6歳の10月(1)
6歳の10月(1)
「今日から探検隊を始めます!」
初めての狩りから1か月くらい経ったある日、お兄ちゃんたち5人を緊急招集といって学校近くの丘に集めて座らせてから発表する。ついに私の世界中を見て回る冒険が始まるのよ!
「はぁ。リルカ、色々と突っ込みたいことがあるのだが、まず探検隊ってなんだ?」
元マユゲことアディルが深いため息とともに片手で頭を押さえながら聞いてくる。頭が痛いのだろうか。
「リルカ探検隊よ!」
「名前を聞いているわけではないのである。そもそもなんで自分たちを呼んだのか教えてほしいのである。」
元ツルッポことカイサが相変わらず冷やかに答えてくる。
「そりゃもちろん、お兄ちゃんたち5人が探検隊の隊員だからよ。」
「聞いてないだす!それに探検隊って何するだすか?」
元プルーンことフマはご飯の事以外興味無さそう。
「いま初めて発表しました!えへん!探検隊はね、この世界の全てを見て回るの!フマあにじゃ、世界中の美味しいものも食べて回りたいわね!」
「乗っただす!!」
釣れた!フマの性格はこの1か月で把握済みよ。
「それは探検じゃなくて観光だって。おいらは何すればいいんだい?護衛か?」
元ガッツことオニカが能天気に筋肉を見せつけてくる。
「オニカあんちゃん、世界中の強い奴と戦う修行の旅だよ!最高の筋肉に鍛え上げるチャンスだよ!」
「わはは!乗ったぜ!」
こっちも釣れた!オニカは単純で明るくて頼れて素敵だわ!
「デデにぃには?」
元小枝ちゃんことデデはニコニコとして首を縦に振っている。
デデはokということらしい。
これで5人のうち3人ゲットよ!でも最後に二人。手ごわいのが残ったわ。
アディルは真面目すぎだし、カイサはひねくれものでなかなか素直にokしてくれない。でも二人への対策をたくさん考えてきたんだから!
「カイサあにきが来てくれないと、世界中の物や動物を見て回っても“それが何か”って教えてくれる人がいなくて困っちゃうの。一緒に来てほしいな。」
カイサは博識だ。動物や鳥や植物を見て、それがどんな名前でどんなものなのか教えてくれる。教えておいて“こんなことも知らないのか、ふん!”って態度するのは玉にキズだけど、一度素直に褒めたらすごく嬉しそうだったの。きっと尊敬されたいのね。
「ふん!お前らは何も知らない子供だからな。自分は群れずに独りでいた方が好きなのである!」
「なんでも知ってるカイサあにきってすごいなって、みんな思っているよ!私、何も知らないからカイサあにきのこと尊敬してるんだ。最初だけでも一緒に来てよ。」
「フ、フフ」
あ、いま嬉しそうにニヤッとした。もうひと押しね!
「リルカ、俺たち仕事と訓練で探検する時間なんてないぞ。」
そこにアディルが真顔で割って入ってきた。
わーん。もうひと押しだったのに。二人で連携はずるいよ!
「毎日早朝から訓練して勉強して、午後は牛飼いの仕事して、夜はヘトヘトですぐ寝てしまう。お休みの日なんて無いから探検に行けないぞ?」
ぐぅ。痛いところを突いてくる。私は午後の牛飼いの仕事をしていないから午後は暇だけど、みんなはもう仕事しているから暇なんてない。
「それに探検するっていっても無いものだらけだ。お金も食料も目的地も地図も何もない。危険な動物や盗賊も出るけどリルカは武器すらないじゃないか。これじゃどこにも行けないな。」
「まあ、お子様の夢物語であるな。」
でっかい眉毛を顰めさせてのアディルの突っ込みに、頭をつるりと光らせたカイサが乗っかってしまう。せっかくあとひと押しだったのに。
「その問題が全部クリアできたら二人も一緒に行ってくれるわね!?」
「「そりゃあ、なあ。」」
アディルとカイサは顔を見合わせている。
「じゃあ決まり!リルカ探検隊の結成よ!隊長は私、アディルにいさんは副官ね!副官としてしっかり準備しておいてね!」
「え、おい!なんだよ副官て。」
アディルに対する最後の策を早口でひと息に言いきって押し付ける。副官への任命である。真面目だから役職を任命しておくとそのために真面目に考えてしまうはず。
今日のところはこれで良しとしよう。絶対に諦めないんだから!
アディルの質問に返事をするより早く学校の鐘がなる。
「今日は解散!学校いきましょ!」
「え?待てよ。副官て何するんだよ。」
みんなアディルを無視して立ち上がると学校に向かって歩き出す。
リルカ探検隊、楽しみだな。いつ探検に行けるかな。
「今日の授業は何をやるんだって?」
「栄養学と衛生学だす!」
「フマが得意なやつであるな。」
「おーい。まてよー。副官ってなんだよー。」
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初めての狩りからすぐに私は幼年兵部隊に混ざって学校に通っている。
早朝に起きると町の外へ出て、歩いて5分くらいで学校と寄宿舎だ。
この国はちいさな村が非常に多く点在している。
農地や牛の放牧地が各地に散らばっているから仕方ないみたい。
その中でも私が住んでいる町は王様がいるから首都って事ね。
他の村や町と比べるととても大きい方なんだって。
学校の近くに住んでいる人も遠くの村から来ている人も、幼年兵は全員、寄宿舎で寝泊まりしている。
寄宿舎に泊まっている人はご飯が食べられる代わりに、午後は王様の牛や畑を世話することになっていて、私以外の小隊の5人はみんな寄宿舎にいる。
私は1人だけ女の子だから、特別におうちから通学ですって。
早朝の教官たちの理不尽な訓練ももう慣れた。
整列して身だしなみや服装を指導されて(言いがかりをつけられて)の腕立て伏せ。
この指導(言いがかり)も、教官のネタが尽きるまで続くのだが、ずっと続けて同じネタを言ってはいけないルールでもあるみたいで、私たちの腕立て伏せができる回数が伸びるにしたがって指導のネタも尽きてくる。
さらに生徒の服装は基本的に裸足だし、腰巻一つだけ。だから服装で難癖つけられないのでなおさら教官もだんだんとネタが無くなって苦しくなってくる。
ちなみに私は下着も靴下もズボンもシャツもブーツも履いて完全装備。
でも暑くて重いうえに、服装の乱れを指導しやすいので、私の小隊は他よりも腕立て伏せが多いと思う。みんなごめんね。
最近笑ったネタは
「貴様の眉毛に寝癖がついている!腕立て伏せはじめ!」
とか
「貴様の筋肉にツヤが足りない!腕立て伏せはじめ!」
など。
無茶言わないでよって感じでつい笑ってしまったの。
ちなみに笑うとさらに腕立て伏せを追加されるので要注意よ。
次に全体でランニングするけど、歩兵部隊が持っているのと同じ大楯と短槍が貸し出されるの。
これがまた重くて、これを持って走ると両腕が疲れて上がらなくなるわ。
大楯を下手に落とすと靴を履いていない足が潰れちゃうから本当に危険。
それからランニングの際に先頭を走る教官が叫ぶ適当な掛け声を復唱するのが恒例。
走りながら思いきり叫ぶことで腹筋を鍛えるのが目的らしいけど、内容が適当すぎで気が抜けてしまう。
例えば…
「今日も♪」
「「「今日も!!」」」
「元気だ♪」
「「「元気だ!!」」」
「ご飯が♪」
「「「ご飯が!!」」」
「うまい♪」
「「「うまい!!」」」
「だけど」
「「「だけど?」」」
「今晩」
「「「今晩?」」」
「おかずが」
「「「おかずが?」」」
「無いの」
「「「なんで?」」」
「昨日」
「「「昨日?」」」
「彼女と」
「「「彼女と?」」」
「デートで」
「「「デートで?」」」
「食べちゃった!」
「「「爆発しろ!」」」
「だれか!」
「「「だれか?」」」
「ご飯!」
「「「ご飯?」」」
「恵んで!」
「「「知るか!!!」」」
こんな感じのくだらないネタが繰り返されて、最初は真面目に復唱していた幼年兵たちもいい加減慣れて突っ込みを覚え始めたところ。
それでネタが切れると連続歩調~!と叫んで番号を数えるの。
「いち!いち!いちに」
「「「そーりゃ!」」」
「いち!いち!いちに」
「「「そーりゃ!」」」
「いちにいちに」
「「「いちにいちに!」」」
「いちにいちに」
「「「いちにいちに!」」」
「ちょー・ちょー・ちょー!」
「「「そーりゃ!」」」
「いち!」
「「「そーりゃ!」」」
「に!」
「「「そーりゃ!」」」
「さん!」
「「「そーりゃ!」」」
「し!」
「「「そーりゃ!」」」
「1234!」
「「「1234!」」」
「1234!」
「「「1234!」」」
こんな感じでみんなでリズミカルに掛け声を出すと、歌って踊るみたいで楽しいよ。
ちょ~ちょ~ちょ~って何の意味か分からないけどなんだか可愛い。
号令をかける人が毎日変わるので、ずいぶん適当に号令も変わっていくの。
アドリブで返事を叫ぶのも大変だわ。
ランニングに限らず、何でもこうしてリズムに乗って歌って行動するのが近衛軍の特徴なんだって。他の国の軍隊はもちろん、国内の他の軍隊でもやってないみたい。
歌った方が楽しいのにね。
ランニングの後は小隊ごとに別れて筋トレや連携などの訓練。
それが終わったら学校での勉強や、週に2回の専門訓練ね。
学校の勉強や専門訓練がまた、うんざりするほど沢山覚えることや、やることがあって大変なのよ。
でもすごく役に立つことばかりだから頑張って覚えなきゃ。
探検に出る前にクリアしなきゃいけないことがいっぱいだわ!




