6歳の10月(2)
6歳の10月(2)
週に2回ある専門訓練では今後所属する各部隊の訓練を受ける事ができる。
まだ幼年兵は各部隊の適正を判断中ということで、好きな部隊に行って良いことになっている。
でもお兄ちゃんたち5人は所属したい部隊が決まっていて、毎回同じところに行くみたい。
アディルは歩兵部隊、オニカは突撃部隊、カイサは大弓部隊、デデは斥候部隊、フマだけ工作部隊と補給部隊で2カ所ね。
私はまだどこに入りたいとか決めてないので、全部の部隊を回ることにしたの。
それぞれ楽しそうで、どこの部隊に行くか本当に悩むわ。
まず今日はアディルと一緒に「歩兵部隊」の専門訓練へ行くことに。
「近衛軍全体でも1番人数の多い部隊で3000人以上いるんだ。
将軍が開発した大盾と短槍と片手剣が主装備で、大楯と短槍は使いこなすと凄い技があるって噂なんだ。」
アディルがとても楽しそうに語ってる。この部隊に憧れていたものね。
「この部隊で何より凄いって思うのが、みんなで一挙手一投足同じ動きで行動する集団行動や、まるで生き物の手足のように自由自在に動く陣形変更など、沢山の人の力を合わせて大きなひとつの力にできることだ。これこそ軍隊の究極の形だよ。」
「そうね、狩りでの動きは凄かったわ。」
幼年兵で集まって雑談していると教官が来て、
まずは部隊の説明を受けるところからスタート。
突然流れる陽気で軽快なリズム。ドレッドヘアに長身な教官が上半身を揺すって歌いだす。
「ようこそ♪我が栄光の歩兵部隊♪私が“歌の大隊長”ことアレクDA♪ア・ア・ア♪」
また濃いのが現れた!けど歌は大好きだから嫌いじゃないわ♪ア・ア・ア♪
「歩兵部隊は6人一組で小隊♪小隊が集まって100人中隊♪中隊が集まって1000人大隊♪ア・ア・ア♪知ってもらいたい♪3つの大隊♪俺の“歌の大隊”♪他に“踊りの大隊”♪さらに“楽器の大隊”♪ア・ア・ア♪……♪」
「リズムにノッてると内容が全然頭に入ってこないわね♪ア・ア・ア♪」
「ちゃんと聞けよ。歌や楽器での合図以外にも、旗や身振り手振りの信号などで指揮や連携を伝えられるように決まってるって言ってるぞ!」
「へー♪そうなんだ♪ア・ア・ア♪」
「いい加減にしろ。それにしても、軍の指揮や命令はシンプルじゃないと動かない。これらの合図はシンプルなのに何故あんな複雑な動きができるのか。いったいどんな秘密があるんだっ!」
アディルはこの歌の良さが分からないみたい。内容だけに興奮している。私は歌が楽しそうってひたすら真似して歌ってた。
次に歩兵部隊の訓練が始まると、大楯と短槍の使い方を教わったの。剣や小さな盾はお母様との訓練で使っていたからなんとなく分かるけど、大楯や短槍の使い方は面白いわね!
「我らこそが“王の盾”♪身体を隠すようなこの大楯♪地面に置いて使うのが基本♪下を地面に突き刺す♪上を身体で支える♪大地と一体♪ア・ア・ア♪衝撃の半分を大地が受け止める♪」
「大地の力を借りて受け止めるなんてワクワクするな!
100人でかかればゾウの突進だって止めてみせるって言ってるぞ!」
アディルの興奮が増している。
歩兵部隊は“王の盾”って呼ばれているんだって。防御が飛び抜けて上手いのね。
私は体重が軽いから、地面を使って盾で受け止められるのは凄いなって感心してる。
あと、そんな受け止め方ができるのは、お母様の開発した大楯が絶対突き破られない壊れないって信頼しているからなんだって。やっぱりお母様は凄いんだね!嬉しいな!
それで短槍の使い方がまた面白くてね。
色々な使い方を教えてくれたの。
「大楯の裏につっかえ棒♪大地で支えるつっかえ棒♪短槍こそが俺の相棒♪どんな突撃も止めるぜ暴れん坊♪ア・ア・ア♪」
「つっかえ棒!?短槍は攻撃しか考えたことが無かったが、防御にも使うだと!?これが大楯の技“大地の盾”か。」
アディルがさらに興奮している。
つっかえ棒は、たしかに思いつかなかったわ。
すごく強い敵の突撃が来た時に、受け止める大楯のつっかえ棒として短槍を使うんだって。
大楯の下を地面に突き刺して、大楯の裏に短槍を噛ませてつっかえ棒にして、最後に人が支えれば、ほとんどの力を地面が受け止めてくれるから、どんな人や動物が突っ込んできてもビクともしない壁のようになるって。
これが100人いたら確かにゾウでも止められそうね。
「歩兵部隊の遠距離攻撃♪スリングで投げる投石♪短槍使えばはるか遠くに岩石♪大地が空から降ってくる奇跡♪ア・ア・ア♪」
「今度は短槍を使って石を投げるだと!?手で投げるのと比べものにならない飛距離だ。投石技“大地落し”とんでもない技だな。こんなのを3000人から投げられたら確かに大地そのものが空から落ちてくるように見えるぞ…。」
アディルが興奮を通り越して恐れ慄いている。
短槍のお尻の方、石突って呼ばれる場所には長くて丈夫な革の紐が付いてるの。
この紐はストラップと呼ぶらしくて、普段手首に巻いて1~2m先に投げつけた槍をすぐ引っ張って回収するために使うんだって。それは便利だなってみてたんだ。
そしたらね、実はその紐の真ん中が編み込んで受け皿みたいに平らになっていて、その平たい受け皿に石を挟んで短槍を逆さまにして振って石を投げるのよ。
“スタッフ・スリング”っていうんだって。
これがすっごい威力で、1番上手な人は、当たったら大けがしそうな石を300mも飛ばせるっていうの!信じられる?
3000人全員が最低でも200m以上は飛ばせるって言ってて、私も試しに投げさせてもらったけどなかなか難しかったわ。今日は訓練が終わってみんなが仕事に行ったあとに、日が暮れるまで一人で練習しよっと!
さっきアディルが慄いていたけど、200m離れたところから3000人が一斉に石を投げてきたらって想像したら、私もゾッとするわ。
練習すれば誰でも使えるこの危険な武器は、もちろんお母様の発明だって。
お母様は世界一の天才ね!
ちなみに棒は無しでも、紐の部分だけあれば手で投げるよりも何倍も強く石を投げられるみたい。これは単にスリングっていうんだって。こっちは紐を手で持って、クルクルって回してピッ!って投げる感じ。頑張れば200m飛ばせるけど50m〜100m前後が狙い易いわね。ただ、石の大きさは短槍を使った時よりもずっと小さくて軽くなっちゃう。
逆に短槍を使った投石よりずっと短時間で次に投げる準備ができるから、距離が近かったらこれで十分な時もあるよね。
スリングもお母様が軍で教えて広めたみたいなんだけど、最近、町の近所に住む12歳以下の男の子たちには、これで小さな動物を狩るのが流行り始めているんだって。こんな楽しい遊び、みんな教えてくれなかったわ!
「必殺の一撃♪最後は投槍♪狙いは完璧♪貫く鉄壁♪ア・ア・ア♪」
「最後は投槍か。この精度、何より威力が危険すぎる…。こんなのを3000人から投げられたら…。想像したくないな。」
アディルは最初の興奮はどこへやら、すっかり大人しくなっている。
最後に短槍そのものを投げる使い方を教わったの。
槍投げは投石よりも飛距離は落ちるけど、正確に狙えて威力が遙かに高いのが特徴ね。
一番上手い人は100m先の人間の身体を狙って撃ち抜けると言ってたから凄い威力と精度よね。
これはアトラトルっていう槍を投げるための道具を使うんだって。
40cmくらいの“でっかいオタマ(レードル)”みたいな棒を短槍のお尻にひっかけて、次に短槍とオタマを一緒に持って、最後にそのオタマで短槍のお尻を押し出すように投げるの。オタマを持つ手首のスナップを利かせて最後の最後まで短槍のお尻を押すのがコツね。
試しに投げさせてもらうと、想像していたよりも遙かに遠くに飛ぶのと、槍を押し込む間に狙いを微調整できるからなのか、ちゃんと思ったところに飛んでくれるの。
一番上手い人が言っていたのも大げさじゃないって分かるわ。
でも短槍自体を投げてしまうと残る武器が片手剣だけになっちゃうから、最後に1回だけ使える手段なんだって。沢山の槍を次々と投げられたらすごく強いって思ったけど、上手くいかないものね。
アディルはすっかり静かになって、難しい顔をして黙り込んでいる。
「凄かったね!アディルにいさんは憧れの部隊の技を見れたのに、何で難しい顔しているの?」
「ああ、リルカ…。うちの軍と差がありすぎるんだ。」
「うちの軍?アディルにいさんは軍隊をもっているの?」
「いや、俺の親父は南の方の部族が治める地の軍で、将軍をやっている。俺の親父は歴戦の勇者で俺も小さい時からずっと訓練してきた。」
「わあ、偉いんだね。じゃあ、なんでアディルにいさんはここで幼年兵をやっているの?地元の軍に参加すれば良かったじゃない。」
「俺はこの軍を学ぶために留学しているんだ。近衛軍の圧倒的な強さの秘密を学んで持ち帰るために。だが、この軍は何もかもが違いすぎる。
実家の軍は、ここと比べたらオモチャのような盾と槍を持って、統制や指揮などと言えないくらいバラバラに突撃できれば良い方だ。
俺の親父は勇者と呼ばれるくらい強いけど、何人かが強いくらいではこの技術力や組織力は覆せない。
残念だが近衛軍と実家の軍ではゾウとアリくらいの差がある。
何か良い所を持って帰ろうと考えても、あまりに差がありすぎて10年や20年かかってしまいそうだ。でも近衛軍はたった6~7年で作り上げられたと聞いている。
いったい何をどうすればいいんだ。」
「考えすぎるの良くないよ。とりあえず一緒に歌おうよ♪それで頑張って勉強して強くなって、アディルが大隊長になればいいじゃない。そしたらどうすればいいか分かるよ絶対!」
「はは、まあ、そうだな。今考えても無理だ。ありがとうリルカ。」
アディルがあまりにも難しい顔をして悩んでいるから、適当な気休めを言ってみる。
少し気が紛れたみたいで私の頭を撫でてくれた。
でも帰ってから一人で考え込むんだろうな。アディルは真面目だからなぁ。
大楯と短槍の使い方を教えてもらったあとは、最後に大楯と短槍を使った一対一の模擬戦。
大楯は本物だけど、短槍は練習用の穂先のないもの。
やっと思いきり身体を動かせるわ!楽しみね♪ア・ア・ア♪




