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6歳の9月(13)

6歳の9月(13)


私は最愛の肉を失った喪失感と遂に降る今日の騒ぎの審判を想像した絶望感に崩れ落ちそうになる。

お母様はそんな私をガッチリ抱えて、おタマさんに衝撃的な言葉を言い放つ。


「おタマちゃん。そこの棒でリルカのお尻を力一杯、10回叩きなさい。」


「「ええぇっ!?」」


二人で顔を見合わせる。


「リルカは何でも食べなきゃ生きていけないのに、おタマちゃんが甘やかしたせいで食べられなかったあげく、リルカは仲間にご飯を分けなかったわ。

リルカのお尻を叩くのがおタマちゃんへの罰で、お尻を叩かれるのは、みんなにご飯を分けなかったリルカの罰よ。」


いつも私を優しく甘やかしてくれるおタマさん。今年で14歳になったおタマさんは、うちで一番年齢の近い私を妹のように可愛がってくれて仲良くしてくれるお手伝いのお姉さん。今回お肉を用意してくれたのも私を心配してくれたから。狩りにまでコッソリついてきてお外で料理するのはすごく大変だったはずなのに。そんなおタマさんの優しい顔が苦悩に歪む。ゆっくりと哀しそうな背中を見せながら建設資材として置いてある中からできるだけ細くて軟らかそうな棒を選ぶ。


「リルカちゃん、ごめんなさいっ!」


棒を持つ震える手を振りかぶる。


とそのまま止ってしまう。


私はお母様にガッチリ抱えられたまま必死に歯を食いしばる。

んー!んんー!おタマさんやめて!その姿勢で止まらないで!

踏ん張り続けるの苦しいわ!叩くのか叩かないのかハッキリして!


「うち、リルカちゃんが可哀そうで…。」


おタマさんがうなだれて、棒を力なく降ろす。

ふはぁぁぁ~っ!

私は叩かれる直前の緊張状態で全身に込められていた力が一気に抜ける。


「ばってんっ!これが罰やけんっ!」


おタマさん思い切った顔になって突然また棒を振りかぶる。

ひぃぃっ!不意打ちはやめて!

ぐっ!んん~っ!?

またおタマさんは棒を振りかぶったまま止まってる。

気持ちは分かるけどいっそどちらかに決めてよ!

んんん~!!


「やっぱりできないっちゃ!」


おタマさんは両手で顔を覆って、棒は足元に転がる。

っぷはあぁぁぁ~っ!

はぁ!はぁ!はぁ!

酷いよおタマさん!

今のフェイントだけで私の精神力は半分削れたわ。


「じゃあリルカに選ばせてあげる。」


お母様が悪い予感しかしない言葉を私に投げかけつつ、資材置き場から棒を持ってくる。

いや、棒というにはあまりにも長く太く固そうなそれは丸太と呼ぶのが相応しい。

背の高いお母様が脇に抱えるくらいなので私の腰回りと同じくらいの太さだと思う。

そんな片手で持ちきれないほど凶悪な獲物を、美しく引き締まった筋肉を纏う両腕で天に掲げると私に宣告する。


「お母さんの本気の全力で5発お尻を叩かれるのと、おタマちゃんの全力で20発お尻を叩かれるのと、どっちが良い?」


「お母様っ!いま増えましたっ!!おタマさんの全力が10発から20発に増えました!」


「おタマちゃんができないっていうから仕方ないのよ諦めなさい。」


咄嗟の抗議も軽くいなされる。

何が仕方ないのか髪の毛一本分たりとも理解できない。倍に増えたものを簡単に諦めたくない。

なんという地獄の選択なの。お母様の理不尽さは幼年兵部隊の教官たちの比じゃないわ。

どちらを選んでも私のお尻が消し飛ぶ未来しか浮かばない。


こんなの私に選べるわけがない!

私のお尻は破裂してもう二度と歩いたり走ったりできなくなるんだわ!

うわーん!もうそっちで勝手に選んでよ!いやー!きゃー!


……。


いやいやいや待て私!おちおちつけ、落ち着くのよ。

自棄になってもいいことないわ。さらに回数が増えることだってありえる。

今日学んだことを思い出すの。

私は死ぬ最後の最後まで目を瞑らないって決めたわ!

だから最後まで悪あがきをするの!


何か少しでも助かる方向に考えないとお尻の爆発だけじゃ済まなくなっちゃう。

考えて、考えるのよ。どっちの方がダメージが少ない?

本気で全力のお母様と丸太が5発。全力のおタマさんと細い軟らかい棒が20発。


このお母様の「本気の全力」と、おタマさんの「全力」の違いってなんだろうか?

「本気の全力」は文字の通り100%の全力だとして、単なる「全力」はそれよりも下だということは間違いないわ。

ということは、お母様が本気で叩けないおタマさんの気持ちを思い遣って、「100%本気の全力」ではなくても「50%くらいの全力?」でも許してあげるという遠回しな言い方に違いないよね。


そして、お母様の腕力とおタマさんの腕力では、軽く5倍くらい差がありそう。


つまり「100%全力で、腕力がおタマさんの5倍強いお母様が長くて太くて固そうな凶悪な丸太で叩く5回」と、「50%くらいの全力で、腕力がおタマさんで細くて軟らかい棒で叩く20回」を比較すればダメージが分かるのね。

こんなの簡単ね!うまく計算はできないけどおタマさんの方が優しいに決まってるじゃない!

見るからに凶悪な丸太でお母様に本気の全力で叩かれたら1発で死んじゃうもの。

冷静に考えたらざっとこんなものよ!


「おタマさんでお願いします。」


「そう、本当に、いいのね。それでいいのね?」


え?今なんで二回聞かれたの?なんか、1回目の確認の溜めも気になる!


「ちょっとちょっとまって!もう一度考えさせて!」


いや!いったい何があるの?

何かまだ私が知らないこと、分かってないことがあるのね。

考えるのよ、何か忘れていることはないかしら。

お母様はなんて言った?

“お尻を叩かれるのは、みんなにご飯を分けなかったリルカの罰”っていったよね。

もしかして、おタマさんに叩かれた後に、さらに今日のシマウマや穴掘りの件で改めてお母様に丸太で叩かれるのかしら。だとしたらもういっそお母様の一発で気絶してしまった方が楽じゃない!?


「お母様、ひとつ質問させて。今日のシマウマや穴掘りのお仕置きはこれに含まれているの?」


「それは別よ。これの後にね。」


ああ!ああぁぁ!やっぱり。結局あの凶悪な丸太でお尻が破裂するんだ。

そしたらその前におタマさんの躊躇しながら振るう20発で長く苦しむのは損だ。

いっそお母様の一発で気を失った方が楽に決まっているわ。

うう、本当に酷い選択肢ね。楽な方を選んでも結局同じものが待っているなんて。


「お母様でお願いします…。」


「そう、本当にいいのね。」


「はい…。」


「おタマちゃん、リルカを支えていなさい。ちゃんと受け止めないと一緒に痛い思いをするわよ。」


おタマさんは返事をすると私と抱き合うように支えてくれる。

私はおタマさんに抱きついてお尻をお母様に向けた形になる。


「リルカ、本当にごめんなさいね。」


「ううん、おタマさんも私のために。ごめんなさい。」


お母様が丸太を振り回す。何度も素振りを繰り返す度にブオンブオンと風を巻き起こす音が耳に届く。

あんなに長くて大きな丸太を振り回せるお母様は本当にすごい。

そしてそれが自分に向けられていると思うと誇らしさの大きさだけ悲しさが増す。

いつの間にか沢山の人が遠巻きにお仕置きを観ている。

ああ、こんなに沢山の人の前で私はお尻を破裂させて死ぬんだわ。


「いくわよ!ひとぉぉーーーつ!」


ぐっ!歯を食いしばったのも一瞬、お尻の辺りでドパーン!と爆発が起きたような音が響き、おタマさんもろとも派手に吹き飛ばされる。


「きゃーっ!」


「あああー!お尻が!お尻が!」


おタマさんと一緒に地面に倒れて、目の前が真っ暗になる。

お尻がもうどうなっているのか意識できないほど痛い。

割れたとかそういう次元の話ではない。

1発で気を失うことのできなかった自分が恨めしい。


「早く立ちなさい!ふたぁぁぁーーーつ!」


おタマさんが慌てて私を抱き起してお尻を向けるけど、

またもやお尻のあたりでズパーン!と大きな衝撃が走り、今度もおタマさんと一緒に地面に倒れる。


「うう、もう死んじゃう!ごめんなさい!もう二度としません!ごめんなさい!ごめんなさい!」


「みぃぃぃっつ!」


……。


結局5発ちゃんと叩かれて最後まで気を失うことができなかった私は、死ぬ最後まで目を瞑らないという決意は守ったものの、これは時と場合によっては早々に目を瞑って気を失った方が得だと悟った。

お母様は周りで見ていた沢山の人たちに、白魔術だとかなんとか大声で言っていたけど私はおタマさんと抱き合って一緒に泣きじゃくっていたので分からなかった。


「それからリルカ、今日のシマウマや穴掘りの件ね。」


私は泣きじゃくって息も絶え絶えな状態でなんとか返事を返す。


「もう、無理、えっぐ、もう、死んじゃうから、えっぐ、許してぇ。」


「リルカをこの国の常識も分からない“箱入り娘”にしちゃったのは母親である私だわ。だからリルカの失敗は私の責任。リルカは明日からこのまま幼年兵部隊に入りなさい。そこで誰よりも厳しく教えるから覚悟しなさい。」


え、なにそれ?お尻叩きじゃないの?じゃあお母様の丸太に叩かれる必要はなかったの!?


「それからリルカ、私の方を選んで良かったわね。」


お母様はおタマさんが使おうとしていた棒を拾って資材置き場の麻袋を軽く叩いてみせる。

棒はビュォッ!と凄い速さで風を切り裂く音がしたと思うと、鞭のようにしなって甲高い音を立てて麻袋を切り裂く。


「細くてしなる分、軽く振った方が痛いと思うわ。これでおタマさんに20回もお尻を叩かれていたら、本当にお尻が20分割で切り裂かれていたわね。私の方が大きくて派手で重いけど、そのおかげで振り回してもスピードが大して出せないし、マシだったはずよ。」


やっと普通の笑顔を見せるお母様と切り裂かれた麻袋を見て、選択を間違えていたらお尻がどうなっていただろうとゾッとする思いでおタマさんと抱き合ってまた泣いた。


ああ、もう二度とご飯を独り占めなんてしません。

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