言われるでしょうし、

かといってアディルに本気で攻撃してもらっても、“年下の女の子相手に本気になりやがって”なんて言われるでしょうし、

どっちに転んでもアディルが可哀想だわ。

私が舐められるのも嫌だけど、アディルが他の人に馬鹿にされるのはもっと嫌!


よし!アディルに短槍の基本的な使い方は習ったし、可哀想なアディルは解放してあげて、教官に挑戦してみよう!

2人組で余って先生に相手をしてもらうという流れが仲間外れな感じでとても嫌だけど、私の相手を交代してもらうため、教官を呼んでみた。


呼ばれてきた教官は先ほどの“歌の大隊長”ことアレク。

今度こそまともに身体が動かせるといいな。


「リルカ姫♪大楯を持てるのか♪短槍は使えるのか♪ア・ア・ア♪」


「アレク♪慣れてないけど使えるわ♪手加減すると怪我するわよ♪ア・ア・ア♪」


歌で返すと、歌の大隊長はニヤリと笑って模擬戦を開始する。


「大楯は腕で持って攻撃を防ぐな♪壁として使え敵の行動を制限しろ♪

相手が攻撃し辛い場所に壁を置け♪その壁に隠れてチクチクと攻撃しろ♪」


「“追いかけっこ”は私の得意技♪“かくれんぼ”なら負けないわ♪ほら足元がお留守よ♪」


アレクに言われた通り大楯に身を隠して、素早く穂先のついてない短槍で足元を狙う。

まだ随分と油断して手加減しているアレクの足を軽くノックしてみる。


「やるなリルカ姫♪さらに速くなる♪ついてこれるか♪ア・ア・ア♪」


「まだまだ遅いわ♪全力でいくわよ♪ちゃんと受けてね♪」


だんだんと私もアレクも攻防の速度が上がっていく。歌のリズムも速くなる。

私はお母様との訓練では剣しか使ってなかったから、短槍は慣れていないけど、基本はアディルに習ったし穂先の無い棒で軽く突くだけならそれほど扱いに困らない。

威力は無視してスピード重視で、背の低さを活かして足元へチクチク攻撃を繰り返す。

大楯を少しづつ位置を動かして、長身のアレクが動き辛いように気を配るのも忘れない。


お母様と訓練している時と同じように、全身の神経をむき出しにして相手の動きを感じる。

野獣の相手を喰い殺すような闘争心と10歩離れた場所からじっと観察するような冷静さが私の中で共存している。

アレクの呼吸も目線も筋肉の動きさえ、ひとつだって見逃さない。

お母様のように呼吸や筋肉の動きを隠してないアレクは先読みがずいぶん楽だ。

それでも長いリーチと熟練の技は私を追い詰めていく。


さらに攻防の速度が上がる。目が回るような16ビートのリズム。

二人の歌も最高潮に盛り上がる。

もう私は全力のスピード。歌いながらだと呼吸も苦しい。

アレクがどれだけ本気か分からないけど、まだお母様ほどの鋭さはない。

攻防は押されていくけど、お母様のスピードに目が慣れているので決定的な一撃は避けることができる。

手の長いアレクの短槍が身体ギリギリをかすめる緊張感。

執拗に足元を狙う私の短槍がアレクの大楯に阻まれる。


勝負は一瞬の隙で決まった。

歌っていた私の息が切れ、アレクの短槍が私に届きそうになり、それを避けようと大楯を手放したほんの僅かな隙に、私の大楯はアレクに蹴り飛ばされてしまった。

隠れる大楯が無ければ何もできないので、すぐに両手を挙げて降参。

体力もスピードも技術も完敗だわ。全力を出せて清々しいほど気持ちが良い。


「素晴らしい♪リルカ姫♪まだまだ強くなる♪ア・ア・ア♪」


「楽しかったわ♪当り前よ♪次は負けないんだから♪ア・ア・ア♪」


アレクと2人で歌いながら笑ってハイタッチをする。

歌いながら身体を動かすっていいわね。アレクと気が合いそう。


ハッと辺りを見るとポカンと口を開けたアディルや幼年兵たちが、一様に同じ顔をして手を止めて私たちを見ている。


「ほ、ほら!よそ見していると怪我するぞ!」


幼年兵たちと同じように口を開けて私たちを見ていた教官の一喝で、慌ててそれぞれの模擬戦に戻る。


なによ。アレク教官と一緒に歌ってもいいじゃない。

夢中になって意味不明な言葉も歌っていたかもしれないけどさ。

私そんなに音痴じゃ…ないよね?


今日の専門訓練はこれで終わり。

次から歌に合わせてみんなで同じ動きをするのも練習するって。

踊りみたいで楽しそう!


さて、幼年兵のみんながお仕事に行った後に、1人で黙々と投石の練習をする。

見よう見まねで始めたので、なかなかうまくいかない。

それでも百回以上投げていると、だんだんコツが掴めてくる。


こう、棒の先についたスリングとその先に乗る石の重みを感じて、

ゆらゆらとタイミングをとって、鞭のようにビュッ!と振ってビッ!て止めるんだね。

力を入れるんじゃなくて、むしろ力を抜いて鋭く動かすっていうか。

そして助走もタイミング良く、だらだらと走らずに思い切って重心を動かしてピタッと止める。

腕も助走もこの止める勢いが重要ね。

ゆっくりな状態から一気に動いて壁にぶつかるようにピタッと止めるのが難しい。

うん、言葉にしても分からないわよね。


コツが掴めるとだんだん飛距離も伸びて簡単に100mを超えるようになってきた。

400mを狙いたいよ。もう少し頑張ろう。

でも色々工夫してみたけど正確に狙うのは難しそうだわ。

投槍は正確に狙えそうだったけど、スタッフ・スリングの投石は方向とおよその距離しか定まらない。不安定な原因は石が放たれる瞬間のタイミングをコントロールできないからなんだけど、何か工夫の余地はないかしらね。


あ、日が暮れてきたから今日は終わり。おうち帰ってご飯食べなきゃ。

また今度練習しよう。


---


次の日は早朝からいつものメニュー(ランニングや小隊訓練)をこなした後に、専門訓練じゃなくて学校でお勉強の日。


学校では色んな種類の授業があって、知らないことばっかり。

科目でいうと、国語、数学、理科、社会、それに生物学や栄養学や衛生学、さらにはアラビア語、スワヒリ語やポルトガル語を習う。


まずは国語。私たちが普段使うショナ語は文字が無かったので、アルファベットという他の国の文字をお母様があてはめて作ったみたい。読み書きは軍隊でも政治でも商売でも、命令書や報告書や契約書に使うので絶対必要なんだって。文字はお話する発音そのまま書くのでシンプルだけど、文字数が多くなって、書くのも読むのも大変ね。


またアラビア語、スワヒリ語やポルトガル語は簡単な言葉や文章、それに基本的な文字の読み書きだけ習う。


アラビア語はアラブ商人がやってきた時に使われるんだって。アラブ商人は隊商を組んで船や陸からやってきて、貴重なものを販売してくれることもあるんだけど、盗賊みたいに襲ってきたり、人を攫って奴隷にしたりもするから要注意って教わったわ。騙されないためにもちゃんと言葉を覚えないと商売もできないよね。


スワヒリ語は主に海の近くで使われている。色んな部族の人がいても、海の近くではスワヒリ語が共通語として通じるから便利なんだって。あとスワヒリ語とアラビア語は少しだけ似ている。共通の言葉がいくつもあるの。

ちなみに海はまだ見たことないの。川よりもっとでっかい水たまりなんでしょ?見てみたいなあ。


そしてポルトガル語はポルトガル人と貿易するのに必要で、いまポルトガル人との貿易が拡大しているから重要なんだって。


私たちの国の言葉であるショナ語、アラブ人の言葉のアラビア語、海の近くの共通の言葉であるスワヒリ語、ポルトガル人の言葉であるポルトガル語。

色んな言葉があって、頭が爆発しそうだわ。


ちなみに私だけ、学校とは別にお家の中でもうひとつ言葉を習っている。これは御伽話の国の言葉で、私やお母様や乳母たちだけが喋れるんだって。私たちだけの秘密の暗号みたい!素敵!

お母様から御伽話の国の言葉の読み書きも習う。語学は苦手だけど、この言葉だけは苦にならないの。すごく複雑だけど楽しいからどんどん覚えられるよ。



次に数学。足し算、引き算、掛け算と割り算。それに表やグラフ、面積の計算や速度の計算、それに複式簿記などなど色んな計算を習う。九九とかって掛け算は呪文みたいよね。“ダチョウワニ算”とかパズルみたい。


「この複式簿記を考えた将軍は天才だす!神だす!」


商売や工作に必要な知識が学べるのでフマはハイテンションになっているわ。

数学は主に政治や商売や軍隊の補給などに使うんだって。


「なんでリルカは勉強せずに遊んでばかりなのに成績が良いだす!?ずるいだす!」


数学もまた覚えなきゃいけないことが沢山あるんだけど、なぜか私の成績がフマより良くて一番だったの!賢いでしょ?えへん!



今度は理科。これはもう目に映るもの全てがどうなっているのかっていう勉強ね。工作部隊に入る人は特に必要なんだって。お日様、月、星、光、天気や風、植物や虫や人間の身体、空気や水や金属、火や土などの事。これらは全部お母様が教えてくれたんだって。やっぱりお母様はなんでも知っているのね。


「これは間違っているのである!将軍に抗議するのである!」


今まで覚えてきた内容とあまりに違う事を教わったそうで、お母様のところに抗議に行ったカイサがしょげて戻ってきたわ。


「覚える事が倍になったのである。」


“それも大事、どっちも正解。両方完璧に覚えなさい!”

と叱られたみたい。

世の中難しいのね。真実はひとつじゃなくて、沢山あるのね。


私は理科も成績が良かったよ!算数も理科もなんとなく分かるの。問題を出されてもスイスイ解けるから大好き!お母様が褒めてくれるかなって思って自慢しに行ったら少し悲しいような笑っているような微妙な顔で頭を撫でてくれたわ。なんでだろう?


さらには社会の時間。これがまた覚えることがたくさんあるの。

しかも知らない事ばかりでビックリしちゃった。

この国の歴史どころか、名前すら知らないお姫様ってありえないわよね?

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