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6歳の9月(14)

6歳の9月(14)


お母様は周りで見ていた沢山の人に交じっていた私の小隊のみんなを呼び寄せ、

私をお願いするとおタマさんを連れて去ってしまった。


私はまだお尻が痛くて立ち上がれず、泣いたままだったけど、

プルーンやみんなに謝って許してもらった。

もうこれからは美味しくてもお腹空いてても、ちゃんとご飯はみんなで分けるよ。

みんなで食べる方がきっと美味しいよ。


歩けない私を、またガッツが背負ってくれて移動する。


背負われながらみんなに話す。


「私ね、今回の事でもうひとつ決意が増えたの。

他の人からご飯を分けて貰わなくてもよい存在になる。

自分で獲物を獲って、料理を覚えるわ。

食べられなかったら自分で料理して美味しくすればいいの。

分けて貰う存在じゃなくて、分けてあげる存在になる!」


「そいつはおいらも賛成だぜ!」


ガッツが賛成してくれる。

小枝ちゃんもニコニコ頷いている。


「美味いものを自分で作るのは良いだすね!」


プルーンは食べ物にしか反応してない。


「力も知識も何もないリルカじゃ無理である。」


「うん、だから今から頑張って勉強して訓練して、強く賢くなるね。よろしくね。」


「ふん、“シマウマを追っても捕まえられない。しかし捕まえた者は追っていた者だけ”というからな。頑張るだけマシである。」


ツルッポの今回のことわざは良く意味が分かるわ。

とにかくまず追わなきゃ、捕まえられる可能性はないよね。


「俺もそうなりたい。一緒だな。頑張ろう。」


マユゲはそういって頭を撫でてくれる。

みんな本当にありがとう。明日からもどうぞよろしくね。


「あとね、ガッツに勝ったら、なんでもひとついうことを聞いてくれるって件ね。」


「なんでい!おいらにだってできることとできないことがあるぜ!」


ガッツは慌てて身構える。みんなはそれを他人事のようにニヤニヤして見ている。


私は穴に埋まっている時から考えていた。お願いを聞いてもらったら1回きりで終わり。

あんなに死にそうな思いをしてお願い1回きりではもったいないから、今後何度でもお願いできるようにはできないかと。


“今後ずっと私のいうことを聞きなさい”では拒否されるし、“私の召使いになりなさい”では給料を支払わなくてはならない。拒否されず、給料を支払わなくてもよくて、今後もお願いを聞いてくれそうな絶妙なラインを考えて考え抜いた結果だけど、受け入れてくれるかどうかは分からない。


「あのね、お願いはね…。」


こんなこと言ってみんなに馬鹿にされないかと恥ずかしいけど、言うだけならタダだから言ってみよう。ダメそうならなんとか誤魔化そう。色々と考えてもじもじと恥ずかしそうにしていると、みんなが耳を傾けている。よし心を決めた。


「私のお兄ちゃんになって!」


言っちゃった!恥ずかしい!なんかガッツもみんなも固まっている。

やっぱり馬鹿にされちゃうかな。みんな呆れているかな。

言い訳しないと。


「いや、あの、私一人っ子だったから。お父様とお母様とおタマさんとおスミさんしかいなかったからお兄ちゃんっていいなって。お兄ちゃんていたらどんな感じかなって。そしたらみんながすごく優しいから。お兄ちゃんになってくれたら嬉しいなって思っただけ。そう、思っただけなの。こんなお願いだめよね。そうよね。何か違うこと考えるね。」


必死になってあわあわと取り繕おうとするけど、なんだか上手く誤魔化せない。

みんなはまだ固まっている。いや、むしろプルーンとか真剣な顔をしていて怖い。


沈黙を破った声は私の前から聞こえてきた。


「いいぜ!おいらがリルカのあんちゃんになってやる!いまも妹も弟もいるしな。一人や二人増えても変わらねえって!」


「ガッツ…。」


「ちょっと待つだす!わてもリルカの兄になってやっても良いだす!」


「俺も、リルカの兄になってやる。」


「プルーン、マユゲ?」


続けざまに2人からも返事が来る。

え?プルーンはなんで自分から?マユゲも?

小枝ちゃんが私の手を握ってニコニコ頷いてくれている。小枝ちゃんも?


「皆がそうなら仕方ないな、自分ら5人ともリルカの兄貴になってやるのである。」


「小枝ちゃん、ツルッポ…。」


ええ?ツルッポまで?どういうこと?

みんなで今後も私の我がままをきいてくれるの?


「みんなぁ。ありがとう…。」


「それはそうと、リルカ、そのあだ名はなんとかならないのであるか?兄貴なのだからちゃんと名前で呼ぶべきである!」


「えっ…。名前。なんだっけ?ツルッポ。」


「カイサである!」


「ガッツは?」


「オニカだって!」


「マユゲは?」


「アディルだ!」


「プルーンは?」


「フマだす!」


「小枝ちゃんは?」


私の耳に口を近づけて小さな声で「デデ。」


「ありがとう。ちゃんと名前で呼ぶね。オニカあんちゃん!カイサあにき!アディルにいさん!フマあにじゃ!デデにぃに!」


「なんか、呼び方に差があるのはどういうことだす?」


「5人もいっぺんにお兄ちゃんができたんだもの!みんなそれぞれ大切な呼び方にしたいの!」


なんだか納得したようなしないような顔のお兄ちゃんたちに介護されながら割り当てられた簡易天幕で朝までぐっすり寝た。


お尻は熱く腫れてはいたものの、初日の夜よりはマシで、一晩寝たらずいぶん動けるようになった。また早朝から教官の訓練を受けて、頑張って行軍して町の近くまで戻ってきた。

もうヘトヘトだわ。


最初に集合していた場所まで戻ると、お母様の解散の命令でようやく家路につく。

またギンシャリの上、お母様の前で揺られているうちに眠くなってうとうとしていると、いつの間にかおうちのベッドの上にワープしていた。

お母様は魔法使いだ。


部屋の中は真っ暗。みんな寝ている。今日はお休み前のお母様の御伽話は無しだけど、ここ数日間が全部御伽話の中だったかのように思える。もう一度おやすみなさい。


……。


朝、目が覚めるとお母様はもう出かけていて、代わりにお父様が来ていた。

おタマさんとおスミさんが用意してくれた美味しい朝ご飯を食べながら、お父様に今回の冒険を色々と報告する。


「リルカ、狩りはどうだった?」


「あのね、あのね、笑いハイエナに襲われて、シマウマに蹴られて、大きな穴に生き埋めになったの。」


「…。どういうことだ…。」


「それでね、今回助けてくれたみんなが5人ともお兄ちゃんになってくれたの!私、お兄ちゃんが5人もできたんだよ!」


「…。リルカは渡さん…。」


「王様、食卓で剣を抜くのはおやめください。お気を確かに。」


なぜか剣を抜くお父様をおスミさんが淡々と諌める。


「あとね、ご飯がね、美味しくなくて食べられなかったんだけど、おタマさんが助けてくれて、私もお料理できるようになりたいって!」


「まあ、それは分からないでもないな。リルカの母さんだって最初は何も食べられなかったんだから。無理やりインドから取り寄せたガラムマサラという香辛料を使ってようやく食べられるようになったのだ。その時はもうすごかったぞ。お父さんも食べたかったのに、私のだー!絶対あげないぞ!っていって独り占めしてな。一緒に食べられるようになったのはそれからしばらくしてからだったぞ。」


「お母様……。」


おタマさんがおろおろしながらお父様の話を遮ろうとしているが、お父様は当時を思い出して話の興が乗ったのか、一顧だにせず話し続ける。


「ガラムマサラっていうのはな、インドで作られる色んなスパイスが混ざったものだ。これをかけれれば肉でも魚でも野菜でも全部、とりあえずなんだか美味しくなる。魔法のような粉なんだ。いつもはスパイスがゴロゴロと入っていて、使う直前に砕いて粉にするのだけど、シナモン・クローブ・ナツメグという3つの香辛料がメインで、カルダモン、胡椒、クミンなんかも入っている。どれも同じ重さの金と同じくらい高いんだ。リルカの母さんが死なないように必死に取り寄せたけど、最初はアラブ商人にぼったくられたのもあって、目玉が飛び出るくらい高かったよ。」


途中で帰ってきたお母様は、お父様が言い終わるかどうかのタイミングで腕を掴んで強引に隣の部屋に連れていった。


「え?なに?…いやーっ!ごめんなさいー!ぎゃー!」


お父様の悲鳴が聞こえてくるけど、おタマさんとおスミさんが聞こえないように話しかけて遮ってくる。

私は朝ご飯を食べ終わって準備を終えると家から飛び出して町の外へと向かう。

今日から幼年兵部隊で訓練だ!お兄ちゃんたちと一緒にいっぱい勉強するよ!


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●今月のお母様のお取り寄せ万歳!『ガラムマサラ』

主にインド料理で使われているミックススパイスで熱い香辛料という意味。

インドでは、それぞれの家庭のお母さんが独自の配合で作っているため、日本でいうところの『おふくろの味』といったイメージで扱われる。

スパイスを種や樹皮などの原型のままフライパンなどで空煎りし、砕いて粉にすれば完成する。香りが命であるためあまり長く保存はできないが、「ホール・ガラムマサラ」といって、スパイスを砕かずに保存する方法があり、使用する直前に粉にして使う。

ガラムマサラは基本の香辛料として使われ、例えばこれにコリアンダーやクミンの香り、ターメリックの黄色やカイエンペッパーの辛味などを合わせるといわゆるカレー粉に近くなってくる。

次から「6歳の10月」がスタート。

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